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企業が「去る者は追わず」を貫くべき理由

プレジデントオンライン / 2019年4月24日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/imtmphoto)

部下から退職の意思を聞いたとき、どう受け止めるだろうか。リンクアンドモチベーションの小笹芳央会長は「『従業員は家族』だと思っていた頃は、人が辞めるたびにつらかった。その考え方を捨て去ってから、冷静にとらえられるようになった」と語る――。

※本稿は、小笹芳央『モチベーション・ドリブン』(KADOKAWA)を再編集したものです。

■企業にとって新陳代謝は必然

今から当たり前のことを述べる。

国全体として、人材が流動化することは、リソース配分として当然のことだ。これは企業にも当てはまる。企業を一つの生命体と考えれば、一定レベルの新陳代謝は必要である。人材を次々に採用しては次々と辞められてしまう企業、過剰な新陳代謝が起きている企業は、人材のコストアップにもなり問題だが、適度な新陳代謝は企業にとって必然だ。

なぜなら、企業には常に変化が求められるから。ビジネスモデルを変えることもあれば、競争ルールが変わることもある。新しいビジネスに挑戦することも多くなった。そのためには、新しい人も必要だ。

企業の変化に対して、そこで働く個人が「企業に合わせて自分をチューニングしよう」という意識を持ち続ければ、その個人はその企業に残ることになる。しかし、「ちょっと違うな」と思えば、辞める。

「違う」から辞める個人がいるのは自然なことであり、企業にとっても、個人にとっても互いに幸せなことだ。だから、適度な新陳代謝は企業にとって必然なのだ。過度な人材流出はすぐに対策するべきだが、ある程度の新陳代謝を過剰に恐れることはない。

■退職の報告を受けるたび精神が傷ついた

さて、なぜわざわざこんなことを書いたか。

企業にとって新陳代謝は必然なのだが、辞められる側としては正直なところ心穏やかではない。それが私にもわかるからだ。

以前よりはるかに簡単に個人が会社を辞めるようになった今、人材流出に心を痛め、頭を悩ますマネージャー、経営者は増え続けている。

私も、リクルート時代を含めて、これまでに従業員が辞めていく姿をたくさん見てきた。退職の面談や報告、挨拶など、そのたびに精神が傷ついた。そこで、あるときから次のように考え方を改めた。

それまでは、「従業員は家族であり、同志である」と言っていた。心からそう思っていた。だがこれを改め、「従業員は投資家だ」という考え方、言い方に変えた。

従業員はお金を出す投資家ではないが、お金以上に大切な自分の時間や経験、スキルを会社に投資してくれているという意味で投資家だといえる。

従業員が投資家だとすれば、会社を退職するということは、その人自身が投資先を変えるということだ。投資に見合わない、投資を続けようと思えない会社だと判断されたということになる。ならば、もっと会社を磨かないともっと人が辞めてしまう。

このように考えることで、従業員の退職を以前よりも自責的にとらえられるようになった。

■「ここまで育ててやったのに」では心がもたない

家族や同志と思っていたときは、「ここまで育ててやったのに」だの「あのとき、あれだけ助けてやったのに」だのといった気持ちが、心のどこかから否応なく湧き出してきた。そうやって責任を相手に転嫁していた。

小笹芳央『モチベーション・ドリブン』(KADOKAWA)

けれども、それでは自分の心がもたないことに気がついた。そして、従業員は投資家だと考えるようになったのだ。それからは、従業員の退職を「この人はアイカンパニー(編注:自分自身を1つの会社と見立てる発想)として投資先を変える判断をしたのだな。ならば、これからは投資されるに足る会社にしよう」と思うようにしている。

リンクアンドモチベーションを創業して従業員が100人ぐらいになるまでは、創業者として従業員全員を面談して採用した。だから、従業員一人ひとりの顔と名前はもちろん、家族関係や志望理由、転職理由なども細かく知っていた。ゆえに、辞める人が出たときにはつらかった。

■激動の時、社員は辞めるものである

2000年の創業以来、業績は順調に成長拡大してきたが、ご多分に漏れず、2009年初頭からはリーマンショックの影響を大きく受けた。

さまざまな拠点や研修センターの撤退、ボーナスカット、営業への人員の配置換えなど、「for All」として生き残るために、従業員にとって厳しい判断を下した。そして、こういうときに中核メンバーであっても人は辞めるのだということを痛感した。

撤退判断を早く一気にやったことで赤字に転落することはなかったのだが、85%の減益となった。インパクトのある減益ではあったけれども、利益は出して何とか企業として生き残り、翌年から少しずつ業績は回復する。

こうした企業のアップダウンの変化が激しいときに、意外と人が辞める。人と組織を考えるうえで、知っておいて損はない事実だろう。

■OSとしての「One for All, All for One」

優秀な個人に辞められるのは、企業にとって大きな損失だ。しかし、「去る者は追わず」が基本的な企業の姿勢ではないだろうか。

特に、企業の理念やビジョン、方向性と、自分の理想や欲求、方向性が違ってきたのであれば、退職が企業と個人の両者にとっての幸せとなる。

企業には変化が求められる。人も自然、入れ替わる。一方で、目指す姿や文化、DNAなど、変えてはならないものもある。当社でいえば、たとえば、「One for All, All for One」の考え方だ。私たちはこの考え方、フレームワークを非常に大事にしている。新入社員には、最初の3カ月間の研修期間にこの考え方をOSとしてインストールしている。

OSはコンピューターを動かすオペレーティング・システムのことだが、同様に、自分が動く際の基盤となる考え方として「One for All, All for One」を従業員全員に理解してもらっているのだ。

■2つのベクトルで考える習慣が身につく

だから、何か新しい施策を検討する際にも、「ちょっとfor Allに寄りすぎているから個人が息苦しくなっているな。もう少しfor One寄りに緩和したルールにしよう」といった会話がなされる。逆に、「最近、エンジニア部隊はONEを自由にさせすぎてないか。朝からきちんとやらせたら?」といった意見が出ることもある。

あなたの会社はどうだろうか。今、働き方改革の施策を考え、実行しているのなら、この視点を持ってもらえたらいいと思う。

「One for All, All for One」がOSとして共有されていると、for All寄りの手を打つべきなのか、for One寄りのメニューを増やすべきなのか、この2つのベクトルで考える習慣が身につく。

そして、for Allに寄せたり、for Oneに寄せたりを繰り返しながら、より高いレベルで「One for All, All for One」を実現するためにステップアップを図っていくことができるのである。

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小笹 芳央(おざさ・よしひさ)
株式会社リンクアンドモチベーション会長
1961年、大阪府出身。1986年、早稲田大学政治経済学部卒業、株式会社リクルート入社。2000年、株式会社リンクアンドモチベーションを設立し、同社代表取締役社長に就任。2013年、同社代表取締役会長に就任し、グループ14社を牽引する。『会社の品格』(幻冬舎新書)、『モチベーション・マネジメント』(PHP文庫)など著書多数。

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(リンクアンドモチベーション社長 小笹 芳央 写真=iStock.com)

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