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共働き"夕食は冷凍ピザ"に罪悪感は必要か

プレジデントオンライン / 2019年2月27日 6時15分

仕事と家事の負担がのしかかってしんどい、という共働き世代の女性は多い。解決のために、男性が家事を分担するのとあわせて、女性もやるべきことがありました。立命館大学教授で家族社会学を専門とする筒井淳也先生は「男性も女性もグローバルの家事基準を知って“丁寧な暮らし幻想”を捨てるべき」といいます。

■男性が求める家事基準が高すぎる

最近、日本人は家事を丁寧にやりすぎているという指摘が増えてきましたが、手をゆるめるという方向にはなかなか進まないようです。共働き世代のしんどさは、そんなところからもきます。

現在働き盛りの30代~40代の男女は、共働きが当たり前となりつつある転換期の世代。ただ、1990年代半ばまで、日本では専業主婦家庭が多数派でした(図表1)。ですから、自分の母親は専業主婦だったという人が多く、スキルの高い家事をこなす母親を見て育ってきています。夕食におかずが何品も並ぶのはもちろん、ちゃんと後片付けをして、毎日、台所のシンクまで磨く。夫がそんな母親のスキルの高い家事を基準として共働きの妻にも求めるので、妻が簡単な朝食をつくってくれても、自分の母親と比較して、妻はそれほど家事をしていないと感じてしまう。

■「稼いでいるから家事免除」の論理

「俺のほうがお金を稼いでいるのだから、家事を要求して当然」という態度に出る男性はもっとやっかいです。たとえ、妻も同じぐらいの時間働いていても、自分のほうが稼いでいるから家事は免除されるという理屈が男にはあるんでしょう。ただ、家事分担についての実証研究では、収入のある妻のほうが家事をしないというはっきりとした結果はでていません。夫が家計のすべてを負担している状態から、稼ぎの額が夫婦同じ状態まで妻が稼ぐようになっても、平均的には夫婦間の分担はあまり変わらないのです。

ちなみに、「時間に余裕があるほうが家事を負担する」ということでもありません。正規雇用者の平日出勤日の家事時間を比較したデータがあるのですが、日本では女性が男性の6倍も家事をしています(図表2)。つまり、時間に余裕があっても、妻が稼いでいても男は家事をしないという圧倒的な不公平が日本には存在しているのです。

しかし「どれだけ稼いでいればどれだけ家事が免除されるか」ということを口論しても、水掛け論になって虚しいだけです。夫に自分の大変さをうまく伝えるくらいしかできることはないかもしれません。

■“専業主婦の呪い”は女性にも降りかかる

一方で、女性にも“専業主婦の呪い”はかかっていて、自分のお母さんがしていたように丁寧な家事をしなければと思い込んでしまいがちです。ただ、お母さんは主婦だったけれど、自分はフルタイムで働いているのが決定的に違うところで、仕事を終わらせてから同じだけの家事をこなそうと考えると、かなりきつい。しかし、「丁寧な家事」の呪縛にかかっていると、簡単には意識が変わりません。そのため、きつい中でも重い家事負担を受け入れてしまうのです。

「自分の中の合格水準」の呪縛については、人々が家事分担について感じる「不公平感」を分析した研究からも説明がつきます。欧米諸国では家事分担が妻に偏ると妻は不公平感を表明しやすくなるのですが、日本など妻がほとんどの家事をしているような国では、妻が多く家事を負担しても不公平感を強めないということがわかったのです。日本では「家事は妻がやるもの」という考えが浸透してきたため、欧米人からすれば許容しがたい不公平があっても「そんなものだ」と受け入れてしまうのです。

■仕事も家事も“ゆるゆる”がグローバル基準

男性がもっと家事を負担するようにすることはもちろんですが、男女ともにもっと“ゆるゆる”に考え、完璧主義の呪縛から解き放たれたほうがいいと思いますね。

呪縛から解かれるためには、グローバルスタンダードを見ることです。例えば、フランスなどのヨーロッパでは、残業なしで夕方5時きっちりに退社しても、平日の夕食は冷凍ピザで済ませるといったことが多い。もし日本の家庭で牛丼屋の牛丼をテイクアウトして夕飯にしたら驚かれると思いますが、日によってはそのぐらいでいいと思いますね。「牛丼は温かいからOK」というぐらい、楽に考えればいいんですよ。

ワーク・ライフ・バランスの「ライフ」は、あくまで「仕事や家事をしない自由な時間」だと考えましょう。もちろん家事にやりがいを感じている人もいるでしょうが、「ライフ」の時間を増やすためには、仕事だけではなく家事の時間も節約すべきです。

■専業主婦のことは、もう気にしない

同世代の専業主婦が気になるという人もいますね。子どもが小学校に入ると、住む地域によっては母親の半分ほどが専業主婦で、母親は子どもに時間と手間をかけるべきだという彼女たちの価値観とぶつかってしまう。

でも、まったく気にする必要はありません。2017年のデータでは、専業主婦世帯が共働き世帯の約半分にまで減少しました(図表1)。現在40代ぐらいの世代ではまだ働く女性と価値観がぶつかりがちですが、専業主婦自体がいずれもっと少数派になる人たち。そこは何を言われても気にせず、お互いの価値観を尊重してその場をやりすごすことをおすすめします。

■これから増えるのは高収入同士の結婚

共働き世帯のほうが増えているわけですし、今後も間違いなく増えて多数派になっていきます。世界的に見れば共働きへの動きはもっと早く進んでいるわけです。自分たちのほうがグローバル基準だと思うこと。他の先進国を見ると、専業主婦はむしろ珍しい存在になっていて、これからの社会では専業主婦でいたいという考えでい続けるのは厳しいと思います。

そもそも専業主婦という生き方は高収入の男性との結婚を前提とするものですが、これから増えていくのは稼いでいる男性と稼いでいる女性の組み合わせ。社会学では同類婚という言葉がありますが、所得や学歴などの同類婚は、共働き社会化が進むとその傾向が強化されていくことがわかっています。同類婚のなかでも上位のもの同士から順にマッチングしていくことをアソータティブ・メイティングと呼ぶことがあります。アソータティブ・メイティングの世界では、ほかの条件が同じならば最も所得の高い男性と結婚するのは最も所得の高い女性になります。

単純に考えても、現在の夫の年収を倍にするより、女性が同じぐらい稼ぐほうが現実的ですよね。私が勤務する大学でも、学生たちの結婚観を聞いてみると、今の20歳前後の男性は大多数が「結婚しても妻にも働き続けてほしい」と希望している。終身雇用で一生働き、一家の大黒柱としてやっていく自信のある男性は少なくなっています。つまり専業主婦志望の女性は、婚活で困るような時代になっているのです。

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筒井 淳也(つつい・じゅんや)
立命館大学産業社会学部教授
1970年福岡県生まれ。93年一橋大学社会学部卒業、99年同大学大学院社会学研究科博士後期課程単位取得満期退学。主な研究分野は家族社会学、ワーク・ライフ・バランス、計量社会学など。著書に『結婚と家族のこれから 共働き社会の限界』(光文社新書)『仕事と家族 日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか』(中公新書)などがある。

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(立命館大学教授 筒井 淳也 構成=小田慶子 撮影=向井 渉)

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