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"安倍嫌い"で誤報まで出した朝日の言い訳

プレジデントオンライン / 2019年7月21日 11時15分

安倍晋三首相との面会実現を訴え、歌いながら官邸へ向けペンライトを振る原告ら=7月10日、東京都千代田区(写真=時事通信フォト)

■1面トップの特ダネは「フェイクニュース」だった

ハンセン病の元患者の家族への賠償を国に命じた熊本地裁判決について、安倍晋三首相が控訴しないことを表明した。7月9日の午前中のことだった。

これに対し、朝日新聞は9日付朝刊(14版△)の1面トップで「ハンセン病家族訴訟 控訴へ」との見出しを付け、「政府は控訴して高裁で争う方針を固めた」と書いていた。安倍首相の控訴断念の表明によって、朝日の特ダネは紙面に印刷されてから6時間ほどで"フェイクニュース"であることがわかった。

ちなみにNHKは9日午前2時ごろ、「政府が控訴断念へ」とのニュースをネットで報じていた。

なぜ、朝日新聞は誤報を出したのだろうか。朝日新聞は9日付夕刊と10日付朝刊の一面に「誤った記事おわびします」と題した訂正・おわびの文を掲載して読者にわびた。

夕刊では「朝日は9日付朝刊で、複数の政府関係者への取材をもとに『控訴へ』と報じました。政府は最終的に控訴を断念し、安倍晋三首相が9日午前に表明しました」と書き、朝刊では「取材の経緯を2面に掲載しています」と付け足した。

夕刊と朝刊に計2回にわたって訂正・おわび記事を出したのは、地方の夕刊のない地域のためだろう。深い反省の意を示したわけではないと思う。

■「取材を踏まえたもの」というのっけからの言い訳に驚く

2面に掲載された「取材経緯」の記事を見てみよう。書き出しはこうだ。

「元ハンセン病患者の家族への賠償判決に対する政府の控訴方針を報じた9日付記事は、政権幹部を含む複数の関係者への取材を踏まえたものでしたが、十分ではなく誤報となりました。誤った経緯について説明します」

のっけから「政権幹部を含む複数の関係者への取材を踏まえたもの」と言い訳がましいことを書いているところに驚く。もっと謙虚に反省の姿勢を読者に示すべきである。

それができないのは朝日が読者の存在を軽視しているからだろう。いまどきの言葉を借りて言えば、読者に対して「上から目線」で見ているからではないか。

■組織そのものを改造しない限り、誤報はまた繰り返す

朝日の「取材経緯」の説明はこう続く。

「6月28日、熊本地裁が元ハンセン病患者の家族への賠償を国に命じた判決を受け、朝日新聞は政治部、科学医療部、社会部、文化くらし報道部を中心に、政府がどう対応するのかの取材を始めました」

編集局内の複数の部の記者たちが取材していながら、なぜ誤報になるのか。編集局内の部と部の横の情報交換が足りないのではないか。編集局内の風通しが良くないのだろう。

もしそうだとしたら大組織にありがちな問題であり、根本的に組織そのものを改造しない限り、誤報はまた繰り返す。

■朝日自身、「あとは安倍晋三首相の政治判断」と書いている

さらに「取材経緯」の記事は続く。

「法務省や厚生労働省、首相官邸幹部は控訴するべきだとの意向で、あとは安倍晋三首相の政治判断が焦点でした」

「首相は7月3日の党首討論会で『我々は本当に責任を感じなければならない』などと発言しました。しかし官邸幹部への取材で、この発言を受けても、控訴の流れに変わりはないと受け止めました」

沙鴎一歩も3日の党首討論をNHKテレビで見た。確かに安倍首相は「本当に責任を感じなければならない」と強調していた。そしてこの安倍首相の言葉と態度から「何かやらかすかも」と沙鴎一歩は考えていた。案の定、7月9日に控訴断念のという異例の表明が飛び出した。

どうして朝日は異例の事態を予想しなかったのか。

朝日は「官邸幹部への取材で、控訴の流れに変わりはないと受け止めた」と弁明するが、最後に判断するのは官邸幹部ではなく、安倍首相だ。朝日自身、「あとは安倍晋三首相の政治判断」と書いているではないか。そこまで理解しておきながら、なぜ誤報を書くのか。取材が甘いと批判されても仕方がない。

