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なぜ韓国の大統領は北朝鮮を配慮するのか

プレジデントオンライン / 2019年5月16日 9時15分

2019年5月9日、朝鮮人民軍前線・西部戦線防御部隊の火力攻撃訓練を指導する金正恩朝鮮労働党委員長(写真=朝鮮通信/時事通信フォト)

■米朝首脳会談が物別れに終わった腹いせなのか

この状態が続くと、国際社会は無法者のレッテルを貼るだろう。北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長のことである。米朝首脳会談が物別れに終わった腹いせなのか。立て続けに飛翔体を発射してわが意を通そうとする。

しかも飛翔体の一部は、弾道ミサイルだった。国連安全保障理事会の制裁決議に違反する行為である。国際社会を敵に回すと、北朝鮮の念願の経済再建など望めなくなる。その辺りを金正恩氏はどう考えているのか。

北朝鮮が5月9日午後、4日に続いて再び飛翔体を発射した。発射されたのは短距離ミサイル2発で、最大で420キロ飛行して日本海に落下した。高度は50キロ余りに達した。発射場所は北朝鮮北西部の平安北道(ピョンアンブクド)の亀城(クソン)だった。

■金正恩氏の真の狙いはどこにあるのか

北朝鮮は8日夜、4日の1回目の飛翔体発射について、国営メディアを通じて「自衛目的の訓練だ。地域の情勢を激化させるものではない」と正当化した。金正恩氏の狙いはどこにあるのだろうか。

2回目の飛翔体が発射された9日夜、NHKのニュース番組が北朝鮮の元駐英公使で3年前に韓国に亡命した太永浩(テ・ヨンホ)氏とのこんなインタビューを伝えた。

インタビューの中で太氏は「北朝鮮はアメリカが変わるまで黙って待つというシステムではない。協議を維持しながらも、アメリカに強力なメッセージを送ることが重要なのだ」と語った。

「アメリカが変わる」とは、北朝鮮に対する制裁緩和を指す。今年2月末にベトナム・ハノイで行われた2回目の米朝首脳会談で、金正恩氏は段階的な非核化を主張して制裁緩和を求めた。ところがアメリカのトランプ大統領は「完全な非核化」を強く要求し、その結果、2人の会談は物別れに終わった。

■アメリカ本土の核攻撃だけは回避したいトランプ氏

太氏は「トランプ大統領に核実験や大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験はしないと約束したが、短距離と中距離のミサイルについては約束しなかった。アメリカの姿勢が年末までに変わらない場合、中距離ミサイルも発射する可能性がある」とも話した。

大陸間弾道ミサイルとは、アメリカまで届く長距離ミサイルのことだ。トランプ氏はこれによってアメリカ本土が核攻撃を受けるような事態だけは、回避したいと考えている。

■「文政権が北朝鮮を配慮した」との批判の声

金正恩氏はそこをよく分かっていて今回、立て続けに短距離ミサイルを発射して脅しをかけたのだ。つまりトランプ氏の足元を見ているのだ。それゆえ太氏の指摘するように「この次は中距離ミサイルを発射して脅してくる」ことになる。

金正恩氏に対し、沙鴎一歩はこれまで「実にしたたかだ」と形容してきたが、もはやその域を超え、国際社会に背く「無法者」になりつつある。

そんな金正恩氏にまるで腫れものに触るかのような扱いをする韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権は、問題である。

たとえば、北朝鮮が5月4日に東部の元山(ウォンサン)から日本海に向けて約20発の飛翔体を飛ばした1回目の発射の際、文政権は国連安保理の制裁決議に違反する弾道ミサイルが含まれているか否かについてのコメントを避けていた。

この対応に韓国内では発射が制裁決議に違反したことにならないように、「文政権が北朝鮮を配慮した」との批判の声が多く上がった。

■韓国、アメリカ、日本の各国は毅然とすべき

仮に批判の通りだとしたら、愚の骨頂である。韓国の文政権は毅然とした態度で北朝鮮に臨むべきだ。

アメリカのトランプ氏にしても、4日の発射の飛翔体について短距離弾道ミサイルと断定した後に不快感を示しながら、その一方で金正恩氏への信頼感も表明している。トランプ氏も韓国の文氏と同じく、腫れものに触るようなところがある。

日本にしても安倍晋三首相が「金正恩氏との無条件会談」の実現を目指していることからだろう。アメリカと足並みをそろえ、「日本の安全保障に直接の影響はなかった」(岩屋毅防衛相)とかわし、ストレートな批判を避けた。

韓国、アメリカ、日本の各国は毅然とした態度を取るべきだ。腫れもの扱いすればするほど、金正恩氏に足元をのぞかれ、北朝鮮はエスカレートする。腫れもの扱いするのではなく、腫れものの金正恩氏を切開してとことん膿を出すことが必要なのである。

■米側が設けた高いハードルを下げさせる狙い

「この1年あまり、北朝鮮が見せてきた変化への期待が、一気にしぼみかねない。使い古された軍事的挑発を繰り返すなら、再び孤立に戻るだけだ」

こう書き出すのは、5月11日付の朝日新聞の社説である。

朝日社説は「弾道ミサイル発射はこの1年半なかった。今回の動きには、2月の米朝首脳会談で制裁の緩和が認められなかったことへの不満が絡んでいるようだ」と指摘した後、金正恩氏の狙いについてこう解説する。

