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自分の舌が"濃い味中毒か"を検証する方法

プレジデントオンライン / 2019年6月5日 9時15分

『はじめての減塩』より

塩分のとりすぎは体に悪い。管理栄養士の濱裕宣氏らは「『濃い味』になれていると、塩分をとりすぎている恐れがある。自分の舌のレベルは、『経口補水液』があれば、すぐに確認できる」という――。

※本稿は、東京慈恵会医科大学附属病院栄養部/濱裕宣、赤石定典『はじめての減塩』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。

■しょっぱいものを食べた後に喉が渇く理由

なぜ減塩が推奨されているのでしょうか。減塩が推奨されるのは、塩分と血圧に密接な関係があるからです。

体には、血液中の塩分濃度を常に一定に保とうとする働きがあります。そのため、食事によって大量の塩分が入り、血液中の塩分濃度が上がると、体は血管に水分を送って塩分濃度をもとに戻そうとします。しょっぱいものを食べたあとに喉が渇くのは、中枢神経が働いて水分を摂るように促すからです。

血液中の水分が増えるということは、すなわち血液の量も増えるということ。心臓はポンプのように収縮と拡張を繰り返して血液を体内に循環させますが、増えた血液量を送り出すためにより強い力が必要となります。これが、血圧が上昇するメカニズムです。

心臓がぎゅっと縮んで血液を送り出すときにかかる圧力の最高値は、「最高血圧」または「収縮期血圧」と言います。一方、心臓が広がって血液が戻ってくるときの圧力の最低値は「最低血圧」または「拡張期血圧」と言います。

高血圧と診断されるのは、最高血圧が140mmHg以上、もしくは最低血圧が90mmHg以上の状態が続くとき。高血圧とは、一時的な血圧の上昇ではなく、血圧が上がった状態が続くことを指します。

■心筋梗塞や脳梗塞、脳出血につながる

強い圧力がかかり続けると、心臓の負担が大きくなるのはもちろんのこと、血管にもダメージを与えます。血管は本来、弾力性があるものですが、圧力に対抗しようと徐々に厚く、硬くなっていきます。いわゆる動脈硬化です。

動脈硬化が進み、血液の流れが悪くなったり、血管が詰まったりすると、さまざまな病気を引き起こします。心筋梗塞などの心疾患や、脳梗塞、脳出血、クモ膜下出血などの脳卒中。それに腎不全、大動脈瘤、大動脈解離などのリスクも動脈硬化によって高まります。

平成28(2016)年の人口動態統計によると(図表1参照)、日本人の死亡原因は、1位が悪性新生物(ガン)で、全体に占める割合は28.5%。そして2位が心疾患、3位が肺炎、4位が脳血管疾患(脳卒中)、5位が老衰と続きます。3位の肺炎と5位の老衰は、高齢化社会を反映した結果と言えるでしょう。

高血圧と密接に関係するのは、2位の心疾患と4位の脳血管疾患。さらに腎不全、大動脈瘤及び解離の割合を足すと26.8%になり、1位のガンに迫るほどです。

高血圧が怖いのは、こうした病を引き起こすリスクを高めるだけでなく、自覚症状がない点です。血圧が高い状態が続いて、知らないうちに動脈硬化が進んでしまい、突然大きな病となって襲ってくる。そうした可能性があることから、「サイレント・キラー(沈黙の殺人者)」と呼ばれることもあります。

■成人男性の3人に1人は高血圧

平成28年の国民健康・栄養調査によると、高血圧と診断された人は、20歳以上の男性で34.6%、女性で24.8%。じつに成人男性の3人に1人、成人女性の4人に1人が高血圧なのです。

高血圧の原因は、もちろん塩分の摂りすぎだけではありません。そのほかの主な原因には、食習慣の乱れや運動不足、喫煙や過度の飲酒、ストレスなどが挙げられます。

減塩だけに取り組んでも意味がないのではないか。そんなふうに思う方もいるかもしれません。むろん高血圧の予防には、総合的に生活習慣の改善に取り組む必要があります。たださまざまな対策が講じられるなかで、食塩の摂取量については国が40年近く前から目標量を示し、熱心に取り組んできたことは、減塩の重要性を物語っていると言えるでしょう。またコツを覚えれば、日々の食生活のなかで気軽に実践できることもポイントです。

では、実際に減塩による降圧効果はどのくらい期待できるのでしょうか。

減塩による血圧の下がり具合には個人差があります。一般に、食塩を1日1.0グラム減らすと、高血圧の人なら最高血圧は1mmHgくらい、最低血圧は0.5mmHgくらい平均して下がるとされています。正常血圧の人の場合は、その半分くらい下がることがわかっています。

■味のついた食事をしていれば「塩分不足」はない

最高血圧が1mmHg下がるだけで、どれほどの効果があるのかと疑問に思われる方もいるかもしれません。でも心臓や血管への毎日の負担を考えると、たった1mmHgでも、チリも積もれば大きな違いとなります。

厚生労働省が2011年に発表した「健康日本21」の試算では、最高血圧が2mmHg低下すると2万人の死亡が予防できるとされています。先の平均的な降圧効果から考えると、血圧を2mmHg低下させるのには、高血圧の人が1日10グラム摂っていた食塩を8.0グラムに減らせばいいということになります。治療の目標量の6.0グラムに抑えることができれば、さらなる降圧効果によって脳卒中などの予防が期待できるでしょう。

もちろん、塩分は減らせば減らすだけいいというものではありません。塩分は体を維持するためになくてはならないものです。味のしない離乳食のようなものばかりを食べているなら話は別ですが、何かしら味のついた食事を三食摂っていれば、塩分が足りていないなんてことはあり得ないでしょう。だからこそ減塩の心がけが大切になってくるのです。

