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1日3時間労働で何不自由なく暮らす方法

プレジデントオンライン / 2019年3月25日 9時15分

普通の人は「モグラ」(=表面的な問題)しか見ていない(画像=『1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法』)

「1日3時間」だけ働いて、何不自由なく暮らすことはできるのだろうか。それを実現しているのが実業家・思想家の山口揚平氏だ。山口氏は「圧倒的に稼ぐ人は仕事が速いのではない。本質を考えることによって決定的に大事なことを見抜き、それを実行している。考えることはコスパが高い行為なのだ」という――。

※本稿は、山口揚平『1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■圧倒的に稼ぐ人は「たった一つ」を行う

考えるという作業は、情報の波に逆らう行為である。

一見苦しく見えるのになぜそうまでしてするのかと言えば、考えることは、最も効果的な行為だからだ。あらゆる物事に対して使える最強のスキルとも言える。

考えることについて本格的に考え始める前の私は、圧倒的に稼いでいる人や仕事で卓越した成果を挙げている人を見て「なぜ彼らはそんなに効率的に仕事ができるのだろう?」と思っていた。圧倒的な速さで効率的に仕事を処理する能力を持っているのではないかと考えていたのだ。

しかし、後にこの問い自体が不正解であることに気がついた。彼らは常に、たった一つ決定的に大事なことだけを見抜き、それを確実に実行していたのである。

彼らは決して「効率的」な人たちではなかった。ただ、とても「効果的」なやり方を知っていた。たくさんのことを行うのではなく、本質を考え抜き、たった一つのことを行うことで、結果的に効率性をもたらしていた。

■100のタスクではなく1の因子に注力する

彼らは目に見える問題に目を向けることを嫌う。表面的な問題に一時的に対処したとしても、必ず同じ問題が発生することを知っているからだ。すべての問題の裏側には一見、目に見えないものの本質が常に存在している。だからこそ、その一点の追求に時間をかける。ゆっくりと問題の根っこを突き止め、一気に問題の息の根を止めることができるのだ。100個のタスクをこなすのではなく、たった一つの最も重要な因子(レバレッジ・ポイント/ホットボタン)を見つけてそこに注力すること、それが彼らの方法だった(図1)。

対象を俯瞰し、一見関係のなさそうなものの因果関係(有機性)を見抜き、「本質」を捉えることで行うべきことを極力減らし、成果を高めることができる。

これが考えることの最大のメリットである。

■会社の「コアな価値」は情報や分析だけでは見つからない

社会人に求められるスキルは数多くある(図2)。中でも「考えること」こそ人間の持つ最強のスキルだと確信したのは、ある企業買収のプロジェクトに関わっているときだった。

「思考」がスキルの中核にある(画像=『1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法』)

私は当時、M&A(企業の合併・買収)を専門とするコンサルタントとして働いていた。あるとき、クライアントである投資銀行のトップが私たちコンサルタントの用意した膨大なレポートを前に、こう言ったのだ。

「我々がほしいのは情報や分析ではない。この会社の最もコア(本質的)な価値の源泉は何か? ただその一つだけだ」と。この問いは奥深い。

会社中のあらゆる情報を集め、分析しても解は見つからない。それらの情報を分離・結合させ、決定的なポイントを洞察しなければならない。しかも情報として言語化・数値化される以前のもの、つまり従業員の表情や上司の口グセ、オフィスの配置などから「概念レベル」のものを知覚し、細心の注意を払う作業を伴う。

それら何千にもわたる微細なエネルギーを有機・結合してはじめて会社の全体像が立体的に浮かび上がり、その会社の最もコアな価値が見えてくるのだ。

■考えることは「最もコスパの高い行為」だ

投資銀行トップの言葉をきっかけに、私は「考えること」について深く考えるようになった。そしてそれは、私が今でも思考の軸に置く一つの信念につながった。

つまり「すべてのものは一見、分かれているように見えるが、実は有機的につながっている。そしてそのつながりの中に潜む本質を問い続けることこそ、最も有効な解を見つける手段である」ということである。

効率的に何かを成し遂げたいのであれば、常に考えて最も本質的なことだけに手をつけるべきである。祖母から「ずつなし(面倒くさがり屋の意)」と言われ続けてきた私にとって、「最も大切なことを一つだけやればいい」と確信できたことは大きな救いになった。

知恵と知識で戦うコンサルティングの世界は、私にとって魅力的だった。

現在ではコンサルティング業界はもう十分に成熟期を迎えていて、業務改革や統計解析のように既存のフレームワークをこなす高級人材派遣業となりがちだが、当時のコンサルタントたちは、ゼロから「考えること」を提供していた。たった一つの本質的な個別解を出すための、いわば「思考職人」だった。

