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最高の絶景"ネモフィラ畑"が生まれたワケ

プレジデントオンライン / 2019年5月27日 9時15分

国営ひたち海浜公園(茨城県)の「みはらしの丘」でネモフィラが開花している様子。今年の10連休には約58万人が訪れたという。(写真提供=国営ひたち海浜公園、以下すべて同じ)

今年の10連休に約58万人が訪れた人気の花畑がある。群生しているのは「淡い青」が美しいネモフィラだ。茨城県の国営ひたち海浜公園では、2002年にネモフィラを始め、それがSNSなどで「写真映えする」と話題になった。だが始めてからブレイクするまでは7年近くかかったという。人気観光地が出来上がるまでの裏側を関係者に聞いた――。

■少し前まで認知度の低かった「ネモフィラ」

史上初の「10連休」だった今年のGW(ゴールデンウイーク)。国内外の観光地で羽を伸ばした人も多いだろう。

連休中、テレビの情報番組では「GWの観光スポット」を各局が何度も放送した。多くの番組で紹介されたのが「ネモフィラ」という青紫色の草花が咲く様子だ。

これを目玉に、各地で観光客を呼ぶイベントも実施された。たとえば大阪市此花区の「大阪まいしまシーサイドパーク」は5月6日まで「ネモフィラまつり2019」を初開催した。

昨年までは「大阪舞洲ゆり園」として「ユリの群生」を名物にしていたが、「ユリは球根なので二毛作、三毛作ができない。昨年、台風21号の暴風雨と塩害で畑が損害を受けたのもあり、代わりにSNS映えもするネモフィラを植えました」。

主催したピーエスジェイコーポレーション・取締役営業本部長の大木啓嘉(ひろよし)さんはこう説明する。会期中の入園者数は「24日間の限定開催で、10万~12万人を予想していたら、その倍の22万人もの方に来園いただいた」と驚く。「今シーズンは閉園しましたが、また来年『ネモフィラ』は予定しています」(同)。

“ネモフィラ人気の元祖”、茨城県の「国営ひたち海浜公園」(以下、海浜公園)では、多い年には1日約10万人の観光客が入園し、群生する「みはらしの丘」を楽しんだという。

少し前まで認知度の低かった「ネモフィラ」が、なぜここまで人気が高まったのか。海浜公園をはじめ、茨城県各地を現地取材して真相に迫った。

■昨年度の入園者数は約230万人と過去最高に

「3年前から、『一緒に行きたいね』と話していたのですが、実際に来られて大満足です」

4月から新社会人になった20代の女性はこう話す。手に持つのは海浜公園内で売っている「ネモフィラブルーソフト」(400円)。園内を視察した際、テレビ番組でも紹介された商品を持つ姿に興味を持ち、話を聞いた。2人は大学の同級生だという。

取材当日の4月27日は肌寒く、客足も伸びなかったが、訪れた人は楽しそうに歩いていた。予想していたよりも若い世代が多く、家族連れも目立つ。犬と一緒に入園もできるので、愛犬同伴もいる。ちなみに翌28日は快晴で、入園客は9万人を超えた。

ネモフィラが評判になるにつれて、同公園の年間入園者数も拡大し、この10年で倍増した。2007年に初めて100万人を突破(約108万人)したが、2018年度は229万5361人(過去最高)となり、4年連続で200万人を超えた。

この「ネモフィラ」に、そもそも誰が目をつけて植えたのか。

■「丘も青に染めたい」という声で満場一致

「もともと北米が原産の『ネモフィラ』ですが、和名を『瑠璃唐草』(るりからくさ)といい、家庭でも栽培できる草花です。でも、これまでは完全な脇役で、他の植物と組み合わせて植えられるような存在でした。大規模に栽培する公園でも『春の花はポピー、秋はコスモス』が一般的だったのです」

中島健雄さん(国営ひたち海浜公園・企画二課)はこう説明する。当時は同公園の業務課長で、“ネモフィラの育ての親”と呼ばれる存在だ。栽培を始めた経緯をこう明かす。

「みはらしの丘」では、夏から秋にかけては「コキア」を見ることができる。

「みはらしの丘は、晴れた日には青い空が美しく、海も見える場所。当時の業務課で群生させる花を相談していた時、『丘も青に染めたい』という声で満場一致したのです」(中島さん)

みはらしの花修景の始まりは、2001年6月ごろに「10月に花を咲かせる植物」としてコスモスが選ばれたことだった。次の「春向け」に「ネモフィラ」を選んだ。「みはらしの丘」は四季を通じて違う植物が楽しめる場所で、現在は夏から秋にかけての「コキア」も名物となっている。

■人気に火がつくまで7年かかった

ここは1984年に「海浜公園」として着工、1991(平成3)年10月に開園した。「何もない広大な土地」に植える植物を模索し、答えの1つが、春から初夏の「ネモフィラ」だった。

「日本人は桜に代表されるように、淡い色の花に愛着を持ち、郷愁を感じます。それなら“淡い青のネモフィラ”がいいと思ったのです」(中島さん)

実際にネモフィラを群生させてから、人気に火がつくまで7年近くかかったという。

「パンフレットを持って旅行代理店へ行き、営業もしました。みなさん『きれいですね』とは言うけど、商談には気乗り薄というケースも多かった」(関係者)

