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なぜ「テレビはつまらない」と言われるか

プレジデントオンライン / 2019年5月24日 9時15分

テレビプロデューサーの小松純也氏(撮影=小野さやか)

なぜ「テレビはつまらなくなった」と言われるのか。『チコちゃんに叱られる!』(NHK)などを手がけるテレビプロデューサーの小松純也氏は「一次情報にこだわる番組が減っている。テレビマンなら、自分たちがはじめて見つけた面白いものを紹介しなくちゃいけない」と指摘する――。

■「検索で引っかからない」番組を作った

『チコちゃんに叱られる!』(NHK)などを手がけるテレビプロデューサーの小松純也氏が、「検索では引っかからない情報」をテーマにした番組を作った。チーフプロデューサーを務める番組『ダーレモシラナイ ~爆笑!日本の新知識~』だ。5月25日14:00~15:24に、MBS/TBS系列で放送される。

小松氏はフジテレビで『ダウンタウンのごっつええ感じ』や『SMAP×SMAP』、『笑う犬』シリーズなどに携わってきたテレビマンだ。共同テレビに出向後は、TBSで『人生最高レストラン』、Amazon プライム・ビデオで『ドキュメンタル』シリーズなどを手がけ、この4月に独立した。検索すれば何でも出てくる時代に「検索では引っかからない情報」を探す番組を作ったのはなぜか。小松氏に聞いた。

■テレビマンの使命は「自分たちで見つけたもの」を紹介すること

――なぜ「検索では引っかからない情報」をテーマにした番組を作ったのですか。

最近のテレビでは、一次情報で番組を作ることがなくなっています。ネットで調べたり、本を読んだりして番組を作っている。それがテレビを「面白くないもの」にしているのではないかと思っていました。

昔話をすれば、『オレたちひょうきん族』の人たちは新宿でよくわからないお店に行って、変な人を見つけてきていたし、『オールナイトフジ』の人たちは当時のストリートで起きていることをそのまま番組に持ってきていた。自分たちが見つけた面白いものを世の中に紹介するのがテレビマンの使命だと思っているので、何とか一次情報でテレビ番組を作れないかと思ったんです。

もうひとつの理由は、「テレビってすごい」と思ってもらうためです。インターネットとテレビはいろいろな意味で比べられますが、「こういうものはありませんか?」と呼びかけて情報を集める時、現状ではテレビのほうが圧倒的に有利なんです。「テレビがマスである」ということを、テレビの力として我々はもう一度認識すべきだし、視聴者のみなさんにも感じてほしいと思いました。

■ストーリーを伝えるノウハウはテレビにある

――番組では、「自分しか知らないだろう情報」を全国から募集し、取材スタッフが投稿者と一緒にその情報が本当なのかを検証しています。見ていると、情報が本当かどうかよりも、検証する過程と投稿者の情熱に引き込まれました。

実際に取材に行くと、人の思いや営み、それから状況のバカバカしさが映るんです。それは取材に行って掘り起こしていくものだと思います。たとえば、インターネットで本を買っても本は読めますが、本屋さんに行ったほうが楽しいですよね。ネットのほうが効率はいいのですが、足を運んで、直接見ることで、人が感じることがあるのです。

この番組には「ある動物」が出てくるVTRがあります。その動物の映像だけをネットで観ても「へー」となって終わりです。でも、その情報を番組に投稿した方の周りの人間関係と、その映像を撮るまでの状況はストーリーです。そのストーリーを伝えることは、テレビのほうが長けているのではないかと思います。テレビ番組の作り方は「リニア」なんです。物事に対して時間が平行に流れていく。僕らはそうやって番組を作る訓練を何十年も受けてきているので、伝えるノウハウはテレビのほうが圧倒的にあります。

「情報番組ですら、二次情報、三次情報で作っている」と危機感を表す(撮影=小野さやか)

■人間は「不確実性」があるものに惹かれる

取材に行くと、いろいろな不確定要素があるんです。これはもう偶然の出会いなんですよね。人間ってそういう不確実性があるもののほうが、最終的には惹かれると思うんですよ。もし競馬の結果が分かっていたら、誰も競馬をやらないですよね。僕は魚釣りが好きなんですけど、絶対釣れるとわかっていたら魚釣りは面白くないんです。

――なぜ不確実性に惹かれるのでしょうか。

たぶん幸せを感じるためには、不確定なうえで、ものを得られる幸せや、偶然、ラッキーへの喜びが大事なのだと思います。人間が作った秩序の中でそれが全部コントロールされているのはストレスだと思うんですよね。生き物として開放されている感じがあるのが、テレビの楽しさだと僕は思いますね。

一方で、僕は「配信の手先」にもなっていて、新しいインターネットプラットフォームを構築する仕事もしています。ネットの側になってみると、どうやってその不確実なニュアンスをネットの中に取り込めるのかを考えるようになりました。

■配信のリコメンドページは「死んでいる」

動画配信サービスのリコメンドページを見ると、僕は「時間が止まって死んでいるな」と思うんです。ただの倉庫じゃないですか。いかにリコメンド機能があろうと、できあがったものを順番に置いているだけなんです。

テレビは違いますよね。テレビは世の中とつながる窓口になっています。テレビをつけて、ニュースを見たら今なにが起きているかが分かるし、情報番組やバラエティ番組なら、今の世の中をライブ感をもって感じられる。ドラマにしても、そのドラマは今まさに封切られているわけで、世の中との共時性があります。でも、配信サービスを観たところで、今動いている世の中とつながっている感じはしないですよね。

