なぜアマゾン倉庫内の写真は出回らないか
プレジデントオンライン / 2019年4月19日 9時15分
※本稿は、堀江貴文『僕たちはもう働かなくていい』(小学館新書)の一部を再編集したものです。
■「仕事が奪われる」次元の話ではない
身の回りの仕事や生活は、すでにAIやロボットによって大きな変化がもたらされつつある。高度なパーソナルモビリティやヒューマノイド、アンドロイドの登場により、数年前には誰も信じなかった、SFのような世界で生きていく姿も現実味を帯びてきた。
私たちにいま問われているのは、「仕事が奪われる」とかいう次元の問題じゃない。
AIやロボットによってリデザインされる世界を、どう生きるかという話だ。
間違いなく、いまある仕事の大半は、AIやロボットに奪われていく。日本経済新聞と英フィナンシャル・タイムズの共同調査によると、人が現在、携わっている約2000種類の仕事のうち、3割はAIロボットへの置き換えが可能だと判明したという。日本に限定すると、製造・建設・運搬など従事者の多い仕事のうち、5割強の業務を、ロボットによって自動化できることも明らかになっている。
■600人のトレーダーは自動化システムに置き換わった
ホワイトカラーも安泰ではない。
金融機関でも自動化の波は押し寄せていて、事務職ではファイル作成など6割以上の仕事をロボットに代替できる。2000年、米ゴールドマン・サックスでは600人いたトレーダーが株式売買の自動化システムに置き換わり、現在では数人がオフィスに残っているだけだという。
株式売買の業務における複雑な数学的判断は、AIのディープラーニングのお得意の領域で、人間の頭脳が敵うはずがない。世界的投資家のジム・ロジャーズも「AIが進化すれば、証券ブローカーなど株式売買に関わるプロは消える」と断言していた。
投資だけでなく、専門性の高い分野にも、AIロボットの進出は進んでいる。近い将来、一部の有能な医師が、世界中の患者の診断・手術を、遠隔ロボットを介して手がけることが予測されている。そしてヤブ医者は、きれいさっぱり消え去る。
大阪大学教授の石黒浩さんは、「膨大な試薬のデータ分析が必要な製薬業は、人間の研究者よりもAIの方が優れている。そのうちAIが、ノーベル生理学・医学賞を受賞するだろう」と予言している。私も同じ意見だ。
■アマゾン倉庫内の写真が出回らない理由
日本企業は世界的には特殊な存在だが、基本的に企業は従業員の雇用を無駄に守ろうとはしない。
例えば、アマゾンについては以下の状況が伝えられている。
あまりにも衝撃的で、不安をかきたてる光景だからだ。
安全が守られていないとか? 従業員を酷使しているとか?
どちらも違う。不安をかきたてるのは、従業員を酷使するどころか、従業員がいないことなのだ。ジェフ・ベゾスのビジョンには、人間のための仕事はないのだ。》
(『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』スコット・ギャロウェイ/著、渡会圭子/訳、東洋経済新報社)
同書には、ほかにも、
との分析がなされている。
明察だろう。AIやロボットのデザインする社会における、「GAFA」の偽らざる態度の本質を鋭く突いた言説だ。
■「人員の省力化」には筋が通っている
フェイスブックとグーグルはメディアを、アップルは通話・通信を支配した。アマゾンは小売業界の支配に事実上、成功している。
この快進撃を支えたのは、AI技術を中心とするテクノロジーだ。多くの労働者の雇用創出ではなく、人々にとって何が求められていて、何を的確に与えられるのかを考え抜き、テクノロジーを駆使したサービスの最適化を推進してきた。
そのビジネス戦略において、人員の省力化が進められるのは、まったくもって筋が通っている。グローバル企業の側としては、ロボットが代わりにやってくれる仕事を、順序よく置き換えているだけだ。
■「働く根源的なモチベーション」は何か
先にも述べたが、AIやロボットの導入は、単純に人間とのトレードコストの問題だ。各地の配達倉庫では人の労働者が、まだいるにはいるけれど、それは賃金が安いからだ。経営者の立場から見てロボットの方が安く導入できるのなら、躊躇なく取りかえる。それをしなければ、経営者失格だ。まったく不合理はない。
しかし労働者の側から、「仕事を奪われたら生きていけないじゃないか!」「どうやって生活の糧を得たらいいのだ!」と言い返される。AIやロボットの台頭=仕事の減少=失業者の増加=社会不安の増大……という構図を、何の思慮もなく思い浮かべてしまう人たちの思考が、私には理解できない。
そんな人たちに、ひとつ問いたい。
あなたは何のために、働いているのですか?
こう問われて、「生活のため」「家族のため」「お金をもらうため」と即答する人が、かなり多いだろう。それはそれで間違いではない。しかし、質問の本質を、とらえていない。
私が問うているのは、働く根源的なモチベーションの話だ。
■生活のために働いていると「奪われる人生」になる
あなたがもし、「生活のため」と即答する側だったとしたら──生活に満ち足り、家族はなく、どこかで1億円拾って預金通帳に9ケタの数字が並んだら、もう働かない、ということだろうか?
「その通りです」と答えてしまう人は危ない。生涯、AIやロボットに「何か」を奪われ続ける人生となるだろう。AIやロボットは、社会のインフラ構造ひいては資本主義の根底までを、革新しようとしているのだ。
働くことを、お金や生活との引き換え、つまりトレードコストで考えていると、その大きな流れに抗い続けることはできない。わずかなお金と、生活の安心を、人生の時間と引き換えにして、本当に大切なものを、変化の波に知らないうちに吸収されていく……。そんな残念な状況が、私にはうかがえる。
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実業家
1972年、福岡県生まれ。SNS media&consulting株式会社ファウンダー。ライブドア元代表取締役CEO。東京大学在学中の96年に起業。現在は、ロケットエンジン開発やさまざまな事業のプロデュースなど多岐にわたって活動。会員制コミュニケーションサロン「堀江貴文イノベーション大学校(HIU)」や、有料メールマガジン「堀江貴文のブログでは言えない話」も多数の会員を集めている。
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(実業家 堀江 貴文 撮影=小学館写真室 写真=iStock.com)
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