1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

英エリート校に子供2人合格した家の教育

プレジデントオンライン / 2019年4月12日 9時15分

イートン校の校舎(写真=iStock.com/Kurt Pacaud)

イギリスには「パブリックスクール」と呼ばれる全寮制の私立中高一貫校がある。そこに息子2人を合格させた日本人の母親が、今回インタビューに応じてくれた。卒業生の30%以上がオックスフォード大とケンブリッジ大に進学するという超エリート校の実態とは――。

※本稿は『プレジデントFamily2019年春号』の掲載記事の一部を再編集したものです。

■長男は英ウィンチェスター校に、次男はイートン校に

イギリスのパブリックスクールは、チャールズ皇太子、ウィリアム王子の母校・イートン校をはじめ、多くの国際的リーダーを輩出する私立中高一貫校の総称だ。中世以前のイギリスの学校は、入学が階級や宗教、出身地などで制限されていたのに対し、貴族階級以外にも開かれた学校として設立されたため、“パブリック”という名がついている。

多くが全寮制のエリート教育校で、代表格であるイートン校からは卒業生の30%以上が世界大学ランキングで1位、2位を争うオックスフォード大とケンブリッジ大に進学する。

息子2人をパブリックスクールに合格させた、シンガポール在住のモウリー康子さんは、受験を思い立ったきっかけを次のように語る。

「フランス人の夫も私もそれぞれの母国で公立育ち。イギリスのパブリックスクールとは全く無縁でした。ただ、金融業界で働く夫が『イギリス人のパブリックスクール出身者は社交力が抜群。数字に強いフランス人や日本人がどんなに成果を上げても、全体を率いるリーダーはイギリス人だ』とよく話していました。イギリス、日本、シンガポールと転勤続きで、さらにこの先どこに住むかわからない不安もあり、長男が10歳のときに全寮制のパブリックスクールなら、落ち着いて教育を受けられると思い、受験を考え始めました」

現在、モウリーさんの長男はウィンチェスター校に、次男はイートン校に通う。

「パブリックスクールへの入学は狭き門で、多くの受験家庭は8歳から“プレップスクール”という入学準備校に子供を入学させます。さらにプレップスクールに入学させるための“プレ・プレップスクール”という4歳から通う学校もあるんです。イギリス人にさえ狭き門なので、『落ちてもいいからチャレンジしよう』というくらいの気持ちでした」

■受験準備に費やした時間はわずか半年だった

「家族で学校見学に行くとどの学校も大学並みの敷地を持ち、テニスコートやラグビー場などの設備も充実していて、圧倒されました。建物は歴史のある石造りで、『ハリー・ポッター』の魔法学校のような雰囲気です。見学をして、ここで子供を学ばせたいと強く思いました」

パブリックスクールに入るためには、まず11歳で1次試験にあたるプレテストを受ける。これに合格した子だけが2年後、2次試験にあたるコモンエントランス(私立校統一テスト)を受験することができる。

モウリーさん一家は、長男がプレテストを受ける年齢で、東京からシンガポールへ転勤になった。本格的に受験準備に費やした時間はわずか半年だ。

「イギリスにはもちろん、旧イギリス植民地である香港やシンガポールにも受験のための塾や家庭教師の派遣会社があります。わが家は問題集を家で解かせつつ、試験直前の3カ月間は週に1回、スカイプを使ってイギリスの家庭教師に対策をお願いしました」

試験のメインは口頭試問だが、学科試験前に門前払いされてしまう学校もある。

「次男の通うイートン校の場合、海外からの受験生は“ISEB”というテストを受験し、一定の点数を取ると“イートンテスト”というIQテストのような試験に進みました。イートンテストはコンピュータで解答していくのですが、途中で後戻りできません。4択で選んだ答えを受けて次の問題に進んでいくため、1問間違えると、続きの問題もすべて間違いになってしまうんです」

■面接質問「タイムマシンに乗れたらいつの時代で何をしたいか」

長男の通うウィンチェスター校の場合、独自の筆記試験が課されるが、時間はわずか10分。非常に簡単な英語と算数が出題される。

「筆記試験は簡単で、筆記試験での二段階選抜はありません。ただ、面接が45分もあるんです。志望動機や何が得意かといった一般的な質問だけでなく、『タイムマシンに乗れたらいつの時代で何をしたいか』『なぜ中国はアメリカに追いつこうとしているのか』といった質問もあったといいます。次男の通うイートン校では、社交性を重視しているので、スポーツの経験や好奇心が強いことをアピールしたようです。次男はテニスでシンガポール国内での優勝経験があり、興味を持ったことは時間をかけてじっくり理解しようとするタイプでした。幼い頃は空き箱などでよく工作をしていました。そうした点も評価されたのかもしれません」

パブリックスクールでは、学力試験がトップの成績でも、面接で落とされるケースは珍しくない。

「面接に時間をかけ、校風に合っているか、知識だけでなく深く考える力があるかが注意深く見られます。経歴だけでなく、受け答えの様子なども見られているようです」

■レゴ、トレーディングカード、ギリシャ神話

ウィンチェスター校に進んだ長男は、“興味のあるものにはとことん集中するタイプ”とモウリーさんは振り返る。幼い頃にとにかく夢中だったのはレゴブロックだったそうだ。

「夫はグランゼコール(フランスでトップの高等教育機関)出身なのですが、進学するには、高い数学力が必要とされるため、フランス社会では数学教育を非常に重視しています。そこで算数脳を育てるために子供たちに小さい頃から与えるのがレゴなんです」

