人の弱みをしゃぶる"盗撮ハンター"の手口
プレジデントオンライン / 2019年7月16日 9時15分
犯罪編▼加害者が被害者に、被害者が加害者に
▼盗撮ハンター
■盗撮犯の弱みをしゃぶるハイエナ
スマホの普及や撮影機器の小型化を背景に、盗撮が増えている。盗撮は都道府県の迷惑防止条例によって禁止されている。どんな行為が該当するかは、都道府県によって若干異なる。弁護士の佐藤大和氏は次のように解説する。
「基本的に無断で性的興奮を覚える対象を撮影した場合には盗撮に該当する可能性があります。なお、洋服を着ている女性のおしりを撮影しても条例違反になる可能性はあります」
東京都の迷惑防止条例を違反する具体例を撮影場所、撮影対象、禁止行為に分けて整理すると図1のようになる。撮影をしていなくてもカメラを向けたり、設置したりしただけで違反だ。
違反した場合には、図1のような罰が科される。
「実際に盗撮で逮捕された場合、被害者と示談が成立すれば起訴されないことも多いです。示談できなかった場合には、略式起訴になり数十万円の罰金というケースが多いです」
このように盗撮自体が犯罪だが、盗撮した人を狙った犯罪が増えているという。盗撮ハンターだ。
「女性と男性がグルになったり、女性と関係があるふりをして、盗撮した人を脅迫するのです」
グルの手口はこうだ。女性はミニスカートを着用して、エスカレーターなどを往復する。一方で数人の男性が見張り役となり、盗撮者が現れるのを待つ。盗撮を確認すると見張り役の男性たちが近寄り、恐喝する。
時には、携帯を取り上げ、免許証などの提示を求め「この場で100万円支払うのであれば、示談にする」と脅す。盗撮した側は負い目があるので、支払ってしまうケースが多いという。
お金がない場合は、クレジットカードを利用して、新幹線の回数券を買わされるケースもある。それを換金して示談金にするわけだ。
「現金化目的で買ったチケットを換金する行為は、カードの会員規約等の違反や、都道府県の条例違反等になる可能性もあります。そもそも盗撮は決して行ってはならない行為ですが、盗撮ハンターの行為は犯罪です。盗撮ハンターの要求に応じてはいけません」
▼ネットトラブル
■#MeTooが名誉毀損に!?
いつでも、どこでも世界中の人とつながるネットの世界。その利便性は誰もが認めるところだが、半面、取り返しのつかない事態を招くこともある。
「特に増えているのは脅迫や名誉毀損に問われるケースです」
たとえば、嫌いなタレント等のツイートにリプライ(返信)する形で「殺してやる」などと書き込み「脅迫」として逮捕されるケースが増えているという。
「“直接脅迫”しているかどうかが重視されますから、相手のアカウントにリプライをすると警察が動きやすいのです」
■つぶやく程度ならリスクは低い
著名人の悪口は、自分のアカウントでつぶやく程度ならリスクは低いが、著名人本人のアカウントにリプライするのはやめたほうがよさそうだ。
書き込む言葉によっても変わる。「殺す」は完全に脅迫だが「消えろ」はグレー。その意味が「テレビから消えろ」かもしれないので、生命・身体への危険が明白ではないからだ。
「また、SNSに送信を繰り返せば迷惑行為になりえます」
迷惑行為の場合には、迷惑行為防止条例が適用される。盗撮やつきまとい行為などと同じ扱いだ。東京都の迷惑防止条例の改正により第5条の2では、「拒まれたにもかかわらず電子メールの連続送信、SNSなどへ連続送信する」ことが迷惑行為として追加された。これに違反した場合には1年以下の懲役または100万円以下の罰金(常習者の場合は2年以下の懲役または100万円以下の罰金)となる。
「もう1つ勘違いしやすいのは“真実であれば名誉毀損にならないだろう”との考え方です」
仮に内容が真実であったとしても、相手の信用や名誉を下げる行為、つまり社会的評価を下げる行為であれば、名誉毀損となりうる。たとえば、万引している子どもを見つけて、その動画をアップロードすれば、名誉毀損になる可能性が高い。相手が違法なことをしていても、相手の社会的評価を下げるような行為は名誉毀損の対象になりうる。第三者が名誉毀損となる内容をツイートしたときに、それをリツイートするのも同様だ。
実際に名誉毀損を問われるケースでは、刑事裁判と民事裁判の対象となる(図2)。刑事裁判では原則として刑法第230条の規定に違反した場合に犯罪となる。一方で、名誉毀損によって生じた損害等を請求するのが民事裁判だ。民事裁判では、損害賠償や慰謝料などの支払いが命じられる可能性がある。
「芸名で活動しているAV女優の本名を暴露して高額な損害賠償に問われたケースもあります」
私生活に影響を及ぼさないための芸名活動で本名を暴く行為は、名誉毀損に該当するわけだ。
性的嫌がらせなどの被害体験をSNSを介して告白・共有する「#MeToo」も慎重に行うべきだ。公共性や公益目的などがなければ名誉毀損になったり、損害賠償の対象となったりする。たとえば、個人が特定される方法で相手の「セクハラ」を告発した場合には、相手の社会的評価を低下させることにつながる。結果、名誉毀損が成立する可能性もあるわけだ。名前を記載していなくても第三者が見て個人を特定できるような表現であればアウト。
#MeToo自体が悪いわけではない。知らない間に被害者から加害者になってしまう可能性があるから注意が必要なのだ。
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レイ法律事務所代表弁護士
エンターテインメント、労働、SNS、メディア対応などを得意分野とし、TV出演をはじめ幅広く活躍。多くの芸能人・企業の顧問弁護士を務める。
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(ライター 向山 勇 撮影=研壁秀俊 写真=iStock.com)
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