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ゴーン氏が"作業服姿"を選んだ本当の狙い

プレジデントオンライン / 2019年3月8日 9時15分

2019年3月6日、東京拘置所から保釈されたカルロス・ゴーン氏(写真=AFP/時事通信フォト)

■逮捕から108日目で「異例の保釈」

日産自動車の前会長で、金融商品取引法違反などで逮捕・勾留されてきたカルロス・ゴーン氏が3月6日、保釈された。突然の逮捕から108日。容疑事実を全面的に否認している被告が保釈されるのは「極めて異例だ」と報じられている。

確かに、森友学園問題で逮捕された籠池泰典・前理事長は否認を貫き、保釈までに300日勾留された。ホリエモンこと堀江貴文氏は95日で保釈されたが、検察側は保釈を認めないように裁判所に求める「準抗告」を行った。否認している被告に対しては、裁判で立件できるだけの証拠や証言を揃えるために、長期にわたって勾留する、というのが検察の常套手段になっているのは確かだ。

一方で、長期勾留が「人質司法」だという批判もある。バブル期の経済事件で、逮捕された後も黙秘を続けたために長期にわたって勾留された経済人がかつて語っていたところによると、検察側は何とか罪を認めさせようと必死だったという。

また、当初選んだ元検事の弁護士も、罪を認めた上で、執行猶予をとる方が良いと何度も勧められたと言う。逮捕・起訴したにもかかわらず、法廷で無罪となることを検察は恐れているわけだ。

■「日本の司法」への国際的な批判に配慮した

ゴーン氏が保釈されたのは、弁護側が裁判所に提示した「条件」に裁判所が納得したからだ、とされている。海外への渡航禁止や、都内の住居の入り口に防犯カメラを設置してその記録を定期的に提出すること、携帯電話はネットに接続できないものを使用し通話記録も残すこと、パソコンは弁護士事務所にあるネットに接続していないものを使うこと、というのが条件だと報じられている。

だが、多くの元検事の弁護士、いわゆるヤメ検弁護士が異口同音に指摘しているのは、この条件では証拠隠滅は防げない、ということだ。外出先で携帯電話やパソコンを借りれば、第三者と接触するのは簡単だというのである。

確かにそうだろう。ゴーン氏が関係者に接触することを完全に阻止することは、おそらく難しい。

それでも裁判所が保釈を決めたのは、100日を超えたという「相場感」と、人質司法批判への配慮だろう。今回の場合、被告が外国人で、かつ社会的地位の高い経済人だということも判断の背景にはある。大会社のトップが逮捕されて身柄を拘束されるのは日本では、それこそ異例だ。しかも当初の逮捕容疑は有価証券虚偽記載罪だった。これは主として粉飾決算を規定した罪だが、例の東芝の巨額粉飾決算ですら、経営者は誰も逮捕されていない。ちなみに金融庁に有価証券虚偽記載だと認定され課徴金も会社は払わされている。にもかかわらず、ゴーン氏はいきなり逮捕された。そうした日本の司法の対応には当初から国際的に批判の声が上がっていた。

■ゴーン氏の「世論を味方に付ける」戦略

焦点は、「異例の保釈」によって、ゴーン氏は無罪になる可能性が高まったのかどうかだ。日本の司法の通例だと、無罪を主張し検察と全面対決した場合、被告が負けると執行猶予は付かないケースが圧倒的で、実刑判決を食らうリスクが高まる。裁判官は抗弁する被告を「反省の色が微塵も見られない」と判断するのだ。

また、裁判の過程でも、徹底抗戦すれば、裁判官の「心証」を悪くする、としばしば言われる。だから、初めから罪を認めてしまった方が良い、というムードが日本の司法界では根付いているわけだ。

ゴーン氏側は今後、世論を味方に付けることで、検察にプレッシャーをかける戦略に出るだろう。当然、反論の記者会見も行うことになる。ゴーン氏が発言すれば、日本のみならず世界のメディアが確実に取り上げるので、影響力は甚大だ。

