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アップルが珍しく訴訟合戦を断念した理由

プレジデントオンライン / 2019年4月19日 15時15分

世界最大のモバイル見本市「MWC19バルセロナ」の様子。クアルコムのブースには「5G」の2文字が並んでいた。(写真提供=MWC)

米アップルが、訴訟合戦を繰り広げてきたクアルコムと一転して和解した。和解の背景にあるのは高速通信規格「5G」。アップルはクアルコムとの和解により、2020年をめどに5G対応のiPhoneを発売するとみられている。なぜアップルはクアルコムに対して強硬姿勢を貫けなかったのか。一連の5G騒動を検証しよう――。

■5Gスマホで各国より遅れる日本、先行する韓国

今年2月、スペイン・バルセロナで世界最大のモバイル見本市「MWC19バルセロナ」が開催された。この場で、各メーカーはスマートフォンの5G搭載モデルを発表してきた。今回の特徴は、5Gに対応するだけでなく、折りたたみディスプレイや4Kディスプレイ、3眼以上の多眼カメラ、ジェスチャー機能など、さまざまな機能強化モデルが発表されたことだ。

中でも鼻息が荒かったのは、サムスン、LG、KT、SKテレコムという韓国勢だ。韓国では3月末から世界初となる5Gの実用サービスが始まる。また欧州、中国、オセアニアも、今年度は、ラストワンマイルを目指して、粛々と展開を広げようとしている。なお米国では昨年10月から5Gのサービスを開始しているが、これはスマートフォン向けではなく、Wi-Fiに代わる家庭用5Gルーターでの利用だ。

一方、日本のサービス開始は2020年の予定。2019年9月には、ドコモがラグビー・ワールドカップとあわせて試験サービスを開始する。5G用コンテンツでも目立った動きはなく、日本は各国より遅れている印象がある。

世界の5G商用化計画
世界の5G商用化計画(画像提供=エリクソン・ジャパン株式会社)

■MWCで聞かれた「来年もiPhone 5Gは出ない」という噂

こうした5G製品が発表される中、私は「アップルは今年はおろか、来年もiPhone5G搭載モデルを投入できない」という情報を耳にした。この背景にあったのが2017年から続いてきたクアルコムとの訴訟問題だ。

2017年初めにアップルは「クアルコムの特許使用料が不当に高い」として、引き下げを求める訴訟を起こし、これに対しクアルコムは反対にアップルを相手に知財侵害の訴えを世界各地で起こした。この結果、18年秋のiPhoneの最新モデルではクアルコム製品は排除され、アップルはクアルコムの5Gチップセットを搭載できない状況にあった。

だが今年4月16日、アップルは一転してクアルコムとの訴訟問題で全面和解したと発表した。今後、クアルコムから5Gチップセットの供給を受けることになる。この結果、アップルは2020年をめどに5G対応のiPhoneを発売するとみられている。

■クアルコムの株価は2割高、アップルの株価は変わらず

5Gのチップセットを供給できるのは、世界に5社しかない。米国のクアルコムとインテル、中国のファーウェイ、韓国のサムスン、台湾のメディアテックだ。そして、家庭用ルーター用ではなく、スマートフォン用の5Gチップセットとしての性能をクリアしているのは、現状ではクアルコムだけだ。

5社のうちサムスンは自社製スマホ「ギャラクシーS10・5G」の発売当初、クアルコムのチップを採用する予定ということで、開発が遅れている。インテルとメディアテックも同様に開発が遅れており、ファーウェイは中国企業なので米国企業であるアップルは搭載できない。

クアルコムがNGとなれば、米国企業であるアップルが頼れるのはインテルしかなかった。だがインテルの5Gは開発が遅れている。MWCに来ていた携帯ジャーナリスト・山根康宏氏は「外付け5Gモデムはともかく、チップセットとなると、まだインテルは性能が十分ではないようです。またインテルとアップルが蜜月かというとそうでもない」と話す。

アップルが5Gチップを自社開発するという選択肢はなかったのだろうか。2月、アップルの株主総会で、ティム・クックCEOは「今、着手したとしても3~4年はかかる」と述べている。つまり、アップルにはクアルコムと和解するか、インテルの開発スピードの改善を待つしか方法がなかった。

