"移民受け入れ"という上から目線がヤバい

プレジデントオンライン / 2019年4月7日 11時15分

金属加工工場で働くベトナム人技能実習生。まだ定住の道は開かれていない。(時事=写真)

■新制度は歴史的な転換点になる

2018年12月8日、「改正出入国管理法」が参院本会議で可決、成立した。

これまでも日本は、通訳やエンジニアなどの高度外国人材は積極的に受け入れてきた。しかし、いわゆる単純労働力としての外国人受け入れには極めて消極的で、制度が整備されてこなかった。その抜け道のひとつが、外国人技能実習制度である。途上国人材に日本の技術を習得させ、母国発展に寄与させるという「国際協力」が建前でありながら、中身は人手不足の産業で労働者を受け入れるために機能してきた。制度上の大きな矛盾もある。そのひとつが国際協力を前提としているため、すべての実習生が定住できず、帰国してしまうことだ。すると最長5年間という期限の中で、実習生は多く稼ぐこと、雇用者は安く働かせることを刹那的に考えるようになる。また働き先の会社と合わなかったとしても、転職は認められない。もはや国際協力ではなく、外国人搾取である。

今回の法案で議論されたのは、これまでの技能実習生にくわえた、新しい在留資格だ。一定の技能を有する「特定技能1号」は在留期間が最長5年。受け入れ分野は、建設、介護、農業など14業種が検討され、転職も可能とされている。さらに熟練技能を有する「特定技能2号」になると、在留期間が更新でき、家族を母国から呼び寄せることもできる。これまで単純労働力としての外国人労働者受け入れに蓋をしてきたため、技能実習生と出稼ぎ目的の留学生が、歪んだ形で増えてきてしまった。それを就労目的で受け入れる方向は正しいし、歴史的な転換点になるだろう。外国人労働者にとっては生活基盤ができ、日本にとっては長期的視野で人手不足解消の望みとなるはずだ。

その受け入れ規模について、政府は「5年間で最大34万5150人」の数字を挙げている。単純計算して年間約7万人。「多い」「少ない」という議論があるが、その前に新しい制度ができたら技能実習制度を廃止するか大幅縮小するべきであろう。同制度は人数制限がないため、制度が並存したら、片方で蓋をしても片方では底が抜けているような状態になる。現在、年間5万人程度の実習生が来日している。技能実習の代わりに、新制度で彼らを就労目的として認めて受け入れれば、数の上では大きな問題はないのではないか。

そして、安倍首相は議論が深まらないまま、2019年4月の導入を目指した。理由は「人手不足が深刻で、早急に制度を実施する必要がある」から。しかし短期の人手不足より、むしろ人口減少を想定した対策として考えるべきだ。

20年代には日本の人口は620万人減少し、50年代には910万人が減る予想が出ている。このまま「稀子高齢化社会」になっては、現在享受している社会システムは成り立たなくなり、国家としての存続も危うくなる。ほかにも人口減少に悩む国はあるが、先進国はどこも早々に移民政策を導入してきた。スイス、ベルギー、スウェーデンなど、「人口が少ない豊かな国」は概して移民の割合が高い。

日本に目を転じると、いまだに移民アレルギーが強く存在する。最たる意見が、「外国人労働者が増えると、日本人の職が奪われる」ではないだろうか。しかし、アメリカの研究では、移民流入はその国の賃金上昇を招くという報告もある。外国人労働者を受け入れれば、自国労働者はより高度で付加価値の高い仕事に移る傾向があるのだ。

さらに、グーグル、フェイスブック、アマゾン、オラクル……。これらの巨大IT企業は、移民2世によってつくられてきた。苦労を経て創意工夫を凝らしてきた移民が、独立・チャレンジ精神に富むのは当然かもしれない。外国人労働者が、将来的に新たな雇用創出を実現する可能性も高いのである。