効率は良くなかったが、そこにはプロフェッショナルとしての規律や誇りがあった。上場してお金を得ようなどという発想は微塵もなかった。

■働く時間が「1日3時間」でも何不自由なく暮らせる

プロフェッショナルとは、神にプロフェス(宣誓)する職業で、クライアントの利害に左右されず、適切な「問い」を立て、ベストな解を追求するものである。商売であればクライアントの意向や立場に沿って報酬は上下するし、クライアントとの知識の差を使って儲けをふくらませることもできてしまうが、そのようなことはしない。神が(一応)見ている(という前提がある)からである。当時のコンサルタントはそういう矜持を持っていた。私はそれが好きだった。

30歳前後で会社を離れ、起業、事業売却を経て40代となった今の私は、コンサルタントに加え、投資家、事業家、著述家、研究者、教育者など色々な顔を持ち、宇宙開発から劇団経営まで、出資する十数社に関わっている。そのため、分刻みでバリバリ働いているのかと思う人もいるだろうが、そんなことは全くない。むしろその逆だ。

普段の私は日々の考えごとをしているか、寝ているか、人と会っているかのどれかである。本を読むことも少ないし、テレビや新聞も見ない。ひたすらただ概念の海の中に意識を泳がせ続け、意識が捕まえる一つひとつの情報を有機化する作業を続けている。そしてそれは数年経つと発酵して本や事業といった形となる。そして働く時間は1日あたり3時間と決めている。それでも毎日不自由なく暮らしていることを考えると、考えることがいかにコスパの高い行為かということを感じてもらえると思う。

■AIに計算はできても「思考」はできない

「AIが台頭すれば、考えるだけではやっていけないのではないか」などと、AIを脅威に感じる人も多いだろうが、それは問題にはならないと思っている。

AIは計算は行うことはできるが、思考はしないからだ。

思考とは意識的な作業であり、意識は次元を超えて漂う。何かアイデアを考えるときも、人間であれば次元の異なるものを組み合わせることができる。一方、AIは同次元で平面上の計算を膨大に行うが、次元は超えられない。そこが人間と決定的に違う。

たしかに効率化や画一化などの20世紀的な課題に対してならAIは強いだろう。

■21世紀の問題解決は20世紀とは違う

GDPが継続的に成長していた20世紀では、問題解決は簡単だった。あるべき姿(To be)と、現状(As is)を把握し、そのギャップを問題として捉え、その問題を細かい要素に分解し、無駄を省きながら少しずつゴールを目指すというものだった。

20世紀と21世紀の問題解決は違う(画像=『1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法』)

そこで用いる手法は要素還元(要素に分解する方法)と再構成(図3)だ。

線のように細長く機械論的・科学的な解決方法が20世紀的問題解決の特徴で、そこでの問題とは定量的なものであった。「目標を立てるなら数値化せよ」という方法である。そして数値化した目標と実態の差を埋めていく。この方法では、人間はAIに負ける。

しかし、数値化したところで経済が成長しない。21世紀における問題は、「あるべき姿と現状のギャップ」ではなく、「対立」だからだ。

ここで言う対立とは、人が矛盾の両立を望んでいる状態のこと。そして矛盾とは人がAとBの両者を成り立たせようとして「もがいている」状態であり、AとBを両者とも成り立たせるためには、上位概念のCの発見こそが必要なのである。それが21世紀的問題解決の特徴である。

■思考による「解」は次元の枠を超える

かつてアインシュタインは次のように言った。

山口揚平『1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法』(プレジデント社)

「我々の直面する重要な問題は、それを作ったときと同じ考えのレベルで解決することはできない」

その解決に用いられるのが、止揚による調和の実現である。止揚とは矛盾する要素を発展的に統一することであり、ドイツの哲学者であるヘーゲルが弁証法(思考と存在を貫く運動・発展の論理)の中で提唱したものだ。

ここで先ほど紹介したメタ思考が役に立つ。

すでに述べたように、思考とは意識を概念と情報の海に漂わせ、それらを有機的に結合させる作業のことだ。情報を取り入れ続けるのではなく、取り入れた情報をもとに、意味を見出すべく、つなぎ合わせるのである。その結果として、従来にない角度や奥行きから解を導くことができる。その解は問題が起こった同じ次元にない。AIや数理計算が進化して量子コンピュータが情報処理速度を上げても次元を超えることはできない。二次元・三次元の空間を最適化できるだけだ。

人が思考するうえで用いる意識をあえて定義するとしたら、それは次元の枠を超えられる知覚のエネルギーである。この意識を使って多次元的に情報を結合できるのが我々人間ということだ。

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山口揚平(やまぐち・ようへい)
事業家・思想家
早稲田大学政治経済学部卒。東京大学大学院修士(社会情報学修士)。専門は、貨幣論、情報化社会論。1990年代より大手外資系コンサルティング会社でM&Aに従事し、カネボウやダイエーなどの企業再生に携わったあと30歳で独立・起業。劇団経営、海外ビジネス研修プログラミング事業をはじめとする複数の事業、会社を経営するかたわら、執筆・講演活動を行っている。

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(事業家・思想家 山口 揚平)

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