和解を発表した直後、クアルコムの株価は2割強も値を上げたが、アップルの株価はほとんど変わらなかった。アップルにとって、クアルコムとの和解は苦渋の決断だっただろう。

■iPhoneの課題は「5G対応」だけではない

だが、iPhoneには「5G対応」以外にも課題が多い。山根氏はこう話す。

「スマートフォン市場は、中国など人口の多いアジアが軸となっています。しかしiPhoneの商品づくりは欧米に向いたまま。たとえばカメラは、欧米ではナチュラルな色が好まれますが、アジアでは誇張したテイストが好まれます」

2018年の世界のスマホ出荷台数は14億2000台で、そのうち4億台を中国が占めている。アップルの世界への出荷台数は2億台にすぎず、マーケットを支配するだけの力はない。

またデザインにもかつてほどの差がないという。

「たとえばファーウェイはデザインが向上しています。同社は2015年にアップル出身のデザイナーAbigail Sarah Brody氏をUXデザインのバイスプレジデントとして招聘しています。またチーフデザイナーには『世界のトップデザイナー&インフルエンサー100』に選ばれたMathieu Lehanneur氏を起用しています。アップルの技術革新のスピードが遅いというよりは、むしろ世界の追い上げのスピードがすさまじいのです」(山根氏)

■「iPhoneが売れない=アップルはダメだ」は偏りすぎ

このままアップルはiPhoneと共に沈んでしまうのか。昨年までSMBC日興証券で外国株式投資調査担当を務め、現在は起業家の岡元兵八郎氏はいう。

「市場のフォーカスは、目先のiPhoneの売り上げに偏り過ぎている気がします。『iPhoneが売れない=アップルはダメだ』という見方です。しかし、ここ数年、iPhoneの売り上げは年1%程度しか増えていません。一方、アップルはサービス部門(アプリ配信、音楽配信、決済サービスなど)での成長をもくろんでいます。現在サービス部門の売上高は全体の13%ですが、利益率は63%です。アップル全体の利益率の38%を大きく上回っており、売り上げも年10%台後半で増えています」

さらに岡元氏は「アップルには潤沢なキャッシュがある」と指摘する。

「今後、アップルは潤沢なキャッシュを使い、積極的な増配や自社株買いを行うはずです。今後3年で現在の発行済株式数の3分の1を自社株買いするという大規模な株主還元策も予想されています。株価が落ちることは考えづらいです」

■そろそろ熱狂できるサプライズが必要ではないか

これまでiPhoneは強すぎる端末だった。だが利用人口の多いアジア圏のニーズを拾い切れず、足踏みが続いている。クアルコムとの和解に追い込まれたのも、そうした苦境が影響しているといえる。

同じITの巨人であるIBMやマイクロソフトは、こうした危機を新たな自社の製品やサービスを送り出すことで乗り切った。アップルがそうした手を打つことはできるだろうか。

アップルは3月25日(米国時間)にスペシャルイベントを行った。そこでは、テレビ番組や映画などを配信する「Apple TV+」、ニュースや雑誌コンテンツの「Apple News+」、ゲームの「Apple Arcade」の3つサブスクリプション型サービスを発表した。しかし大きな反響はなかった。

かつてのアップルには新製品が出るたびに、ストアに並ぶという熱狂があった。発表されたサービスはそこそこ成功するのだろう。それは企業としては必要なことだ。だがアップルのファンが待ち続けているのは、もっと熱狂できるサプライズだろう。アップルが苦境から脱するためにも、そろそろサプライズが必要ではないだろうか。

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占部 雅一(うらべ・まさかず)
メディアプランナー、デジタルハリウッド大学教授
出版社を経て、インターネットにおけるメディア展開、広告獲得の仕組みづくりに携わる。ヤフー、アイスタイルのタイアップ制作、プレミアムADネットワーク「glamメディアジャパン」のローンチ支援を経て、2012年よりモバイル最適化サービス「モビファイ」を提供。モバイルを中心に世界の最新ITトレンドを探索中。

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(メディアプランナー、デジタルハリウッド大学教授 占部 雅一 写真提供=MWC)

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