米国人が保育料22万円でも共稼ぎする理由

プレジデントオンライン / 2019年7月23日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Paul Bradbury)

米国におけるキャリア形成の多様性について研究する小西一禎さんは、共働きを続ける夫婦の強い意志を感じると指摘する。月22万円の保育料に加えてベビーシッターをも雇ってまで、なぜ彼らは共働きを続けるのか――。

■あらゆるサービスやツールを駆使

「共働きが主流な米国で、子持ちのカップルはどのように仕事と家事・育児を両立しているのか。日本と何が違うのか」

主夫・駐夫として渡米するにあたり、この疑問に強い関心を寄せていた。日本のケースと比べてみると、米国ならではの働き方や価値観、ライフスタイルがあり、子どもを育てながらも共働きしやすい環境が浮かび上がる。人種や住居地域、世代などにより社会的階層が細分化している米国で、一概には言えないが、デイケア(保育園)や在宅勤務などあらゆるサービスやツールを駆使しつつ、一時的にキャリア中断となっても、共働きを続けようという強い夫婦間の意志が垣間見えてくる。

男女平等の意識が日本よりも根付いている米国において、共働きはごく普通のこと。生活上、必要に迫られるケース、お互いのキャリアを追求するケースの違いこそあるものの、状況は同じだ。

製薬会社幹部職の米国人Aさん(50代後半女性)夫妻はいずれも医者で、同じ大学の医学部で出会った。それぞれ共通の目標を抱いていたためか「それぞれが自分の道を求めるのは当然であって、どちらかが仕事を辞めるなんて話をしたことは一切ない」と言い切る。

米国人看護師のBさん(50代前半女性)は、子育てが多忙になったころ、一時的に退職。週3日のパートタイム勤務に切り替えたが、数年でフルタイムに復帰した。「家にいるのは思ったよりも、つまらなかった。専業主婦になるつもりはなかった」と振り返る。

■保育園は月22万円

子どもが生まれた後の対応で、Aさん、Bさん夫婦に共通しているのは、①仕事をセーブしたのは妻、②一方で、夫は子どもの送迎や料理など積極的に役割分担、③月2000ドル(約22万円)にも上るデイケアをはじめ、ベビーシッター、ナニーを惜しまず利用、④在宅勤務を増やすなど柔軟な働き方を模索、⑤食洗機、洗濯乾燥機が標準装備で、家事に時間をかけない――など。

車社会の米国では、同じ場所に集まらなくても、電話やスカイプなどのアプリを利用した遠隔会議の開催は何ら珍しくない。さらに、週数回の在宅勤務が広く認められている。子どもの発熱など突然のハプニングが起きても、上司にメール1通送れば、自宅からパソコンを使って働くことができる。とかく在宅勤務イコール後ろめたい印象がぬぐい切れない日本と異なり、立派な出勤扱いとなる。非難やマイナス査定を受けることは一切ない。「Working From Home」の略語「WFH」は、ごく一般的に使われているぐらいだ。

一方、日本と比較して、かなり割高なデイケアだが「時間をお金で買う」(Bさん)感覚で、背に腹は代えられないという。ベビーシッター、ナニーはプロフェッショナルな仕事として堂々と確立している。インターネットの登録サイトを通じて、筆者夫婦がたまにお願いしているシッターさんは、ニューヨーク市内の有名大学を卒業し、スペイン語講師の肩書も持つ聡明な女性。複数の家庭を掛け持ちしており、メインである子どもたちの相手だけでなく、頼んでもいない家の掃除をしてくれ、細かい働きぶりには目を見張るばかりだ。

■マミートラックに陥る日本女性が多い理由

それでは、日本の子育て・共働き家庭をとりまく現状はどうなっているのだろうか。子どもの誕生後、妻がメインで育児を担い、仕事をセーブする。ここまでは米国と同様だが、その先の実情は大きく異なっており、厳しい現実が待ち受けている。

出産後の育休あるいは一時的な退社を経て、職場に復帰した後の時短勤務や在宅勤務など、仕事と育児の両立支援に向けた負担軽減制度については、たいていの日本企業が整備している。最近では、配偶者の海外転勤に同行するための休職・復職制度を用意している企業も増えており、一見すると、子育てをしながらも共働きを続けるための環境は恵まれているようにも映る。

