北朝鮮の増長をゆるす韓国外交の意味不明
プレジデントオンライン / 2019年4月24日 15時15分
■2回目の米朝会談は予定を繰り上げて終了したが…
物別れに終わった2回目の米朝首脳会談から早くも2カ月が経過しようとしている。2回目の会談は2月27日と28日の両日、ベトナムの首都ハノイで行われた。だが、28日に予定されていた昼食会と共同声明の署名式典が突然なくなり、アメリカのドナルド・トランプ大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が予定を繰り上げて帰国してしまった。
沙鴎一歩は3月7日付のプレジデントオンラインで「何かと物議を醸し、国際社会から嫌われるこの2人。それだけに会談は世界最大の政治ショーでもあり、もう少し楽しみたかった。残念である」と皮肉を込めて書いたが、金正恩氏は3回目の米朝首脳会談について4月12日の最高人民会議(国会)での施政演説でこう述べている。
「アメリカの大統領との3回目の会談の用意がある。年末までアメリカの勇断を待つ」
トランプ大統領への“誘い水”だ。大胆でしたたかな対応である。なんともずうずうしい。
■国際社会による経済制裁を緩和させたい
2回目の米朝首脳会談で、トランプ氏は金正恩氏に対し、核とミサイル、それに核兵器関連施設などすべてを廃棄することを要求し、「完全な非核化が実現されない限り、経済制裁は解除しない」と伝えた。
これに対して金正恩氏が反発。その結果、2回目の会談は物別れに終わった。これがその後に分かったいきさつである。
北朝鮮は国際社会による経済制裁を緩和させようと、海千山千の外交戦術を繰り返している。
その外交戦術のひとつが、金正恩氏の「新型の戦術誘導兵器」発射実験の視察である。国営の朝鮮中央通信が「特殊な飛行誘導と威力のある弾道弾を装備した素晴らしい武器を開発し、4月17日に公開された」と翌18日に報じている。
■アメリカの国家人事にまで口を挟むずうずうしさ
驚かされたのは4月18日の北朝鮮の声明である。非核化を巡るアメリカと北朝鮮の交渉からポンペオ米国務長官を外すよう求めているのだ。問題の声明は、北朝鮮外務省の米国担当局長が「ポンペオ氏はわれわれの話を理解しようとしない。ポンペオ氏ではなく円滑に交渉できる人物に代えてほしい」と述べたとして、米朝対話からポンペオ氏を代えるよう要求している。
交渉相手の中心人物を交代させようとは、これもずうずうしい主張である。はっきり言って内政干渉だ。ずけずけとものを言うあのトランプ氏でさえ、こんな発言をしたことはない。仮にトランプ氏が「金正恩氏は道理の分からない人物だから別の人物を出せ」と発言したら北朝鮮はどんな行動に出るだろうか。
金正恩氏は、アメリカの対北強硬派をなんとか排除して、有利なように交渉を進めたいのだ。
しかし、トランプ氏もばかではない。事実、トランプ氏は11日に韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領とワシントンで会談したとき、文氏から南北協力事業の再開を求められ、「そのタイミングではない」と拒否している。
恐らくこの文氏の要求は金正恩氏に頼まれてのことだろう。金正恩氏は陰に陽にと“攻撃”をしかけてくる。大したものだ。
■金正恩氏は4月末日までにプーチン氏と会談する
「したたかな対応」「海千山千」「大したものだ」などと書いてきたが、ある意味でこうした表現は、褒め言葉である。しかし金正恩氏は思慮分別に欠ける。あの奇妙な髪型と太った顔と体がそう思わせるのかもしれない。
金正恩氏はロシアのプーチン大統領にも触手を伸ばしている。
4月末日までに金正恩氏がプーチン氏と会談する、とロシア側がすでに発表している。ロシアは国連安全保障理事会の常任理事国だ。金正恩氏は制裁の緩和をプーチン氏に頼むのだろう。緩和の強弱はあるだろうが、ロシアが応じれば、次は中国にも同様に緩和を求める。そしてロシアと中国の虎の威を借りてアメリカに圧力をかける。
実にうまい戦術である。金正恩氏は「トランプ氏はプーチン氏と中国の習近平(シー・チンピン)国会主席を、そろって敵に回すわけにもいかないはずだ」としたたかに計算しているのだ。これこそ外交戦術だ。
だが、そのリスクは小さくない。短期的にはしのげるだろうが、長期的には国際社会への貢献がなければ孤立してしまう。金正恩氏が本当に頭の切れる男であるなら、孤立のリスクを真剣に考えるはずだ。その様子はみられない。
■北朝鮮の“悪の枢軸”体質は変わらない
4月18日付の産経新聞の社説(主張)はこう書き出している。
「北朝鮮の非核化をめぐる交渉が行き詰まる中、トランプ米大統領と金正恩朝鮮労働党委員長が3度目の会談開催に意欲を示した」
「トランプ氏は、韓国の文在寅大統領に『(会談の)可能性はある』と語る一方で、非核化の実現まで制裁を維持する姿勢を強調した」
