"工場をAIで自動化"が必ず失敗するワケ

プレジデントオンライン / 2019年6月28日 9時15分

AIブームから数年。当初からAIの導入に積極的だった企業ほど、現在の社内が混乱しているというパラドクスが起きている。この状況を突破するにはどうするか。BCGのコンサルタントの2人は「社内に散在するユースケース(活用事例)から、いかに戦略的に重要なものを選定するかがカギ」と指摘する――。

■インターナルユニコーンを見つける

AIブームから数年が経過した今、これまで積極的にAI活用に取り組んできた企業ほど、社内が収拾のつかない状況に陥っているように見える。

先端的だが拡大展開できる見込みのない案件、せっかく構築したAIが全く使われずに止まっている案件、他部門がすでに取り組んでいることと極めて類似性が高い案件、ひたすらデータを集め続けているだけの案件など、十分な成果を生むに至っていないユースケース(活用事例)が少なくない。

このような失敗体験は、社内のAIへの取り組み意欲を減速させてしまいかねない。だが、失敗体験によりAI活用をやめてしまった企業と、継続して経験を蓄積していく企業との間には、数年後には大きな差が生まれているだろう。

こうした状況を打破するには、私たちが「インターナルユニコーン」と呼ぶ、戦略的に重要でインパクトの大きいユースケースを選定することがカギとなる。AI活用を成果に結びつけている企業の多くは、ユースケースを絞り込むことで、限りあるリソースを集中投下させているのだ。

自社にとって重要なデジタル領域を見極める際に、私たちはデジタル・アクセレレーション・インデックス(Digital Acceleration Index=DAI)というBCG独自の測定指標を用いているが、この枠組みはインターナルユニコーンの発掘にも活用可能だ(図表1)。

■目下の課題はいかに複数のAIを協調させるか

現在実用化されているAIは、特定の用途、言い換えると一つのアルゴリズム(特定の問題を解く一連の数式や手順)を使った問題解決をめざすものが中心である。これからは、それぞれのAIが個別に進化していくだけでなく、自動運転などのように、問題解決に複数のAIが協力していく世界を見据えて戦略を考える必要がある。

だからと言って、例えば「工場をAIで自動化する」といった漠然とした大きな問題をドーンと提示し、解決しようとする「ドーン案件」になってしまってはプロジェクトは前に進まない。大き過ぎず、小さ過ぎず、実行可能な粒度に設定し、小さく始め、「アジャイル」な体制で試行錯誤をしながら早く改善させることが肝要である。

アジャイルとは、英語で「機敏な」「素早い」というような意味の言葉だ。破壊的イノベーションが次々と起こる現代では、綿密な計画に基づいてものごとを進めていく従来型のやり方では、時間がかかるばかりか、時間をかけた分だけ、変化し続ける顧客のニーズにそぐわないものができてしまう恐れもある。

最初から完成形を目指すのではなく、必要最小限のプロダクトを作り、まずはいち早く市場にリリースする。リリースしたら、顧客からのフィードバックを集めて、それを元に改良し、再び市場に問う。これを高速で回すことで、変化する市場ニーズに対応しながら、最終的に目指すプロダクトやサービスをスピーディーに開発していく手法だ。AIを用いたビジネスでは、集めたデータ量が精度に直結するため、スピードは特に重要となる。

AI活用のリーダー企業は、上記のようなアジャイルな体制でクイックウィンを示しながら、特定のAIによる成果を既に具現化している。目下の課題は、いかに複数のAIを協調させるかに移っているのだ。

■アマゾンに見る複数AIの協調の好例

複数のAIを組み込み、複数の課題をサポートする仕組みとして、アマゾンがよい例となるので簡単に説明しておこう。同社は販売予測システム、在庫予測システム、サプライチェーン最適化、レコメンデーションエンジン、収益最適化システムなど20以上のデータアナリティクスシステムを持っている。これらのシステムはシステム同士で相互に、また戦略に携わる人材とも結びつき、全体として統合された円滑な仕組みができている。

例えば、販売予測システムがある商品の人気が高まっていることを感知したら、次のような変化を引き起こす。在庫予測が更新され、それによりサプライチェーンシステムが倉庫全体にわたり在庫を最適化する。レコメンデーションエンジンがその商品をより多くプッシュし、収益最適化システムがプライシングを最適化する。こうした変化により販売予測が更新される。

2030年ごろまでには、複数のAIが協調する仕組みをより多くの企業が構築することで、かなり高度な応用が可能になるだろう。

■課題設定を誤らない体制づくり

次にAIを活用する際に、マネジメント層が心得るべきポイントについて考えてみよう。

AIを使ってビジネス・インパクトを生み出すには、「課題を定義する」「打ち手の仮説を持つ」「分析する」「改善サイクルを回す」というプロセスをらせん状に繰り返して進化させていく必要がある。そのなかで、最初の「課題の定義」を誤ってしまうケースは意外なほど多い(図表2)。

