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リクシル会長が謀る株主総会の"情報操作"

プレジデントオンライン / 2019年6月7日 15時15分

記者会見で、辞任の意向を表明したLIXILの潮田洋一郎会長兼最高経営責任者(CEO)(左)と山梨広一社長兼CEO=2019年4月18日、東京都港区(写真=時事通信フォト)

■記者たちが会社法を正しく理解していない

LIXIL(リクシル)グループの経営権争いが佳境を迎えている。対立しているのは、創業家出身の潮田洋一郎会長兼CEOと、その潮田氏にCEOを「解任」された前社長の瀬戸欣哉氏だ。6月25日の株主総会で対立は決着を迎える。

多くのメディアがこの騒動を報じているが、いずれも正確性を欠いている。例えば委任状争奪戦をプロキシーファイトと同義に捉えている点がそうだろう。株主総会で会社側と株主側が対立することはあまりないから誤った記事が出るのだ。今回はそうした間違いを正すとともに、会社と株主が対立する株主総会で、会社側がどれだけ有利に事を運べるのかを検証したい。

■委任状とは「議決権行使をしません」というもの

3月期決算企業の定時株主総会招集通知はちょうど今ごろ、株主に届く。LIXILグループの株主にも招集通知が届いているはずだが、その封筒の中に「委任状」は「議決権行使書」と共に入っている。

「委任状」を理解するために、まずは「議決権行使書」について説明しよう。

今回の株主総会でLIXILグループは3つの議案を提案している。1号議案は、会社側が提案する取締役候補の選任。2号議案は、会社側と株主側の双方が提案している取締役候補の選任。3号議案は、株主側が提案する取締役候補の選任。

このうち、会社側と株主側の双方が提案しているという「2号議案の不思議」については後で説明するとして、議決権行使書はそれぞれの議案の賛否を問うていることをまずは理解していただきたい。

委任状はこの議決権行使をせず、「判断はお任せする」というもの。会社側が送って来た招集通知や議決権行使書に含まれている委任状を返送すると、会社の判断に委ねるという意思表示となる。会社側は「1号議案と2号議案に賛成し、3号議案には反対する」ことを求めているので、それが株主の意思となる。

一方、株主が株主提案に賛成する場合は、委任状を返送せず、2号議案と3号議案に賛成を書き込んだ議決権行使書を送るという作業が必要である。

さて会社側、瀬戸氏サイドの双方が「委任状を送ってほしい」と株主に呼び掛けていれば、「争奪戦」といえるが、瀬戸氏サイドは委任状を株主に送付していない。だからLIXILグループの株主総会は、厳密に言うと委任状「争奪戦」ではない。

■瀬戸氏側が委任状を配っていないワケ

委任状争奪戦は、プロキシーファイトの日本語訳として定着している。プロキシーファイトとは、双方が相手の議案を否決するよう求めること。LIXILグループの場合、会社側は「1号議案と2号議案に賛成し、3号議案には反対する」ことを求めており、対する瀬戸氏サイドは「1号議案には反対し、2号議案と3号議案に賛成する」ことを求めているから、プロキシーファイトはしているのである。

委任状争奪はしていないが、プロキシーファイトはする。瀬戸氏サイドが分かりにくい対応をしているのは、株主から送られてきた委任状を受け取り、それを株主提案への賛成票としてカウントする作業が煩雑なためだ。

株主総会に詳しいコンサルタント会社の担当者は「相当な資金力とマンパワーがないと、株主提案をしている側が委任状争奪を仕掛けるのは難しい」と指摘する。株主総会で会社と株主が争うといっても、株主提案は圧倒的に不利なのだ。

■会社側に都合の良い情報を正す手段が少ない

株主提案が劣勢に立たされやすい理由は他にもある。

多くの個人株主は議決権行使をする際に、判断のよりどころとして会社側から送られて来た招集通知を見ることだろう。LIXILグループの通知を見ると、1ページ目に「当社取締役会および指名委員会は、株主様から提案された第3号議案には反対」との記述が赤字で書かれ、その理由を8~9ページと26~34ページで詳述している。

8~9ページに書いてあることをかみ砕くと、「会社側が考える取締役に必要な資質に合致しない候補者が株主提案の中にはいる」ということだ。

ここでいう「必要な資質」は別途書かれており、例えば「海外M&Aや海外事業・海外子会社のリスク管理に関する知見・経験」などとあるのだが、それでは会社提案の候補者は、すべてこの必要な資質を満たしているのだろうか。

