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日本一の水泳帽を生んだ「下町経営」の心

プレジデントオンライン / 2019年5月27日 9時15分

フットマーク社長 三瓶 芳氏

東京の下町に、突出した商品開発力で次々と新しい市場を開拓する企業、フットマークがある。同社が開発した学校用水泳帽は1969年から全国で販売され、親子3代で使っていたという読者の方も多いはずだ。現在も国内トップシェアを誇る。

もともとは乳児用おむつカバーの製造販売をしていた同社は、水泳用品、介護用品と次々に新商品を市場に送り出す。いまではあたり前に使われる「介護」という言葉も、実は同社の磯部成文会長が発案し、84年に登録商標を取得したものだ。

「なんにもないから知恵が出る」という開発者精神で成長を続ける同社には、どのような秘密があるのか。障害の有無、年齢の高低にかかわらずに使える「共用品」研究所の所長で、日本福祉大学の後藤芳一客員教授が解説する。

■「1人で何役も」の精神で人材育成

▼商品開発

長期にわたり増収増益を続ける企業には、連動した複数の要因が存在します。フットマークの場合は、不便さを便利に変えるという理念の浸透、ニーズを1人で製品化できる人材、そして公的補助金を有効活用した経営手法がそれにあたります。

同社は主流だった赤ちゃん用おむつカバーの技術を、大人用おむつカバーに発展させ、さらに同じ技術を応用して水泳帽を開発。それまでにはなかった「プールで帽子を被る」を社会ルールとして定着させ、いまでは全国津々浦々の子どもたちに使われています。

2013年からフットマークの4代目社長を務める三瓶芳氏が水泳帽をつくっている同社の求人広告を見て、面接試験を受けたのはいまから38年前。当時社員は10名程度。社屋も小さく、面接に訪れながらも不安を覚えたといいます。その不安を吹き飛ばしたのは面接での磯部成文社長(当時)の一言でした。「君は、うちの会社が小さくて心配だろうが、うちは10年はもつ」。保証できるのは10年だけかと驚く一方、確実なことを正直に話す社長の誠実さで入社を決意したと語ります。

入社式の後、磯部社長からの最初の一声は「みなさんは一人一人、寿司職人になってください」というものだった。「寿司職人の仕事は、お客さまに美味しい寿司を喜んで召し上がっていただき、また来ていただくこと。そのためには自分の目で見極めたネタを市場で買い、仕込みをし、お客さまの注文に応えて目の前で握る。召し上がるお客さまの反応を見て、改善点を把握し、次の日に活かす。そして、最後にはお客さまからお金をいただく」と。磯部社長はそれを「弊社は一人一人が、すべての工程を把握し、実施している」と説明したのです。その方針は、現在でも社内の15部門でほとんどが5名前後という体制をとる形で、一部で分業制をとりながらも「一人一人が寿司職人」は継承されています。

■全社員から募った、会社の「100年年表」

同社の製品の特徴は、水泳帽のように機能や使い勝手のよさを追求するとともに、関係する製品にラインナップを広げていくことにあります。水着もその1つで、現在では海外大手メーカーとライセンス提携をしています。一方で、水泳が苦手な子どもたちが近年増えていることを知り、これは由々しき問題だと、泳ぐのが苦手な社員が「着るだけで泳げるようになったらいいのに」との思いから研究・開発されたのが、「クロールで25」という商品でした。

学校用水泳帽から、水泳用のバッグ、水着へとラインナップを拡大した。現在は介護用品に加え、ランドセルに替わる通学用カバンの開発も行っている。

資金面でも同社は、東京中小企業投資育成からの出資を受け、15年には経済産業省中小企業庁の「がんばる中小企業・小規模事業者300社」に選出されました。

三瓶社長は、公的助成を受けた理由に関して、「資金的な支援も助かるのですが、それ以上に公的な資金を受けるにあたって、各種書類の記載、記録、スケジュールの管理も、求められる。その基準を満たす会社としての能力を養うとともに、一企業だけでおこなっていたのでは、連携できない機関に協力を仰ぎ、さらなるアイデアや事業発展につなげることが一番の財産になると思ったからなんです」と話してくれた。

最近の例として紹介してくれたのは、新しいスタイルの通学用カバン「ラクサック」。「教科書の量が増え、いままでの通学用ランドセルでは小さく、しかも重いという声が、出てきました。そこで軽い素材を用い、中でモノが動かない間仕切りを入れ、雨が降ったらすぐにカバーできるビニールをつけるなど、私たちのアイデアには少し先のニーズがつまっているのです」と教えてくれた。

同社のホームページには、社員全員から応募を募った「100年 年表」が載っています。20年の東京オリンピック・パラリンピックの年には、「小学生全員が泳げるようになる」、創業80周年を迎える26年には、サグラダファミリアの完成に合わせて「スペインへ社員旅行」とともに、「水泳帽の販売累計数量が一億枚をこえる」、そして46年には「売上高が100億円になる」とあります。この年表1つからも、社会をよりよくしていきたいという気持ちとともに、ニーズを先取りした会社の事業で計画を成し遂げていこうという意欲が強く伝わってきます。

▼商品開発成功のポイント:分業制をとりながらも、一人一人が全工程を把握する

会社概要【フットマーク】
●本社所在地:東京都墨田区緑
●資本金:8500万円
●売上高:49億5千万円(2017年8月期)
●従業員数:58名
●沿革:1946年に乳児用おむつカバー製造業として創業。69年に学校用水泳帽の全国展開を開始。72年には日本水泳連盟の推薦を受けた。80年には老人介護用品の開発を開始。2010年にはイタリアの競泳水着ブランド「Jaked」と日本市場での独占輸入販売契約、ナイキとも水着のライセンス契約を結んでいる。

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後藤芳一
日本福祉大学客員教授
1955年、大阪府生まれ。80年に東京工業大学大学院を修了し、通商産業省(現・経済産業省)に入省。医療・福祉機器産業室長、中小企業庁技術課長、大臣官房審議官(製造産業局担当)、東京大学大学院教授を経て現職。著書に『共用品という思想』(岩波書店、共著)など。

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(日本福祉大学客員教授 後藤 芳一 構成=星川安之 撮影=的野弘路)

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