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「グレープフルーツ×薬」は要注意なワケ

プレジデントオンライン / 2019年5月2日 11時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/smartstock)

グレープフルーツと一緒に摂取すると、効きすぎたり、効かなくなったりする薬剤がある。現在では85を超える薬が、グレープフルーツとの相互作用の可能性を指摘されているという。内科医の山本佳奈氏がその理由を解説する――。

■グレープフルーツと薬剤で予期せぬ影響

甘さや酸っぱさの他、ほろ苦さも持ち合わせているグレープフルーツ。皮をむいてそのまま食べるだけでなく、ジュースに加工されたものや絞り汁の入ったサワーやカクテルを楽しむなど、私たちの食生活に欠かせない果物の1つであろう。

だが、このグレープフルーツを薬剤と一緒に摂取すると予期せぬ影響をもたらす可能性があると報告されているのをご存じだろうか。そこで、今回はグレープフルーツについて、薬剤との相互作用を中心に、論文をご紹介しながらお伝えしたいと思う。

その前に。1750年代、西インド諸島のバルバドスでブンタンとオレンジが自然に交配したものが発見されたことから、グレープフルーツの歴史は始まる。1800年代、ぶどうの房のように、1本の枝にたくさんの実を付けることからグレープフルーツと名付けられ、1830年ごろに米国のフロリダに、ついでテキサスやカリフォルニアなどにも伝わり、大規模生産が開始されるに至った。

米国から日本には1915年に伝わった。だが、寒さに弱いグレープフルーツは、日本の気候や環境では栽培が難しく、食卓まで届くことはなかった。昭和初期になり、日本への輸入が始まったものの、当時は高級なフルーツの1つであった。だが、1971年にグレープフルーツの輸入が自由化されたことによって、一般家庭でも気軽に食べられるフルーツになったというわけだ。

■薬の代謝に欠かせない酵素「CYP3A4」

薬に話を戻そう。飲んだ薬は胃で分解され、大部分はその先の小腸で吸収される。そして、小腸を取り囲む血管から血液中に取り込まれ、肝臓へとつながる門脈に入る。肝臓へと運ばれた薬は血流に乗り体内を循環しながら患部へと到達し、薬の多くは、細胞の表面にある受容体と結合して反応を引き起こすことで効き目となって表れるのだ。

しかしながら、私たちの体にとって薬は異物である。ゆえに、体の中から排出されなければならない。その役割を担っているのが肝臓だ。役目を終えた薬は肝臓で代謝された後、腎臓に送られて尿として体外に排泄されたり、胆汁とともに消化管に運ばれて便として排出されたり、汗や唾液と一緒に体の外へと出て行くことになる。

つまり、肝臓を通過して血液にのって全身をめぐる薬の量は、小腸で吸収した量よりも少ない。そのため薬の内服量は、減ってしまう量を考慮して決められているというわけだ。

こうした代謝に欠かせないのが酵素だ。「シトクロムP450 3A4(CYP3A4)」は、半数以上の医薬品の代謝に関与している重要な酵素のうちの1つである。主に肝臓に存在しているが消化管にも存在している。

■ジュースやジャムでも引き起こされる副作用

だが、この「CYP3A4」の作用を妨げるものがある。グレープフルーツだ。グレープフルーツに含まれるフラノクマリン類のベルガモチンやジヒドロベルガモチンと呼ばれる成分は、小腸をはじめとする消化管に対する阻害が強いため、薬が代謝されずに体内に長くとどまり続け、薬の血中濃度が上昇する結果、副作用が生じやすくなるという。

こうしたグレープフルーツと薬の相互作用はグレープフルーツそのものだけではない。ジュースやジャムなど、加工されたものでも引き起こされることがわかっている。なんと、グレープフルーツ1玉またはグレープフルーツジュース200mLで、全身の薬物濃度の上昇やそれによる悪影響を引き起こすのに十分なのだという。

グレープフルーツの他にも、フラノクマリンを含んでいるものは薬との相互作用を引き起こすことが指摘されている。フラノクマリンを含む果物として、例えば、マーマレードでおなじみのセビリアオレンジやハッサクがある。他には、スウィーティー、夏ミカンやライム、東南アジアのマレー半島が原産のポメロ、ミカンとグレープフルーツが交差されたタンジェロスなどが挙げられる。

■85を超える薬に相互作用の可能性がある

『Canadian Medical Association Journal』における最近の報告によると、現在、85を超える薬がグレープフルーツと相互作用する可能性があるという。また、これらの薬物のうち43種においては、横紋筋融解症、呼吸抑制、消化管出血、腎毒性といった重篤な副作用をもたらし、その数は増加するだろうという。

