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スシローと差「くら寿司」一人負けの理由

プレジデントオンライン / 2019年3月25日 9時15分

「無添くら寿司」ホームページより

回転ずしチェーン「無添くら寿司」を運営するくらコーポレーションの業績がさえない。既存店売上高は4カ月連続前年割れで、業界最大手「スシロー」の16カ月連続前年超えとは対照的だ。店舗運営コンサルタントの佐藤昌司氏は「一人負けの原因は『バイトテロ』だけではない」と分析する――。

■既存店売上高は大幅減収

回転ずしチェーン「無添くら寿司」を運営するくらコーポレーションの業績がさえない。3月15日に発表した2月の既存店売上高は、前年同月比6.2%減の大幅減収だった。客数は6.1%減、客単価は0.1%減。不適切動画問題が大きく影響したとみられる。

2月6日、くら寿司のアルバイト従業員が、ゴミ箱に捨てた魚をまな板に戻して調理しようとする動画をSNSに投稿した。これが拡散し、複数のメディアが一斉に報じる事態となった。同社は謝罪し、再発防止策を講じるほか、動画を配信した従業員2名との契約を終了し、「刑事と民事での法的措置をとるための準備に入った」と発表。事態の沈静化を図った。

くら寿司以外でも、外食チェーンやコンビニエンスストアにおいてアルバイトによる不適切動画が拡散するトラブルが相次いで起きている。

■他チェーンは大きな落ち込みナシ

1月下旬、牛丼チェーン「すき家」で調理器具のおたまを股間にあてがう動画が拡散した。2月には、中華料理チェーン「バーミヤン」で調理中の鍋から上がった炎で口にくわえたタバコに火をつける動画が拡散した。

このほか、「セブン‐イレブン」でおでんのしらたきを口に入れて吐き出す動画、「ファミリーマート」で会計中の商品をなめる動画、定食チェーン「大戸屋ごはん処」で配膳用のトレーで裸の下半身を覆う動画がそれぞれ拡散した。

立て続けに起こった“バイトテロ”動画騒動だが、筆者の感覚では、くら寿司で起きたものがとりわけショッキングだった。「ゴミ箱に捨てた食材をまな板に戻す」という行為が、過去にも行われていたかもしれないと思うとゾッとするためだ。ほかと比べて、不快さが際立っていたように思う。

同様の問題が起きたほかの飲食・コンビニチェーンで、くら寿司ほど落ち込んだところはない。大戸屋は前年同月比2.8%減だが、すき家3.0%増、セブン0.9%増、ファミマ1.5%増と前年超えのチェーンも多く、くら寿司の落ち込みは際立っている(バーミヤンは未公表)。もちろん、それ以外の要素も関係してくるため一概には言えないが、諸状況に鑑み、不適切動画問題の影響が最も大きかったのはくら寿司だと筆者は考える。

■大戸屋の一斉休業は英断だった

くら社は勉強会を開催するなどして、再発防止に努めるとしているが、公表された対策だけで減収を食い止められるかは疑問に思わざるを得ない。もっと大胆な対策が必要だろう。

一連の問題で秀逸な対策を講じたのが大戸屋だ。運営会社の大戸屋ホールディングスは、国内店舗のほぼ全店で3月12日を一斉休業にし、再発防止に向けた従業員教育を実施した。

一斉休業により減収は避けられないが、それをいとわず、自らの管理不行き届きを潔く認めた上で従業員教育を実施したことは、評価に値するだろう。世間でもおおむね好意的に捉えられており、イメージ悪化を最小限に食い止めることができたのではないか。このことを筆者は評価したい。そして同時に、くら寿司こそがこうした取り組みをすべきだったと考えている。

■スシローの2月の既存店売上高は4.1%増

くら寿司の不振は、この2月だけの一時的なものではない。既存店売上高は、4カ月連続で前年を下回っている状況だ。通期べースでは、2018年10月期が前期比0.7%増となんとか前年を上回ったものの、17年10月期は1.4%減とマイナスとなっている。

競合と比べると、くら寿司の衰えは鮮明だ。業界最大手「スシロー」の2月の既存店売上高は4.1%増と絶好調で、大きく明暗が分かれた。競合の「かっぱ寿司」は2.0%減だったが、くら寿司の落ち込みに比べればだいぶマシといえる。2月以前もスシローは好調で、2月まで16カ月連続前年超えとなっている。かっぱ寿司は以前こそ前年割れが続き不調だったが、今期の19年3月期は好調で、2月までの半数の月がプラスとなっている。

くら寿司が不調なのは、競合に顧客を奪われているためだ。なぜそんなことが起きているのか。最大の理由は、サイドメニューの競争力の低下だ。

くら寿司は12年のラーメン発売を皮切りに、サイドメニューの強化を図った。13年に天丼とうな丼、14年には豚丼、15年にはカレーライス、16年にはカレーうどんと牛丼を売り出している。最近では、3月からハンバーガーの販売を始めた。

■各社もサイドメニューを強化してきた

くら寿司は、回転ずしチェーン業界における、サイドメニューのパイオニアといっていいだろう。当初は物珍しさから、サイドメニューで集客を実現できていた。だが、次第に競合も同様の施策を打ち出してきた。

スシローは、最近では17年11月にスイーツ開発プロジェクト「スシローカフェ部」を発足し、スイーツの強化を図っている。「はま寿司」はラーメンが有名だが、18年5月からは日本各地のご当地料理を複数回にわたって提供するキャンペーン「うまいもん祭」を始め、「長崎焼きちゃんぽん」や「じゃがバターいかの塩辛のせ」といったサイドメニューを期間限定で次々と販売している。かっぱ寿司も、有名店とコラボしたラーメンや有名パティシエとのコラボスイーツの販売に力を入れている。この状況で、くら寿司のサイドメニューの競争力は相対的に低下している。

■スシローは“本筋”のすしにも注力

そして重要なのは、くら寿司では本筋であるすしの競争力も低下していることだ。スシローは17年11月から、全国各地で水揚げされた魚を羽田空港経由でその日のうちに届ける飲食店向けオンラインマーケット「羽田市場」を活用して鮮度の高いネタの提供を始めた。これは本筋であるすしのおいしさをアピールすることにつながっている。

かっぱ寿司は「すしがおいしくない」とされて客離れが起きていたが、女優の吹石一恵を起用し、「やる、しかない」と味の向上をイメージさせるテレビCMを放送するなどして積極的にアピールしてきた。筆者の主観ではあるが、今のかっぱ寿司は、以前に比べて圧倒的においしくなっている。このような状況で、くら寿司のすしが埋没してしまった印象は否めない。

もちろん、くら寿司もすしの品質の強化を図ってはいる。だが、サイドメニューの話題が先行してしまい、すしの品質を十分に伝えきれていなかったように思える。こうした複合的な理由で、くら寿司から顧客が離反していったと考えられる。

サイドメニューを強化するのもいいが、客離れが深刻となっている今、くら寿司は一度原点に返ってすしを強化し、それをアピールしていくべきではないか。回転ずし店の本筋はすしであることを忘れてはならないだろう。

従業員のレべルを上げていくことも必要だ。不適切動画問題の再発防止に向けた従業員教育はもちろん、接客力を高めるための教育も実施していく必要がある。高い接客力は、リピーター確保に欠かせない。客離れを止めるための抜本的な対策を、早急に講じることが求められている。

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佐藤 昌司(さとう・まさし)
店舗経営コンサルタント
立教大学社会学部卒業。12年間大手アパレル会社に従事。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。店舗型ビジネスの専門家として、集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供している。

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(店舗経営コンサルタント 佐藤 昌司)

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