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アイドルと「アイドル声優」の決定的違い

プレジデントオンライン / 2019年5月13日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/ipopba)

歌って踊る「アイドル声優」に憧れる人が増えた。この風潮について芸歴30年の現役声優・岩田光央氏は「現在活躍している人たちは、声優としての実力を認められた上でステージに立っている。声優の技術を高めなければ、誰の記憶にも残らない人になる」と警鐘を鳴らす――。

※本稿は、岩田光央『声優道』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

■一昔前には考えられなかった「紅白」への声優出場

今、声優を目指している若い女性にとって憧れている存在とは、単純な「声優」というより、「アイドル声優」なのかもしれません。

近年だと水樹奈々さんや、アニメ「ラブライブ!」出演者の声優ユニット「μ's(ミューズ)」の活躍により、声優が歌って踊るアイドル活動をすることが当然として見られるようになりました。「紅白歌合戦」に声優が出場するという状況は、一昔前からはとても考えられませんでした。

そのため、「バリバリのアイドルになれる自信はないけれど、声は悪くないし、あくまで声優として、歌って踊る存在にならなれるかも」と考える人が沢山いると思います。専門学校などでも、そうしたアイドル的なニュアンスを押し出して、生徒集めをしているところが少なからず見られます。

あくまで個人的に言えば、そうした憧れを持つことは大歓迎です。僕自身、声優という立場ながら、両国国技館や横浜アリーナのステージに立って、歌やパフォーマンスを披露してきました。今振り返ってもとても素晴らしい経験だったと感じています。

■歌や踊りのスキルが必要になった背景

そして、それがいいことか悪いことかは置いといて、特に若手声優にとって、歌や踊りはできるにこしたことはないスキルとなりつつあります。というのも、作品の背後にいる企業の戦略が、声優へ大きく作用するようになったからです。

かつてのアニメ業界は、アニメの地上波放送が終了すれば、作品を収めたビデオやDVDを販売するなどして、収入を得ていました。それから、キャストによる歌やオリジナルドラマを収録したレコードやCDも販売されるようになりました。つまりコンテンツをソフト化することで新たな収益を生む、という流れがスタンダードでした。実際、それなりにソフトは売れ、それでさまざまな関連企業が潤う構造になっていたのです。

しかし現在、ソフトが売れなくなりました。

たとえば僕が出演した「ここはグリーン・ウッド」というアニメをベースとしたラジオドラマCDは、1990年代の当時、約3万枚売れています。しかし同様のソフトが、現在なら1万枚売れればかなりのヒット、3000枚で御の字、という時代になりつつあります。これは、作品がどうというより、消費に対しての考え方自体が大きく変化したことが影響しているのではないでしょうか。

■「モノ」ではなく「体験」を売る

ではどうやって利益を上げているかと言えば、単純にモノを売るのではなく、体験を売ることへと大きくシフトしています。つまりは出演者と同じ場を共有することで満足感を得られる、トークイベントやコンサートなどに軸足を置くようになりました。

今やそれなしでは利益も最小化してしまうため、アニメやゲームなどの多くにおいて、コンテンツで完結することなく、最初からイベントやライブ活動を意図した作品づくりが盛んになっています。だからこそ出演者である声優も、必然的に歌唱力、ダンスなどのパフォーマンス、さらにはルックスまで求められるようになったのです。ひいては声優自身が、作詞や作曲まで手がけることを求められるような時代になりました。

そのため僕が講師を務める養成所にも、そうした「アイドル声優」に憧れる生徒が多く見受けられるのは仕方ないことですし、それ自体は否定しません。

ただし、そこで忘れてはならないのが「アイドル」と「アイドル声優」との違いです。その最大の差異は「声優」の位置づけが「アイドル」の上なのか、そうではないか、ということ。その違いを考えてみましょう。

■水樹奈々さんの軸足はあくまでも「声優」

たとえば、先ほど名前を挙げた水樹奈々さん。

彼女は、あるときはアイドルとして、またあるときは普通に歌手として活躍をしています。数万人入るような会場でライブを行っては、沢山のファンを魅了しています。さらに彼女は前提として声優としてのスキルも非常に高く、現在もナレーターなどを務めるレギュラー番組を持っています。つまり彼女の軸足はあくまで声優であり、声優から派生したアイドル活動をしている、ということなのでしょう。

しかし、声優の卵たちを見ていると、華やかな活動のほうが人の目に強く焼きつけられやすいためか、一体何を目指しているのかあまりにぼんやりとした認識のままで、声優を志願している人が増えた印象を受けています。

