医師・看護師の報酬「病院格差」の現実
プレジデントオンライン / 2019年4月4日 9時15分
※本稿は、「プレジデント」(2018年12月31日号)の掲載記事を再編集したものです
■患者にやさしくて快適なのは、私立病院!?
国立、公立、私立にはどんな違いがあるのか。経営状態、医療費、医療技術の3点から比較してみよう。
病院向けの経営コンサルタントを手掛ける医療総研代表取締役社長の伊藤哲雄氏はこう解説する。
「経営努力の面では私立病院が最も進んでおり、次が国立病院、公立病院は最も遅れていると言わざるをえません」
病院の収支は治療に間接的に影響してくる。例えば私立病院は、収入を確保するために患者数を増やす努力をしている。その1つが接遇だ。患者の満足度を意識する病院が増えており、患者にとってはありがたい。
一方で国立病院は、2004年に独立行政法人に移行し、民営化。その後、自助努力を続け、黒字化しているところも少なくないという。それはいいことなのだが、「国立病院の医師は疲弊している」と指摘するのは、高崎健康福祉大学准教授の木村憲洋氏だ。
現在は、国立病院機構の下にそれぞれの国立病院がぶら下がる組織構造になっている。各病院の予算は機構がすべて管理しており、無理なコストダウンを強いられることもある。また、これまでは難病や重い病気の患者を中心に診察していた病院が収入を増やすために、風邪の患者まで診なければならないことも多くなっている。疲れ果てている可能性があるというわけだ。
公立病院(自治体病院)は、ほとんど改革が進んでいない。
「数字上は黒字のところもありますが、自治体の一般会計から補てんされていることも多いので、ほとんどが赤字と考えていいでしょう」(伊藤氏)
その意味では国立病院の医師よりも余裕がある可能性はあるが、いまだ公務員意識から抜け出せていない。以上を考えると、接遇の面では私立病院に軍配が上がりそうだ。
ちなみに国公立と私立では、報酬も異なる。医師の報酬は国公立よりも私立のほうが高いと言われる。いい報酬を支払ってでも優秀な医師を確保したいという私立病院の思惑があるからか。一方で看護師や薬剤師などの報酬は国公立のほうが高い。公務員と同様、年齢とともに右肩上がりで上昇していくからだ。国立病院に勤務する看護職員の平均年収が約529万円なのに対して、私立病院(医療法人)は約455万円(注1)。看護師長クラスになると給与は約740万円と高水準。「私立病院なら同じ役職で200万円程度は下がるでしょう」(木村氏)というから、結構な差だ。国公立は福利厚生もいい。
注1 「第21回医療経済実態調査」厚生労働省、平成29年実施
「育児休業は最大3年取得できますから、3人出産すると9年間は病院に戻ってこないと言われるほどです」(木村氏)
長年のブランクがあれば、最新の医療技術にはついていけない可能性もある。もっと言うと、よほどのことがない限り退職勧告されない国公立病院より、危機感がある私立病院のほうが活気が生まれる可能性は高いだろう。
医療費の面ではどうか。病院が受け取る診療報酬は、一律で、同じ治療や検査なら、国公立も私立も変わらない。
「ただ最近は、質の高い医療を提供する病院には、診療報酬が加算される制度があります」(伊藤氏)
例えば、医療の安全性を向上させるために専従・専任の看護師や薬剤師を配置している場合に加算がある。あるいは医師の忙しさを緩和するため、書類の作成などを補助する医師事務作業補助者を雇っている場合も対象だ。
診療報酬が加算されれば、患者の自己負担も増えることになるが、3割負担とすればそれほど大きな違いにはならない。であれば、加算が適用されている病院を利用したほうが質の高い医療を受けられる可能性が高いということになる。診療報酬の加算は明細書に記載があるので、一度確認してみるといい。
医療技術はどうか。
「国立病院は政策医療を担ってきた部分もあるので、専門性の高い医師が多いのは事実です」(木村氏)
政策医療とは、私立病院では予算の関係で十分に提供できない医療分野を国立病院などで担うもので、がんや精神疾患、腎疾患など19分野がある。やはり患者数が少ない難病や重篤な病気に罹った場合は、国立病院へ行ったほうが名医の診察を受けられるのか。
「いきなり国立病院へ行くのはお勧めできません」(木村氏)
国立病院には得意分野がある。政策医療も担っている分野は病院によって違う。患者自身が自分に合った国立病院を判断することは難しいのだ。
「国立病院や大学病院には多くの研修医がいますから、ベテランの医師ではなく研修医が担当になってしまう可能性も少なくありません」(伊藤氏)
大病院は将来の医師を育てる役割も担う。経験を積ませなければならないため、経験の少ない研修医が手術の担当になることもあるわけだ。では、どうすればいいのか。
「“かかりつけ医”を持つことですね」(伊藤氏)
症状を把握している、かかりつけ医に相談し、ベストな病院や医師を紹介してもらうほうがよほど確実だとか。かかりつけ医は国立、公立、私立、どこに属する医師でもなれる。一般的には規模の小さな私立病院・クリニックの内科医がなることが多いが、どの診療科でも問題ない。
「紹介を受けた医師は変な治療はできませんし、自分に紹介された患者を経験の浅い研修医に回すこともできないでしょう」(伊藤氏)
ただ、かかりつけ医は相性が大事。健康なうちに自分に合う“かかりつけ医”を見つけておきたい。
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医療総研代表取締役社長
日本医業経営コンサルタント協会副会長。編著書に『医療費の仕組みと基本がよ~くわかる本』(秀和システム)がある。
神尾記念病院を経て、高崎健康福祉大学健康福祉学部准教授。共著書に『イラスト図解 医療費のしくみ 診療報酬と患者負担がわかる』。
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(ライター 向山 勇 撮影=和田佳久、永井 浩 写真=iStock.com)
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