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課長・部長・役員の4割は「読書しない」

プレジデントオンライン / 2019年7月1日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/bee32)

教養人は知的でクール、人生をより楽しんでいる。果たして自分に教養はあるのだろうか。そこで今回、日本の管理職の教養レベルを徹底解明。教養を効率的に身につけるコツも解説する。
▼教養の定義とは?
【教養】きょうよう
①文化に関する、広い知識を身につけることによって養われる心の豊かさ・たしなみ。
②(自己の)専門以外に関する学問・知識。
出典=『新明解国語辞典 第七版』

■他人の思考を食べているか

欧米では、「教養があること」が、紳士の条件の1つとされてきたという。日本の経営者やマネジメント層も、欧米のエリートに負けない教養を身につけて、グローバルなビジネスシーンで、互角に渡り合えるようになりたいもの。とはいえ、そもそも“教養”とは一体何だろうか?

経営コンサルティングや企業投資で様々な企業経営に精通し、大手予備校である田中学習会の取締役もつとめている侍留啓介さんは、次のように説明する。

「国語辞典を引くと、教養とは専門以外の学問や知識を身につけること、広い知識を身につけることで人生や心を豊かにするもの、という定義がされています。ビジネスパーソンは、自分の仕事の分野には強いわけですが、これはローマ字の『I(アイ)』のような一本足の状態です。専門性をできれば2つ、そしてそれ以外にも幅広く知識を身につけている状態が、教養人ではないでしょうか。私の造語ですが、そうした人をT型人材ならぬ、『π(パイ)型人間』と呼んでいます。教養というと身構えてしまいますが、仕事と直接関わらない、趣味や嗜好の分野に詳しくてもいいでしょう」

現代文が専門の予備校講師で、教養に関する著書もある児玉克順さんも、こう話す。

「雑学以上、専門知識未満で、知性を高めるものが教養と考えています。例えば、現代文で小説や評論を読む場合でも、歴史や政治、文化、風俗といった、様々な分野にある程度詳しくないと、理解が深まりません」

「専門以外の知識」が、教養のキーワードの1つになりそうだ。ただし、単なる“知識”の集積=教養ではないらしい。「確かに、まず多くの知識を得ることが必要です。しかし、論理的な思考力も養わないと、教養は高まりません。知識だけでは解を導いたり、アイデアを生み出したりすることができないからです」(侍留さん)。

■なぜ経営者に教養が必要か

では、教養は仕事上、どんなメリットをもたらすのか?

児玉さんは、「教養を身につけることは、いわば他人の思考を“食べる”ことなので、人間を深く知ることができるようになるでしょう。交渉や人間関係の構築で役立つはずです」との見方を示す。侍留さんは、「柔軟な発想ができない企業は、成長できません。教養があれば、視野が広く、枠にとらわれない発想ができるようになります。とりわけ、経営者に教養が必要な所以です」と述べる。

ところで、ビジネスパーソンの教養は、どんな現状なのか。プレジデント誌が管理職・役員約1000人(40~50代中心)に、教養に関するアンケート調査を行ったところ、こんな実態が浮き彫りになった。

専門以外の得意分野では、「歴史」(29.6%)を挙げた人が最も多かった。「学校の授業や小説、TVドラマなどで、日頃から親しんでいるからでしょう」(児玉さん)。その一方、今後、得意になりたい分野でも、歴史を挙げた人が最も多かったが、絵画や哲学などを挙げた人も比較的多い。侍留さんは、「自分がよく知らないが、興味のある分野。ある意味ではコンプレックスのある分野が絵画や哲学だと言えるのではないでしょうか」と分析する。

侍留さんは、アンケート結果全体について、「日本のビジネスパーソンの多くは、専門外の知識、つまり教養が不足しています。大学入試以降、まともに勉強をしていないからです。学び直しが必要です」と評価をしている。

調査方法●NTTコム リサーチで実施。全国の管理職(課長クラス)以上の会社員・会社役員・公務員・団体職員の計1095人から回答を得た。調査日は2019年4月10日。

語彙力・哲学編▼日本語と英語をスマートに使いこなせているか

■多忙な人向け最新効率的学習法

言語能力を左右するのが、読書だ。読書の質と量が、語彙力を決定づける。また、本を読むことは、「論理力を鍛える」(侍留さん)ことにもつながる。「経営者や管理職は仕事が忙しく、読書の時間が取りにくいかもしれません。多忙な人には、車での移動中や散歩中にも聞けるオーディオブックがおすすめです。私は4倍速で聞いていますが、読書より短い時間で本を消化できます」(同)。

