「消える仕事」トラック運転手がもつ矜持

プレジデントオンライン / 2019年5月26日 11時15分

鳥波運送の大型トラック(写真=鳥波社長提供)

1年間に流通する宅配便の数は年間80億個。そのすべては人の手で運ばれている。茨城県で運送会社を経営している鳥波(とば)孝之さんは「日持ちのしない乳製品を運んでいるので年中無休になってしまう。楽な仕事ではないが、社会の発展のために尽くしたい」と話す――。

■日本の配送業者は6万社超、ほとんどが中小企業

「メディアで報道される『配送』は、宅配便の例がほとんどですね。宅配便は誰にとっても身近で、分かりやすいと思うので否定はしません。ただ、全国津々浦々の戸口に配達する宅配便は、あくまで小口配送の一業態で、大手中心の事業です」

今回の取材は、運送業界の関係者からこんな話を聞いたのがきっかけだった。

筆者自身を振り返れば、これまで「宅急便」(ヤマト運輸)を複数回取り上げ、「共同配送」「センター納品」などもテーマに記事を書いたが、取材先は大企業やその関連企業だった。それなら業界(約6万2000社)の大半を占める中小企業の実態を聞こうと思い、「中小の集まりであるトラック協会」の関係者に取材したのが本稿だ。

この業界は、どこに焦点を当てるかで記事の中身が大きく変わる。特に「物流」「運送」「配送」では異なり、専門用語も多い。業界関係者はともかく一般読者には分かりにくい。今回は日本の配送の一翼を担う「中小トラック運送の事例」として読んでいただきたい。

ネットでの通販や発注が一般的となったのもあり、小口の配送荷物は増加傾向にある。個人や会社がワンクリックで注文・発注できる時代であっても、商品は空を飛んで来るわけではないからだ。

そもそも国内で「小口荷物」(30キロ以下)は、1年でどれぐらい配送されているのか。業界を管轄する国土交通省に聞いたところ、完全な該当データが無かった。

それに近いものが、2016年度の「国土交通省調査」だ。「宅配便等」(30キロ以下)が約80億個。内訳は「宅配便」(約40億1900万個)と「トラック」(約39億7800万個)がほぼ同数。さらに「航空等利用運送」(約4100万個)があり、軽量の「メール便」は約52億9000万個だった。

「トラック」とはトラック便という意味だ。国民1人当たりで年間に約70個弱(宅配便+トラック)を利用している計算となる。

■茨城から九州まで3日間走りっぱなし

今回、個別取材に応じてくれたのは、茨城県古河(こが)市にある茨城流通サービス社長の小倉邦義氏と、鳥波運送社長の鳥波孝之氏だ。ともに業界歴は30年以上で、小倉氏は一般社団法人茨城県トラック協会・古河支部の支部長、鳥波氏は同理事でもある。

「私たちが運ぶ荷物は、送り手(荷送り)も受け手(荷受け)も対象は企業や団体。BtoB(企業対企業)事業です。宅配便はBtoC(企業対個人)も多いのですが、それではありません。でも、お客さん(送り手・受け手)の事情に合わせるのは共通しています」

小倉氏はこう語る。ちなみに茨城流通サービスは北関東を中心に、2トン車(積載量は2.0トン)、4トン車(同3.2トン)、大型車(主流は14トン車)で工業製品や雑貨類などを輸送するほか、取引先の工場で流通加工業も行う。

近年は「積み合わせ輸送」に注力している。積み合わせ輸送とは、1つのトラックで十数社を回り、荷物を積んで運ぶこと。共同配送の一種で集荷に手間がかかるが、その分「価格競争」に巻き込まれにくいという。

一方、鳥波運送は、県内や近県への乳製品や飲料配送を得意とする。時には九州までの荷物を依頼されることもある。後述する「物流2法」による規制緩和で、これまでは制限されていた配送業者の「営業区域」もなくなったからだ。

「前回は福岡県までの依頼で、コンテナに荷物を積んで古河市から埼玉県の熊谷市まで陸送。熊谷駅の貨物ターミナルでコンテナごと積み替え、貨物列車で福岡市内のターミナルまで運びました。そこから目的地まで陸送したケースがあります」(鳥波氏)

■社長自ら配送、晩酌はしない

同じように両社を紹介したが、小倉氏の会社と鳥波氏の会社では企業規模が異なる。グループ全体で年商が約20億円の茨城流通サービスに比べて、鳥波運送は1桁少ない。祖父が事業を興し、大学3年から父(現在は故人)の仕事を手伝い始めた鳥波氏は、妻が事務全般を担当し、実弟が専務を務める“家族経営”だ。時には「運転手」の役割も担う。

鳥波運送の取引先である食品業の担当者は「社長が自ら配送してくれることも多く、腰の低い気配りのある人」と話す。事務所での作業が多い鳥波氏だが、緊急時にはこんな1日を送る日もある。