「みはらしの丘」のコキア。9月下旬から少しずつ紅葉し始め、10月下旬までは一面の赤色を楽しむことができる。

「150万人の壁を越えたのはSNSの存在。特に、詩歩(しほ)さんという方のフェイスブックページで紹介されてから脚光を浴びたのです」(中島さん)

詩歩さんは1990年生まれ。世界中の絶景を紹介するフェイスブック「死ぬまでに行きたい!世界の絶景」でフォロワーが集中し、同名の書籍も評判となった。本人が注目した「海浜公園のネモフィラ」が観光名所として紹介されると、入園者も増加し、年々話題が高まった。栽培関係者のまいた種が、20代女性の先見性とSNSという時代性で開花したのだ。

■「3つの頂上」によって、見える景色が異なる

もともと「ネモフィラ」は、乾燥にも強くて栽培しやすい。海浜公園で群生する品種も「インシグニスブルー」という流通量の多いもので、ホームセンターなどで手に入り、家庭で栽培できる。もちろん大規模に群生させるには土壌改良や、場所に応じた水はけなどの栽培技術がいるが、冒頭の大阪市の公園のように、他の土地でも追従できる。

今後も「ひたち海浜公園」は差別化できるのか。公園全体の現場責任者である安達明彦さん(ひたち公園管理センター・管理センター長)は、こう説明する。

「みはらしの丘には3つの頂上があり、見る場所によって重なりが違うのも楽しめます。下からネモフィラと人波を見た場合、上からネモフィラと園内を眺めた場合とでも景色が異なります。このロケーションは、なかなかまねできるものではありません」

中島さんもこう続ける。「みはらしの丘の案内所を数年担当したこともあります。ここに来るまで、みなさん大変な思いで訪れます。特に満開の時期は、道路は混んでいるし、大勢の人と一緒に頂上まで歩く。でもここに来ると、とびっきりの笑顔になるのです」。

■米国クルーズ船の客もネットで予習して来園

「ひたち海浜公園」を訪れた翌4月28日、取材スタッフは茨城港(常陸那珂港区)に足を運んだ。この日、米国のクルーズ船「セブンシーズ・マリナー」(総トン数4万8075トン、乗客定員700人)が初めて寄港し、歓迎イベントが開催されたからだ。

乗客は朝に下船した後、「笠間稲荷・水戸弘道館コース」などに分かれて県内名所を観光。「ひたち海浜公園コース」に行った米国人ご夫婦(ヒューストン在住の60代)に話を聞くことができた。事前にインターネットで「ネモフィラ」を予習していたという。

茨城港に寄港していた米国のクルーズ船「セブンシーズ・マリナー」。乗客定員700人の大型船だ。(撮影=高井尚之)

「とてもゴージャスだったわ。ネモフィラだけでなくチューリップもあり、いろんな色や味が楽しめるスープのよう。(下から見る)人が歩いている姿と対比すると、その規模もわかります」(妻)

「この公園が国営公園というのにも興味を持った。米国にも国営公園はあるけど、こうした公園はない。電池がなくなりそうなぐらい、たくさん撮影しました。ネモフィラの丘は本当に美しく、みんなが実に幸せそうな笑顔をします」(夫)

公園の中島さんと同じ意見だったので、「なぜそう思うか」を突っ込んで聞いてみた。

「天気がよいと特に、満たされた気持ちになるからでしょう。丘にいる人は笑顔で、赤ちゃんは泣いておらず、犬もほえていません」

■今後は観光コンテンツの「選択と集中」も必要

茨城県では前年に「米国客船」寄港が決まると、官民一体で具体的な取り組みを進めた。

たとえば「外国クルーズ船受入実行委員会」の事務局はIPAC(株式会社茨城ポートオーソリティ。本社は茨城県東海村)内に設けられた。乗客の下船から乗船時間までに行う「歓送迎演奏」「おもてなしステージ」「飲食・物販コーナー」「大型建設機械の展示」なども主催した。

同社長の後藤和正さん(元茨城県土木部長)が、茨城港常陸那珂港区の役割を説明してくれた。

「海浜公園を含むこの一帯は、戦前は陸軍・水戸東飛行場(水戸陸軍飛行学校)で、戦後は米軍に接収された後、1973年に日本に返還された場所です。茨城港は常陸那珂港を中心に、日立港、大洗港の3港統合によって誕生した港で、常陸那珂港区には北埠頭(ふとう)、中央埠頭、南埠頭があり、米国クルーズ船が来港したのは中央埠頭になります。北埠頭から見て南側となる日立建機やコマツの建設機械工場の向こう側が海浜公園です」

今後は米国客船に限らず、「国内外に港の魅力を伝え続けたい」と話す。5月26日には国内の大型客船「飛鳥Ⅱ」の来港が予定されている。

「ネモフィラ」が爆発的人気となるなど、茨城県に注目が集まるにつれ、同県に対する地味なイメージも変わってきた。今後は観光コンテンツの「選択と集中」も必要だろう。あれもこれもと手を伸ばすと焦点がぼけて、観光イメージが薄れてしまうからだ。

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高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。

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(経済ジャーナリスト 高井 尚之 写真提供=国営ひたち海浜公園 撮影=高井尚之)

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