ビートたけしから教わったユーモアの本質

プレジデントオンライン / 2019年5月22日 15時15分

「渋滞学」を研究する東京大学先端科学技術研究センター教授の西成活裕氏(撮影=原貴彦)

外国人から見ると、日本人のプレゼンはユーモアがなく、退屈だという。グローバル化の中で、会話の中にジョーク一つはさめなければ、良質なコミュニケーションは取れない。「渋滞学」の研究者である西成活裕氏は「ビートたけしさんは、真面目な対談取材の場で終始笑わせてくれた。英語力を高めるためのユーモアの本質を学んだ気がする」という――。

■「常に逆を行う」と物事はうまくすすむ

【三宅義和氏(イーオン社長)】西成さんと私が毎週一緒に稽古する心身統一合氣道は、非常に奥が深くて、気が滞っていると投げることができません。渋滞学と近いということをご存知で入られたのですか。

【西成活裕氏(数理物理学者)】私は工場の改善もかなり手がけていまして、その分野の私の師匠はトヨタ生産方式の有名な伝道者の一人なのです。その方が「現場は気だ。気の流れがわからないやつは改善できない」みたいな話をよくされていたので「気」に対する興味はもともとあり、それで参加しました。すると私が追い求めていた渋滞学と全く一緒で驚きました。常に逆を行わないといけない。

【三宅】投げようと思うほど投げられないですからね。

【西成】はい。渋滞学でも早く目的地につきたいといって追い越し車線を走行したり、スキー場のリフトに早く乗りたいからといって近いほうに乗ろうとすると結局、混んで遅くなったりする。無意識の中に逆をやる難しさがあらゆることの本質としてあって、達人になるとそれができるんです。

工場の改善もそうで、30秒に1個のペースでつくればいいところを「20秒で作れるようになった!」といって早くつくっても、在庫が増えてキャッシュフローを悪くしてしまいます。よかれと思って行っていることの多くは逆効果なのです。

■歯医者さんしかできない仕事は8%しかない

【三宅】働き方改革が盛んにいわれていますが、経営者としては仕事量を減らすわけにはいかない。このあたり西成さんのお考えはいかがですか?

【西成】目的と手段を取り違えないようにしないといけません。働き方改革を目的にしてはダメで、何の目的なのかを考えてそこからブレークダウンしていくと、三宅さんのおっしゃる通り、仕事量を減らしてしまうと目的が達成できないかもしれません。ようは企業としての目的も達成したい。だけど従業員の大変さも減らしたいわけですよね。では大変さとは何かというと仕事の「密度」なんです。密度こそが人が感じる「負荷」。仕事の量を減らすのではなく密度を減らすことを考え出すとまったく異なるソリューションが出てきます。

【三宅】期間を長くするということですか。

【西成】期間を長くしてもいいのですが、もっとよいのは組織のなかでの負荷分散です。いろんな企業を見ていると、忙しい人はだいたい決まっています。工場でも特定のスキルを持っている人のところに負荷が集中して周囲は意外と暇だったりします。それは仕事が属人化してしまうからなのですが、属人化こそ改善の敵です。

口腔外科の研究をしている友人から聞いた話で、歯医者さんの業務全体で手術や診察など医師にしかできない仕事が占める割合は8%しかないそうです。つまり92%は誰でもできる。だから歯科者さんは比較的、負荷分散が進んでいて、昨日入ったばかりのアルバイトがチャカチャカ仕事をして、「先生どうぞ」みたいにしていますよね。

【三宅】いかに仕事を切り分けるか、ですね。

【西成】はい。普通の感覚だと「医師の仕事なんて手伝えない」と思いますが、そういう先入観をまず取り払ってみるとアイデアが湧いてくると思います。たとえば経理の社員でも機械の操作ができるようにしておくとか。社内にミニ・マニュアルをたくさん作って誰でもその業務をこなせるようにしておくとか。いわゆる多能化です。みんなが、いろんなことをちょっとずつできるようにしておくと仕事の量を減らすことなく現場の負担を下げることができます。

【三宅】非常に参考になります。

■BBCの5分番組を毎日タブレットで聴く

イーオン社長の三宅義和氏(撮影=原貴彦)

【三宅】英語に話を戻しますが、今でも西成さんが意識して学んでいらっしゃることはありますか?

【西成】意識していることでいうと、BBCの5分番組を毎日タブレットで聞いています。あとは仕事で普通に英語を使いますから。メールの2割は海外からですし、論文も全部英語。研究室には外国人が常時、誰かしらいるので楽しく英語を使っています。

【三宅】では大学生に論文を書かせるときも英語ですか?

【西成】もちろんです。今、科学の世界はグローバルに戦わないといけないので日本語の論文は全く意味がないんです。だから論文だけではなくゼミ自体も日本語禁止です。全部英語です。

【三宅】話すことも同じですか。

【西成】普段はよいのですが、週に1回あるゼミのときはみんな英語です。もちろん英語に慣れてもらう意図もありますけど、日本語が不自由な留学生もいるので。これ、全員が日本人だと途中で日本語が混じったりして盛り上がらないのですけど、1人でも外国人がいると本当によいですよ。必死に伝えようと皆頑張るので。

【三宅】それができるのはやはり学生さんが優秀だからというのもありますか?

【西成】いやいや、英語が苦手な学生もいます。でも、やるしかないので必死にもがいてもらっています。

■難しい日本語ばかりを使う人は英語も下手

【三宅】いろいろな学生さんを見てこられて、最近の学生さんの英語力についてなにか感じることはありますか?

