泉佐野市のふるさと納税はやり過ぎなのか
プレジデントオンライン / 2019年5月22日 15時15分
■菅官房長官「健全な競争を期待する」のウソ
「ふるさと納税制度」が6月から新しくなる。
5月14日、総務省が自治体間の自由競争に委ねていたこれまでのシステムを許認可制に切り替えると発表した。
具体的には返礼品を「寄付額の3割以下の地場産業」に限定し、過度な返礼品競争を抑制する。総務相が基準を満たした自治体を指定し、その指定自治体でないと、税務上の優遇措置が受けられなくなる。
菅義偉官房長官は、この日午後の記者会見で「ふるさと納税は納められた地域の活性化に貢献しているのでしっかり継続してほしい。今後も使途や返礼品について知恵を絞り、健全な競争が行われることを期待している」と語った。
自治体間の自由競争を規制しておきながら、「健全な競争を期待する」とは解せない発言である。
■泉佐野市など4市町が指定されず、東京都も不参加
総務省は、過度な返礼品で多額の寄付金を集めた大阪府泉佐野市や静岡県小山(おやま)町、和歌山県高野(こうや)町、佐賀県みやき町の4つの市町を新制度の対象から外すことを正式に決めたことも公表した。6月以降、この4市町と新制度利用を申し込まなかった東京都に寄付しても税制の優遇はない。
「ふるさと納税制度」とは特定の自治体に寄付すると、その寄付額から2000円を差し引いた金額について所得税と住民税から原則全額が控除されるシステムである。2008年度に作られた。目的は都市と地方の税収入の格差是正と地方の活性化だった。
しかし、多彩で豪華な返礼品で巨額の寄付を集める自治体が相次ぎ、全国の寄付総額は創設当初の81億円から2017年度には3653億円と45倍にも跳ね上がった。今回、指定を外された大阪泉佐野市など4市町は総務省の自粛要請に従わず、ネット通販のギフト券なども返礼品にして多額な寄付金を集めていた。
自業自得だろう。4市町は自ら首を絞めた格好である。
総務省によると、昨年11月から今年3月までの問題の4市町への寄付額は、泉佐野市332億円、小山町193億円、高野町185億円、みやき町89億円といずれも巨額な額で驚かされる。
ただ逆に言えば、4市町がそれだけ寄付金集めに奮闘努力した成果でもある。
■泉佐野市は異議申し立てや訴訟も検討
前述した寄付額で、断トツの泉佐野市は「新制度に合った内容で申請していたにもかかわらず、指定を受けられなかった。なぜ、そうなったのかを今後、総務省に確認したい」との趣旨のコメントを出した。同市は異議申し立てや訴訟も検討している。
徹底して反発姿勢を貫く構えだが、はたから見ていると、少しやり過ぎの感もないではない。反対に他の3町はおとなしく総務省に従う意向を示した。
東京都が新制度に参加しなかったのは、税収入を地方の自治体に奪われる大都市の立場を重視し、それを示そうとした結果だった。
■自治体が創意工夫で豊かになれる制度のはず
これまでのふるさと納税制度は、都市に集中する税収を地方に振り分ける効果があった。
地方は疲弊の連続で財政難に苦しんでいる。どこも人口が激減し、地方経済は行き詰まっている。かつて観光客や地元の人々で賑わった駅前の商店街は“シャッター通り”に変わった。若者が消え、年寄りばかりの地方都市も増えている。衰退し切った地方の活性化策として期待されたのが、このふるさと納税制度だった。
この制度によって自治体は、他の自治体と自由に競争して税収を増やすことができた。創意工夫と努力で豊かになることができる。決められたことだけを行ってきた自治体の職員が、積極的にわが町、わが村のために行動するようになった。
新制度は自治体の過度な返戻金競争に歯止めをかけるだろう。しかしその一方で自治体間の自由な競争を奪ってしまう。元来、行政には競争がなかった。それが旧制度では活気づいた。そうしたふるさと納税の良さを、安倍政権はどう考えているのだろうか。
■「寄付とは、見返りを求めないもの」と言い切れるのか
ふるさと納税の新制度は、今後の地方自治体の財政に関わる大きな問題だ。新聞各紙は社説で取り上げている。いずれの社説も旧制度を否定し、自治体同士が競い合うシステムに疑問を呈する内容だった。沙鴎一歩は、それを残念に思う。
