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外国人材の猛烈な急増が引き起こす大問題

プレジデントオンライン / 2019年6月27日 9時15分

国際機関から「人身売買」とまで指摘された技能実習制度も改善されるか(写真は人身売買とは関係ありません。写真=iStock.com/JGalione)

この4月の入管法改正により、外国人労働者の一段の増加が予想されている。日本総研の山田久主席研究員は、「われわれの試算では2030年には全労働者の5~6%に達する。だが居住地の偏りなど、すでに起きている問題への手当ても遅れている。少なくとも制度上は3つの見直しが必要だ」と指摘する――。

■悪質なブローカーは本当に排除できるのか

今年4月の入管法改正もあり、外国人労働者受入れへの関心が高まるなか、筆者が属する日本総研は、全国約1万社を対象に「人手不足と外国人材活用に関するアンケート調査」を実施した。その結果は日本総研のホームページに掲載されている(※1)が、本稿ではその調査結果を踏まえつつ、今般の改正入管法の評価を行ったうえで、望ましい外国人材受入れの在り方を考えてみた。

(※1)「人手不足と外国人採用に関するアンケート調査」結果を参照。外国人雇用比率の高い産業を中心に、上場企業1559社、非上場企業8429社を対象にアンケート票を郵送、1039社から回答を得た(回収率10.4%)。回答企業のうち外国人採用企業の割合は43.2%。調査期間は2019年1月下旬から2月上旬。

まず、前提として、今回の改正入管法のポイントを確認しておこう。新たに創設された在留資格「特定技能」とは、従来から受入れてきた「専門的・技術的分野」以外で、人手不足の緩和のために労働力として正面から受け入れるものである(※2)。より具体的には、特定産業分野に属する、相当程度の知識または経験を必要とする技能を要する業務に従事する「特定技能1号」、および、特定産業分野に属する熟練した技能を要する業務に従事できる「特定技能2号」が新たに設けられた。

(※2)政府の説明では、「特定技能」は「専門的・技術的分野」の範囲内との位置づけであり、従来認めてきた就労可能な在留資格よりやや技能の熟練レベルが劣るカテゴリーを、「専門的・技術的分野」のなかに設けたとしている。

ここで「特定産業分野」とは、生産性向上や国内人材確保のための取り組みを行ってもなお、人材を確保することが困難な状況にあるため、外国人により不足する人材の確保を図るべき産業上の分野、と定義されている。具体的には、特定技能1号については、介護、ビルクリーニング、素形材産業、産業機械製造業、電気・電子情報関連産業、建設、造船・船用工業、自動車整備、航空、宿泊、農業、行業、飲食料品製造業、外食業の14分野、特定技能2号については、建設、造船・船用工業の2分野が指定されている。

また、生産性向上や国内人材確保のための取組と矛盾しないという原則を確保するため、分野別の基本方針と向こう5年の受入れ見込み数(最大34万5000人)が提示されている。このほか、二国間取決めなどによる悪質なブローカーの排除がうたわれ、受入れ機関(受入れ企業)および登録支援機関(企業への支援機関)が外国人への支援計画を作成することが義務付けられている。

在留資格の取得経路としては、基本的に「技能実習」からの移行が想定されているが、技能実習制度が存在しない「宿泊」「外食」、あるいは技能実習制度の歴史が浅い「介護」については、「技能評価試験」「日本語能力試験」の両方をパスすることが、特定技能1号を取得する条件とされている。

■全体統括組織として「出入国在留管理庁」を創設

今回の入管法改正と同時に、「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」が策定されている。従来、地方自治体任せであった共生政策について、国として取り組む姿勢を示した形である。

主な具体的施策としては、①約100カ所の「多文化共生総合相談ワンストップセンター(仮称)」を設置、②行政サービスの多言語化の推進(災害情報、110、119番通報の通訳対応)、③日本語教育の充実(日本語教師の新資格創設、日本語学校の質向上策)などが挙げられている。