■朝日の総理番は、一体、何をやっていたのか

「取材経緯」は後半でこう説明する。

「8日、『ハンセン病関連で首相が9日に対応策を表明する』という情報とともに、控訴はするものの、経済支援を検討しているとの情報を得ました。さらに8日夕、首相の意向を知りうる政権幹部に取材した結果、政府が控訴する方針は変わらないと判断しました。このため朝日新聞は1面トップに『ハンセン病家族訴訟、控訴へ』との記事を掲載することを決めました」

ここでも「首相の意向を知りうる政権幹部」に対する取材によって「政府が控訴する」と朝日は判断している。繰り返すが、最後に判断するのは官邸幹部ではなく、安倍首相だ。朝日は安倍首相本人にきちんと取材したのだろうか。

新聞社やテレビ局の政治部には、「総理番」と呼ばれる記者が数人いる。総理番は、総理大臣官邸の敷地内にある記者クラブ「内閣記者会」に籍を置き、首相の動向を細かく追っている。安倍首相が海外にでかけるときは、政府専用機に乗って付いていく。首相に密着してきた朝日の総理番は、一体、何をやっていたのか。

「取材経緯」の記事は、政治部長の署名記事である。ここからハンセン病訴訟の行方については、政治部が中心になって追いかけていたことがわかる。

■安倍首相が間違った情報を与えて朝日をはめた?

いまマスコミでは「安倍首相が朝日をはめた」という噂が流れている。朝日は社説を中心に"反安倍"を主張している。7月3日の党首討論会などでの朝日の論説委員や編集委員とのやり取りを見ていても、安倍首相を攻撃する姿勢がにじみ出ているのがよくわかるし、それに対して安倍首相は激しく応戦している。

そんな両者の関係から、安倍首相やその関係者が朝日の記者に間違った情報を与え、恥をかかせたというのが、噂の見立てだ。しかし沙鴎一歩はこの噂は事実無根だと思う。

取材を受ける側、特に閣僚や高級官僚など重責を担う人間は、新聞やテレビの記者に対し、ミスリードさせないことに心血を注いでいる。誤った情報を報道されて一番困るのが、彼らだからである。だから答えられないことは「答えられない」と話すし、ましてやウソをつくことはない。どこかで「ウソをついた」と書かれれば大変なことになるからだ。安倍首相もいくら朝日が嫌いだからと言ってウソはつかないだろう。

こうしたことから、誤報の原因はこう結論付けられる。朝日は安倍首相に直接取材ができないまま、一面トップの記事を書いた。だから結果として誤報になったのだ。

■安倍首相には参院選を有利に進める思惑があった

もちろん安倍首相にも思惑がある。異例の控訴断念は、7月4日に公示された参院選挙(21日、投開票)を有利に進めようと考えたからだろう。

かつて小泉純一郎首相(当時)が、ハンセン病をめぐる訴訟で控訴を断念して、元患者に謝罪したことがあった。

2001年5月、熊本地裁が隔離政策を違憲とみなして国家賠償責任を認めた判決を言い渡した。国の敗訴だった。これに対し、小泉氏は政府内の反対を押し切って異例の控訴断念を決断した。これによって84%という過去最高の内閣支持率を記録した。まさに"小泉劇場"だった。

このときの官房副長官が現在の安倍首相だ。安倍首相は小泉氏のみごとな「政治判断」を目の前で見ていたのである。

しかも今回は参院選の最中だ。与党内からは「野党が控訴断念を求めている。それを控訴すれば参院選の逆風になりかねない」と心配する声もあった。

さらに言えば、控訴見送りとともに、控訴期限の7月12日に今回の判決の問題点を指摘する「政府声明」を出し、「首相談話」を発表した。これらによって安倍首相は判決の問題点を明確に示し、他の国家賠償訴訟への影響を少なく抑えたのだ。これも小泉氏から学んだ手法だった。

