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万年不正スズキは"帝国重工"以上にヤバい

プレジデントオンライン / 2019年4月24日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Sjo)

スズキが4月18日、完成車の不正検査問題で過去最多の202万台のリコールを届け出た。スズキはこのリコールに先立ち、法律事務所による社内調査の報告書を公表している。報告書を読んだジャーナリストの溝上憲文氏は「上からの命令に逆らえない風土やセクショナリズムといった大企業病的体質があり、それはまるでドラマ『下町ロケット』に登場する“帝国重工”のようだ」と指摘する――。

■スズキ、38年も前から不正検査が始まっていた可能性

大手自動車メーカー・スズキが4月18日、完成車の不正検査問題で国内最多となる202万台のリコール(回収・無償修理)を国土交通省に届け出た。

スズキは昨年8月、出荷前の自動車の排ガスや燃費性能の検査で不正が見つかった。だが、その後の社内調査によってブレーキ検査などで不合格とすべきものを「合格」とする検査結果の改竄や、無資格者による検査の発覚を恐れた組織的隠蔽など、多くの不正が次々に発覚した。

このためスズキは長島・大野・常松法律事務所に調査を依頼。検査員など約300人へのアンケート調査と、経営層を含む320人への聞き取りが実施され、4月12日にその結果が公表されたところだった。

調査報告書によると、四輪車の全数検査では、ブレーキ、ハンドル、速度計、ライトなど約10項目で新たな不正が発覚した。

ブレーキの制動力の検査では複数の検査員が不合格と判定された車両を合格とするチェックシートの改竄も見つかっている。しかも検査員として登用される前の無資格者の単独の完成検査も判明。十分な教育を受けていないのにもかかわらず、検査員の印鑑を借りて検査をしていたという供述もあった。

一部では1981年ごろから不正検査が始まっていた可能性もあるなど、長期にわたる組織的な品質不正があったことを明らかにしている。

■なぜ大規模かつ構造的な不正検査が放置されていたのか

こうした大規模かつ構造的な不正検査がなぜ放置されていたのか。

報告書を読むと、その背景には上からの命令に逆らえない風土やセクショナリズムといった大企業病的体質だけではなく、現在、多くの企業が取り組んでいる働き方改革の負の側面も浮かび上がってくる。

自動車の完成検査を担当する「検査課」は工場ごとに設置されている。言うまでもなく人の生命に関わる自動車の安全性や公害の防止の観点から自動車の構造や装置・性能が保安基準適合しているかどうかを検査する重要な部署である。

■「検査課」は出世コースとは無縁の傍流部署だった

生産部門の言いなりにならない独立性が求められるが、同社の検査課は生産部門と一体であり、独立性はなかった。

その結果、生産部門から無理難題を吹っかけられても逆らえない雰囲気があり、しかも検査課自体がいわゆる出世コースとは無縁の傍流部署であった。報告書ではこう書かれている。

「社内で完成検査の重要性が理解されておらず、無駄な業務であると誤って受け止める風潮があったことは、検査課が他部署からの不適切と思われる要請に対して毅然とした対応をとることができなかったことの一因となっていたものと考えられる。また、伝統的に、部長級以上の役職者に登用される者は技術開発または生産部門の出身者の割合が比較的多く、完成検査部門の経験者が必ずしも多くない傾向にあることは、検査課の社内での位置付けを窺わせる側面がある」

そうであれば検査課に配属された社員は、業務に対する士気が高まらないどころか、モチベーションの低下をもたらすだろう。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/kontrast-fotodesign)

■ここに左遷されたら二度と這い上がれない「墓場」

しかも「他部署から検査課に異動してくる従業員の中には、完成検査業務に対する適性を備えていない者が含まれていた場合がある」とも言っている。

いったいどんな人なのか。報告書はこう述べている。

「このような人材は、検査補助者教育を受けたとしても十分な技能を修得できず、検査員に任命された後も他の検査員と同等の業務をこなすことができないという趣旨の供述や、このような適性を備えていない検査員による作業の遅れが他の検査員の時間的余裕を奪い、効率的な検査業務を阻害したという趣旨の供述もあった」

適性を欠いた社員を検査課に配属させたということは、おそらくどの部署でも使えない人材であり、いわゆる左遷部署的な扱いを受けていたのではないか。

報告書には「一旦検査課に配属された検査員は、基本的には、当該工場の他部署や他の工場に異動することは少なく、人事のローテーションは活発ではなかった」とある。

筆者には、左遷されたら二度と這い上がれない墓場のような部署、というように読める。他部署の社員もそういう目で見ていた可能性があるのではないか。だからこそ検査課を恐れることはなく、無理難題を言いたい放題だった。報告書はヒアリング結果についてこう述べている。

「複数の検査員が、車両の製造を担当する完成課から、完成検査の完了を急(せ)かされたこと、完成課から不良をなかったことにしてほしいと要求されたこと、不良であるとして完成課に戻したら完成課から苦情があった等を供述している」