加えて、外国人材受入れの全体統括組織として、「出入国在留管理庁」が創設された。企業からの、外国人への給与支払い状況、転職、生活支援の実施状況などの定期的な届け出を審査し、指導や改善命令を出すほか、共生政策の体制整備を推進する役割も担い、必要に応じて改善策を取るとされている。

■外国人材受入れ拡大に「歓迎」は3割にとどまる

では、これらの施策をどう評価すべきか。われわれの行ったアンケート調査では、今回の新在留資格の創設による外国人材受入れ拡大についての評価を企業に聞いている。それによれば、「事実上の移民政策であり、反対だ」という明確な否定的意見は1割に満たないが、その一方で、「歓迎する」との回答も約3割にとどまる。

「長期的な定住を基本とすべき」(28.5%)「国内労働力増加の施策を優先すべき」(28.0%)、「既存制度の不備を正すべき」(27.4%)、「外国人の生活支援策を国として確り進めるべき」(26.1%)、「適用対象をもっと広く拡充すべき」(23.9%)といった、一層の改善を求める声が多い。企業の受けとめとしては、総じて外国人材の受入れ拡大には賛成であるが、その受入れのための整備や環境の整備は不十分であり、一層の改善が必要だとの認識を持っていると言えよう。

筆者としても、今回の法改正は、従来の実習生や留学生という名目で実質的な労働者を受入れ、さまざまな問題を生じさせてきたことからすれば大きな前進であるが、それはあくまで改革の第一歩にすぎない、との考えである。言い換えれば、今後さまざまに制度を見直していくことが不可欠だということで、私見では以下の3つの見直しが必要である。

■技能実習生の失踪や悪質な日本語学校の存在

第1に、在留資格体系全体の再構築である。入管法改正前は、わが国での外国人の就労は「専門的・技術的分野」のみに限られるという建前であったが、実際には「日系人」「技能実習生」「留学生の資格外活動」という形で、いわゆる単純労働分野で多くの外国人が働いてきた。しかし、技能実習生の失踪や悪質な日本語学校の存在など、「形式と実態の乖離」がみられるこれらの形での受入れの矛盾が、限界に達してきた。

加えて、国際的な人材獲得競争における優位性が徐々に薄れるなか(後述)、拡大する一途の外国人労働力へのニーズを、新規に来日する人々で量的に確保することが難しくなってきていた。そうしたもとで新設された「特定技能」は、従来の「専門的・技術的分野」以外で人手不足を理由とする労働力の受入れを初めて正面から認めることになるが、ここでのポイントは「技能実習生」や「資格外活動の留学生」といった、すでに入国している人材からの移行を想定していることである。

これは端的に言えば、短期の滞在・就労を前提とした受入れのみから、中期の滞在・就労を正面から認める受入れに舵を切ったことを意味する。

ここに重大な問題が発生する。5年以上に及ぶ国内滞在を正式に認めるとなると、当然、外国人は日本社会に生活の根を深く下ろすことになり、結果として日本に長期定住ひいては永住する人々が増えていくであろう。そうなれば、家族帯同を認めることは言うに及ばず、子弟の教育なども重要な課題になる。だが、「特定技能1号」では家族帯同は認められず、制度上「特定技能2号」では認められるが、現状ではその具体的な活用の道筋は見えていない。

「短期就労・滞在」―「中期就労・滞在」―「長期就労・滞在」を一連のものとして捉え、既存在留資格をおのおのどこに位置づけるかを明確にする必要がある。そのうえで必要な制度的修正や調整を行い、同時に、資格間の移行の条件を明示することで、外国人が将来への展望を持ちながら徐々に日本社会に溶け込んでいける形に、在留資格体系を再構築することが求められる。