「金委員長は最高人民会議の施政演説で、2月の2度目の会談が物別れに終わったのは米国が『実現不可能』な案を要求したからだと批判しながら、『今年末までは忍耐心を持って米国の勇断を待つ』と通告した。期限付きで制裁措置での譲歩を求めたものだ」
金正恩氏が使っている「忍耐心」と「勇断」という言葉。自分には忍耐力があるので、相手のアメリカに勇気ある決断を求めることができる、という意味だ。自分が世界で一番偉い人間だと思っているのだろうか。
したたかで海千山千の戦術だと言っても、これでは国際社会を味方に付けることはできない。かつて批判された“悪の枢軸”体質は、いまも変わっていない。やはり金正恩氏には思慮分別が欠けている。
■韓国は北朝鮮の核・ミサイル開発をどう考えているのか
産経社説は指摘する。
「事態が動かない責任は『完全非核化』の約束に行動が伴わない北朝鮮側にある。『急ぐと適切な取引にならない』と拙速を戒めたトランプ氏の態度は正しい」
妥当な指摘だろう。3回目の米朝会談に向けて何が飛び出すか分からない状況は変わっていない。これまでトランプ氏には金正恩氏の戦略に取り込まれるのではないかとの不安があった。その不安が少し消えた。
社説はさらに指摘する。
「北朝鮮は何も変わっていない。国際社会が求めているのは、核を含む大量破壊兵器と弾道ミサイルを北朝鮮から一掃し、隠匿していないと証明することだ」
北朝鮮が変わっていないのは確かである。いや以前に増してしたたかになっている。その辺を国際社会がしっかりと見極める必要がある。産経社説は韓国の対応にも触れる。
「気がかりなのは、韓国の文大統領が、開城工業団地や金剛山観光など南北経済協力事業の再開に意欲を見せていることだ」
「金委員長も施政演説で、韓国に『仲裁者』ではなく『民族の利益を擁護する当事者』として行動で誠意をみせるよう求めた」
同じ民族として北と南が仲良くすることに異議は唱えない。問題は北朝鮮の核・ミサイル開発なのである。韓国は危険な北朝鮮の肩を持つ。国際社会を無視しているのか。最近の韓国の対応は、おかしなところが多い。文氏が何を考えているのか、時々分からなくなる。
■北朝鮮が核保有をあきらめるとは考えられない
次に毎日新聞の社説(4月16日付)を読んでみよう。
「北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が、国会に当たる最高人民会議の2日目に施政演説を行った。最高指導者の施政演説は29年ぶりである」と書き出し、こう指摘する。
「金氏は、完全な非核化まで経済制裁を維持する米国の姿勢を非難し、方針転換を迫った。3回目の米朝会談に意欲を示しつつ、米側の譲歩が条件だと突きつけた。また、制裁の長期化を前提に、自力で経済再建する決意を国民に求めた」
北朝鮮の国民が食べるものが少なくて困窮するのは、すべて経済制裁を解除しようとしないアメリカのせいだと、国内向けにアピールして自分の立場を維持しようとしているのである。しかも「自力再建の決意」を国民に求めるのは虫が良すぎる。さらに毎日社説はこう書く。
「さらに今回の演説では『我々の核武装力の急速な発展という現実に恐れを感じた米国が会談に出てきた』とまで述べた」
「これは、当面核は手放さないということではないか。だとすれば、旧態依然とした発想のままだ」
沙鴎一歩もそう思う。金正恩氏はこれまで作った核を持ち続け、さらに核・ミサイル開発を続けるつもりなのだ。
■米朝間で板挟みとなっている韓国の文大統領
毎日社説は「金氏は『年内は米国の決断を待つ』と述べた。来年11月には米国で大統領選がある。それより前に、米側と関係改善を図りたいという思惑があるのだろう」とも書く。
毎日社説の指摘通りに、大統領選の前にアメリカと仲良くなっておきたいと金正恩氏が考えているとしたら、それだけトランプ氏に頼っていることになる。選挙でトランプ氏が敗れて新大統領が生まれたら、その大統領と一から始めなければならないからだ。
産経社説と同じように毎日社説も、韓国の文大統領に対する不安をあらわにする。
「ただ、文氏は米朝間で板挟みとなっている。トランプ氏は11日の会談で、現状での南北経済協力の再開に否定的な考えを示した。一方、金氏は施政演説で韓国政府に『我々の立場と意思に共感し、歩調を合わせるべきだ』と圧力をかけた」
「文氏は、会談で金氏を説得できるのか。不安が残る」
沙鴎一歩も韓国の対応には不安だが、それ以上に金正恩氏の言動が気になる。時代が「平成」から「令和」に移っても北朝鮮から目を離すことはできない。
(ジャーナリスト 沙鴎 一歩 写真=CNP/時事通信フォト)
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