「米国を直接刺激しない規模にとどめつつ、軍事的な示威行動をとる。それにより、核放棄と制裁の完全解除の一括合意という、米側が設けた高いハードルを下げさせる狙いだろう」

北朝鮮の経済再建については「周辺国との対話が進んだとはいえ、身勝手な考えは相変わらずらしい。交渉の歯車を回すために挑発に走るようでは、制裁緩和の道はますます遠のき、念願の経済再建は実現しない」と言い切る。

金正恩氏はこの朝日社説の忠告にしっかり耳を傾けるべきだ。

金正恩氏の最終目標は、北朝鮮が国家として栄えて国民一人ひとりの暮らしが豊かになることだ、と沙鴎一歩は考えている。金正恩氏が大きく間違っているのは、その豊かさを核兵器という最悪の武力を使って実現しようとしているところにある。

■朝日社説すら批判する文政権の異常さ

金正恩氏は、幼少の頃からスイスに留学して国家を治めるための最高レベルの教育を受けてきたはずだ。その教育の成果を国際社会に示してほしい。いまのままでは鼎の軽重を問われかねない。国のトップとしての自らの器の大きさを国際社会にアピールすべきときである。

朝日社説は米朝会談に言及し、「前例のない米朝首脳間の蜜月は、北朝鮮が孤立を抜け出す千載一遇の機会をもたらした。しかし、北朝鮮は自ら冷や水をかける愚を犯そうとしている」と指摘した。

さらに日米韓政府の対応を「首をかしげる点がある。4日の発射以来、ことさら事態を重くとらえないような言動が目立った」と批判する。

特に韓国に対しては「韓国では早くから、南北首脳による昨年の軍事分野合意に反するとの指摘があった。それでも文在寅(ムンジェイン)政権は、合意の『趣旨にそぐわない』との表現で、あいまいな評価にとどめている」と朝日社説は追及する。

これまで朝日社説は隣国の韓国に対し、優しい姿勢をとってきたはず。その朝日社説が批判するのだから、文政権の異常さは際立つ。

■国連安保理は「弾道技術を使ったあらゆる発射」を禁じている

次に5月11日付の産経新聞の社説(主張)を取り上げる。見出しは「北のミサイル 軍事挑発に決然と対処を」、書き出しは「日米両政府は、北朝鮮が9日に発射した飛翔体は短距離弾道ミサイルだったと断定した」だ。

続いて産経社説は「国連安全保障理事会決議は北朝鮮に対し、射程の長短にかかわらず『弾道技術を使ったあらゆる発射』を禁じており、重大な決議違反である」と指摘し、こう主張する。

「速やかに安保理を招集する必要がある。国際社会として非難の意思を明確に示し、制裁強化を検討すべきだ」

「安保理の招集」「制裁強化」と実に分かりやすい。産経社説らしさが出ている。もちろん毅然とした態度は重要である。だが、無法者の域に入った金正恩氏を、「目に目を、歯には歯を」で押さえ込むことができるだろうか。

■「瀬戸際外交」のペースに巻き込まれてはいけない

やられたらさらにやり返す。攻撃してきたらさらに攻撃する。挑発に怒り、挑発に乗る。そんな対応では、取り返しの付かない事態となる。負の連鎖が断ち切れず、人類は失敗を何度も繰り返してきた。

北朝鮮が核を搭載した弾道ミサイルを発射するような事態は何としても避けたい。

産経社説はこうも指摘する。

「北朝鮮は4日にも複数の飛翔体を発射した。米朝交渉再開をにらみ軍事挑発をエスカレートさせる可能性がある。留意すべきは、緊張を一方的に高め、譲歩を引き出す『瀬戸際外交』が、北朝鮮の常套手段であり、そのペースに巻き込まれると非核化での過去の失敗を繰り返すということだ」

「北朝鮮のペースに巻き込まれるな」との産経社説の主張には賛成だ。金正恩氏は、今後も挑発のミサイルを打ち上げて日米韓を巻き込んで、有利な条件で制裁緩和を求めようと狙っている。中国の習近平(シー・チンピン)国家主席やロシアのプーチン大統領を手玉に取って後ろ盾に変えてしまった“つわもの”である。決してそのペースに圧倒されてはならない。

■「拉致問題の解決が最重要かつ喫緊の課題」

産経社説はこうも訴える。

「安倍晋三首相は、日本人拉致問題解決のため、金委員長と『条件をつけず』に会談したい意向を示している。日本にとっては、拉致問題の解決が最重要かつ喫緊の課題である。だが、たとえ人道支援であっても、結果的に北朝鮮の核・弾道ミサイル開発に手を貸すような要求はのめない」

金正恩氏との首脳会談を求める安倍首相に対し、釘を刺す。同じ保守の読売社説と違い、安倍首相であっても批判すべきところはきちんと書く。そこが産経社説のいいところだ。

最後に産経社説は主張する。

「拉致問題の解決のためにも、制裁を緩めるわけにはいかない。北朝鮮の未来はその先にあるのだと繰り返し強調すべきだ」

この主張にも、沙鴎一歩は賛成する。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩 写真=朝鮮通信/時事通信フォト)

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