野村不動産はブラック企業を卒業できるか

プレジデントオンライン / 2019年7月16日 6時15分

人事部担当 執行役員 石川陽一郎さん

ハードワークの社員が多く、2018年にはブラック企業大賞にノミネートされた野村不動産。会社のカルチャーを抜本的に変えようと、“昭和の男”が立ち上がった。大きな施策は全女性社員700人への健康研修と服装の自由化。果たしてこれでブラック企業を卒業できるのだろうか。

■ブラック企業からの脱却を目指して

2018年、野村不動産では全社的な健康施策を推し進める部署としてウェルネス推進課を新設、女性社員全員を対象にした「ウェルネス研修」などを実施している。

ウェルネス推進課を率いる執行役員の石川陽一郎さんは、「社員の健康は会社にとって必要不可欠だと痛感した」と語る。以前の野村不動産では“昭和的働き方”が普通で、ハードワークを武勇伝として語る社員も少なくなかった。それが変わり始めたのはつい最近のこと。2018年、会社が「ウェルネス経営」への転換を発表し、石川さんが風土改革に乗り出してからだ。

その前年、野村不動産は裁量労働制に関して東京労働局から特別指導を受けた。社員の過労自殺を労災認定していたこともわかり、新聞などでも大きく報じられた。2018年にはブラック企業大賞にもノミネート。その企業が今、社員の健康を守るため全社的な改革に挑んでいる。

「社員全員が元気で末長く働ける会社にしたいんです。そのためには、今すぐにでも風土を変えなければいけない。誰もが働きやすい環境、互いに健康を気づかい合える環境を目指して、できることは何でも、どんどん実施していくつもりです」

現在は、労務管理の徹底、健康意識の向上、相談・診断体制の強化などを並行して実施。ウェルネス研修もその取り組みの一つだ。同社の約4割を占める女性社員全員に、健康に関する正しい知識や不調の対処法などを知ってほしいと、ウェルネス推進課の女性メンバーが発案した。

■「長時間」ではなく「長期間」働けるように

同課ではほかにも、社内での朝食サービス、マッサージコーナーやストレスチェックコーナーの設置といったイベントを展開。6月からは、グループ内のスポーツクラブの利用代金補助も開始したという。

グループ人事部 ウェルネス推進課長 荘司恭兵さん

健康で充実した日々を送ることができれば、仕事への意欲やエネルギーも高まる。それが個人の成長につながり、やがては会社の成長にもつながっていく──。多くの企業では、こうした考え方がすでに定着しつつある。その点、野村不動産はようやく行動を始めたばかり。大幅な遅れをどう取り戻していくか、石川さんも課のメンバーも試行錯誤を続けている。

 
人事部 ウェルネス推進課 木村さとみさん

「どうすれば社員の心身の健康に役立てるのか、皆でアイデアを出し合って一つずつ実施につなげています。ウェルネス研修も今回は女性が対象でしたが、今後は男性にも広げていかなければ」と、課長の荘司恭兵さん。課員の木村さとみさんも「社員が“長時間”ではなく“長期間”働けるように」と意欲を語る。

 

■働く現代女性に役立つウェルネス研修

今回のウェルネス研修では、「女性のライフステージと健康」をテーマに、産婦人科医の対馬ルリ子氏による講演が行われた。現代女性は職場進出が進むとともに出産回数が減る傾向にあり、女性特有の病気にかかる人が増えているという。寿命が延びたことから更年期も長くなり、ライフステージに合わせて健康を考えていく必要が出てきた。

6月に開催されたウェルネス研修の様子

さらに、産婦人科医との付き合い方について、欧米では思春期からかかりつけ医を持つのに対し、日本では妊娠するまで診療を受けたことがない女性が多いと指摘。健康チェックが不十分になる恐れがあると警鐘を鳴らした。また、女性ホルモンによる体への影響や、不調の予防法、治療法についても紹介し、「普段から検診・相談・予防・治療の4つを習慣にしてほしい」と訴えた。

こうした知識は、中学の保健体育で習ったきりという人も多いだろう。そう考えると、大人になった自分の体や、長く働く上で大切になる“不調との付き合い方”について知る機会は、意外と少ないのかもしれない。だが、ハードワークの社風を持つ企業が、女性の日常的な悩みに寄り添うのは珍しい。社員からも「うちの会社がこんな研修をやるなんて」と、驚きの声が上がっているほどだという。

