もし迷ったら難しいと思う道を選びなさい
プレジデントオンライン / 2019年4月23日 11時15分
■「女の子も何だってできる」と教えてくれた父
私は1970年代にスリランカで生まれました。父が国連の仕事をしていたので、3歳のときからアフリカやネパール、バングラデシュ、ブルネイなどで暮らし、さまざまなジェンダーや年齢の人、国籍や肌の色が違う人たちと出会ってきました。そういった発展途上国は男性が支配する社会で、特に私が生まれ育った1970年代、80年代は女性が大学に進んで安定した職に就けるような環境ではありませんでした。実際に私の母は学業を高校までで辞めてしまっています。
そういう時代ではありましたが、私の両親は常に兄だけでなく私にも「大学は必ず行くものだ」と言い聞かせてくれました。父は「勇気を持って強くなりなさい。お前は女の子だけど、それは問題じゃない。何だってできるんだ」と教えてくれましたし、母も「勉強を続けて自立した女性になりなさい」と言ってくれました。ですから、家庭環境はとても恵まれていたと思います。
■年上の男性たちに教える難しさ
私は人文社会学系の勉強が得意だったので、メルボルン大学ではマーケティングを学びました。幸い、学士過程で良い成績を収めることができ、博士号も取得しました。そのときの私は「学んだことを人に共有したい」という思いが強く、教師になりたかったんですね。そこで、メルボルン大学のビジネススクールで、マーケティングについて教えることになりました。
しかし、当時27歳の私が教壇に立つことは簡単ではありませんでした。そこには生徒としてMBA(経営修士号)取得を目指す社会人たちが集まっています。オーストラリア人から見れば私は小柄ですし、若いし、見た目もちがう。35歳、40歳という年齢の男性が教室の椅子でふんぞり返り「いったい君に何が教えられるんだ?」という目で見る中、自分の良さを出すのは難しいことでした。講師として効果的な話し方、聞き方を学び研究する日々でした。
その後、まだ若かったこともあり、「もっと速いスピードで仕事をしたい」という思いが強くなって、コンサルティング会社のガートナーに入りました。そこで5年間、企業人として充実した時間を過ごしました。
■育休前に57歳までのプランを提出
ガートナーにいる間、ひとり目の子供を出産しました。会社の有給の育児休暇は6カ月間でしたが、子供が赤ちゃんの時期というのは人生で数回しか経験できません。もっと子供と絆を深める時間がほしいと思い、希望を出してさらに6カ月、無給で休みをもらうことができました。
その経験から皆さんにアドバイスできるのは、育児休暇を申請するときは、自分にきちんと自信を持ち、ブランクによってキャリアが停滞することがないように話しておく必要があるということですね。私は上司に要望書を提出しました。そこに57歳までのキャリアプランを記し、「1年後、戻ってきたらこの仕事をしたい」「2年後、このステージに行くためにこういうスキルが必要なのでそれを積ませてください」と具体的に書いて交渉しました。やはり雇用主に対して自分が何をしたいかということを明確に発言しなければ、わかってもらえないと思います。
■相談した夫から「なんでそんな質問をするんだ!!」
私も子育てしながら働く女性として、新しい仕事を選ぶときに迷ったこともありました。私の父が常に言っていたのは、「その仕事が自分を成長させてくれるかどうかを考えなさい」ということ。自分にとって、やりやすい仕事とそれより難しい仕事があるなら、少し居心地が悪いぐらいに感じるよう挑戦していくべきだと。
それでも、仕事のオファーをもらったとき「この仕事をちゃんとこなせるかしら」と考え躊躇したことが、2回ほどありました。しかし、夫に相談してみると、「なんて馬鹿な質問なんだ。できるかどうかではなく、まずイエスと言って、その後どうやってやればいいのか考えればいい」とアドバイスされました。できるかどうかの「Can」ではなく、どうやって実現するかの「How」で考えたとき、仕事もキャリアも拓けていくのだと今では思えます。
■男性も加わってジェンダーについて話し合う
ガートナーを退社後、別のコンサルティング会社を経てIBMに転職しました。そこで12年間勤め、アジア太平洋地域のデジタルビジネスグループの最高執行責任者など、いろんな役職に就いてきました。IBMはネットアップと同じように、社員ひとりひとりの働き方に柔軟に対応してくれる会社。2人目の子供を産んでからシンガポールに引っ越しましたが、そこでも同じ業務をできるようにしてくれました。
そして、私は6カ月前にネットアップに転職し、アジア太平洋地域のマーケティングの責任者になりました。ネットアップのすばらしいところは、オープンな空気があり、トップから社員ひとりひとりまでジェンダーや国籍などの多様性が浸透していること。日本のオフィスでは多くの女性社員が活躍していますが、まだ最終的な目標に達してはいません。しかし、男女の区別なくテーブルについて意見を言える会社です。
「ウーメン・イン・テクノロジー」という組織を世界の各エリアに設置し、女性だけではなく男性も加わりジェンダーなどの重要なトピックについて話し合っています。そもそもネットアップの理念は「データを示して世界を変える」ということで、やはり社内の多様性なくしてはそういった変化を起こせないと信じています。
■男女平等の推進でGDPを12兆ドル増やせる
日本を訪れたのは今回で6回目です。1997年に初めて来たときは、入国審査官から「あなたは仕事をしているのか?」「ひとりで来たのか?」と質問され、女性が働いていることをとても驚かれた記憶があります。それから20年、日本社会も変わってきていると感じます。ひとつデータを見てみると、大卒の新入社員の中で女性の割合は1992年には30%でしたが、現在は46%。ほぼ半数になっていますね。これはすばらしい上昇だと思います。女性の人材は育ってきていますので、その人たちをいかに育成して成功に導いていくべきかということが問われています。
男性の経営陣に女性が社内で活躍することの大切さを説得するとき、経済的な理由を示すことも効果があると思いますよ。例えばPeterson Institute for International Economicsが世界91カ国の約22,000社を対象に実施した調査では、経営幹部(役員)に女性がいる企業のほうが純利益を増大できることがわかりました。McKinsey Global Instituteのレポートによると、男女平等を推進すれば、2025年までに世界のGDPを12兆ドル増やせる可能性があります。また、ジェンダーだけでなくエスニック(民族)のダイバーシティも重要ですよね。ダイバーシティ、多様性という言葉は美しい概念で、それを実現することはきっと、これからの経済の燃料となり原動力になると思います。
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ネットアップ アジア太平洋地域マーケティングおよびコミュニケーション部門責任者。
スリランカ生まれ。メルボルンビジネススクールにて、戦略・マーケティングの博士号を取得。消費者行動に関する教科書の著者でもあり、学術雑誌でも広く研究を発表。2018年にNetAppに入社する前は、IBMに12年勤め、オーストラリアからアジア太平洋地域を包括し、さまざまな指導的役割を果たす。また、ラテンアメリカや中東を含む成長市場もカバー。直近では、アジア太平洋地域のIBMのデジタルビジネスグループの最高執行責任者として活躍してきた。
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(ネットアップ アジア太平洋地域マーケティングおよびコミュニケーション部門責任者 スー・プレンドラン 構成=小田慶子)
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