■景気悪化時には外国人の大量失業という問題も

第2に、ペース制御の仕組みの導入である。今回「5年間で最大34万5000人」という上限が差し当たり設けられたが、これらは産業別の所管官庁の積み上げの数字であり、その客観性には疑問符がつく面がある。さらに、あくまで「特定技能」についてのみの数字であって、実質的には労働力不足の補充の形で使われている「技能実習生」「留学生の資格外活動」についての上限は設けられてはいない。

現状、外国人労働者は雇用者全体の約2%にとどまるが、日本総研の試算では2030年には5~6%に達するとみられる(※3)。そうした状況に向けて適切なコントロールを行わなければ、生産性の低迷や日本人との仕事の競合、あるいは景気悪化時の外国人の大量失業という問題を引き起こしかねない。

(※3)日本総研リサーチ・レポート「増加する外国人労働とどう向き合うか」No.2018-006

加えて、現状の外国人の偏在を念頭に、「大都市圏その他の特定地域に過度に集中して就労することのないよう、必要な措置を講じるよう努める」としているが、その有効な具体策が不明である。第三者機関によるチェック体制と、「地域別産業ビジョン委員会(仮称)」を設置し、地域の産業ビジョンと調整しつつ、地域別・産業別受入れ上限を決定することが望ましい。

第3に、適切な外国人受入れを推進していくための、入国管理・雇用管理・生活支援の全般にわたる一貫したトータルな体制整備である。今回の法改正では出入国在留管理庁が創設され、これらその役割を担うが、管理を担ってきた入管当局を母体とするが支援を同時にできるのかという疑問がある。企業に適正な雇用管理を指導・監督する体制への不安もある。十分な予算措置を行ったうえで、監督・指導体制のリソース充実とさまざまな主体との連携・協業体制の構築が不可欠である。

とりわけ、いわゆる共生政策が重要になるが、その具体化はこれからといった段階である。国・地方・企業の分業・連携体制の整備、情報共通・横展開の仕組み整備を進めていくことが重要である。現実にはその整備は一定の時間がかかるし、共生の主役である外国人および地域住民が、頭ではなく実感として相互を理解するにはそれなりの試行錯誤が要る。そうした意味でも、外国人全体の受入れペースを適切に制御することが重要になるといえよう。

■安価な外国人材も早晩枯渇することになる

以上、政府や自治体の課題についてみたが、働くために日本にやってくる外国人が、その生活時間の多くを過ごすのは企業(職場)においてであり、そうした意味ではまずもって企業の受入れの在り方が重要である。ここで出発点となるのが、受入れる外国人を「人」として見るという、当たり前のことである。しかし、残念ながら、そうした当たり前のことが必ずしもできていないのは、技能実習制度の法律違反が多くみられ、留学制度の悪用が散見されることに表れている。

そうした安易な考え方のままでは、90年代以降コスト削減を至上命題として非正規労働者の割合を高め、安上がりのビジネスモデルを構築し、短期的には良いようにみえても、長期的には苦しい状況に追い込まれている、日本企業の在り方に根差す面がある。

いま求められているのは、安価な労働力としての外国人を受入れることで、薄利多売の時代遅れのビジネスモデルを生き長らえさせることではない。

すでに安価な国内人材がほぼ枯渇しつつあるように、安価な外国人材も早晩枯渇することになる。アジアの経済成長が続く中で、安価な労働力としての位置づけでは、急速にアジアの人々が日本に来てくれなくなっていく。アジアの賃金の上昇で相対的な魅力が薄れると同時に、韓国・台湾・タイといったアジアのなかでの高所得国の魅力が高まり、これらの国々との人材獲得競争が激化していくからである。

ここで銘記すべきは、外国人材活用の真の意義はコスト削減ではなく、海外向け事業の拡大にこそあるということだ。

日本人人口の持続的減少で国内市場への縮小圧力がかかり続けるなか、企業が持続的な成長を実現するには、非製造業を含めて業種を問わず、輸出・インバウンド・海外現地事業など、何らかの形で海外市場を開拓していくことが不可欠になっていく。そのためには、海外現地事情を肌で知る現地出身の外国人の知見を取り入れることが成功のカギとなる。それは、コスト削減のための安価な労働力ではなく、事業拡大のための有能な人材として、外国人を捉えるべきことを意味している。

