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普通の人にイチロー発言が理解不能なワケ

プレジデントオンライン / 2019年4月5日 15時15分

自他ともに認める「筋トレマニア」の落語家・立川談慶さん。「花粉の季節はマスクを着用しましょう」

イチローが引退した。引退会見では「(引退後は)監督はない。人望ないから」「草野球を極める」といった受け答えが注目された。なぜイチローの発言は「変わっている」と思われるのか。落語家・立川談慶さんは「イチローさんの発言を『わからない』『変わっている』という人は、発言の表層しか理解できてない。要は筋トレが足りない」という――。

■松本人志が筋トレにハマった理由

ダウンタウンの松本人志さん、GMOインターネット社長の熊谷正寿さん、ミュージシャンの西川貴教さん……カリスマ性を発揮する一流の人はなぜ筋トレにハマるのでしょうか。

私、思うんです。彼らはみな「一人きり」になりたいのではないかと。もっといえば、一人になって自分を客観視する時間ほしさに、筋トレにのめり込んでいくのではないでしょうか。

一流の人は得てしてコミュニケーション能力が高いものです。そして彼らはみんな、自分を客観視できています。

考えてみてください。

筋トレをすると「ああ、自分という人間は、まだベンチプレス100キロをギリギリ8回までしか挙げられないのだな」「ダンベルカールで10キロ30回を3セットやったらバテる体力なんだよなあ」と身をもってわかるでしょう。その圧倒的な事実が「俺が俺が」と絶対化しがちな自分を次第に相対化し、「そんな力しかない自分が、他人様に偉そうなことは言えないわなあ」と反省のきっかけをつくります。

■筋肥大だけを求める剥き出しの自分と向き合う

一流の人にとって、筋トレはニュートラルになれる時間でもあります。

彼らは一目置かれるがゆえに他人から「称賛と非難」を常に受ける立場にいます。身内やファンに称賛を受けてやる気を高めることもあれば、悪意あるネット民に非難を受けて落ち込むこともあります。しかし、ひとたび筋トレをはじめてしまえば他人不在の空間に入り浸れる。そこには誰もいないし、誰も侵入してこない。筋肥大だけを求めるありのままの自分しかいない。本来の自分に戻り、自分は自分だと再確認して、心を整えられるのです。

筋トレに励む一流の人たちは、そのような反省を日々更新し、ニュートラルであり続けるからこそ一流であり続けるのだと思います。「自己改革は他人の目がない一人の時にしかできないはずだ」という考えに立脚すると、その役目を筋トレに見いだし、肉体的には筋肥大を、精神的には内面充実という一石二鳥の成果を得られるのです。

すべてのビジネスパーソンはこれに倣わない手はありません。

■ビジネス書を鵜呑みにするな

率直に言うと、コミュニケーションで一番まずいのは、ビジネス書に書かれているような内容をそのままマネしてしまうことです。努力を重ねること姿勢はとても尊いのですが、イチローさんのマネをしても本人にはなることはできません。

たとえば、イチローさんが自伝で「一日500回素振りをやってうまくなった」と書いていたとしましょう。それを読んだ野球初心者の中学生が同じように毎日500回素振りをやったからといって、イチローさんのような実績を手に入れることはできないのです。

500回の素振りというのは、イチローさんの体格や性格、周囲の環境を含めてみずから編み出した「答え」であって、それまで積み重ねてきたプロセスを前提にした上で成り立っているのです。

また、イチローさんは引退会見でも記者から「どんなギフトを私たちにくれるのか?」という質問に対して、「ないですよ、そんなの。無茶言わないでくださいよ」と答えていましたが、これをビジネスにあてはめるとどうでしょう。

お得意先から「どんな提案をいただけるか?」と聞かれて、「ないですよ。無茶言わないでくださいよ」とは言えないでしょう。あれは、イチローさんが自分を客観視できているからこそ成立しているハイレベルコミュニケーションなのです。

私もビジネス書を書いている立場上、えらそうなことを言うつもりはありませんが、そこに書かれている事例は著者のひねり出した「答え」です。読者は、その答えを見て関心するのではなく、到達点を知りそこから逆算して自分に合った「問い」を立てることではないでしょうか。

■比べるのは「他人」ではなく「昨日の自分」

陸奥部屋の力士・幕下の勇輝とのトレーニング風景。「筋トレ中のトレーナーは正しく追い込むための『方向指示器』だと思っている」(談慶さん)

そのためには、他人と比較するのではなく、徹底して一人になって、自分という存在を客観的に見つめることしかないはずです。筋トレにしても、いきなり上級者のマネをして重たいバーベルを持ち上げようとしたらケガするだけでしょう。大切なのは、昨日のトレーニングと比較して今日をいかに過ごすかということです。

前述したとおり、他人の評価に振り回されることも自分を見失うだけで無意味です。かくいう私も、「なんであいつが売れているんだろう」などと隣の芝生が青く見えた時期がありましたが、自分にしかない領域を極めようと今や腹をくくっています。だって「隣の芝生が青く見えるのなら、お隣さんにしてみればこちらの芝生も青く見えているはず」なんですもの(笑)。

■上腕二頭筋と三頭筋のバランス感覚

もうひとつ、筋トレをすることで対人関係における「バランス感覚」が養われることもコミュニケーション能力の向上につながっていると感じています。

どういうことでしょう。今から解説していくのでお付き合いくださいませ。

コミュニケーションの達人は常に「相手がどう思うか」「自分が発した言葉が他人にどういう印象を与えるか」をイメージできています。自分だけ、あるいは、相手だけの立場からしか物事を捉えられなければ共感は得られません。人によって価値観や状況は違うので「人間は金だ」「人間は愛だ」の両方ともに正しいのです。

立川談慶『老後は非マジメのすすめ』(春陽堂書店)

筋肉において、この二律背反のバランス感覚を体現するのが「上腕二頭筋と上腕三頭筋」です。いわゆる「力こぶ」は上腕二頭筋が収縮することでできます。その真裏では上腕三頭筋が伸長しているのです。一方が収縮するから他方が伸長でき、その逆もまた成立する。まるで「性格正反対だけど仲の良い兄弟」みたいですな。

私がこうしたバランス感覚の大切さに気付いたのは、「シックスパック」を目指して夢中で腹筋のトレーニングに励んでいた若い方を見てからのことです。その彼は腹筋をいじめぬく一方で、背筋のトレーニングをおろそかにしていたから、腰をやられてしまいました。以後、相反する2つの筋肉は同時に鍛えるべきだとつくづく感じています。

世の中は裏と表があるから上手くいきます。一流ほどこのことを理解し、反対側への目線を持っているものです。毒舌で名を馳せた師匠の談志にしても、まるでバランスを取るかのように、地方公演から帰ってきてすぐに御礼状を書くマメさを持っていました。

実際、私が朝ジムに行くと、経営者を多く見かけます。資産である時間を筋トレに費やし、顔を合わせると爽やかに挨拶をしてジムを後にする。ますます私は筋トレをすることが、コミュニケーションの達人への近道だという思いを強めているところです。

(落語家 立川 談慶)

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