例えば「AIに自動運転をさせたい」という場合、課題は安全性にあるのか、快適さか、目的地までの所要時間かによって打ち手は異なる。「AIを使ってお客様の継続率を上げたい」という場合も、具体的にどのような顧客を想定し、誰がアクションするのかといったところまで加味して課題設定をしないと出口が見えなくなり、迷走してしまう。

課題設定を誤らないためには、チームリーダーなどの意思決定者がAIに対する理解を深める努力を怠らないことが肝心だ。意思決定者の理解が不十分なために目標設定を誤り、誤った目標に向かって、データサイエンティストが何の疑問も抱かずに、一生懸命パズルを解いているケースも散見される。

また、「AI等の技術のわかる人材」と「ビジネスを熟知した人材」の両方を含むチームを編成することも重要だ(図表3)。

AIの専門家を雇ったが何も生まれない、という悩みを持つ企業がある。AIがわかる人材は往々にしてビジネスへの関心が低く、適切な課題設定ができないことが多い。逆に、ビジネスがわかる人材はAIを理解しようとしない。私たちが変革を支援する際にも、ビジネスの現場からは必ずといっていいほど「AIなんかよりも自分たちの方がわかっている」といった声が聞こえてくる。

両者の間に溝をつくらないためにも、アジャイルな体制の中で密に連携し、相互理解を深めていくことが重要になる。AIを駆使するデータサイエンティストはAIとは何か、AIで何ができるのかについて、ビジネス担当者はビジネス課題の状況について、早い段階で、お互いにできるだけわかりやすく説明しておく必要がある。

■AIのアルゴリズム構築にかける時間は全体の10%

では、課題を適切に設定できたとして、実際の作業では何にどれくらいの時間をかけたらいいのだろうか。

実は、私たちが支援するケースにおいては、AIのアルゴリズム構築自体にかける時間はそれほど多くない。すでにコモディティ化が進んでいる領域でもあり、時間の割合にするとプロジェクト全体の約10%ほどだ。残り20%はシステム構成の検討、残り70%はAIアルゴリズムを実際のビジネスに落とし込むためのビジネスプロセスの検討や現場とのコミュニケーションに費やされている。

ビジネスプロセスに人が介在しないケース、例えばウェブ上で「おすすめの記事・商品」を表示するレコメンデーションシステムの構築であれば、現場とのコミュニケーションは限定的でもよいのかもしれない。

しかし、AIのアウトプットに基づき、実際にビジネス現場の人々を動かす必要のあるプロジェクトでは、ビジネスプロセスの丁寧な検討や現場とのコミュニケーションが極めて重要となる。それが足りなかったために、構築されたAIが活用されずに放置されるという状況は多数発生している。

また、ビジネスプロセスを検討する際の重要なポイントは、データが自然に蓄積される仕組みを事前に組み入れて構想することだ。これによって参入障壁が築かれ、永続的な優位性構築につながるからである。

■失敗がなければチャレンジが足りないと心得えよ

最後にAIの構築に際して、重要なことを1つ述べておきたい。

AI構築のプロセスは、まず、学習用のデータを作成し、それを使ってアルゴリズムを構築し、精度評価、つまり検証データによる答え合わせを行うという流れになっている。ただし、答え合わせは決して一度では終わらない。さまざまなデータセット・機械学習手法を試しながらテストを繰り返し、結果、最も精度評価の高い組み合わせを見つけるという、かなり実験的なプロセスとなる。

それゆえに、経験のあるデータサイエンティストであっても、新しいテーマで、新しいデータを使い、どれくらい精度の高いAIアルゴリズムを構築できるかを事前に予測するのは極めて困難だ。やってみないとわからないというのもまた、AIの本質である。

複雑で難しい課題だからこそAIというツールが求められているのであり、システム投資ではなく、R&D投資と捉えて、これまで放置していた大きな課題に挑戦するところに、AI活用の意味があるのである。

一発でうまくいかなくて当たり前、むしろ失敗がなければチャレンジが足りないと考えても良いだろう。

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高部 陽平(たかべ・ようへい)
ボストン コンサルティング グループ(BCG)パートナー&マネージング・ディレクター
BCGジャパン デジタル&アナリティクスリーダー、BCG保険グループのアジア・パシフィック地区リーダー。同金融グループのコアメンバー。デジタル・IT分野に豊富な経験を有し、保険、金融を含むさまざまな業界の企業に対しテクノロジーを活用した競争優位構築を主軸とするプロジェクトを手掛けている。【デジタルBCG紹介ページはこちら】
浜田 貴之(はまだ・たかゆき)
DigitalBCG Japan プリンシパル
AI・機械学習等を担当するDeepTechチームのコアメンバー。機械学習を中心に、マーケティング・オペレーション最適化・新商品開発等、アナリティクスのビジネスへの適用プロジェクトを数多く手掛けてきた。

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(ボストン コンサルティング グループ(BCG)パートナー&マネージング・ディレクター 高部 陽平、DigitalBCG Japan プリンシパル 浜田 貴之 構成=曲沼美恵)

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