■互いに健康を気づかい合えるように

都市創造事業本部 物流事業部事業一課兼海外事業部海外企画課 課長 徳永有香さん

研修に参加した女性社員2人に感想を聞いてみた。課長として活躍する徳永有香さんは、「私の仕事は健康でいることが絶対条件」と語る。海外も含めて現場に出ることが多いため、20代の頃から体調管理に気を配り、今も毎週末の運動は欠かさない。「研修で聞いた『プレ更年期』が近づいているので、引き続き自分をしっかりケアしていきたい」と力を込めた。

人事部に所属する田中さんは、以前から体調の波に悩んでいたそう。だが、研修を受けたことで「女性なら我慢するのが普通だと思っていたが、『我慢しなくていい』と言われて前向きになれた」と、気持ちが楽になった様子。原因や対処法を知って、不調も前向きに捉える意識が生まれたという。

この研修は、石川さんが目指す「互いに健康を気づかい合える環境づくり」の一環でもある。目標により近づくため、今後は男性管理職が女性の不調について学ぶ機会もつくっていきたいという。ただ、こうした活動も昭和的働き方が続くようでは意味がない。そのため石川さんは、もう一つの目標である「誰もが働きやすい環境づくり」に対しても、大胆な施策を進めている。

■ベンチャーでの経験から服装自由化へ

それが、6月から始まった「服装自由化」だ。男性はスーツ姿が当たり前の不動産業界では、かなり大胆な試みと言えるだろう。風土改革のスピードを上げるには思い切った施策が必要と考えたからだそうだが、石川さんがずっと抱いてきた疑問も実施の原動力になった。

「旧態依然とした風土には、以前から疑問を感じていました。私はベンチャー企業へ出向した経験があるからかもしれません。当時、服装や勤務時間など自由度の高い環境に触れて、自分の会社とのあまりの違いに驚いたものです。そこから、仕事をきちんとしていればどんな格好でもいいんじゃないか、スーツを着ていれば真面目風に見えて、本人も仕事をした気になるなんていうのはおかしいんじゃないかと思うようになりました」

また、長く共働きをしてきたため、子どもの送り迎えと仕事との両立に、もどかしい思いをした経験もあるという。こうした思いは、自分らしく働きたい、家族との時間を大切にしたいという若手社員の価値観とも一致している。

とはいえ、世代的には“昭和の男”。自身もハードワークを美徳としていたことがあったのではないか、そんな意地悪な質問に、「やりたくてやっていたわけではありません。会社に行くのが嫌いなタイプだったので」と笑って返す。

昭和の男だが価値観は現代的──。そんな石川さんが改革の担い手になったことで、野村不動産に変化が生まれ始めている。

■表面的な施策で終わらないように

ウェルネス推進課が活動を始めてから1年、目指す風土改革は徐々に実現しつつある。健康をおざなりにした昭和的働き方をする人や、ハードワークを武勇伝として語る人は少しずつ減少。残業削減も進み、若手社員からは「以前から早く帰りたいと思っていたので、それが叶ってうれしい」という声が上がるようになった。

女性社員も変化を実感しているようだ。徳永さんと田中さんは、モバイルPCが支給されて直行直帰しやすくなったほか、女性だけでなく男性が子どもの健診で休むことも普通になったという。服装自由化はまだ始まったばかりだが、女性陣は「うちにはおしゃれな男性役員がたくさんいるので、役員から率先してやってほしい」と期待を寄せる。

「“野村の男”も変わりつつあります。健康意識の向上を通して互いに思いやれるカルチャーをつくり、服装自由化を通して古い慣習を壊していきたい。社員にも社会にも、野村不動産は変わったんだと認知してもらえるよう、腰を据えて取り組んでいきます」と石川さん。

社が掲げるウェルネス経営への取り組みは始まったばかり。健康研修も服装自由化も“変化”が伝わりやすい施策ではあるが、“改革”という面から見ればやや表面的な印象を受けざるを得ない。ブラック企業からの卒業は、旧態依然とした働き方や全社員の意識を変えたその先にある。野村不動産の取り組みの成否は、変化を積み重ねていけるかどうか、その効果を抜本的な風土改革へつなげられるかどうかにかかっていると言えそうだ。

(辻村 洋子)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング