稼ぐ男ほど、稼ぐ女性と結婚したがるワケ
プレジデントオンライン / 2019年5月14日 6時15分
■稼ぐ力のない奥さんは恥ずかしい
「夫の収入が多ければ妻は働く必要がない」だろうか?
社会の共働き化が進むいま、夫も妻も高収入で世帯収入の高い夫婦が都市部では著しく増加している。
それぞれ年収2000万円を超えるような男性と女性が結婚したなら、家庭内でお互いの仕事人脈や情報の共有などのシナジー効果が生まれ、単純計算以上にお互いの収入が増えて、世帯収入はあっという間に5000万円近くなる。こういったケース、いわゆるパワーカップルは局地的ではあるにせよ決してレアではないということを、都会で働く女たちなら自ら見聞きしてよく知っているだろう。
エグゼクティブなんて言葉を聞いたとき、私たちは男性の姿も女性の姿も等しく思い浮かべる。稼げるエグゼクティブ女性の存在を普段から見ている証拠だ。
30代前半で大手コンサルティングファームの実力あるコンサル同士で結婚したばかりに、「エリート同士の結婚」と周囲に冷やかされる女性がうんざりした調子で言った。「自分で言うのもなんですが、“エリート同士”は私の周りではデフォルトです。というより、優秀な男性がそもそも自分と話の合う優秀な女性を好む傾向があると思う。私の夫も『自分の奥さんが稼ぐ力のない、能力のない奥さんだと恥ずかしい』といつも言っているんです。だって奥さんに稼ぐ力がないと、例えば男性が仕事を辞めて事業を興すとか、自由なタイミングで海外に学位を取りに行くとか、そういうフレキシブルなキャリアが構築できないじゃないですか」。
「もちろん奥さんが事業を興したり学位を取ったりなんていう、逆のパターンもあります。人生長いですから、私たちの世代は」。人生長い、という彼女の言葉には、自分はその長い人生を基本的に働いて生きるのだという確信を感じた。パワーカップルの時代。これは専業主婦という選択を半ば「正解」と考えていたような上の世代の女性とはちょっと、いやかなり違うマインドセットだと映る。
■夫の年収を8倍にした妻
だがいまだに、「旦那さんが稼ぐ人なんだから、奥さんは働く必要ないじゃない」という軽口を褒め言葉だと思って、無邪気に口にする男たちがいる。そして「私が働く意味ってそういうことじゃないのに」と思っても口にできない、もしくは話が長くなって面倒くさいという働く女性がいる。夫が稼いでいれば妻は働かなくてもいいという人たちにとっては、そんな妻の仕事は「道楽」「贅沢」「働かせてもらっている」と映るようだ。
知り合いに「結婚して夫の年収を8倍にした」という逸話を持つ、自身も高所得の共働き女性がいる。彼女が気分良く酔った時に炸裂させるお決まりのネタは、仕事で出会い一目惚れした現在の夫を「私と結婚したら絶対に出世させるから」と口説き、彼の当時300万円の収入の中からかなりの金額を投資していいスーツとバッグと靴と時計を身につけさせ、生活費は妻の稼ぎで賄って、するとトントン拍子で旦那さんが出世し、年収2400万円になったよという笑い話だ。夫は地頭(じあたま)が良く世の中を見通すセンスにも優れ、他人の評価を気にしない。何よりも「この人は成功してどんどん磨かれていい男になっていくだろうなと想像できる、ダイヤの原石みたいなイケメンだったのよ」と、妻はベタ惚れ。「もちろん、渦中にいたときは不安で、何かと近所の神社や夫の会社の氏神である神社へ、せっせと神頼みに行ってたわよ」と付け加え、毎回その場の爆笑を誘う。
この話をすると女性は年代問わずみんな「それ面白い!」と食いつくのに対し、それを聞く中年男性は必ず消極的な感想を口にして、この話をシンプルに楽しめないのが、かえって面白い、と彼女は語る。
■「有能な奥さん」に引く男たち
男たちはどうやらまず「年収8倍、2400万円」、しかも「奥さんが有能な女」というところで引くようなのだ。「どこかで自分と比べるみたいなんですよね」と彼女は言う。気後れやひがみを表出させるようにして、「それって特殊な業界の話でしょ」とか、「初めはヒモみたいな男だったんだね。奥さんが貢いでくれてよかったね」「外見だけでそこまで上っても、あとで実力がバレたら転落するんじゃないの」とか、愚にもつかない感想を口にする。
あのねぇ、本当に外見だけでそこまで上り詰めるわけないでしょう、人心を掴む魅力も実力もあるのを、奥さんは見抜いていたから惚れ込んで投資したんじゃないの、と、口の悪い私などは「あんたたちはそんなんだから……」と言いたくなるわけだが言うまい。(いや、言ったも同然だけど。)
そして、その愚にもつかない感想の1バリエーションとして「奥さん働く必要ないじゃない」が出るというのだ。そう言われ慣れた、当の「自分が働きながら夫の年収を8倍にした」彼女は、「皇室の美智子上皇后だって、雅子皇后だって共働きなんだが?」と失望を隠さない。
■“男の甲斐性”の定義をアップデートせよ
ここで冒頭の問いに戻るのだ。「夫の収入が多ければ妻は働く必要がない」だろうか? そういった「常識」はとうに過去のものとなったいま、そう口にする男性は、わざわざ健気にも、日々の糧を得る責任をその一身に背負い込んでしまっているのではなかろうか。収入がそこそこの、突き抜けられない男たちほど、共働きが当たり前の社会になってもなお、心のどこかに稼ぐのは男の役割という古い価値観を持ち続けてしまう。だからこそ、年収2400万円の男や有能な奥さんに引き、気後れやひがみを表出させる。妙な年収プライドが邪魔をして「有能な奥さんを見つけて共に働き続けていこう」という発想にはならないのだ。
各種メディアで多くの連載を抱える、人気フィナンシャルプランナーの山崎俊輔氏は、著書『共働き夫婦 お金の教科書』(プレジデント社)で「現代は夫婦3組のうち2組が共働きという時代。結婚退職をする人の割合は1980年代後半では37%だったが、2010年代前半には17%弱まで下がり、もはや少数派になっている」と指摘する。
さらに現代の事情に精通したフィナンシャルプランナーとして、「共働夫婦は二人合わせて5億円ほどの生涯賃金を見込め、さらに退職金や年金で1億円以上が上積みされる可能性も。結婚退職しないこと(させないこと)は夫婦が幸せになるカギ」とし、「共働きカップルの結婚(では)、寿退社を許さないのが今の時代の『男の甲斐性』」とまで明言している。
もういい加減、稼ぐことが男の甲斐性という呪縛から、男たちも解放されるべきときがきているのではないだろうか。
(フリーライター/コラムニスト 河崎 環 写真=iStock.com)
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