安倍首相という政治家は、国民が考えている以上に勝負師なのかもしれない。断っておくが、決して褒めているわけではない。

■厚労省や法務省、首相官邸は「控訴」を主張していた

いつものように新聞の社説を読んでみたい。まずは問題の朝日新聞の社説(7月10日付)。

「判決は、時効の考え方などで法理論や判例に照らして踏み込んだ内容を含んでおり、政府内には『控訴すべきだ』との意見も強かった。しかし首相は判決を受け入れ、『筆舌に尽くしがたい経験をされたご家族のご苦労をこれ以上、長引かせるわけにはいかない』と語った」

実際、厚生労働省や法務省、首相官邸では「控訴」を主張していた。最後は安倍首相の「政治判断」にかかっていた。ただ、だからといって朝日の誤報は許されない。なぜ誤ったかについて深く検証し、紙面を割いて懇切丁寧に説明してほしい。これはひとりの読者としての願いである。

「隔離政策によって家庭が壊され、家族は差別や偏見、その恐怖にさらされてきた。救済に道を開く、重い判断である」

「重い判断」。これが安倍首相の控訴断念に対する朝日社説の見解である。安倍首相と安倍政権が嫌いな朝日社説にしては、いつもの皮肉もなく、正論だ。

ハンセン病元患者の隔離政策に関し、その家族への損害賠償を国に命じた6月28日の熊本地裁の判決内容も重い。

■「治癒した患者からも感染する」という誤解

「01年に小泉政権が元患者に関する賠償判決の控訴を断念し、補償に乗り出して以降、国や自治体はハンセン病への理解を深めるための啓発や学習に力を入れてきた」

「だが、差別や偏見がなくなったとは言い難い。03年に熊本県内のホテルが元患者の宿泊を拒否。14年には、福岡県の小学校でハンセン病について誤った教育が行われ、児童が『友達がかかったら私は離れておきます』と作文に記していたことがわかった」

「今回の裁判の原告も、16年に提訴に踏み切るまで行動を起こせず、大半が匿名だった。その意味を一人ひとりが考えたい」

ハンセン病をはじめとする感染症には差別や偏見が付きまとう。感染して病に苦しみたくない、命を落としたくないという気持ちはよく分かる。感染症のなかにはアフリカで流行を繰り返す、最大致死率90%というエボラ出血熱のようなキラー感染症もある。

問題はハンセン病のように感染力が極めて弱いにもかかわらず、一部の患者の顔かたちが変形する後遺症だけを見て、恐れるところにある。ハンセン病は抗菌剤で治癒できるようになった。治癒した元患者から感染することはない。こうした正しい知識を啓発することが重要だ。これはハンセン病に限らず、すべての感染症に当てはまる。

■安倍首相の「政治判断」の思惑まで書いてほしい

次に7月10日付の読売新聞の社説を見てみよう。

「(熊本地裁判決は)国家賠償に関する時効の起算点について、独自の解釈を示し、原告の救済につなげた」

「このため、政府内には『控訴して上級審の判断を仰ぐべきだ』との意見が強かった。同種の訴訟で1、2審で国が勝訴し、最高裁で係争中という事情もあった」

「法律上の観点などを踏まえれば、政府が地裁判決を受け入れるハードルは高かった。それを乗り越えるには、首相の政治判断が必要だったということだろう」

安倍首相の政治判断を評価しているが、新聞としてはその思惑にまで踏み込むべきだ。そこを書かないから「安倍政権とベッタリだ」などと批判されるのだと思う。ひとりの読者としては、その点を読売新聞に期待している。

■総額3億7600万円の賠償義務が確定する

読売社説は指摘する。

「控訴の断念で、原告への総額3億7600万円の賠償義務が確定する。今後の課題は、裁判に参加しなかった家族の救済になる」

「今回の訴訟の原告には、元患者の配偶者や子、きょうだいなど様々な立場の人がおり、地裁判決が命じた賠償額は異なった」

「原告以外の家族を救済する場合、元患者とどのような関係にあった人を対象にするのか。差別を受けたことをどう認定するか。救済の枠組みを作る必要がある」

いずれも読売社説の指摘通りである。国は今後、家族を救済するための制度をきちんと構築すべきだ。総額3億7600万円という賠償額は、私たち国民の税金から賄われる。有効な制度を作り上げて税金を効果的に使ってほしい。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩 写真=時事通信フォト)

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