■冷房のきいた部屋にいるなら経口補水液は不要

昨今の猛暑の影響で、夏場は「熱中症予防に塩分を摂りましょう」とよく言われます。もちろん大量に汗をかいたときや脱水時には、水分と合わせて塩分を補給することも大切です。ただ、冷房のきいた部屋でふだんと同じように生活をしているなら、経口補水液を摂る必要はありません。

市販の経口補水液に含まれる塩分は、1本(500ml)で1.5グラム。これまでの話を踏まえると、それなりの量だということがおわかりになると思います。いつものとおりの食事を摂り、なおかつ経口補水液をちょこちょこと飲んでいたら、あっという間に塩分を摂りすぎてしまうことに注意してください。

減塩指導をしていると、「何歳から減塩を心がけたほうがいいですか」といった質問をされることがあります。

身も蓋もないかもしれませんが、その答えは「なるべく早く」です。いったん濃い味に慣れてしまうと、何か病気などのきっかけがないかぎり、なかなか薄味の食生活に切り替えるタイミングをつかめず、濃い味から抜け出せなくなってしまうからです。

■減塩に「早すぎる」はない

人の舌が感じる味覚は、甘味、酸味、塩味、苦味、うま味の5つが基本とされています。そのうち塩味は、料理の味を決める大事な要素です。焼いたお肉に塩をひとふりするだけでも、ぐんとおいしくなりますよね。料理の味を左右するだけに、幼いころから塩味のおいしさを覚えてしまうと、どんどん濃い味を求めるようになってしまいます。

その代表格がスナック菓子。スナック菓子には、塩分だけでなく糖分や脂肪分など、人間がおいしいと感じるものが多く含まれ、中毒性があることがわかっています。小さいころにスナック菓子にハマってしまうと、それを取りあげるというのはなかなか難しいもの。そうこうしているうちに、どんどん濃い味の食生活が習慣化されてしまうのです。

濃い味に慣れてしまってから、病気を機に減塩せざるを得ないとなるとひと苦労です。たとえば1日に20グラム近い塩分を摂っていた人が、いきなり6.0グラムに塩分を減らさなければいけないわけですから、何を食べても味がしなくてまずいと感じるはずです。実際、「病院食は薄味でまずい」とよく言われます。

減塩するのに早すぎるということはありません。中年になってからとか、高齢になってからとかは関係ないのです。気づいたときから減塩生活を心がけ、薄味に舌を慣れさせておく。それが大きな病を抱えて慌てる前に、日々の生活のなかでできる防衛策なのです。

■経口補水液に「塩味」を感じられるか

ではここで一つ、自分の舌がはたして濃い味好きか、薄味好きかを判断する方法をご紹介しましょう。

経口補水液を1本、用意してください。所ジョージさんが宣伝している「OS-1」というのが有名ですね。先ほども少しふれましたが、暑いときや熱を出したときにお世話になったという人もいるでしょう。

あのキャップに1杯、経口補水液を入れ、コップなどに移してください。次に、キャップに同量の水を注ぎ、先ほどの経口補水液が入ったコップに、水を足してください。要するに、経口補水液を同量の水で割るということです。

それを飲んでみて、塩味を感じたでしょうか。

しょっぱいと感じた人は、薄味の舌です。「ちょっとしょっぱいかな」というくらいでしたら、ふつう。全然塩味が感じられないという人は、濃い味好きで確定です。いかがでしたか。

塩味が感じられなかった人はちょっとショックだったかもしれません。しかし、これまで濃い味が好きだったからといって、もう手遅れだと悲観しないでください。少しの間だけ辛抱して減塩生活を続けていれば、舌はだんだんと薄味に慣れてくれます。

■1週間がんばると「薄味」に慣れる

では、どのくらい辛抱すれば、薄味をおいしく感じられるようになるのでしょうか。

濱裕宣・赤石定典『はじめての減塩』(幻冬舎)

病院の入院患者さんたちを見てきた経験上、その期間はだいたい1週間です。入院直後に「こんな味のないまずいもの、食えないよ」と不満をもらす患者さんはたくさんいますが、1週間ほど経ってみると「これまで自分の舌がおかしかった。今じゃおいしく食べているよ」なんて言うようになるケースが少なからずあります。1週間なら、ちょっとがんばってみようかなという気にもなるのではないでしょうか。

ひとたび薄味に慣れると、今度は外食がとても濃い味に感じるようになります。なかには「退院したら、しょっぱすぎて外食ができなくなった」という極端な人もいます。

要するに大切なのは、「濃い味に舌を慣れさせないこと」。今からでも舌は薄味に反応してくれるようになりますから、まずは1週間、減塩生活を続けてみましょう。

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濱裕宣(はま・ひろのぶ)
東京慈恵会医科大学附属病院 栄養部 課長
管理栄養士。1988年佐伯栄養専門学校卒業後、東京慈恵会医科大学附属第三病院栄養部入職。分院を経て、2013年附属病院へ異動、現在に至る。
赤石定典(あかいし・さだのり)
東京慈恵会医科大学附属病院 栄養部 係長
管理栄養士。1991年華学園栄養専門学校卒業後、東京慈恵会医科大学附属病院栄養部入職。分院を経て、2014年附属病院へ異動、現在に至る。

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(東京慈恵会医科大学附属病院 栄養部 課長 濱 裕宣、東京慈恵会医科大学附属病院 栄養部 係長 赤石 定典 写真=iStock.com)

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