「早慶に一番入りやすいのは高校」の真偽

プレジデントオンライン / 2019年6月9日 11時15分

「プレジデントFamily2019夏号」(6月5日発売)の特集は「わが子を慶應に入れる」。慶應OBの経営者インタビューや、付属校の受験問題の傾向・対策のほか、早稲田・慶應、MARCH、関関同立など私立大付属校から大学への進学数なども紹介。

日本を代表する2大私学、早稲田と慶應義塾。どちらも大学進学につながる小学校、中学校、高校がある。それではどの時点で受験するのが最も入りやすいのか。中学受験塾を主宰する矢野耕平氏が「高校が一番入りやすい」という噂の真偽を検証する――。

■私立大学の頂点はやはり「早慶」

「週刊東洋経済」の特集「最強私学はどっちだ? 早稲田vs慶応」(5月11日号)が受験業界で話題を集めている。また「プレジデントFamily2019夏号」(6月5日発売)は、はじめて「わが子を慶應に入れる」という特集を組んだ。「早慶」の人気は、この数年、さらに高まっているようだ。

早稲田大学の起源は1882年(明治15年)に設立された「東京専門学校」だ。創設者の大隈重信は、建学の精神として「学問の独立」を掲げた。父親、祖父と三代に渡って早稲田大学で学んだ予備校講師の田島圭祐氏は、早稲田の魅力をこう語る。

「早稲田は雑多としていて、自由な雰囲気が魅力です。京都大学に近いものがあるかもしれない。飾らない学生が多いですね。サークルの中にはかなり専門性の高いものがあり、そのまま社会に直結しているようなものも数多くありますし、著名な卒業生がゼミにふらっとやってきて、そこでつながれるような環境が用意されています」

一方、慶應義塾大学の創立者は福沢諭吉である。その起源は1858年(安政5年)に中津藩士の福沢が江戸築地(現在の東京都中央区)に開いた蘭学塾だ。建学の精神は「独立自尊」である。

慶應義塾の一貫体制に見られるのは「ファミリー意識」である。小学校から大学・大学院に至るまで、慶應義塾という「学園」に囲い込むような教育がおこなわれている。

その象徴は「連合三田会」だろう。これは慶應義塾の同窓会のことであり、「年度別」「地域別」「職域別」など計900近い団体があり、多くの卒業生が属している。

連合三田会のウェブサイトには「慶應に入学して良かったと思うのは、大学を卒業してからかもしれません」という文言が躍っている。この「慶應ネットワーク」に助けられた経験を持つという卒業生は多い。同業他社の情報交換だけではなく、転職の斡旋がおこなわれることもある。

この魅力あふれる早慶にわが子を入れるためには、どうすればいいのか。小学・中学・高校・大学というそれぞれタイミングで、合格に必要なポイントを解説していこう。

■早慶付属の小学校受験は「知力」が求められる

現在、小学校受験教室や学習コーチングの講師を務める齊藤美琴氏(慶應義塾中等部から慶應)は小学校から早慶を狙うために必要な条件をこう話す。

「小学校受験では、親子面接があり、そのご家庭の日々の暮らしが問われるといってよいでしょう。子がペーパーテストなどの受験準備に努めればそれでよいというわけではない。小学校側は家庭と一緒になって子を成長させられるか。それにふさわしい家庭・親であるかどうかを見極めようとしているのです」

小学校から早慶進学を考えた場合、3校が挙げられる。

慶應義塾大学の付属では「慶應義塾幼稚舎」「慶應義塾横浜初等部」、そして早稲田大学の系属校である「早稲田実業学校初等部」である(いずれも共学校)。入試はかなり狭き門であり、昨秋の実質倍率は、慶應義塾幼稚舎は10.2倍、慶應義塾横浜初等部は13.0倍、早稲田実業学校初等部は7.38倍だった。

前出の齊藤氏はこう言う。

「早慶の小学校受験では保護者自身が合否を踏まえ、『どうして不合格になってしまったのだろう?』、逆に『なぜ受かったのだろう?』と、その結果を受け止めることが多いのです。求められているのは詰め込まれた知識ではなく、親が身の回りのことにどれだけ関心を持って過ごさせているか、子を通して家庭環境を見られているのではないか。たとえば、子の感受性やコミュニケーション能力などがそれに当たります」

■幼稚舎出身者が慶應のカルチャーをつくる

一方、小学校から大学まで一貫で学ぶ弊害はないのだろうか。エスカレーター式に大学まで進めることが約束されているので、勉学をおろそかにしてしまうこともあるのではないか。齋藤氏も「確かに、小学校から上がってきたいわゆる『内部』の子の中には中学校や高校で留年する場合もある」と言い、大学から慶應義塾に入った学生によれば「語学の授業で苦労しているのはやはり付属校、それも小学校から上がってきた子が多いように思う」という意見もあった。