そもそもアイドル声優として認められるにはどうすればいいのか? それには、まずは声優としてのスキルを磨き、メインの役を勝ちとることが大前提となります。その上で、アイドルとしてのさまざまなスキルが要求される。

アイドル面を重視するなら、それなりのルックスは不可欠でしょう。その上で、歌やダンスも人並み以上にこなし、できるだけSNSのフォロワー数も稼ぎ、多くのファンが後ろに控えていることをアピールしなければなりません。

■声優としての能力がなければ「誰の記憶にも残らない」

しかしそれ以上に考えなければならないのは、先述したとおり、やはり声優として一人前になることです。

そもそも現在アイドル声優として活躍している人たちも、そのきっかけとなるアニメやゲームのタイトルの役を勝ち取り、声優としての実力を認められた上でステージに立っている。そのことを忘れてはなりません。ルックス、歌唱力、ダンス。それらを熱心に磨いたところで、アイドル声優にはなれません。むしろ「アイドル」を志していることになってしまいます。

ここで一度立ち止まって考えてみましょう。本来求められる声優としての能力を磨くことを怠れば、一体どんなことが起こるでしょうか?

もしかすると、持ち前の華やかさや天賦の才で、一瞬の輝きは手に入るかもしれません。しかし声優としてのあなたの「声」は、はかなく消えて、誰の記憶にも残らないはずです。

■ファンの多くは「キャラクター」に愛情がある

このことは、声優を応援してくれるファンの心理を考えてみると分かりやすいかもしれません。

声優のファンの多くは、そもそも作品の「役」「キャラクター」に対しての愛情があり、その声を担当する声優へ愛情を投影している場合がほとんどです。だから、声優がその作品のキャラクターに言霊を込めて演じない限り、誰も魅了することはできず、応援もしてくれないでしょう。

さらに言えば、もしファンを獲得できたとしても、キャラクターがあってのあなたの「声」であり、多くの場合、その人気はあなたという存在だけに向けられたものではないはずです。しかし、昨今の声優人気の高まりの中で注目を浴びる機会も増えているからか、そうした事実を理解するチャンスが少なくなってしまいました。

しかも声優のファンは、多くのコンテンツに触れ、非常に感覚が研ぎ澄まされているので、中途半端な演技や覚悟はすぐに見透かされてしまいます。何とか人気を得たとしても、一度失敗をしてその期待を裏切れば、なかなか同じステージに戻るのが難しい時代になっているのは、芸能人と同様で、よくお分かりのことと思います。

■「一生自分の声で食っていきたい」人がやるべきこと

だからこそ、「一生自分の声で食っていきたい」と考えているのならば、やるべきことは、たった一つ。華やかなステージに立つために向ける努力以上に、声優として認められる道を着実に進むことしかありません。

岩田光央『声優道‐死ぬまで「声」で食う極意』(中央公論新社)

それは「職業・声優」としての技術を高めることであり、覚悟を持つということです。職人としての声優の立場を理解し、その上で何をすべきか、自分の頭で考え、行動するということ。

第一線で活躍している本当の「アイドル」たちは、天分に恵まれた上で、それこそ小学生のときから競争にもまれ、トレーニングを重ねています。そんな彼、彼女たちと学校に通ったくらいで「ライバル」というのは、あまりにおこがましくはないでしょうか。

今活躍し、人気を博しているアイドル声優になりたいのなら、一番の近道は声優としての実力を磨くことしかありません。著書『声優道』に詳しく記しましたが、大前提として、声優として求められる演技ができるようになり、アニメなどのオーディションを勝ち抜けるスキルを身に付けましょう。

自らの力でチャンスを掴み取らない限り、すでに原石だらけの中、あなたは輝かない石のままで終わってしまうはずです。

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岩田光央(いわた・みつお)
声優
1967年、埼玉県生まれ。出演作に「AKIRA(金田役)」「頭文字D(武内樹役)」「トリコ(サニー役)」「ドラゴンボール超(シャンパ役)、「斉木楠雄のΨ難(斉木國春役)」など多数。子役から芸能界入りした、芸歴30年以上のベテラン。2013年、第7回声優アワード「パーソナリティ賞」受賞。ラジオ大阪「岩田光央・鈴村健一スウィートイグニッション」などにレギュラー出演中。ラジオ大阪声優&アナウンススクールなどで講師を務める。通称『兄貴』と呼ばれ、後輩やファンに慕われている。

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(声優 岩田 光央 写真=iStock.com)

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