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日本人にこそ一生涯の筋トレが必要なワケ

プレジデントオンライン / 2019年6月3日 9時15分

心身の健康を長期にわたって維持する方法として、これまでウォーキングや水泳といった有酸素運動が勧められてきた。しかし、理学療法士の庵野拓将氏は「私は有酸素運動より筋力トレーニングをすすめる。筋トレにはがんなどの病気をはじめ、睡眠改善やうつ病を回復させる効果がある」という――。

※本稿は、庵野拓将『科学的に正しい筋トレ 最強の教科書』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■筋トレは病気の死亡率を下げることが可能

2013年、アメリカ・スローンケタリング記念がん研究所のレマンヌらは、世界で初めて「筋トレ」と「がんの死亡率」の関係を明らかにしました。

がんと診断された18歳から81歳の男女2863名を対象に、筋トレによる死亡率への影響を調査したのです。その結果、トレーニングを1週間に1回以上行っている場合、トレーニングをしていない場合と比べて、がんの死亡率が33%減少しました。

レマンヌらは、「健康増進のためには有酸素運動だけでなく、フィットネスでの筋トレを促すべきである」と述べています。

またその後、筋トレへの期待は、がんによる死亡率の減少だけでなく、すべての病気による死亡率を下げることもわかりました。

アメリカ・ミシシッピ大学のダンケルらは、病気による死亡率と筋トレの関係について疫学的調査を実施し、20歳以上の男女8772名を対象にして平均6.7年の追跡調査を行っています。その結果、トレーニングを継続的に行っている場合、トレーニングをしていない場合に比べて「すべての病気の死亡率が23%減少する」ことが示されたのです。

また、この死亡率の減少は、1週間に2~3回の頻度で継続的にトレーニングを行っている場合に有意であり、それ以上(例えば週5回)では死亡率の減少効果が低いことが明らかになりました。

■「週2~3回」がちょうどいい理由

「週2~3回」が最適な理由のひとつに、「トレーニングの継続性」が挙げられています。
例えば、週5~7回のトレーニングを行うとします。その場合、ほぼ毎日トレーニングを行うことになり、心的飽和や疲労で継続することが難しくなるのです。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Yagi-Studio)

そして2017年、シドニー大学のスタマタキスらによって、かつてないほどの大規模調査が行われました。30歳以上の男女8万306名を対象に、週2回以上のトレーニングと週150分以上の有酸素運動が与える「がん」と「すべての病気」による死亡率への影響が調査されたのです。その結果、がんによる死亡率は31%減少し、すべての病気による死亡率は23%減少することが明らかになりました。

また、「ジムでのトレーニング」と「家での自重トレーニング」による、影響も調査しています。結果は、ジムでも家でも同等の死亡率の減少を示し、両方の環境で行えばさらなる死亡率の減少が示されています。

「ジムでのトレーニング」と「家での自重トレーニング」による影響

トレーニングが死亡率を減少させるメカニズムには、次のことが挙げられます。

・トレーニングによる血圧低下
・糖尿病のリスク低下
・グルコース代謝の改善
・全身性炎症の減少
・抑うつ症状の軽減
・認知機能の改善
・筋肉量の維持・増加

スタマタキスらの報告は、先立って明らかとなっていた「習慣的(週2回以上)な筋トレは、がんの死亡率を3割減らし、すべての病気による死亡率を2割減らす」という事実を改めて裏付けたのです。

■時間は変わらないのにぐっすり眠れるように

忙しいビジネスパーソンにとって、睡眠をいかにとるかは重要な課題です。仕事による不規則な生活は、肉体だけでなくやがて精神にも不調をきたします。

アメリカの精神科医オークランダー氏も、仕事の忙しさで心身に大きな疲労を感じているひとりでした。そこで、自分が受け持つ患者によく提言している「運動の重要性」を、自ら実践することにしました。トレーナーを迎え、筋トレを開始したのです。

そして、1カ月が過ぎた頃、自身の身体に起こった明らかな変化を次のように述べています。

「睡眠時間は少ないにもかかわらず、ぐっすりと眠れるようになりました。そして、エネルギーに満ちあふれている自分に気づきました」

これを裏付けるかのように2017年7月、マクマスター大学のコワセヴィッチらは、筋トレと睡眠に関する13の研究報告をまとめて解析したメタアナリシスの結果を発表しました。その結論は次のようなものです。