■日本は実質上の移民受け入れ国家

今回の政策について、「労働力受け入れにすぎず、移民政策ではない」という主張を耳にする。しかし、国連による移民の定義は「居住国を離れ、居住国以外の国に12カ月以上住む人」。その定義に従えば、留学生や技能実習生、もっといえば駐在員ですら本来は移民であり、日本は実質上すでに移民受け入れ国家になっている。17年の1年間で日本に定住した外国人は18万人。しっかりとした対策を講じねば、中途半端な立場の在留者が増加し、将来の「移民問題」に発展するのは、他国の事例を見ても明らかだ。

ドイツでは1950年から73年にかけて人手不足から大量のトルコ移民を受け入れた。当初は認めていなかった家族帯同もなし崩し的に容認。それでも「移民受け入れ国ではない」立場を貫く政府は、彼らに対してほとんど手立てを講じてこなかった。何が起きたかといえば、ドイツ語も満足に喋れない、社会に馴染めないトルコ系移民2、3世が激増。結果、多くの問題が深刻化し、国にとっても移民にとっても不幸でしかなかった。

そこでドイツは04年に移民法を改正。移民の社会融合へと舵をきった。ドイツに1年以上在住する外国人は、600時間のドイツ語学習と、30時間のドイツの歴史、文化、法制度の学習を義務付けられるようになった。現在、「ドイツ人」の実に20%以上が、移民をルーツに持っている。

では、日本ではどうやって外国人労働者を受け入れていけばいいのか。

ひとつの反省材料がある。バブル期、日本では人手不足解消のため、日系2、3世に「定住者」という在留資格を新たに設けた。それによって、来日する南米人が急増。派遣労働者として働いたが、リーマンショック後に仕事を失い、今では日本語を十分に話せず、中途半端な立場のままで苦しむ者も多い。この事例から考えるに、最初に日本語や職業の能力を確認し、まずは数年間の就労可能な在留資格を与えるべきだ。その期間が経過した後、しかるべき技能や語学力があれば、期間を更新し、定住を認めていくのが得策である。

また、韓国の「雇用許可制」も参考になる。外国人労働者を受け入れたい雇用主は、まず国内で韓国人を対象に募集をかけ、応募がない場合のみ、海外から労働者を受け入れる。政府は他国と二国間協定を結び、一定の枠の中で毎年の受け入れ人数を決定。企業と労働者を直接結びつけているため、ブローカーによるピンハネがなく、出身国によっては10倍もの倍率に大卒者が殺到する人気ぶりだ。受け入れる側にとっても、移民に職を奪われるという不安を払拭できる。こうした制度を小規模で始め、改良しながら、徐々に人数を増やしていくべきだろう。

■「労働者が殺到」は、ただの幻想?

そして最後に、移民政策を本格化させて門戸を開いたとしても、外国人が日本を選ぶか、という問題が残っている。政府は「日本が許可さえすれば、労働者が殺到する」という幻想を抱いているようだが、本当にそうなのか。

たとえば、ヨーロッパ内では、母国で所持していた職業資格の共通認定制度がある。看護師などの免許を持っている者は、決められた研修をすれば、別の国でも資格が取れるのだ。そこには、「外国人の能力をフルに発揮できるようにする」「外国人労働者と家族が生活しやすい環境」という目線が存在している。今のところ、日本の政策は労働力の確保にばかり目が向いており、そうした目線が決定的に欠けているように思える。国際的な競争力のない制度では、ただただ人口が減少していくだけだろう。

今後「人口大激減時代」に突入する日本で、移民の受け入れは避けて通れない。単なる「労働力」としてだけではなく、将来の産業の後継者、さらには年金や社会保障費の担い手、新たな雇用創出者として、外国人労働者に選んでもらえる国にならなければ、未来は暗い。今後も真剣に議論が重ねられることを期待したい。

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毛受敏浩(めんじゅ・としひろ)
日本国際交流センター執行理事
1954年、徳島県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、兵庫県庁に勤務。エバグリーン大学大学院に派遣され、修士号取得。88年から日本国際交流センターに勤務し、2012年から現職。慶大などで非常勤講師を歴任。近著に『限界国家』(朝日新書)。

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(日本国際交流センター執行理事 毛受 敏浩 構成=三浦愛美 写真=時事)

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