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タクシー運転手英語力急上昇の「虎の巻」

プレジデントオンライン / 2019年5月9日 9時15分

日本を訪れる外国人観光客は急増している。接遇を行うタクシー乗務員は、どのように英語を身につけているのか。今回、3ステップにわけて、その実態を紹介する。第1回は「基礎編」だ――。(全3回)

※本稿は、「プレジデント」(2019年4月15日号)の掲載記事を再編集したものです。

基礎編●必要な会話だけ丸暗記、会話帳とジェスチャーで何でもこい

■60代の乗務員も英語に挑戦

タクシー乗務員の登録や指導、研修などを行っている東京タクシーセンターは、外国人観光客が急増し始めた2012年から、タクシー運転者向けに英語研修「外国人旅客接遇研修」を行っている。研修業務を担当する教務部部長の伊藤伸也さんは「一般的な英会話ではなく、タクシーの接客に特化した英語研修を実施している」と話す。

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強い味方! 指差し外国語シート
東京都を走るタクシーは、業界団体である東京ハイヤー・タクシー協会が作成した「指差し外国語シート」を車内に備え付けている。タクシー利用でよく使われるフレーズを、日本語、英語、韓国語、中国語で示したものだ。外国語ができなくても、これがあればドライバーと乗客がお互い、該当するところを指し示すことで意思疎通ができるので、多くの外国人乗客とのコミュニケーションに活用されている。

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初級は「外国人に接することに慣れる」ことが目標。「こんにちは」「私の名前は~です」などの簡単な挨拶や自己紹介から始まり、「どちらまで行かれますか?」「シートベルトを締めてください」など、接客中によく使う簡単なフレーズや、「美術館」「地下鉄」「お寺」など、目的地でよく使われる単語などを学ぶ。

中級になると、タクシー営業に必要な会話の習得を目標として、初級の反復練習に加えて道の方向などの言い方を学習する。「およそ1時間10分くらいかかります」「メーター料金に高速道路料金を加算します」など、やりとりはかなり実践的となる。上級には、体調不良やパスポートの紛失、事故に巻き込まれたときの対応や、東京スカイツリー、浅草寺などの観光案内なども盛り込まれている。

簡単な挨拶と、行き先の確認、支払いのやりとりだけに絞れば、タクシーの接客で必要なフレーズはそれほど多くない。研修で学ぶフレーズが採録されたCDやDVDも販売されているので、購入して何度も視聴し、暗記して乗務に活かしている受講者も多いという。伊藤さんは「受講者の英語のレベルも上がってきていて、積極的に『ロールプレイングをやりたい』と希望する人が増えている」と話す。

研修の受講料は2700円。受講者の年齢は幅広く、60代のドライバーも多い。東京オリンピックが近づくにつれ、英語の必要性を感じるタクシー乗務員は増えており、研修の人気も高まっている。同じ講座を何度も受講して学ぶドライバーも多い。最も人気が高い中級のコースは、予約開始から30分程度で満席になることもあるという。このため、希望するタクシー事業者に講師を派遣して研修を行ったりもしている。

19年1月末までに、延べ1万3000人のタクシー乗務員が講習を受けているが、センターでは五輪開催までにこの人数を2万人にするという目標を掲げている。

■研修を受けて羽田国際線へGO

研修受講で身に付けた英会話の力を「見える化」し、優遇する仕組みもある。羽田空港国際線ターミナルのタクシー乗り場には、外国人旅客接遇研修の修了者だけが付けられる「Hospitality Taxi」と書かれた表示板を掲出し、専用のレーンに入構することができる。東京都内で7万人以上いるタクシー乗務員のうち7000人以上、「今や約1割の乗務員が、この入構表示板を付けている」(伊藤さん)という。

外国人旅客接遇研修修了者が付けられる入構表示板(上)と、公認英会話ドライバーが貼れるステッカー(下)。

さらに17年からは、上級レベルを修了し、検定に合格すると、公認された英会話ドライバーであることを表す「ENGLISH CERTIFIED DRIVER」と書かれたステッカーをタクシーの車体に貼付する制度もできた。

検定試験は、外国人乗客を相手に英語で会話をするロールプレイング。乗車・降車時のやりとりだけでなく、乗客からの質問にどう対応するか、緊急時や突発事象への対応力も問われる。合格者は253人(19年2月末現在)おり、「東京オリンピックまでに500人を目指す」と伊藤さんは意気込む。

タクシー会社も乗務員の英語力アップに力を入れている。全国で約7400台のタクシーやハイヤーを抱える大手の日本交通では、外国人旅客接遇研修の受講を推進しているほか、新人研修でもタクシーの接客で使う英語を取り入れている。「ご乗車ありがとうございます」「◯円でございます」などの基本的な接客用語のほか、「カーナビで調べます」「午後10時から深夜料金です」などの、すぐに使えるフレーズを盛り込んでいる。

(ライター 大井 明子 撮影=石橋素幸)

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