そのためには具体的には、以下の5点に取組むことが必要である(※4)

(※4)グレーター・ナゴヤ・イニシアティブ協議会「国際的な人材活用~外国人労働者受入ガイドブック~」が参考になる。

■日本人の意識や働き方を同時に変えていく

第1に、なぜ外国人か、どのような役割を担ってもらうか、を明確化することである。日本総研のアンケート調査では、外国人の活躍度合いと採用・活用理由の関係をみることができる。それによれば、「日本人労働力が集まらない」や「労働コストが節約できる」という消極的な活用理由の場合、外国人の活躍が「期待外れ」のケースが多くなっている。その一方で、「外国人ならではの業務」「グローバル化を展望して組織を活性化」といった積極的な理由の場合、活躍が「期待以上」となっているケースが多い。

第2は、外国人を「成長する人材」として、長く働いてもらうことを前提にすることである。そうなれば、人材育成のインセンティブが強まることになるが、われわれの実施したアンケート調査でも、研修プログラムに積極的な企業ほど、外国人の活躍が「期待以上」となる割合が高くなっていることが確認できた。こうして長く働いてもらうことを前提に人材育成に取り組めば、帰国しても「日本シンパ」となり、日本企業の海外事業にとっての支援者にもなってくれるであろう。さらに、日本を本気で気に入り、会社の中核的業務に携わるようになれば、特定技能2号、あるいは就労在留資格を取得して定住し、会社のコア人材として活躍してもらうことも展望できる。

外国人材の活躍度合の違いを生む要因

第3は、外国人が日本社会に溶け込むよう、生活面の支援を重視することである。この点についても、日本総研のアンケート調査で興味深い結果が得られている。外国人従業員の生活支援として、特に何も行っていない企業の場合、外国人の活躍が「期待外れ」のケースが多いが、「社宅の提供」「マナー教育」「地域との交流促進」を行えば、「期待以上」の活躍となるケースが高くなることがみられた(図表1)。

第4は、日本人の活用と同時に進めることである。「安価で使い勝手のよい」社員が国内で採用できなくなったから外国人を採用するという考えでは、早晩立ち行かなくなることはすでに述べた通りである。国内には女性や高齢者をはじめ、未活用人材はまだまだ多く存在する。労働力が希少になる局面では、働く人々の生活上の制約を考慮しつつ、働き手の都合に配慮しながらその能力が十分に発揮できる職場づくりが必要になる。そうして国内にある多様性を活かす職場づくりをすることが、実は価値観の異なる外国人材の能力を活かす条件でもある。

第5に、日本人の意識や働き方を同時に変えていくことである。外国人材の能力を引き出すには、職場の在り方が制度面で変わるのみならず、働く人々の意識や行動も変わる必要がある。外国人と協働していくには、日本特有の考え方や慣習をわかりやすく説明するほか、場合によっては日本的なやり方自体を見直していくことが必要である。それは日本人にとっての新たな発見や発想につながり、閉塞感の強い今の状況をブレークスルーする好機ともなるであろう。

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山田 久(やまだ・ひさし)
日本総合研究所 理事/主席研究員
1987年京都大学経済学部卒業後、住友銀行(現三井住友銀行)入行。93年4月より日本総合研究所に出向。2011年、調査部長、チーフエコノミスト。2017年7月より現職。15年京都大学博士(経済学)。法政大学大学院イノベーションマネジメント研究科兼任講師。主な著書に『失業なき雇用流動化』(慶應義塾大学出版会)

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(日本総合研究所 主席研究員 山田 久 写真=iStock.com)

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