■外国人は「囚人服」と見たかもしれない

弁護士が大物ヤメ検の大鶴基成弁護士から、人権派の大物で「無罪請負人」の異名も取る弘中惇一郎弁護士に代わった途端、保釈を勝ち取ったことで、ゴーン氏側も勢いづいていることだろう。だが、世の中の世論を味方に付けるという点で、保釈の最初から「失敗」を犯した。

保釈時の「変装」だ。反射板まで付けた作業服までゴーン氏に着せ、はしごを乗せた軽自動車に乗り込ませたアイデアは弘中氏によるものではなかったと思いたいが、身のこなしがどう見ても作業員ではなかったため、瞬時にメディアに見透かされた。全面無罪を主張するのなら、堂々と背広姿で出てくれば良いものを、何を狙ったのであろうか。

森友学園の籠池前理事長は拘置所から出る際に、背広姿で、なおかつ拘置所に一礼してそこを後にした。そこからは、「国策捜査だ」として裁判で徹底抗戦する覚悟が感じられた。ゴーン氏と真逆の対応だったのだ。

ゴーン氏の保釈の様子は全世界に伝播した。外国人は作業服を「囚人服」と見たかもしれないので、あんな格好をさせられてゴーン氏のプライドを傷つける日本の司法はけしからん、という印象を持つのかもしれない。そこまで考えての演出だったとすれば、弘中弁護士は並大抵ではないということになるかもしれない。

■日産・西川CEOは“ゴーンの逆襲”に焦りか

今後、日産側、とくに西川廣人社長兼CEO(最高経営責任者)は防戦を余儀なくされるだろう。ゴーン氏が遅かれ早かれ保釈されることを西川氏は想定していたはずで、だからこそ、日本経済新聞など単独インタビューにも積極的に応じていた。その露出の多さと、語っていることの内容の薄さに、西川氏の焦りを感じたのは筆者だけだろうか。

ルノー日産グループからゴーン前会長を放逐したことで、日産側の目的は達成されているのかもしれない。ゴーン氏が今後、記者会見などでどんな発言をするかは分からないが、西川氏をターゲットに批判を展開してくることも十分に考えられる。

有価証券虚偽記載罪は会社の犯罪で、有価証券報告書の提出にあたっての代表者は西川氏である。しかも「取締役の報酬については、取締役会議長が、各取締役の報酬について定めた契約、業績、第三者による役員に関する報酬のベンチマーク結果を参考に、代表取締役と協議の上、決定する」と有価証券報告書に書かれており、ゴーン氏の退職後の報酬などについて西川氏も知っていた可能性が高い。それを知りながら、有価証券報告書に記載しなかったのは提出責任者である西川氏の責任ではないのか。

■西川氏への責任追及が始まるかもしれない

にもかかわらず、西川氏が正義の味方のような顔をしてゴーン前会長を責め、自らは今後も経営に携わり続けるような姿勢を取っているのも解せない。

ゴーン氏は特別背任でも起訴されている。こちらがむしろ本命ということだろう。これまでの報道では、会社を私物化していたということを国民に強く印象付けている。強欲だったということについてはおそらく事実だったのだろう。

だが、それで特別背任に「有罪」になるかどうかは、話は別だ。すべて社内手続きを経て合法的に処理していたという主張がされた場合、それを突き崩していくのは簡単ではない。

司法の場で結論が出るまでにはまだまだ長い時間がかかる。初公判は2020年にずれ込みという見方も出ている。つまり、ゴーン氏がルノー日産の経営に戻ってくることはない。

今、ルノーのジャンドミニク・スナール会長も、ティエリー・ボロレCEOも、西川氏ら日産経営陣との対立は避けている。しかし、6月の株主総会が迫ってくれば話は別だろう。何せルノーは日産自動車の43.7%(2018年9月末現在)の株式を保有している。海外機関投資家も多く日産株を持っており、外国法人などを合わせた合計では62.7%に達している。

つまり、ルノーが外国人株主の納得する人事提案などを行えば、十分に可決される可能性が高いのだ。もしかすると西川氏への責任追及が始まることになるかもしれないのである。

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磯山 友幸(いそやま・ともゆき)
経済ジャーナリスト
1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年に退社、独立。著書に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)などがある。

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(経済ジャーナリスト 磯山 友幸 写真=AFP/時事通信フォト)

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