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新卒1万人超が応募する"くず餅屋"の秘密

プレジデントオンライン / 2019年7月14日 8時15分

渡辺雅司『Being Management 「リーダー」をやめると、うまくいく。』(PHP研究所)

いい人材を集めるには、どうすればいいのか。創業200年を超える老舗のくず餅屋「船橋屋」(東京・亀戸)には、毎年1万7000人の新卒学生から採用応募がある。八代目当主の渡辺雅司氏は、「社員一人ひとりが“主役”になる仕組みをつくった成果だ」と胸を張る――。

※本稿は、渡辺雅司『Being Management 「リーダー」をやめると、うまくいく。』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

■人財開発は「場の力」づくりから

大企業であっても中小企業であっても、組織は「人」から成り立っています。その組織がうまく機能するか否かは「人」にかかってくる。組織を成長させていくには「人」を成長させるしか道はない。今さら言うまでもなく、多くの企業が「人財開発」に力を注ぐのは、これが理由です。それは「船橋屋」も然りで、社内では「人財開発」をこのように表現をしています。

「場の力をつくる」

「船橋屋」の組織は、「一燈照隅」すなわち一人ひとりが輝くことで、会社の隅まで明るく照らし、さらに社会まで照らしていくというマネジメントポリシーを掲げています。したがって、私の仕事とは、一人ひとりが光輝くことができる環境、つまり「場」をつくることです。

「場」に力をつければ当然、一人ひとりが発する光も強くなっていきます。「船橋屋」では、「場の力」をつくるということが、まず「人財開発」で最初にすべきことと捉えています。私はよく、この「場の力」づくりをポップコーンにたとえます。

ポップコーンを作るには、まずコーンをフライパンに入れて、熱し続けます。すると、遅かれ早かれ、どんなコーンもポンポンポポンと、弾け出します。このコーンが「人財」であり、フライパンという「場」を温め続けることによって、個々のスピード感の違いはありますが、いずれすべてのコーンが弾けて、ポップコーンになっていくのです。

■「全員が主役」の機会を設ける

そんな「船橋屋」の「人財開発」については、ありがたいことに各方面からご興味を抱いてくださるようで、全国各地の経営セミナーや講演などに招かれます。その地域の経営者の方たちとお話をすると、ほとんどの方が「人財開発」について頭を悩ませていらっしゃいます。このような「人財」にまつわるご相談が非常に多く、その悩みを解決する糸口として、「船橋屋」の取り組みを参考にしたいとおっしゃるのです。

もちろん、一般企業で実施するような研修制度もありますが、それ以上に大事にしている「皆が主役」になる機会です。

ありがたいことに、「船橋屋」で働きたいという声が非常に多く寄せられています。いまでは就職活動シーズンになると、約1万7000人の学生が就職希望に訪れるほどです。

その理由は、「老舗の和菓子屋」のイメージとはかけ離れた自由闊達な雰囲気や、社員の自主性に任せる働き方がメディアなどでも多く伝えられていたこともありますが、「船橋屋」で働く一人ひとりが光り輝く「場」をつくることを重視してきたからではないかと考えております。

■ホテルの宴会場で大新年会を開催

「船橋屋」では、すべての社員、すべてのパートスタッフが、共通の目的や認識を持って、共通言語で語り合い、一人ひとりがチームの一員として光輝くことで、「皆が主役」であると実感してもらう機会を提供しています。

2019年に開催された新年会(写真提供=船橋屋)

その象徴的事例が「新年会」です。

そんなものはどこの組織にもあるじゃないかとお思いでしょう。しかし、「船橋屋」の新年会というのは、皆さんがイメージするような「会社の飲み会」ではありません。

まず、パートスタッフを含むすべての社員にはスーツやドレスで目一杯のおしゃれをしてもらいます。ホテルの宴会場をお借りし、和食や洋食、中華などの料理が並ぶ、さながら結婚式の披露宴のような雰囲気のなかで行なわれます。

何も気取っているわけではなく、この日は「船橋屋」で働くすべての人たち一人ひとりが「主役」になる日だからです。

新年会が始まると、まず私から今年のビジョンを話します。次に、来賓の方たちからご挨拶をいただくまではどの会社でもよくある新年会です。

ところが、その後に始まるのが、「表彰式」です。

昨年を振り返って、部門や職種ごとに大きな貢献をした人、結果を出した人、長年尽力してきた人などを「年間MVP」「店舗オブ・ザ・イヤー」「パート・オブ・ザ・イヤー」などと銘打ち、次々と壇上に招いて、私から賞状と金一封を渡していくのです。

