インスタに"マツコ絶賛"の広告が出るワケ

プレジデントオンライン / 2019年6月20日 9時15分

日本テレビ「マツコ会議」の公式サイトには【お知らせ】として悪質広告の注意書きが書かれている

SNSで「マツコ絶賛」と書かれた広告を見たことはないだろうか。それはもしかしたら本人に無断で画像を加工し、あたかもその商品を推薦しているかのように見せかける「フェイク広告」かもしれない。なぜそういった悪質な広告が蔓延する事態となったのか――。

※本稿は、NHK取材班『暴走するネット広告 1兆8000億円市場の落とし穴』(NHK出版新書)の一部を再編集したものです。

■インスタに「マツコ絶賛」の広告が現れた

東北地方に住む、大学生の茜さん(仮名・18歳)が、SNSのインスタグラムに表示された「ある広告」を見たのは、2018年12月のことだった。

フォローしている友人や好きな女優が投稿した写真が次々と表示されるタイムライン上に現れたその広告は、あるダイエットサプリを宣伝していた。広告をクリックすると、新たなサイトが開いた。人気タレントのマツコ・デラックスさんの驚いた表情の下に、「○○(商品名)すげー!!」と字幕が付いている、テレビで取り上げられたかのような画像が現れ、ダイエットに効果があるという商品の特徴が紹介されていた。

商品は定期購入で、月々6980円。少し高いと感じたが、払えない額ではない。初回は数百円の送料だけで、「30日間解約保証」と書かれていた。「試してみて、自分に合わなかったら解約できる」と思い、ネットで定期購入の手続きを済ませた。茜さんは購入を決めた理由についてこう話す。

「マツコさんが番組で取り上げて、驚いている雰囲気だったので、普通にテレビ番組で紹介された商品なのかなと思いました。たまに芸能人の名前を1文字隠して紹介して、怪しい商品を売る会社があるとは聞いていたんですけど、その広告はマツコさんの顔が普通に映っていて。だから信用しました」

■番組の放送画面を無断で加工した「ニセ広告」だった

あれっ、おかしいかも……。そう感じたのは、定期購入したサプリが手元に届いて少したってからだった。サプリを飲み始めたものの、どうも自分には合わないと思った茜さんは、定期購入を解約しようと、コールセンターに電話をかけた。電話はつながったが、オペレーターは出ず、「混み合っているので、このままお待ちください」という録音されたアナウンスが聞こえてきた。さらに「待っている間も電話料金がかかる」とアナウンスされ、気持ちが落ち着かない。少し待ってもオペレーターが出ないので、電話をかけ直す。しかしまたアナウンスばかりで一向にオペレーターは出ない。それが繰り返されるだけだった。

心配になって商品名をネットで検索すると、SNS上に「電話がつながらず、解約できない」という声が次々に見つかった。茜さんはそこで初めて、マツコさんがサプリに驚いているのは、うそではないかと考えるようになった。

調べてみると、マツコさんの画像の元となっていたある民放の番組が、公式サイト内で、番組で紹介されたとかたった「悪質広告」として「番組の放送画面を無断で加工・引用した事実と異なる広告」への注意を呼びかけていた。このダイエットサプリの広告はニセ、つまり「フェイク広告」だったのだ。

■「解約保証」ギリギリのタイミングで解約

このまま解約できなかったら、自分に合わない商品にお金を払い続けないといけないのだろうか。考えているうちに不安が募り、時間ばかりが過ぎていった。SNSに「助けてほしい」と書き込むと、今度は「何とか解約できた」という人から、つながりやすい時間帯の情報など、アドバイスをもらうことができた。かれこれ30回ほど電話をかけ、覚えてしまうほど「そのままお待ちください」というアナウンスを聞かされた後、ようやくオペレーターにつながった。

「電話が全然つながらなくて怖かったと伝えたら謝られて、『商品を返送していただければ解約できます』と解約の手順を説明されました」

電話がつながった当初は、「商品を送付した際に添付されていた明細書がなければ、解約を受け付けない。4回分は購入してもらう」と言うオペレーターに、「自分の体には合わないので……」と訴えた。最終的には、サプリを袋ごと返送すれば解約を受け付けるとなって、ようやく解約できたという。「解約保証」と書かれていた期限ギリギリのタイミングだった。

「ネット広告はもう信用できないと思いました。実際にその商品を使っているわけではないのに、顔写真を勝手に使われている芸能人も結構多くて、その人たちもかわいそう。ちゃんとした広告を作ってほしいと思います」

