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"子どもを持つのって悪くない"と思える本

プレジデントオンライン / 2019年7月21日 11時15分

ヨシタケシンスケ『思わず考えちゃう』(新潮社)

■やっぱり、子どもを持つのって悪くない!

最近は書店に一コーナーができる旬の絵本作家のエッセー。ヨシタケファンの若い世代を読者に想定しているのだろうが、50代の私にも妙に響いた。

本書は著者が日常で描きためたスケッチを解説する形式で書かれている。「描いておかないと忘れてしまうくらいどうでもいいことを記録しておきたい欲」があるためで、ストレスのあるときに多くのスケッチが生まれるそうだ。

ちょっとしたことをメモする習慣は私にもあるが、気の利いたイラストで描けるのは羨ましい。「この間ボク、こんなこと考えちゃいました」というスタンスで綴られ、特に教訓的なものばかりでもないが、不思議な味わいがあった。

「孤独感だって、何か役立ててやる。もっと言うと、仕事にしてやる。劣等感だったりとか、ねたみみたいな気持ちもお金に替えてみせるみたいな(笑)」。それはクリエイターだから言えるんじゃない? とも思ったが、こう続いた。

「でも、やっぱりもやもやはもやもやで、そのときはもやもやしてる。でも、そのもやもや感を『というわけで今日は1日もやもやしました』で終わらせたくない。今日はもやもやしたけど、これは貯金として、ポイントとしてたまりましたとしたい」

絶妙なイラストが一番効いているのは第2章(父だから考えちゃう)だ。たとえば裸エプロンならぬ裸シートベルト。家族で出かけて2人のお子さんが川で遊んで服がびったびたになった。着替えもなく、お母さんから帰りの車に「そのまま乗るな」と。で、裸でシートベルトにくくりつけられた子どものイラストがつくのだが、これが可愛い。

■「もう明日やるよ。すごくやるよ」と三回唱えてから寝る

脈絡なく切り取れば幼児虐待に見えるかも……。でも全体を読んでそう感じる人はいないだろう。お子さんたちへの愛情が文章から、絵からにじみ出ているからだ。表現の大切さを改めて思う。若いご夫婦が読めば、子どもを持つのって悪くないかもと感じるだろう。それは無神経な政治家から「一人3人は産んでください」と言われるよりはるかに説得力があるはずだ。

「ききうでのツメは切りにくい」(近すぎるから出来ないってことがたくさんある)。「あなたのおかげで、私はとうとうあなたが必要なくなりました」(昔影響を受けた作品に対する感謝と別れ)。うーん、私が下手につまむと原文の面白さがいま一つ出ない。ダイレクトな引用で終わろう。

「もう明日やるよ。すごくやるよ。っていう言葉を三回唱えてから寝るわけです。明日すごいよ。明日すごいやるからね、っていう。でも、今日はもう、寝るけどね、ていう。自分を甘やかす時に、とっても便利な言葉です。明日やるよ、だけじゃダメなんですね。すごくやるよ、そこに含みを持たせることが、よりこう今の自分を楽にするキーワードなんです」

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大島 武(おおしま・たけし)
東京工芸大学教授
1963年生まれ。一橋大学社会学部卒業後、ロンドン大学インペリアル校経営大学院修了。NTT勤務等を経て、2012年より現職。弟・大島新氏との共著に『君たちはなぜ、怒らないのか―父・大島渚と50の言葉―』。

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(東京工芸大学教授 大島 武)

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