5月17日付の朝日新聞の社説は「しかし、自治体が多くの寄付を集めようとしてお得感を競う手法が問題となり、総務省が見直しを決めた」と指摘する。
さらに朝日社説は新制度で「寄付額の3割以下の地場産品」として残る返礼品をこう否定する。
「アマゾンのギフト券やiPadまで登場した返礼品競争を、和らげる効果はあるかもしれない。しかし返礼品が残る限り、お得感を競う風潮はなくならないだろう」
「そもそも寄付とは、見返りを求めないもののはずだ。『寄付額の3割以下』の返礼に法律でお墨付きを与えることの是非も、考えるべきではないか」
なんとも手厳しい指摘と主張である。豪華でなくとも、魚や野菜、果物、お菓子といったその土地の匂いのする、心の温まる地場産品がなければ、一般の国民は寄付などしない。
朝日社説は「寄付とは、見返りを求めないもの」と杓子定規に言い切っている。その自信は、一体どこからくるのだろうか。
■「力ずくで地方を従わせるようなやり方」でいいのか
朝日社説は制度の問題点を挙げて「根本から考え直すべきだ」と主張している。
「制度が抱える問題点は多い。返礼品を選ぶ民間のポータルサイトへの手数料も含め、公的以外のものに貴重な税金がどれほど使われているのか、実態が見えない。所得の高い人ほど大きな税優遇を受け、自分が住んでいる自治体の税収を減らす矛盾も、放置されている」
こうした問題点の改善には賛成である。そして朝日社説はこう訴える。
「自治体は医療や子育て、介護、障害者福祉など、多くの社会保障サービスを担う。財源を中長期的にどうまかない、法人税や消費税など、どの税収からどの程度の割合を地方に回し、地方の中で配分していくのか。時代に合ったしくみを描いていかねばならない」
「批判のある返礼品競争を抑えるために、力ずくで地方を従わせるようなやり方では、真の地方自治を築くのは難しい」
その通りである。いまの安倍政権はその数の力を頼りに、自由な競争が可能だった「ふるさと納税制度」を、違うものに切り替えてしまった。
■なぜ泉佐野市は「金券」に目を付けたのか
読売新聞の社説(5月16日付)は「ふるさと納税制度が新しくなる。再スタートを機に、善意の寄付で地方を元気づける本来の狙いを浸透させたい」と書き始める。だが、「善意の寄付」という文言を使うところは、「寄付とは、見返りを求めないもの」と指摘する朝日社説と五十歩百歩である。善意の寄付などいまの景気が良いとは言えない経済状況ではなかなか出て来そうもない。
読売社説は大阪府泉佐野市を批判する。
「泉佐野市は、18年度の寄付額が前年度の3.7倍の500億円近くとなった。一般会計当初予算の約516億円に迫る規模だ」
「『閉店キャンペーン』と称し、返礼品に加えてインターネット通販『アマゾン』のギフト券を贈った。金券目当ての寄付を募るのは、制度の目的を明らかに逸脱している。税収を奪われた他の自治体の不満も大きいはずだ」
なるほど、金券目当ての寄付金の募集は問題だ。泉佐野市はなぜ、金券に目を付けたのか。総務省はそこを追及すべきだった。読売社説はこう主張する。
「自治体に求められるのは地域の魅力をアピールする努力である。独自の政策や、地域作りの工夫を競い合い、賛同する寄付を呼び込む。そうした健全な仕組みに発展させることが大切になる」
「地域の魅力」「アピールする努力」「独自の政策」「地域作りの工夫」などいずれも肯定できる言葉ではあるが、各自治体が豪華な返礼品に頼らずに寄付を集める方法について、もっと具体的に議論する必要がある。
■これでは自治体の自主財源確保は鈍くなるばかり
ふるさと納税制度において自治体の自由な競争を認めたうえで、過度の返礼品を抑制する方法もあったはずである。
たとえば総務省の自粛要請に従おうとしない自治体に対してのみ、ペナルティを課すやり方だ。
総務省は許認可権を握った。6月からは、ふるさと納税を受けられる自治体を指定し、返礼品を「寄付額の3割以下の地場産業」に限定できる。これでは自主財源を確保しようとする自治体の自立した動きが鈍くなるばかりだ。
(ジャーナリスト 沙鴎 一歩 写真=時事通信フォト)
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