■本人よりも周囲が受賞を喜ぶ

誰が表彰されるのかというのはこの瞬間までわかりませんので、この「表彰式」はいつも大盛り上がりします。名前を呼ばれて、飛び跳ねて大喜びする者、予想していなかったのか、思わずうれし泣きする者、大興奮でプレゼンターの私に思わずハグするパートの方もいます。

表彰者の皆さんから一言もらって、記念写真を撮っていきます。毎年、来賓の方たちも「とても老舗の新年会とは思えず、ベンチャー企業のパーティのようだ」とその熱気に驚かれています。

みんなが選ぶ「主役」だから不平・不満が出ない表彰式が大盛り上がりだと述べましたが、何も表彰者だけが盛り上がっているわけではないのです。むしろ、本人よりも上司や同僚、後輩など周囲の人たちのほうが数倍も喜びを表現しています。

同僚として頑張っていた姿を誰よりも真近で見てきた。新入社員の時から成長していく姿をずっと見守ってきた。そのような周りの人間たちが、仲間が評価されたことを、自分のことのように喜んでいるのです。

たしかに表彰者という「主役」は一部の人たちですが、彼らの仲間たちもその喜びを「共感」することで、結局のところ、「皆が主役」となるのです。

では、なぜ表彰者以外の人たちまでこんなにも「共感」してくれているのかというと、そこには「公平な評価制度」に対する信頼感があるからです。

表彰者は私が好みや直感で選んでいるわけではなく、評価制度に基づいて、最終的には部課長の推薦で決まります。誰もが納得する人、認めざるをえない働きぶりをしている人が選ばれているため、「なぜあの人が表彰されたのかわからない」「あの人よりも私のほうが表彰されるべきだ」といった不満が出ることはありません。

表彰されなかった人たちがこれほど大盛り上がりできるのは、「自分たちが承認した制度によって選んでいる」という能動的な意識が根底にあるからなのです。

みんなが選んで、みんなを表彰する。「みんなが主役」になれる日が、「船橋屋」の新年会なのです。

■内定者も会社の一員

このような「社員の主役化」の取り組みはほかにも多くあります。

たとえば、「船橋屋」では入社1年目、2年目の若手社員が中心となって、月1回、「社内報」を発行しています。

若手社員が中心になって作成する社内報(写真提供=船橋屋)

毎月、部署や人にフォーカスを当てて、インナーコミュニケーションに役立てているのですが、そのなかでもビジョンや理念に沿った行動をしている人を「月間MVP」として発表しているのです。

また、内定した学生にも早くから「主役」であることを意識してもらいます。

彼らには内定後の初顔合わせと同時に2つのチームに分かれてもらい、「商品開発研修」として、ゼロから新商品を考え、3カ月後にそれを幹部の前でプレゼンしてもらいます。

他社商品のベンチマーク、ターゲット層の設定、原価計算を経て、試行錯誤を繰り返しながら実際に商品を作り上げていくという一連の流れを通じ、入社前にマーケティング意識とチームビルディングを学んでもらっています。

また、内定者には、1人につき先輩社員2人がついて入社までをフォローする「内定者フォロー制度」や、「船橋屋」のビジョンや考え方などについて学ぶ「クレド研修」などがあります。こうした研修を経て、社会人としての心構えを持つと同時に、「船橋屋」のクルーの一員になる準備が整うのです。

「船橋屋」で行なわれている「人材開発」における具体的な取り組みはこれだけにとどまりません。

もちろん、業種や会社の形態によって人財開発のスタイルはさまざまでしょう。しかし、成果が生まれる型組織になるために必要なことは共通しています。

この会社は、誰のために、なぜ存在するのか。

この「Being経営」の基本的な考え方から外れることなく、この会社で働く人間が志を一つにする。それが「人財の成長」にもつながっていくのです。

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渡辺 雅司(わたなべ・まさし)
船橋屋 八代目当主
1964年、東京都江東区亀戸生まれ。立教大学卒業後、三和銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行。1993年、家業を継ぐために「元祖くず餅船橋屋」に入社。2008年、代表取締役八代目当主に。以降、老舗の伝統を守りつつさまざまな組織改革で、若い女性などファン層の拡大に成功。増収増益を続ける。

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(船橋屋 八代目当主 渡辺 雅司 写真提供=船橋屋)

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