例えば社内取締役候補の大坪一彦氏。LIXILグループ幹部に聞いてみると、「確かに会社提案にある社内取締役候補の大坪一彦さんは国内営業一筋の人。英語をしゃべっているのは聞いたことがない」という人物評だった。しかし、こうした記述は招集通知にない。

会社側が出す通知だから、会社側の情報と株主側の情報に偏在があるのは仕方がない。しかし、株主提案サイドが招集通知の誤解や誤りを株主に知らせる手段はメディアを通じて発信するなど、手段が極めて限られている。

■会社が推す取締役候補に関する"疑惑"

さらにこんな問題も起きている。

多くの企業は会社とのなれ合いを避けるため、社外取締役の適格要件として「独立性基準」というものを定めている。LIXILグループの場合、例えば以下の基準に抵触する人材は取締役候補から外している、としている。少々長いが引用しよう。

「弁護士、公認会計士、税理士、コンサルタントその他の専門的アドバイザーとして、当社グループから役員報酬以外に年間1000万円以上の金銭その他の財産上の利益を得ている者、又は当該利益を得ている者が弁護士法人、法律事務所、監査法人、税理士法人、コンサルティング・ファーム等の法人、組合その他の団体である場合には、当社グループから年間に弁護士法人等の総収入の2%を超える金銭その他の財産上の利益を得ている弁護士法人等に所属する者」

これに対して6月3日、瀬戸氏はこんな趣旨の質問状を会社側に送っている。

「会社提案の取締役候補であるカート・キャンベル氏について、独立性に問題はないと指摘しているが、LIXILグループは同氏が設立したコンサルティング・ファームに対して2015年から16年にかけて年間約4500万円、16年から17年にかけては同約2600万円の契約を結んでいる。これはキャンベル氏のコンサルティング・ファームの総収入の2%を超えているはずだ」

■会社側の言い値が通る「取締役候補の提案」

会社側はどう回答しているか。

「キャンベル氏のコンサルティング・ファームは規模が大きく、支払ったおカネは同社の総収入の2%未満。ただ、コンサルティング・ファームの総収入を開示することはできない」

さて招集通知にはどう書かれているか。キャンベル氏の独立性に関する会社側の見解はこうある。

「同氏との間にはコンサルティング・アドバイザリーに関する取引がありますが、直近事業年度において800万円未満であり……」

「直近事業年度」のことにしか触れておらず、それ以前にケタの違うコンサルティングフィーを支払った事実は書かれていないのである。

LIXILグループの株主総会で、会社側が事を有利に運ぼうとしている最も大きなポイントは次のところだろう。

もともと瀬戸氏サイドは、鬼丸かおる氏、鈴木輝夫氏、西浦裕二氏、濱口大輔氏、伊奈啓一郎氏、川本隆一氏、吉田聡氏、瀬戸氏の8人を取締役候補として提案した。

その後、会社側は内堀民雄氏、河原春郎氏、竹内洋氏、福原賢一氏、三浦善司氏、大坪一彦氏の6人と、株主提案の候補として名乗りを上げた鬼丸氏と鈴木氏の合計8人を提案。その後、松崎正年氏、キャンベル氏の2人を加えている。つまり株主提案の2人の取締役候補者を株主提案とし、合計10人を選ぶよう求めた。

■株主提案候補も自陣に入れる策略

その後、鬼丸氏と鈴木氏は「我々は株主提案の候補者であり、会社提案の候補にはして欲しくない」という声明を出したが、招集通知には「会社提案の候補者でもある」と記載され、注記として小さく「2名からは2019年5月28日時点において、会社提案の取締役候補としての就任について承諾を得ておりません」と書かれている。

会社法上、当事者が拒否しても、会社側の候補として提案することは可能だから、こうしたことが起きるのだ。

株主総会の主催者である会社側が事を有利に運ぼうとするのは当然かもしれない。そうした実態を、コーポレートガバナンスコードやスチュワードシップコードに従うことが求められている機関投資家は公平に見ている。しかし個人投資家は情報量が圧倒的に少ないため、会社側の「情報操作」に乗ってしまいがちだ。

これまで潮田氏は、たった3%の株式しか持たないのに、創業家出身としてLIXILグループで強い影響力を行使してきた。会社側の取締役候補は「潮田氏の影響は受けていない」と主張するが、「何がなんでも瀬戸氏のCEO復帰は阻止したい」という潮田氏の意向を色濃く反映している会社提案が、果たして否決されるかどうか。会社側の「情報操作」の結果は、6月25日の株主総会で示されることになる。

LIXILグループ 第77回定時株主総会招集ご通知

(プレジデントオンライン編集部 写真=時事通信フォト)

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