ことわざや四字熟語は、9割近くの設問で50%以上が「知っている」との回答。「ことわざは、日常生活でもよく使い、馴染みが深いからでしょう」(児玉さん)。

その一方、哲学用語については、日常生活であまり使わないためか、認知度の低い言葉が多かった。

英語力はどうなのか。侍留さんは「私の肌感覚でいうと、TOEICは900点ないと話になりませんね。TOEICはもともと日本人と韓国人向けにつくられたレベルのもので、集中して勉強すれば数カ月で達成できます」と力説する。しかし、アンケート結果によれば、「900点以上」と答えたのは、わずか5.7%だ。

歴史・文学編▼出世するビジネスパーソンの必読書は何か

■歴史が得意は思い込み

「歴史は得意分野」と答えた人が多いだけに、「説明ができる日本史上の人物や出来事」は好成績。しかし、戦前に首相を何度も務め、「最後の元老」とも呼ばれた西園寺公望を、7割強の人が知らなかった点について、侍留さんは「小説やTVドラマにあまり登場しないからでしょうが、歴史上の人物の重要性を客観的に理解できていないようでは、歴史を知っているとはいえないのでは」という。

その一方、「説明ができる世界史用語」については、教科書レベルにもかかわらず、過半数の人が答えられた設問は、わずか2割だ。

読んだことがある、あるいは概容を知っている日本の古典や名著としては、『こころ』『雪国』などが上位に挙がったが、世界の古典や名著については、全体的に認知度が低く、「すべて知らない」と答えた人が5割近くに上った。

「歴史教養書などを活用して、歴史や文学の概容はひと通り学んでおくといいでしょう。古典はとっつきにくい印象ですが、わかりやすく漫画や小説にしたものもあるので、それらを読むのも十分意味があります」(児玉さん)

芸術・映画・音楽編▼一流のアートに触れて「美意識」を鍛えているか

■格式が高い教養のハードルの下げ方

芸術に親しむことも、教養の大切な要素といえる。しかし、西洋絵画やクラシック音楽などを鑑賞するのは、「格式が高い」と感じて手を出せないと感じている方が、少なくないのではないだろうか? 事実、アンケートでは、絵画や音楽などを「得意分野にしたい」と答えた人が多かった。

「今では音楽や美術のわかりやすい入門書が充実しているので、そこから手をつけるといいでしょう。例えば、貴族のための小さな宮廷音楽が市民革命後に大衆のものになった結果、巨大なコンサートホールとオーケストラが誕生しました。そうした背景を学ぶとより楽しく身近になります」(児玉さん)

その一方、映画については、肩肘を張らずに楽しめるためか、全体的に認知度が高く、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『タイタニック』は、約7割の人が「見たことがある」と答えた。しかし、映画鑑賞の頻度(家庭を含む)については、「ほとんど見ない」と答えた人が26.5%、「年に1回」と答えた人が11.1%に上っており、日常生活で映画に親しんでいるとはいえない状況だ。

旅行・ワイン・グルメ編▼仕事以外の人生の楽しみを満喫しているか

■旅行や食が教養力を高める

旅行経験や食生活などの嗜好も、教養のバロメーターになる。

これまでに「いくつの都道府県を訪ねたか」の結果は図のとおりだ。ちなみに47都道府県すべてを訪問したことのある人は8.4%いた。また、外国訪問数は、「10カ国以上」と答えた人が22.9%もいて、社会のグローバル化を実感させる結果となった。

食生活に関しては、ワインの原料となるブドウの品種については、馴染みのあるブドウ以外は、認知度が低く、“ワイン通”が少ないことがわかった。

実は、これらはほかの教養とも密接に関連している。ワイン好きの侍留さんは、「歴史や地理に詳しいほうが、ワインをより楽しく飲めます」と言う。児玉さんも、「例えば、海外の歴史小説が好きな人は、世界史や語学にも関心を持つようになり、海外旅行や美術館巡りにもよく行くようになります。芋づる式に教養の幅が広がっていくわけです」と説明する。

まさに「好きこそ物の上手なれ」で、人生の楽しみを増やすことは、教養を高めることにも役立ちそうだ。

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児玉克順
現役専門予備校の老舗「市進予備校」、映像授業「ウイングネット」の現代文担当講師。著書に『世界でいちばんやさしい教養の教科書』。
 

侍留啓介
三菱商事入社、マッキンゼー・アンド・カンパニー等を経て、外資系投資会社勤務。田中学習会等で取締役。MBA(シカゴ大学)、博士(京都大学)。著書に『新・独学術』
 

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(ジャーナリスト 野澤 正毅 撮影=石橋素幸 写真=iStock.com)

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