■正しい仕事をする者ほど検査課内で疎まれるような風潮

他部署から理不尽な要求を受けたら上司に報告し、対処してもらうのが普通だが、「多く不合格を出し、ラインを停止しがちな者は検査課内においても疎まれるような風潮があった」という。つまり、上司も見て見ぬふりを決め込んでいた可能性が高い。「上司や先輩に不合格を合格にして良いと言われた、他の人がやっているのを見て、自分もやって良いと判断した」という供述もある。

検査員の中には不正検査を行うことを当初は悪いことなのではないかとか、心理的抵抗があった人もいたようだが、こうした状況では何を言ってもムダだと思ってしまうのも不思議ではない。仕事に対する意欲が上がるどころか、ますます低下していくだろう。

現場の雰囲気についてこう指摘している。

「現場の検査員も、役職者が現場の要望や不満に対して適切に対応してくれない、あるいは、役職者の検査業務への知見の乏しさのため、役職者に適切に現場の要望を理解することが困難であるとの認識から、役職者に対して、当該問題点を報告し、改善を求めることを半ば諦めていた」

他部署から左遷部署扱いされ、いったん送り込まれたらほとんど異動することはない。常に苦情を言われ、逆らうことも許されない。仕事に対する誇りも感じられなければ働く意欲すら失われてしまう、暗く沈滞したムードが漂う職場が長く放置されてきたことに驚かざるを得ない。

スズキ「ジムニー」のエンジン(写真=iStock.com/teddyleung)

■車の安全性をないがしろにして生産性と効率性を重視

しかし、最も大きな問題は検査部門に限らず、他部署の社員を含めて車の安全性をないがしろにしてまで生産性と効率性重視に躍起となっていたことである。

スズキの各現場では生産性向上の名のもとで過度なコスト削減を要求されていた。同社は2018年3月期まで毎年200億円以上の原価低減を行ってきた。

その裏で「少人」と呼ばれる工場全体の人員を削減する取り組みが実施されてきた。一般的な工程の見直しによるカイゼンや自動化設備の導入ではなく単純に人を減らすだけの取り組みだった。

調査報告書はこう指摘している。

「具体的には、『少人』は、生産本部の業務計画に応じて、各工場の工場長が、各工場の業務計画を策定する際、各部門に対して、人員の削減目標を割り当て、工場の各部門において、割り当てられた人員の削減を実行するという形で長年にわたって実施されてきた。このように、『少人』は、検査課の人員に対してのみ人員の削減を要請するものではなかったが、検査課においては、例えば、『少人』を達成するため、検査員が定年退職した場合にその退職者分の増員をしないことや、検査員を同じ工場の事務職に異動させること等の方法により、検査員の人員を削減していたこともあった」

■スズキのような労働環境で「働き方改革」を実施したら……

業務の効率化と称して単純に人を減らせば、残った社員の負荷は増大する。検査課だけではなく、工場の多くの社員が疲弊していただろう。

もし、こんな環境下で残業削減などの「働き方改革」を実施したらどんな事態に発展するのか、想像するだけでも恐ろしいものがある。

働き方改革では従業員の負担軽減よりも、生産性や効率性を重視する企業も多い。仮に人員が不足している職場で、さらに上から操業時間を減らすように指示されたらどうなるのか。負担軽減どころか、従業員の疲労度はさらに高まるだろう。

実際に残業規制によって仕事が忙しくなり、職場のコミュニケーションも減ったという声もある。あるいは人を増やせない以上、名目上、労働時間は減ったことにして、実際はサービス残業が増加する事態になりかねない。

働き方改革と言いながら従業員の負担が増し、さらには違法残業が横行する可能性がある。

いずれにしてもこうした作業環境では製品の不具合や不良品の増加は避けられないだろう。しかも最終的にチェックする検査課が機能不全に陥っていたら、最終的にその代償を払うのは私たちユーザーということになる。

■スズキは『下町ロケット(ヤタガラス編)』の帝国重工そっくり

こんなことを考えていたら、テレビドラマ『下町ロケット(ヤタガラス編)』に登場する帝国重工を思い出した。

『下町ロケット ヤタガラス編』登場人物の相関図。神田正輝が演じたのが次期社長候補の的場俊一だ(TBS同番組ウェブページより)

次期社長候補の的場俊一取締役(神田正輝)が、農業イベントに間に合わせるために部下に対して最新鋭の無人トラクターの製造を急がせる。そして「試作段階なので参加するのは無理」との現場の声を無視し、ゴリ押ししてイベント会場に持ち込む。

ところが、その農業イベントで実施された、トラクターが通る道にカカシを置き、人間との衝突事故防止できるかどうかチェックする実験では、停止することなくカカシを踏みつけ、最後は脱輪し、用水路に落ちてしまうという大失態になる。

ドラマでは大企業のおごりと上には逆らえない企業体質が描かれていた。テレビドラマだからと笑ってはすまされないだろう。スズキの不正検査は、帝国重工のような失態が現実の大企業でも簡単に起こり得ることを示している。

(人事ジャーナリスト 溝上 憲文 写真=iStock.com)

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