【西成】そもそも日本語のコミュニケーション力が落ちているような気がします。とくにそれを感じるのが言葉の置き換えです。日本語で難しい言葉ばかりを使って、わかりやすく言い換えない学生は絶対に英語も下手です。

【三宅】西成さんが最近書かれてベストセラーになっている『東大の先生! 文系の私に超わかりやすく数学を教えてください!』も、たとえが豊富で本当にわかりやすいです。

【西成】ありがとうございます。肝心なことは情報が相手に伝わることですからね。たとえば英語で「拒絶する」と伝えたいときに「refuse」という単語が出てこなかったら別に「say no!」でもいいわけです。「肯定する」なら「say yes!」でも通じます。難しい概念を喋らないといけないときでも、うまいアナロジーを思いついて相手に理解させられる能力は日本語でも英語でも共通だと思います。

【三宅】たしかにそうですね。

■英語のジョークは10分に1回言うといい

【西成】あとコミュニケーションの話でいうと、会話のなかにユーモアを入れられる学生が減っている気がしますね。

【三宅】その点、西成さんはプロ並みでいらっしゃる。

【西成】いやいや。でもジョークは常に意識しています。目安としては10分に1回。そういえば以前、国際会議で日本人の発表を聴いている外国人同士が「英語が下手なのはしょうがないけど、どうしてあんなにつまらなそうに話すんだろうね」って陰口を言っているのを耳にしたことがあります。そのあと私の番だったので会場を大爆笑の嵐にしましたけど。

【三宅】ジョークはコミュニケーションの潤滑油ですからね。

【西成】特に外国人はコミュニケーションを大事にしますからね。それに自分も相手も楽しくなったほうがいいじゃないですか。

以前、ビートたけしさんと渋滞の話をテーマに対談させていただいたときも、真面目な取材なのに終始笑わせてくれるんです。たとえば海外にはハイ・オキュパンシー・レーンといって、3人以上乗った車だけが走行できるレーンがあるという話をしたら、たけしさんが「先生、知ってる? それって道路の脇に『助手席君』っていう人形が売ってて、みんなそれ乗せてるんだよ」って。もう、腹抱えて笑いましたよ。真面目な対談のときにこういうこと言えるのはやっぱりすごいなと思いましたね。

【三宅】日本語でもユーモアが会話を盛り上げますよね。

【西成】そういう真面目な、一本だけの道で喋ろうとする学生が増えている感じはします。だから私が学生によく言うのは「勇気」と「ユーモア」。特に東大生は間違うと罰を受けると思い込んでいる学生が多いので、英語にしてもジョークにしても、細かいことを気にしないでとりあえず喋ってみなさいと。そうしないとコミュニケーション力は身につかないですからね。

■ヨーロッパの人と仲良くなれるオペラ

イーオン社長の三宅義和氏(左)と渋滞学の西成活裕氏(右)/撮影=原貴彦

【三宅】そういえば西成さんはオペラもプロ級でいらっしゃいますが、そういう特技がおありだと海外受けしそうですね。

【西成】学会ではよく最終日の夜のディナーバンケットで、ピアノがうまい先生が演奏したりするちょっとした余興を行います。私はいつも歌う役なので、学会の仲間うちでは完全にテノール歌手で通っています(笑)。

【三宅】それでまたコミュニケーションが広がりますからね。

【西成】はい。オペラの何がいいかというと、イタリア語やフランス語、スペイン語などいろいろな言語で歌うので、それを母国語にしている人からすると「なんだあの日本人は!」となるのですぐに仲良くなれるんです。歌詞の意味はちゃんと理解していませんが、結果的にいいコミュニケーションツールになっています。

■科学的に証明された「利他の心」の優位性

【三宅】最後に、ぜひ西成研究室の「3つの戒め」のお話をお聞きしたいのです。

三宅 義和『対談(3)!英語は世界を広げる』(プレジデント社)

【西成】渋滞研究をやって結果たどり着いた結論は、「長期的な視野」「全体最適」そして「利他」。これが私のモットーで、どんなことにも通じる話だと思います。だから「今さえよければいい」「ここさえよければいい」「自分さえよければいい」という言葉を私の前で言うと破門です。それぞれ「短期的な視野」「部分最適」「利己」ですから。

【三宅】利他の心のほうが回り回って全体がよくなるということを、精神論ではなくて数学的に証明されたところが画期的ですよね。

【西成】そうですね。それを発表した途端に増上寺から講演依頼がありまして、全国から僧侶が集まる大会で同じような頭をした私が利他の話を数学的に解説させてもらいました。すると僧侶から「我々も2000年前から利他の研究しています」と言われて意気投合しまして。しかも最後が面白くて「先生へのお礼です」といって100人くらいの僧侶がテノールとバスに分かれてお経を唱えるんです。すごい迫力でしたよ。

【三宅】今日は本当に楽しく、かつ素晴らしいお話をありがとうございました。

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西成 活裕(にしなり・かつひろ)
東京大学 先端科学技術研究センター教授
東京大学工学部卒業後、同大大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻博士課程修了。専門は数理物理学、渋滞学。主な著書に『渋滞学』『誤解学』『無駄学』などがある。
三宅 義和(みやけ・よしかず)
イーオン代表取締役社長
1951年、岡山県生まれ。大阪大学法学部卒業。85年イーオン入社。人事、社員研修、企業研修などに携わる。その後、教育企画部長、総務部長、イーオン・イースト・ジャパン社長を経て、2014年イーオン社長就任。一般社団法人全国外国語教育振興協会元理事、NPO法人小学校英語指導者認定協議会理事。趣味は、読書、英語音読、ピアノ、合氣道。

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(東京大学 先端科学技術研究センター教授 西成 活裕、イーオン代表取締役社長 三宅 義和 構成=郷和貴 撮影=原貴彦)

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