ただ、企業側の内実は「時短勤務の社員は使いにくい」「戦線離脱した人間に、重要な仕事は任せられない」。おのずと軽勤務しか与えられず、企業内キャリアアップの道からは遠ざけられ、仕事への意欲が次第にそがれていく「マミートラック」の状況に陥っている女性は相当数に上っているとみられる。

日本の事情にも詳しいAさんは「結婚や出産を理由にして、仕事を辞める女性がいまだに多いなんて、もったいないと思う。私の周りでは、子どもがいる人の方が効率よく、仕事を早く片付けている」とした上で「一度辞めたからと言って、能力が失われるわけではない。なのに、なぜ再就職が難しいのか、実に不思議だ」と疑問を呈す。

■商社勤務のパワーカップルが抱いた違和感

「入社した大企業でどんどん出世していくのが、女性のキャリア向上につながると思っていた。今は、世界中どこへ行っても働けるスキルを得ることが将来的なキャリアアップにつながると思っている」

今秋、夫の米国赴任から約半年遅れて、子連れで渡米する日本人女性Cさん(30代半ば)は今、新たな境地を見据えている。会社には、配偶者の海外転勤に伴う同行休職制度があるものの、自身の思い描いたキャリアパスからは離れるため、悩んだあげく帯同を決意。夫は米国転勤が決まった際、妻のキャリアを大切にする一方で、家族一緒の生活を望み「付いてきてほしい。付いてこないのならば転職する」とまで述べ、同居を望んだという。

夫婦それぞれ別の総合商社に勤務しており、学歴、年収も高い典型的な「パワーカップル」。自らも、東南アジアで駐在員を務めた経験がある。夫の会社は、赴任地の現地企業で配偶者が働くことに難色を示しており、米国での就労は断念せざるを得ないかもしれない。そこで、渡米前に自ら起業した。米国での新生活について「元駐在員と駐妻の2つの視点を持つ強みを生かしたい。高いキャリアを持つ駐妻を対象にした市場は成長が見込めるので、何かビジネスを展開できれば」と期待が膨らむばかり。加えて、米国滞在中にMBAを取得する意向だ。

■転勤帯同だけで戦力外扱いに

周囲から「ご主人、おいしいごはんが食べられるようになるね」「家事育児に専念できるね」と言われる毎日。もちろん、家事・育児に手を抜くつもりはないが、思いはすでに別のところにある。今回、渡米の決断にあたり「自分では、キャリア志向が薄れた感覚は全くない。しかし、退職し同行すること自体が、社内の人からは『家庭を重視する女性』として見られてしまっている。大企業で階段を上っていくには、フルコミットメントが求められ、ひとたび休職などで外れるだけでも、戦力外扱いされているように感じる」と指摘する。

■日本が取り組むべき3つの課題

日米3世帯それぞれのケースを通じて、いわゆるパワーカップルの働き方と家庭をめぐる状況を見てきた。共働きを継続するには、本人たちの意思のみならず周囲の環境も含めて、米国の方が進んでいる感がある。

とはいえ、その米国でも、主に子育てを担う女性が仕事と家事・育児を両立させるには、まだまだ高い壁が残されているのが現実だ。米国のヒラリー・クリントン元国務長官のスタッフを務めたアン=マリー・スローター氏は、著書『仕事と家庭は両立できない?』の中で、米国の女性が苦労させられている点として「競争を尊び、他者をケア(世話)する人が弱い立場に置かれる制度の中で、競争とケアを両立させること」と指摘。同時に「家族のケアよりもカネを稼ぐ方が価値が高いなんて、どう考えてもおかしい」と訴え、家族の世話が軽んじられた結果、差別を受けるのは主に女性だと明言している。

このスローター氏の主張は、Cさんが唱える総合商社のケースにそのまま当てはまる。

①勤務時間の長さにとらわれない、成果主義の拡大、②在宅勤務などリモートワークの前向きな活用、③トップ自らが育児や長時間労働に対する意識を改革し、トップダウンによる社内空気の刷新――。子育て・共働きを当然とする世代が、組織内人材の核となる時代を見据え、日本企業が早急に取り組むべき処方箋は、これらに集約されるのではないだろうか。

(米国在住・駐夫 コロンビア大大学院客員研究員 共同通信社政治部記者 小西 一禎 写真=iStock.com)

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