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オスの晩年が悲惨なのは人間とライオンだ

プレジデントオンライン / 2019年4月29日 11時15分

早稲田大学名誉教授 池田清彦氏

「孤独」を楽しみ、人生を謳歌する人がいる。彼、彼女たちは自らとどう向き合い、どう生きようとしているのか――。人生の楽しみ方を知る3人が述懐する。

■なぜ人間は「孤独」を感じるのか?

人がなぜ孤独を感じるかっていうと、もともとバンド、つまり群れで生きているからなんだよね。ホモ・サピエンス、人間の歴史ってもともとは、家族があって、周りにもいくつか家族があって、50~100人の単位のバンドになって生きてきた。バンドから追い出されると生きられない。だから、本能的に孤独が怖いんだろうね。

同じ霊長類でもオランウータンは完全に孤独に生活している。1人で生活して、セックスをするときだけツガイになって、またすぐ別れちゃう。霊長類が枝分かれした歴史を見ると、オランウータンが分かれたのは1500万年前くらい。ゴリラが分かれたのが1000万年前、チンパンジーと分かれたのが700万年前。ゴリラもチンパンジーも、その後分かれたボノボも、みんな集団生活をしているわけ。

男女でいうと後天的な差、すなわち社会によってつくられた差は時代が進めばだんだんなくなっていくかもしれないけど、先天的な差は残る。遺伝子が違うといっても、まぁ、XXとXYくらいしか違わないから、大した差はないといえるんだけど、やっぱり生物として見ると、脳の作りが男女では多少違う。左脳と右脳をつなぐ脳梁が、男のほうが小さく女のほうが大きいんだよね。どういうことかというと、男って脳を片方ずつ使っている。論理的に考えるときは左、感情に任せて喧嘩しているときは右、というふうにね。対して、女は自由に左も右もいったりきたりする。男からすると、とりとめのない話をして、いきなり話が別のとこにいっているように感じる。男は1つの話に始末がつかないと次にいかない。女のほうが常に脳のいろんな部分を使って行動できるというわけ。

男女のどっちがいいっていうのはいえないんだけど、そういうふうに、割り切って考えて、思考が固くなっちゃう分、男のほうが孤独にがんじがらめになって悩んでしまうのかもしれないね。やっぱり男って1人になったとき弱いよな。女房が死んだら旦那もすぐ死んじゃうとか。孤独死するのも、圧倒的に男のほうが多いよね。男は仕事以外のコミュニティがない場合、そこを抜けちゃうと本当にやることがなくなるんだよな。だから家族がいないと孤独になっちゃう。女房のほうが地域的なつながりとか、ほかのコミュニティを持っていることが多くて、近所の人との間でも活躍の場があるんだよ。

ほかの動物でいうとたいへんなのはライオンだな。ライオンはメスが狩りをして、立派なたてがみのあるオスは、なんにもしない。オスの仕事は交尾することなんだよね。飲まず食わずで一日に50回も交尾することもあって、ライオンに生まれなくてよかったと思うよ(笑)。それでしばらくすると、若いオス、生殖可能になった子どものオスなんかをぜんぶ群れの外に追い出しちゃう。その後、若いオスはどうするかというと、それまでトップだったオスを倒して、“プライド”という群れを実力で乗っ取る。そのとき追放されたオスは野垂れ死ぬことが多いんだよな。メスは最後までプライドに残って寿命をまっとうするんだけどさ。

ライオンは“プライド”というメス中心の群れで生活し、オスは年老いると追い出されるという。その後、一体彼らはどうなるのか──。

群れを追い出された老いたオスは、狩りをする力も落ちているから弱い動物を狙う。一番弱い動物って人間だから「人喰いライオン」ってのは大体老いぼれのオスなんだ。最後は鉄砲で撃たれたりしてね。結局、悲惨だよ。

人間が孤独に弱いのは、要するに、自分がディペンド(依存)しているコミュニティの数が1つしかないから。社会は大きくなっても50~100人のバンドで生きてきた時代とあまり変わらない。たとえば会社の同僚から無視されると、追い詰められる。学校だってそう。ほかの人がかまってくれなくて、周りが楽しそうなのに自分だけが孤立していると人間はかなり弱い。でも、それって狭いコミュニティに囚われているからなんだよね。

思考を切り替えると、孤独はプラスになるよ。だって、孤独なほうが面倒くさい付き合いしなくて済むんだから。会社でも嫌な人と付き合うのはストレスになる。付き合わなくても自分は平気だと思えばいい。別のところでつながりを持てばいいんだ。僕なんて、大学では研究室が隣だった加藤典洋と竹田青嗣くらいしか話さなかった。趣味の虫捕りのコミュニティとか、大学以外のコミュニティがいくつもあったからね。会社で変なやつと思われたって、ほかのグループの仲間と楽しくやっていれば孤独なんて感じないから。

いま若者たちの間で、都会より田舎で自分たちのコミュニティをつくって、しかもいろんな分野を股にかけて生活しようって人が増えているけど、それは正解かもしれないよね。都会はなんでもあるように見えて、結構単純で無味乾燥だから。田舎で農作業とかして自然に触れていると、複眼的な思考を持てて心が広くなる。農業はAI時代になっても役立ちそうだしね。

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池田清彦(いけだ・きよひこ)
早稲田大学名誉教授
1947年、東京都生まれ。東京教育大学理学部生物学科卒。東京都立大学大学院理学研究科博士課程単位取得満期退学。専門は、理論生物学と構造主義生物学。フジテレビ系「ホンマでっか!?TV」への出演など、メディアでも活躍。ビートたけしとは同じ小・中学校の出身。

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(早稲田大学名誉教授 池田 清彦 構成=伊藤達也 撮影=的野弘路)

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