ネット側に身をおいて真剣に考えると、今ネットに欠けているのは共時性やライブ感、偶然の出会い、発見する喜びなんです。それを持っているのは、結局テレビなんですよね。だからネット系の映像メディアはテレビになっていくのではないか、というのが最近の僕の意見なんです。

「僕らは自分の目で見て、すごいとか面白いと感じる場面が少なくなっていると思う」と小松氏(撮影=小野さやか)

■テレビそのものが「昭和のヒットコンテンツ」

――一方で、みんなで一緒にテレビを見るという、いわゆる「お茶の間」がなくなりつつあると言われています。

「テレビって何だったのか」ということですね。特に草創期になぜテレビがこんなに流行って、必需品になったのかと考えると、一つのものを大勢で共有して見ることができたからなのだと思います。昭和のヒットコンテンツは、テレビそのものなのです。上皇陛下のご成婚パレード、読売ジャイアンツ、力道山など、それまでは、バラバラの場所で生で見るしかできなかったものを、テレビによって共有体験できるようになりました。

結局、映像エンターテインメントの楽しみ方は、見たものを人が共有できることに尽きるのではないかと思います。今は、みんながバラバラな映像を、個別に選んで見る方向に進んでいて細分化しています。それは、テクノロジーが進んで、できることが増えている渦中だからです。

だけど、結局マスに集約されていくと思うんです。これだけ細分化すると、見るものを探すのが面倒くさくなって、「手軽に高品質なものを見たい」という方向に収斂していくのではないでしょうか。ネット側の立場になって考えるとそう思います。

ネット系の映像メディアがマスを目指していくと、今度は数が絞られます。5つに絞られたら、それはもう地上波と同じですよね。今も、BSやCSを入れれば無数のチャンネルがあるけれど、何となく地上波が一番身近に感じられて、圧倒的にシェアがある。同じことだと思います。

■世代に対する包容力を失った地上波

――今後、地上波のテレビ局はどうなるのでしょうか。

僕も編成にいたから分かるのですが、地上波の放送では、人口ボリュームの大きい年齢層の高い人向けの番組を増やしたために、若い人がテレビを見ない理由を作ってしまいました。マスを取るために少数派を排除していった結果、ジリ貧になっている。世代に対する包容力を失っていることを考え直したほうがいい気がします。その上で、世代をまたぐコンテンツを真剣に考えるべきです。

今回の『ダーレモシラナイ』で言えば、インターネットがこれだけ大きな存在になった中で、誰も知らなかった情報をテレビが発信していくのは、どの世代の誰にとっても基本的には新鮮なことです。発信される情報は「見たことのないこと」「知らなかったこと」ですから、マーケティング的な意味でこれほど全世代に響くものはありません。そういう地点をめざして、この番組を作りました。

■視聴者の「体験」をデザインしたい

――今、視聴者はどんな番組を求めているのでしょうか。

全世代に一番響くマーケティングは、「見たことのないものを見せること」なんですよね。それを提案していきたいです。そのためには、「何を映すか」よりも、新しい視聴体験を提案するところまで考えないとダメだと思うのです。

それは、視聴体験の仕方をうまくデザインするということです。たとえば『チコちゃんに叱られる!』は、“ハッとする”番組です。「さよならの時に手を振るのはなんで?」と言われて、見ている側も含めて“ハッとする”体験をして、「わかっていなかったな」と感じる。それに対して、テレビの中の生意気な子供が「ボーっと生きてんじゃねーよ!」と言う。そういう一つの体験をする番組ですよね。

視聴体験をデザインすることに成功している番組は強いんです。たとえば、日本テレビの五味一男さんは、テレビを変えたと思っています。『マジカル頭脳パワー!!』という番組では、テレビをゲーム機に変えたし、『速報!歌の大辞テン』では、歌番組をお茶の間の団欒ツールに変えました。これも新しい視聴体験です。

『ダーレモシラナイ』には、投稿された情報が本当にネット上に出ていないかを調べる「検索マスター」が出てきます。本当にすごい方々です。インターネットではあっという間にいろいろな情報が手に入ることがわかります。それと同じくらいに、テレビにも素敵なところがあると感じていただきたいというのが、この番組の一番のポイントです。

ネットに情報は出ているけれど、ただネットの情報を読むよりも、取材チームが現場に行ってきた映像を見るほうが面白い。それを検索結果と並べてお見せしたいと思っています。

「ダーレモシラナイ」MCの南原清隆さん(中央)、バカリズムさん(右)、進行の辻沙穂里MBSアナウンサー(左)(画像提供=毎日放送)
『ダーレモシラナイ ~爆笑!日本の新知識~』5月25日(土)午後2時~3時24分放送
何でも「インターネット検索」ができてしまうこの時代に、あえて「ネット検索で出てこない"私だけが知っている"オモシロ情報とは?」という問いで全国の方々にネタを大募集。投稿された情報を番組スタッフが徹底取材し、スタジオでは「検索の達人」たちが持ちうるスゴ技を駆使してネット検索。もしもその情報が検索でヒットしなければ「ダーレモシラナイ日本の新知識」に認定する。「テレビの取材力」と「インターネット検索」にスポットを当てた新感覚のバラエティ番組。

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小松 純也(こまつ・じゅんや)
テレビプロデューサー兵庫県西宮市出身。京都大学在学中に劇団そとばこまちに参加。放送作家として活動。1990年フジテレビ入社。以後バラエティ番組を多数企画演出。2019年株式会社スチールヘッド代表取締役。地上波、配信双方に軸足を置きながら番組を制作。新配信プラットフォーム「Laugh & Peace_Mother powerd by NTT Group」ではコンテンツ制作を統括。

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(テレビプロデューサー 小松 純也 構成=プレジデントオンライン編集部 撮影=小野さやか 画像提供=毎日放送)

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