「筋トレは、睡眠の時間(量)は増やさないが、睡眠の質を高める」

習慣的に筋トレを行っている人の場合、睡眠時間は増えないものの、浅いノンレム睡眠(ステージ1)を減少させ、深いノンレム睡眠(徐波睡眠)を増加させることが示されました(図表3)。つまり、相乗効果によって睡眠の質が高まるのです。

筋トレは、睡眠の時間(量)は増やさないが、睡眠の質を高める

またこの事実に加え、筋トレの「総負荷量」「週の頻度」が睡眠に与える影響についても統計的な解析を行いました。そして、「総負荷量」と「週の頻度」は、睡眠の質の改善に寄与することがわかったのです。

「総負荷量」は、運動強度に対し、運動回数やセット数を乗じたものです。睡眠の質は、少ない総負荷量よりも高い総負荷量で改善し、少ない頻度(週1~2回)よりも多い頻度(週3回)で改善することが示されました。

■不安を持ちやすい日本人にこそ向いている

筋トレは、睡眠の質をどのようなメカニズムで改善するのでしょうか。主な効果は次のとおりです。

・筋トレ後の、睡眠中の体温が上昇する。これによって徐波睡眠を誘発させる
・筋トレによる心拍数の増加が【※】迷走神経を活発にする。これによって睡眠時は心拍数が下がり、睡眠の質が改善される
・筋トレは不安を解消する。これによって脳由来の神経栄養因子(BDNF)を増加させ、睡眠の質を改善する

※延髄から出ている末梢神経。大部分が副交感神経からなる。

そのほかにも、グルコースの代謝、成長ホルモンの増加などが睡眠の質を改善すると推察されています。

コワセヴィッチらの発表は、世界で初めて「筋トレが睡眠の質を高める」というエビデンスを示しました。習慣的にトレーニングを行うことによって、睡眠の質を高めることが示唆されたのです。

日本人は欧米人に比べて、不安障害やうつ病が多いことが知られています。

精神医学や脳科学では、この原因をセロトニンの発現量の違いであることを明らかにしています。日本人の97%は脳内のセロトニン発現量が少なく、ネガティブなことに対して強い不安をもちやすいのです。

「不安」とは、人間の生存本能として持つ不可欠な感情ですが、過度な状態が続くと最終的には不安障害やうつ病という、心の病気へと広がります。そこで、精神医学やスポーツ科学では、投薬や認知行動療法の補助的手段として、有酸素運動を推奨しています。

これは、幸福感を高めるセロトニンやエンドルフィンといった神経伝達物質、神経成長因子の関与が不安を抑えていることに寄与します。

そして近年では、「筋トレ」も不安を解消する運動として注目を集め始めています。

■心の平穏には日々のトレーニングが重要

2017年に世界で初めて、筋トレと、不安やストレスとの関係を調査した16の研究報告をまとめて解析したメタアナリシスが報告されました。筋トレは、健常者の不安を大幅に改善させるとともに、不安障害などの患者の不安も改善することが示されたのです。

また、これらの改善効果は、性別、年齢の影響も受けません。つまり、筋トレを生涯にわたって継続すれば、心の不安を和らげて暮らしていくことができます。

庵野拓将『科学的に正しい筋トレ 最強の教科書』(KADOKAWA)

また筋トレは、うつ病への効果もあります。

運動をしない人に比べ、運動をする人は、心身の健康が悪化した日が過去1カ月で1.49日少なかったのです。なお、過剰な運動はメンタルへの悪化に繋がることもわかりました(1回3時間、週5回以上)。

筋トレを行っていた被験者では、週3~5回、1回45分以上のトレーニングで20.1%にメンタル改善の効果が認められたのです。

先に述べたとおり、日本人は特にセロトニンの発現量が少なく、不安障害やうつ病を発症させやすい性質をもっています。もし、心に違和感を覚えることがあれば、ぜひ次の言葉を思い出してください。

「不安、落ち込み、ストレスを感じたときは、筋トレをしよう!」

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庵野 拓将(あんの・たくまさ)
理学療法士、トレーナー、博士(医学)
大学院修了後、大学病院のリハビリセンターに勤務。けがや病気をした患者やアスリートのトレーナーとして、これまで延べ6万人の体づくりに携わってきた。大学病院では、世界最先端の研究成果を現場でのトレーニングにフィードバックするため、研究発表、論文執筆も行っている。筆名・庵野拓将として、筋トレ、スポーツ栄養学をはじめとする最新の研究報告を紹介するブログ「リハビリmemo」を主宰。

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(理学療法士 庵野 拓将 写真=iStock.com)

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