ただ、慶應義塾大から商社や銀行など一流企業への高い就職率を考えるとさほど問題視することもないのかもしれない。斎藤氏によると、小学校から大学まで上がってきた子たちの多くにみられる共通点があるという。

「ずっと一貫校で過ごしているわけですから、のびのびとしたムードメーカーになる人が多いですよ。とりわけ慶應は縦や横のつながりを大切にしますので、そういう人たちはそこを上手に活用していますね。そういうこともあってか、大人になって社会で活躍している人ばかりですよ」

前述した「三田会」の存在もあり、慶應OBの結束力は他大を圧倒しているといえる。

■中学受験では早慶付属に「穴場」があるのか

それでは、中学受験ではどうか。首都圏の早慶付属(系属)校に目を向けると、次の選択肢がある。

早稲田大学の大隈講堂(写真=iStock.com/mizoula)
●早稲田大学高等学院中等部(男子校)、早稲田実業学校中等部(共学校)、早稲田中学校(男子校)
●慶應義塾普通部(男子校)、慶應義塾中等部(共学校)、慶應義塾湘南藤沢中等部(共学校)

もちろん、6校とも難関校の一角に位置している。なお、系属校の早稲田中学校高等学校からは早稲田大学進学者はおよそ半数であり、残りは東京大など難関国公立大へ進む者も多い。

どの学校の入試も基本的には算数・国語・理科・社会の4科目実施だが、2019年度入試より慶應義塾湘南藤沢中等部で大きな入試制度改革がおこなわれた。この従来の4科目入試とは別に、算数と国語に英語を加えた合計3科入試が選択できるようになったのだ。帰国生でなくとも、幼少時より英語学習を本格的に取り組んできたような子にも門戸が開かれたということである。

中学から入れる早慶付属(系属)は地方にもあり、そのうち2校は「お買い得」と言えるかもしれない。

1校は共学校の「早稲田佐賀中学校」だ。佐賀県と聞いてピンとくる人もいるだろう。そう、早稲田大学の創設者・大隈重信は、佐賀藩藩士の長男であった。その生誕の地に開校したのである。創立は2010年。まだまだ新しい学校である。この学校の中学入試は首都圏会場(早稲田大学)も設けている。中高そして男女ともに寮制度も導入していて、首都圏から入学する子も多いのが特徴的だ(毎年1月に都内で受験できる)。

大手塾「四谷大塚主催『合不合判定テスト』2019結果偏差値一覧表(80%ライン)」によると、早稲田佐賀の男子は偏差値54・女子56となっている。

そして、もう1校は大阪府茨木市にある共学校の「早稲田摂陵中学校」だ。2009年度よりそれまでの摂陵中学校が早稲田大学の系属校となり、寮制度も整えた。偏差値は男子44・女子45である。

早稲田実業の偏差値は男子64・女子69、早稲田中学の偏差値は64、早稲田大学高等学院中等部の偏差値が63であることを考えると、早稲田佐賀と早稲田摂陵は入り口のハードルが低いと言える。ただし、気をつけなければならない点がある。

今春、早稲田佐賀の卒業生数194人のうち、早稲田大学への推薦者数は109人。全員が早稲田への道を約束されているわけではないのだ。早稲田摂陵にいたっては、卒業生数317人のうち早稲田大学への推薦者数はたったの31人。10%にも満たない。

■慶應義塾ニューヨーク学院は入りやすいが高コスト

それでは、慶應義塾大学の付属校にはこのような「お得校」はあるのだろうか。

慶応義塾大学(写真=iStock.com/mizoula)

慶應の場合、普通部も、中等部も、湘南藤沢中等部も、ほぼ100%エスカレーター式で大学まで進学できるため、合格するのは大変だ。しかし、アメリカのニューヨークにある「慶應義塾ニューヨーク学院」は比較的入学しやすく、大学進学もできる。妹が同校に進学したという慶大の卒業生は言う。

「慶應ニューヨークは、中3~高3までの4年制なんですね。AOを含め年3回の入試があります。倍率は昔より上がっているとはいえ、他の一貫校の高校入試が倍率3倍を越えることを考えると、一定の英語力があったり、経済的に余裕があったりする場合には『入りやすい』といえます。ただ、かなりの出費を覚悟しなければいけません」

聞けば、もし、親の仕事が現地駐在員ではなく、子供だけを送りだす場合、寮費・施設設備費含む学費だけで年間約500万円かかるという。つまり、大学へ入る前の4年間で2000万円、さらに小遣いや渡航費などを含めたらもっと費用がかかることになる。慶應ニューヨーク学院は富裕層や高収入層の家庭の裏技的な選択肢かもしれない。