■「誰がどんな広告を書いているか、追いきれない」

芸能人やテレビ番組の画像を無断で加工・使用し、体験談をでっち上げ、あたかもその商品を紹介・推薦しているかのように見せかける「フェイク広告」。

なぜこのような広告が、私たちに届くのか。

茜さんが購入したサプリを製造・販売する会社は都内にあった。事情を聞こうと取材班が登記上の住所を訪ねると、そこは住宅街にある一軒家だった。郵便受けには会社名が確かに書かれていたが、インターホンはなく、ノックをしても誰も出てこない。外から見る限り、人気はなかった。

近所の人に話を聞くと、「元は人が住んでいて、1年ほど前に引っ越したと思う。その後、改築したみたい。たまに若い人が来たり、朝、郵便物を回収しに自転車に乗った人が来たりするのを見るけど、普段は誰もいないよ。何をやっているのか、全然わからないね」と言う。

それではと、今度は登記簿にあった代表取締役の自宅の住所を訪ね、出てきた若い男性に話を聞いた。関東地方の大学に籍を置いているが、休学してネットでサプリを販売するベンチャー企業を20代で立ち上げ、社長を務めているという。住宅街にあった一軒家は登記上の便宜的な建物で、実際の業務は別の場所で行っていると説明した。私たちが、フェイク広告の実物を見せると「出ていることは知っている」とあっさり認めた。

「弊社のような通信販売事業は、広告制作者に、仲介業者を介してネット広告を出してもらっており、広告をクリックした人に商品が1件売れたごとに成果報酬をお支払いする形になっています。僕らとしては、誰がどんな広告を書いているか、追いきれない」

■成果報酬型のネット広告「アフィリエイト」の仕組み

この大学生社長の説明によれば、サプリのフェイク広告は「アフィリエイト」と呼ばれる、成果報酬型のネット広告の仕組みを使って出稿されていた。簡単にアフィリエイト広告の仕組みについて説明しておこう。

(1)広告主(今回の事例で言えば、サプリ販売会社)が、「ASP(アフィリエイト・サービス・プロバイダ)」と呼ばれる広告仲介業者に、商品を宣伝する広告の作成を依頼する。

(2)ASPは自社の契約する何人もの「アフィリエイター」と呼ばれる広告制作者に、商品を宣伝する広告サイトの作成を呼びかける。アフィリエイターは個人の場合も法人の場合もあるが、ASPの呼びかけに応じて、商品の特徴やお薦めポイントなどを自分の運営するブログに書いたり、新たに広告サイトを作成したりする。このブログや広告サイトには、広告主のサイトに飛ぶようリンクされたバナーや「購入する」と書かれたボタンも設置しておく。

(3)このブログや広告サイトにアクセスした人が、そこで書かれている内容を見て、サイトの中にあるバナーや「購入する」ボタンを押して実際に商品を買うと、どの広告を通じて商品が買われたのかわかる。

(4)購入契約の成果に応じた報酬がASPからアフィリエイターに支払われる。仲介したASPにも、成果に応じて広告主から報酬が支払われる(報酬額はまちまちだが、今回取材した中では、購入1件当たり、数千円から、中には1万円を超えるものもあった)。

■フェイク広告を作ったアフィリエイターがわからない

私たちの質問に、サプリ販売会社の大学生社長は、自社が契約していたASPは約30社あり、今回、見つかったフェイク広告は、この中のいくつかのASPが仲介したアフィリエイターが作ったものだと答えた。

NHK取材班『暴走するネット広告 1兆8000億円市場の落とし穴』(NHK出版新書)

規模にもよるが、ASPの中には何百、何千のアフィリエイターと契約しているケースもある。大学生社長によれば、広告主がフェイク広告を作ったアフィリエイターをたどろうとしても、ASPを挟んでいるので、どのアフィリエイターが作ったのかはわからないという。では、どのASPが仲介したのか、社名を尋ねたが、「それは……ちょっと怒られそうなので」と言葉を濁した。

このサプリの販売会社では、アフィリエイターに対し、芸能人を無断で使った広告を作らないようにと、ウェブサイト上に注意書きを載せているという。そして、広告をチェックする担当者も増やして、目視でのチェックも行っていると説明した。大学生社長は「広告の責任はすべて弊社にあります。僕らの管理、手が行き届いていないことがいちばんの問題です」と話した。

電話がなかなかつながらないことを伝えると、「予想以上に売れて、対応が追いついていない。電話がつながりにくい状況は認識しているので、早速、外注しているコールセンターの人員を増やすようにする」と答えた。

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NHK取材班
ネット広告市場の急成長の陰で行われる、広告不正の実態を取材するため、プロジェクトチームを結成。クローズアップ現代+「追跡! 脅威の“海賊版”漫画サイト」「追跡! ネット広告の“闇”」「追跡! “フェイク”ネット広告の闇」を放送し、大きな反響を集めた。

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(NHK取材班)

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