人を動かせない話し方「3つの共通点」
プレジデントオンライン / 2019年4月9日 15時15分
※本稿は、下地寛也著『プレゼンの語彙力』(KADOKAWA)を再編集したものです。
■「正直者で、真面目で、いい人」すぎる
プレゼンで、しっかり準備をしているし、何もおかしなことは言っていない、それどころかいい提案をしているのに、なぜか思うようにYESがもらえない人がいますよね。私の長年の観察からいうと、そういう人は、「正直者で、真面目で、いい人」な可能性が高いです。これはいったいどういうことでしょうか?
まず、正直者の人に知ってほしいことがあります。それは、人間は無意識に、「得すること」を選ぶより、「損すること」を避けようとする、という事実です。「損失回避の法則」という心理学の法則です。たとえば実験によると、100ドル得たときの嬉しさより、100ドル失ったときの悲しさの方が2倍も強いと言われています。
つまり、「あなた、これをすると100ドル得しますよ」と訴えかけるよりも、「ちょっとあなた、これをしないと100ドル損しますよ」と言われた方が、聞き手に強いインパクトを与えることができるわけです。
ためしに、あなた自身が「あれは得したなあ」というエピソードを考えてみてください。…いくつ思いつきましたか? では次に、「あれは損した」というエピソードを考えてみてください。「もっと安く売っているのを知らずに高く買ってしまった」「ある情報を見落としていたために、間違った選択をしてしまった」という経験は、いくつか思い出せるのではないでしょうか? 損した記憶というのは、得した記憶より強く残るものなのです。
■正直に話しすぎると相手の心を動かせない
もうおわかりですね。プレゼンでも「これをすると得ですよ」と言われると「ふーん。まあ、いいか(面倒くさいし!)」と思いますが、「これをしないと損をしますよ」と言われると、にわかに「なに? なに?」と聞く気になります。
プレゼンでYESをもらえる人の決めゼリフは、「これで1日200円お得になります」ではなく、「これを知らないと1日200円、損しているかもしれません」なのです。正直者の方は間違いなく、「これで1日200円お得になります」と言っています。
他にも「この方法を知らずに、非効率なやり方で損をする人が多いんです」とか、「今日を逃すと50%オフのサービスは受けられず損ですよ」といった言い回しもできます。いつもの表現を見直して、決めゼリフを「知らないと、やらないと、損」の方向に変えてみてください。
■言葉を尽くしすぎると伝わらない
プレゼンでYESを引き出しにくい人の特徴2つ目は「真面目」です。言うまでもなく、きちんと準備するとかアポに遅れないとか、そういった真面目さは必要です。でも、プレゼンが上手く行かない人の真面目さは、こうした真面目さではありません。
プレゼン下手の真面目な人は、わかりにくいことを一生懸命に言葉を尽くして説明しようとします。しかし現実には、相手が知らないことは、理屈や詳細をいくら説明しても伝わらなかったりします。
たとえば初めてプロジェクトに参加する若手に対して、プロジェクトと普段の通常業務との違いを説明するのはそれなりに難しいでしょう。「通常業務は決まった人が決まった順番で仕事をするものですが、プロジェクトは一応の役割分担は決まっていますが、そのときどきで臨機応変に動いて仕事を進めるものです」などと言っても、相手がピンと来ない可能性がありますよね。
■思いきったたとえをする
こんなとき、「たとえてみるとサッカーと野球くらい違います。通常業務は野球のように打順や守備位置が決まっていて迷いませんが、プロジェクトは、一応の役割は決まっているものの、サッカーのように状況を見ながら自分で考えて動く必要があります」と言えば、誰でもイメージしやすくなるでしょう。
プレゼンでするっとYESをもらえる人は、こうした思いきったたとえができます。「そんな大雑把なたとえでは誤解されてしまうのでは」とも悩みません。だって、思いきってたとえたほうが、聞き手はわかるからです。細部まで正しく伝えようとして結局何も伝わらないより、はるかにいいでしょう。これは、プレゼンに必要な度胸ともいえます。
一つだけ、たとえを考えるときは、聞き手がよく知っているものを選ぶ必要があるので注意してください。
■いい人すぎるとYESを引き出せない
「いい人」も、プレゼンの際に相手をその気にさせられない傾向があります。「いい人」は本当にいい提案をしたうえで、判断を相手に委ねるからです。YESを引き出せる人は、最後の最後に相手を試します。提案をし終えたら、最後にこんな一言を付け加えるのです。
「本気でない人にはおすすめできません」
「得られる成果はスゴいですが、それなりの覚悟が必要です」
「やる気がない人は手を挙げないでくださいね」
どれも、「いいかもね~」なんてのんきに聞いていた側からすると「ギョッ」としますよね。でも、ギョッとさせることに意味があるのです。
提案内容が難しいと、聞き手は「内容は良いけど、普段ダラダラ働いている自分たちに本当にできるだろうか」と思います。これでは、どんなに良い提案でも通らないことがありえます。「まあ、いいか」で終わってしまいます。
■聞き手を試す
そこであえて、聞き手の本気度を試す一言を言ってみるのです。そうすることでプレゼンターが、この難しい提案を本気で考えてきたのだと伝わります。
そして、うまくいくかいかないかが提案側ではなく受け手側に委ねられることになります。もちろん提案した内容が成功した暁にはそれなりの成果が得られることが必要ですが、成功するか失敗するか、その主役が自分になることで、聞き手は研ぎ澄まされます。
聞き手は、この人はチャラチャラしたことを言う人ではなく何事も本気で取り組む人だなと思ってくれます。そして、自分たちさえ本気になれば結果はついてきそうだという安心感を与えられます。
ちなみにこの言い回しは、オドオドしながら言ってもまったく意味がありません。自信をみなぎらせた表情で言いましょう。
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コクヨ株式会社ワークスタイルコンサルタント
1969年、神戸市生まれ。2008年から[コクヨの研修]スキルパークを主宰。未来の働き方を研究するワークスタイル研究所の所長、ファニチャー事業部の企画・販促・提案を統括する提案マーケティング部の部長などを経て、現在は経営管理本部にて、コクヨグループの働き方改革や風土改革に取り組んでいる。
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(コクヨ株式会社ワークスタイルコンサルタント 下地 寛也 イラストレーション=たかだべあ)
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