■高校受験は「早慶」とひと括りにして受験する

つづいて、高校受験の早慶付属校の入試日程(2019年度)を見ていこう。

この日程を見ると、男子は各最大3校(帰国生は4校)の、女子は各最大2校(帰国生は3校)の早慶付属(系属)校に合格できる。大手予備校や進学塾の戦略によるが、男子の高校受験生たちは「早慶」と一括りにして受験する傾向にある。つまり、「早稲田のみ受験」「慶應のみ受験」というケースは稀であるということだ。

■「早慶に一番入りやすいのは高校受験」は本当か

男子であれば、受験業界ではしばしば「早慶に一番入りやすいのは高校受験」と言われることがある。同学年の学力レベルの高い層が中学受験でごそっと抜けた後の高校受験なので、難関の早慶付属(系属)といえども入りやすいと言われる。慶應義塾高校の定員が約370名(帰国・推薦を含む)、慶應義塾志木高校が約230名(帰国・推薦を含む)、早稲田大学高等学院が約360名(推薦を含む)と、小学校や中学校より合格定員は多い。

実際どうなのだろうか。大学受験と高校受験で現代文の指導を長年おこなっている武川晋也講師はこう語る。

「高校入試で早慶に合格できるか否かは、『本人の成長度』次第です。15歳という多感な年齢で内的成長にバラつきが見られる中で、どれだけ各科目に対して真摯に自律的に学んできたかで大きな差がつきます。だから、かつて受けた中学入試で燃え尽きてしまっているようなタイプで、私立中学校から早慶を目指したい、そして、親が中学入試でのわが子の失敗を高校受験でリベンジさせたいと思うようなところは、高校受験の過程のどこかで『頭打ち』になってしまうことがよくあります」

■高校から早慶付属校に合格しやすいタイプとは

そして、優秀な男子の高校入試は「早慶」と一括りにして受験する傾向にあると申し上げたが、ここにはリスクがある。早慶付属(系属)にこだわって入試日程を組んでいき、結果としてすべて不合格だった場合、不本意な進学先しか残らないことがあるからだ。

筆者・矢野耕平氏の著書「旧名門校 VS 新名門校 今、本当に行くべき学校と受験の新常識がわかる!(SB新書)」。

それでは、どのような子が早慶付属校に合格しやすいのだろうか。武川氏は即答した。

「とにかく数学が『抜けて』できる子は合格する可能性が高いですね。換言すれば、英語や国語がそこそこできても、数学で四苦八苦しているようでは合格を勝ち取るのは難しいといえます」

高校入試では、数学の得点結果の標準偏差値が大きい、つまり、数学は高得点を取れる子と、低得点になってしまう子という二極化が起こりやすい。

補足ながら、優秀な女子受験生については「早稲田」か「慶應」のどちらを選ぶか、早めに決める必要がある。入試日程を見ると理解できるように、2月10日に「慶應義塾女子高校」と「早稲田実業学校高等部」がぶつかっている。そして、男子よりも定員が少ないため、それぞれハイレベルな争いになる。

■大学受験は「早稲田」「慶應」で対策法が大きく異なる

最後は、大学受験である。高校入試とは異なり、大学受験は「早慶」とひとくくりで考える受験生は少ないという。なぜか。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/mizoula)

前出の予備校講師・田島圭祐氏は早稲田大学・慶應義塾大学でそれぞれ入試問題に次のような特性が見られるという。

「たとえば、国語の入試問題の構成は早稲田と慶應では大きくちがいます。早稲田は現代文に古文、学部によっては漢文が加わります。難度は高いもののいたって標準的な構成といえるでしょう。それに対して、慶應は論文形式の出題が多く、文章の要約や意見記述が中心です。英語については、早稲田はバラエティに富んだ問題が出題されるといわれている一方で、慶應は飛びぬけて難度の高い長文に挑まなければいけません。これだけ入試問題傾向が異なるので、早稲田と慶應を『併願』して受験する子はさほど多くはないですよね」

■難化する大学入試、中学・高校受験は検討価値あり

近年、首都圏の大学私立入試は難化の一途をたどっている。現役で早慶に合格するためには、これまでより高い学力が要求されるのだ。その詳細については「中学受験のMARCHシフトが加速する理由」という記事で解説している。

その中で河合塾・現代文講師の小池陽慈氏はこう話していた。

「2016年度からの『定員厳格化』の影響で大学入試が難化しています。数年前であれば現役で早慶に合格できた受験生がどんどん不合格となり、浪人しています。その浪人生たちと現役生たちが熾烈な争いを繰り広げているのです。また難化しているのは早慶だけではありません。GMARCH、そして、日東駒専や女子大なども狭き門になっています」

こうした大学入試の難化を考えると、「わが子を早慶に入れたい」という親にとっては、中学校や高校からの受験を検討する価値はあるといえるだろう。ぜひ参考にしていただきたい。

(中学受験専門塾スタジオキャンパス代表 矢野 耕平 写真=iStock.com)

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