深夜1:00 5時に出社予定のドライバーより「発熱欠勤願い」の連絡。代行運転を専務に頼み、自分は専務が行く予定だった都内行き便の準備に取り掛かる。
4:00 出社。早朝点呼後、都内に向けて出発。
9:00 都内の取引先に納品。
13:00 会社に戻る。ほぼ同時に、約束した来客に対応。
14:00 社長室で今日初めての食事。終了後、事務員(妻)に断り、1時間程度の仮眠。
16:00 翌日の荷物を積むため、取引先の工場に向かう。18時で終了。
18:30 帰社。時間差で戻ってくるドライバーと対面点呼。気づいた出来事などを伝える。
19:00 社長以外は退社。業界団体の活動準備に充てたり、時には自由時間もできる。
22:00 事務所を閉め退社。
23:00 帰宅。軽く食事をとるが、晩酌はしない。

晩酌をしないのは、早朝に「代行運転」となる事態に備え、酒気帯び運転にならないためだ。

■悩みは視力が落ちた高齢ドライバーの処遇

関係者の“奉仕の精神”にも支えられる運送業界だが、残された課題は多い。

「この業界は1990年12月に実施された『物流2法』により規制緩和が進み、参入業者が増加。約4万社が6万社以上になりました。でも当時と現在で、車両の総保有台数はほとんど変わらない。新規参入しやすくなり、玉石混交な一面もあります」

小倉氏はそう指摘する。「物流2法」とは、貨物自動車運送事業法と貨物運送取扱事業法で、前者の法改正によりトラック事業が「免許制」から「許可制」に変わった。それに伴い、過当競争も起きた。今では各社が当たり前のように行っている配送無料サービスだが、「販売元と配送業者のどちらが物流コストを負担するか」の問題も依然として残る。

「なかなか理想通りにはいきませんが、『配送品質』『交通安全』『雇用確保』やそれに伴う労務問題などを、どこまで高い次元でバランスを取るかだと思います」(鳥波氏)

茨城県トラック協会が毎年開催している交通安全教室の様子。地元の小学生を対象に、トラックの死角などを教えている(写真=鳥波社長提供)

配送品質について小倉氏は「自社の立場では、ドライバー教育に尽きる」と話す。

「当社のドライバーの平均年齢は42~43歳。業界平均の47~48歳よりは若いですが、年に6回、教育研修を実施して、安全運転や荷物管理を徹底しています。個人差がありますが、第一線で活動できるのは65歳ぐらいまで。多くの人は動体視力が落ちるのです。状況に応じて、例えば運転業務から倉庫内業務に配置転換することもあります」(小倉氏)

■「人付き合いが苦手」でもやりやすい

人手不足とはいえ、若い世代も入社する。運送業界を志望する理由は、総じていえば(1)車の運転が好き(2)、他業界に比べて30歳までの賃金は恵まれている、(3)運転中は特に細かく拘束されないので、人付き合いが苦手な人もやりやすい――からだという。

なお、超過労働については「4時間運転で30分休むことが義務付けられており、運行記録計(タコグラフ)で把握できる。高速道路の休憩所が満車で、次まで走るような問題もあるが」という意見だった。簡単にはいかないが、優秀な人材確保には「適正な配送運賃」もカギだろう。

また今後、自動運転が進むとトラック運送はどうなるのだろうか。

「トラックに限っていえば、2023年ぐらいには一定の自動運転となるのではないか」と小倉氏は予想する。ただし「幹線道路の輸送に限った話で、配送荷物の入口と出口の話でいえば、幹線道路を運ぶだけでは、配送は完結しません」と付け加える。

例えばトヨタグループでは、豊田通商が音頭を取って自動運転実験を続けているという。プロドライバーは「消える仕事」という声もあるが、もう少し状況が進まないと分からない。

■生死をさまよった経験から生まれた感謝

さまざまな課題に向き合いながらも、小倉氏も鳥波氏も前向きだ。最後に「この仕事の醍醐味や使命感」を聞いてみた。

「トラック輸送は社会インフラなので、経済活動の一翼を担っている自負心はあります。まだまだ世間の関心は『宅配便』だったり、『買い物難民』だったりするのですが。業界では、各大学の『物流ゼミ』と連携した社会講座も開いています。ゼミの学生さんからは、社会に貢献している業界という理解が得られるようになってきました」(小倉氏)

「東日本大震災のような大災害が起きて物流が遮断されると、商品配送のありがたみが再認識されます。でも、すぐに忘れられてしまう」と苦笑いする鳥波氏だが、活動の原動力は「親から受け継いだ家業を絶やしたくない」のもあるという。

安全教室で同業者と記念撮影する鳥波社長(右端。写真=鳥波社長提供)

「実は17歳の時、暴走ダンプカーにはねられて1週間意識不明だったことがあります。その時、多忙だった親父が病院に泊まり込んでそばにいてくれた。意識が戻ってから聞いたのですが。大学時代から家業を手伝い、跡を継いだのも感謝の気持ち。零細企業ですが、社会の発展のために尽くしたい思いはあります」(鳥波氏)

2人とも「運送業は毎日のように目にする存在だが、労働環境などが不透明に捉えられている業界」だと話す。「少しでも理解が深まれば」というのが取材に応じてくれた理由のようだ。毎日配送される荷物には、そうしたプロの誇りも詰まっている。

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高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。

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(経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之 写真=鳥波社長提供)

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