具体的にはどういった薬が相互作用を引き起こすのだろうか。

1つ目は、コレステロールを下げるいくつかのスタチン系薬剤だ。シンバスタチンやアトルバスタチンなどが挙げられる。2つ目は、一部の降圧薬。ニフェジピンなどの高血圧の治療薬であるカルシウム拮抗剤だ。そして3つ目は、一部の免疫抑制剤。シクロスポリンなどだ。他にも、一部の抗生物質や真菌薬、抗精神病薬や抗うつ薬、睡眠薬など、極めて多くの薬の代謝に関わっている。これらの薬では、CYP3A4活性低下によって薬の代謝が阻害された結果、体内での薬の効き目が強まり副作用のリスクが高まるというわけだ。

だが、腸内のCYP3A4酵素の量は人によって異なっており、酵素をたくさん含んでいる人もいれば、ほんの少しだけの人もいる。そのため、グレープフルーツは、同じ薬を飲んだとしても人によって異なる影響を与える可能性を秘めている果物なのだ。

■「花粉症の薬」が効かなくなることもある

さらに、グレープフルーツは、小腸の細胞膜において吸収する働きをもつ「トランスポーターOATP」の機能を抑えてしまうということもわかっている。

花粉症などによるアレルギー性鼻炎や湿疹の治療に使用されるフェキソフェナジンは、CYP3A4による代謝ではなく、このトランスポーターOATPを通じて吸収される薬の1つだ。トランスポーターが抑制されると、結果として血液中に入る薬の量が少なくなり、薬が効かなくなる可能性があるというわけだ。

こうしたグレープフルーツと薬の相互作用は、長いものでは3~7日間も持続するという報告もある。相互作用の可能性がある薬を内服している間は、グレープフルーツの摂取は控えた方がいいだろう。

■健康には欠かせないグレープフルーツ

だが、グレープフルーツはビタミンCやカリウムなどを豊富に含んでいる。健康には欠かせない。

2013年、ハーバード公衆衛生大学院の村木氏らは、米国の医療従事者約350万人を対象にした前向き調査の結果、グレープフルーツのほか、ブルーベリー、ブドウ・レーズン、リンゴ・ナシ、バナナを週3回摂取することと、2型糖尿病に罹患するリスクの有意な低下が関連していたことがわかったことを報告した。ちなみに、果物ジュースをよく飲むことは2型糖尿病リスクの上昇と関連していたという。果物がジュースに加工される時点で、食物繊維が減ってしまうことが影響しているのではないかと筆者は考察している。

一方、イスラエルのヘブライ大学ハダッサ医科大学のGorinstein氏らは、冠動脈バイパス手術を受けた43~71歳の高脂血症患者72人を対象にした30日間のプラセボ対照試験の結果、グレープフルーツとザボンを交配してできたスウィーティーの新鮮なジュースを毎日100mlまたは200ml飲むと、LDLコレステロールが低下したと報告している。

生の果物の方がいいのか果物ジュースでもいいのか、これについてはさらなる研究が必要だと言えるだろう。

■「一緒に食べられる」グレープフルーツの開発が進む

さらに、今年の4月3日に報告された論文によると、195の国や地域のデータの系統的分析の結果、野菜や果物、魚や全粒穀物を食べることは長寿と関連しており、2017年における死亡の5分の1(1100万人)は劣悪な食事と関連していること、そして食事と関連する死亡の半数以上は、果物の不足のほか、ナトリウムの摂り過ぎや全粒穀物の不足に起因していることが判明したという。

グレープフルーツはじめ、果物は健康で長生きする上で欠かせない存在だ。薬を飲むときくらい水で飲めばいい、薬と一緒にグレープフルーツを食べなければいい、といえばそうなのかもしれない。

だが、一緒に食べるにはどうしたらいいかという視点からの研究も進んでいるようだ。2013年3月、ロイターは、コレステロールレベルを下げるスタチンといった、多数の薬剤との有害な相互作用を誘発しうるフラノクマリンを含む量が非常に少ないグレープフルーツが開発されたと報じた。ハイブリッドグレープフルーツの商品化を進められているとのことだが、大規模生産が行われるようになるのはいつ頃になるのか、楽しみである。

グレープフルーツは私たちの生活において身近なものであることは間違いない。健康を維持する上でも欠かせない果物の1つでもある。薬を飲む際は注意していただきたい。

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山本 佳奈(やまもと・かな)
青空会大町病院 内科医
1989年生まれ。滋賀県出身。医師。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバーザー、ときわ会常磐病院(福島県いわき市)非常勤医師。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)がある。

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(医療ガバナンス研究所/内科医・研究員 山本 佳奈 写真=iStock.com)

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