幼少期は兄弟そろって父親とレゴで遊んだというモウリーさん一家。小学校に入ると、「ポケモン」「遊戯王」「ヴァンガード」といったトレーディングカードにはまった。

レゴで立体の感覚を勉強した(写真=iStock.com/ivanastar)

「レゴは立体感覚や想像力を育み、カードゲームは記憶力や駆け引きなどの知能訓練になりました」

長男はとりわけ物理や数学が得意だったが、読書好きでもあり、ギリシャ神話を好んで読んだそうだ。

「パブリックスクールでは教養を高く評価するので、本にはたくさん触れさせておいてよかったと思います」

特に勉強をどんどんやらせていたわけではないそうだ。

「バイオリンやピアノ、公文式など途中でやめてしまった習い事もありました。休日は公園で友達と忍者ごっこなどをしていました。食事の時間は家族で有名人や地理、歴史のクイズを出しあって遊んでいました」

■教師はノーベル賞クラス「パブリックスクールの実態」

入学後は生徒の個性の強さや多様性に驚く場面が多かったそうだ。

「パブリックスクールは、以前はイギリス国内の上流階級向けの学校でしたが、今はロシアや中国をはじめ世界各国から優秀な生徒が集まっています。それに生徒たちは勉強以外にも才能を持っている子が非常に多い印象です。手品の全英チャンピオン、サッカーのナイジェリア・ナショナルジュニアチーム代表選手、13歳にして俳優活動のかたわら起業している子もいます。ドライバーが学校まで迎えに来て“今から会議だから”と出て行く子もいるそうです」

「ほかにもインド系の子で、普段はテニスをしている姿しか見ないのに、オーケストラではビオラを弾き、学校主催のコンサートではピアノソロ。勉強でもすべての教科で学年トップ、科学は大学入試統一試験のイギリス最高得点を記録。語学も堪能だし、卒業前に運転免許まで取得しているという超人がいて、長男は『いつ勉強しているんだ?』とショックを受けていました(笑)」

こうした抜きんでた生徒に対し、パブリックスクールでは勉強だけでなく、音楽やスポーツなど、さまざまな分野ごとに“スカラー”と呼ばれる称号を与える。制服から寮の場所、食事まで差がつくそうだ。教師のレベルも超一流で、博士号を持っている人も多い。

「なかにはノーベル賞候補に挙がったことのある先生もいるそうです。『生徒が理解できなければそれは教師の責任』という意識が強いので、生徒たちの興味を引くためにさまざまな工夫をされているようです」

ウィンチェスター校の校舎(写真=iStock.com/TonyBaggett)

■卒業生はオックスフォード大やケンブリッジ大に進学

授業以外に週に1、2回行われるSociety Talkという自由参加型の講演会もある。

「各界の著名人に体験談を話してもらうのですが、登山家や小説家、政治家など幅広く招いているようです」

長期休みの宿題はなく、ボランティアやコンテストに取り組むことも特に奨励されていないという。

「先生方が常々おっしゃるのが、“卒業したときにやり残したことがあったと後悔してほしくない”ということ。ゆっくり自由に過ごしたり、やりたいことに打ち込んだりした経験がないと、大学受験を前にしてものびしろがなくなってしまいます」

密度の濃いアカデミックな雰囲気の6年間を過ごし、卒業生はオックスフォード大やケンブリッジ大、アメリカのアイビーリーグなどに進学する。

イギリスのトップ校は多くの日本人から見ると、はるか遠くの存在だ。しかし、シンガポール、日本、フランス、イギリスの教育制度に触れたモウリーさんはこう断言してくれた。

「日本人の学力は世界最高水準です。しかし、“もっと個性を出せばいいのに、もったいない”と感じることもあります。パブリックスクールの良さは、個性豊かな生徒たちがお互いを褒めたたえあう文化があること。どんな生徒も必ず評価される機会があります。お互いの才能を素直に認めあい、寮生活で能力を生かしあうことで、社会を生き抜く個性と社交性が身につくのではないでしょうか」

■2人の息子が英名門全寮制校に合格するまでのプロセス

【次男の場合「イートン校」合格】
10歳半
出願→学校見学
11歳 ISEB試験(ISEBはIndependent SchoolsExaminations Boardの略)→イートンテスト→面接→合格。シンガポールでオンライン受験。一定以上の点数を取ると、イートン校の本試験に呼ばれる。
13歳 コモンエントランス英国私立学校の統一試験。ここが最終試験になるが、ほとんどの子が合格する→正式に入学許可
【長男の場合「ウィンチェスター校」合格】
10歳半
 学校見学→出願
11歳 筆記試験・面接 オンラインでの試験は行わない。受験できる人数にも上限がある。アジアの受験生は香港が会場。面接は引退した元先生が担当→合格
13歳 ウィンチェスター試験 ウィンチェスター校は最終試験を独自で行っている。
コモンエントランスより高難易度だが、ほとんど落ちない→正式に入学許可

(フリーランスライター 加藤 紀子 写真=iStock.com)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください