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英語を学ぶと日本語も上達する数字的根拠

プレジデントオンライン / 2019年7月26日 15時15分

統計家の西内啓氏(左)とイーオン社長の三宅義和氏(右)

語学学習に取り組むことは、その言語を習得すること以外に、どんなメリットがあるか。統計家の西内啓氏は「母国語ではない言語を学ぶと、母国語も上達したり、思考力が上がるというデータがある」という。イーオンの三宅義和社長が詳しい話を聞いた――。(第3回)

■AIでは代替できない温泉宿の女将の価値

【三宅義和氏(イーオン社長)】AIがもたらすコミュニケーションやビジネスへの影響に関してどのように考えていらっしゃいますか?

【西内啓(データビークルCPO)】経営者の方からAIの事業化について相談を受ける機会が増えています。そうしたアドバイスをするときに、事業がうまくいくか否かの見極めでよく使う視点の1つが、人間同士のコミュニケーションが持つ「感情的な価値」です。

例えば温泉宿の女将が接客時に使う会話をすべてAIで再現することは技術的に難しくはありません。「渋滞は大丈夫でしたか?」「お仕事でこちらにいらっしゃったんですか?」などそれほどパターンがあるわけではありません。

一見するとたわいもない会話なのですが、意味がないわけではなく、女将の会話の価値は「この人は自分のことを気にかけてくれている」という感情的な側面にあるのですね。

【三宅】日本人が得意な「おもてなし精神」ですね。

【西内】そうです。だから無人のフロントに行ってAIが搭載されたロボットから「運転お疲れさまでした」と言われても、もてなされた感覚がまったくありません。もしくはクレームのために電話をかけたコールセンターがAI化されていたら、いくら「申し訳ございません」とコンピューターに謝罪されても気持ちは収まらないですよね。

【三宅】むしろ不快になりそうですね(笑)。

■英語学習で人間の先生が果たすべきはコーチの役割

【西内】ですよね。だからやはりAIが強いのはあくまでも機能的な領域で、感情的な価値までAI化してしまうと、それは少し違う気がしますよね。

例えば御社の場合だと、生徒の方々はリアルな先生に習っているわけですから「今日はサボりたい気分だけど、すっぽかしたら先生に申し訳ないよな」といった感情が湧くと思うのです。でも先生がAIだとそういう感情は湧きづらいですよね。

AI教材にはそもそも決まった授業時間がないという話もありますが、もしそうだとしても、「いまの先生はすごく熱心に教えてくれるから自分も頑張ろう」「いまは我慢のしどきですって先生が言っていたから、それを信じよう」といったような感情的な結びつきは、AIが相手だと生まれないでしょう。

【三宅】使い分けが大事ということですね。

【西内】はい。だから英語学習にしても、ユーザーの特性を見抜いてくれるAI教材があれば時間効率が飛躍的に上がるので、使わないのはもったいないです。ただ、それだけで学習成果が上がるかといえばそうでもない。英語学習のアプリは山ほどいろいろありますけど、ダウンロードした人が実際にどこまで続けられているのか、という話になりますので。

やはりメンタリングをしてくれたり、モチベーションを上げてくれたり、目標設定を手伝ってくれるようなコーチ役は必要で、それは人間がやった方がよいでしょう。効率化する部分と人とのつながりの部分をどうバランスよく設計するかというのが重要な視点ですね。

■自動翻訳機を使っても相手とは仲良くなれない

統計家の西内啓氏

【三宅】AIによる自動翻訳についてはどのような見解をお持ちですか?

【西内】これも結局は同じ話で、機能的なコミュニケーションと感情的なコミュニケーションを分けて考えるべきだと思います。それを一緒にして「AIがあるから英語は要らない」とするのは少し短絡的な発想のように感じます。

海外旅行で料理を注文したり、街中の人に道を聞いたりするのはすでにスマホでできます。それに海外企業と取引をまとめる、仕様を詰める、契約内容を確認するといった話も、テレビ会議システムの中に自動翻訳機能を実装するだけで言語の壁は解消できるでしょう。

でも、相手と仲良くなれるかという話になると、やはり機械を介在して話すときと直接話すときでは心の距離がまったく異なりますよ。臨場感やタイムラグ、読み上げの自然さといった技術的な課題がクリアされたとしても、です。

それは特に留学中に実感したことで、当時の僕は本当に英会話が苦手で、機能的なやり取りはかろうじてできても、感情的なやりとりをして相手と仲良くなるところまでいくには、もっと英語がうまくならないといけないということを痛感しました。仕事でも取引先や同僚と仲良くなれるかどうかというのは、すごく大事なことですからね。

【三宅】ただ、たどたどしい英語であっても、直接コミュニケーションを取ろうという姿勢が評価される側面もありますよね。

【西内】そういう側面もありますよね。

■成長したことが実感できれば、英語学習は楽しくなる

【三宅】西内さんのご専門はデータ分析ですので、教育効果の数値化についてお聞きしたいと思います。語学学習は上達が実感しづらい特徴がありまして、周囲から見ると明らかに上達しているのに本人が実感できずモチベーションが下がることがよくあります。何かいい方法はありますか?

【西内】たしかに英会話や楽器演奏のような「練習系」の領域になると、じわりじわり上達していくので実感するのは難しいでしょう。プレゼンなども「一発勝負の仕事」であり、練習が必要なわけですが、部下や学生のプレゼンをトレーニングする際には必ずマメに自分の動画を撮るようにお願いしています。とくに、きちんとした練習をはじめる前の、一番ダメな状態を動画で撮っておくとよいですね。

当然、最初のうちは見返すのも恥ずかしいシロモノですが、ある程度練習を積んだ後に見返すと練習の成果がはっきりわかりますし、それが大きな自信や「もっと練習しよう」というモチベーションにつながるのですね。

だからイーオンさんでも最初の授業を録音しておくとか、どうですか?

【三宅】それは素晴らしいアイデアですね。大事なことは自分がどれだけ成長したかですからね。

■学習初期にテストを受けたほうが、教育効果が高い

【西内】本当にそう思います。あとはテストをうまく使うのもいいかなと思っています。実は最近の教育に関する研究で、まったく答えられなくても学習初期にテストを受けたほうが、そのあとの教育効果が高いというデータが出ているのです。

わからないならわからないままでいいので、とりあえず受ける。すると現状の課題を認知できますよね。「Aはわかったけど、Bがわからない」というのであれば、当然Bに力を入れて勉強すればいいし、「AもBもわからない」というのもひとつの気づきです。「これは相当気合を入れないといけないぞ」のような。その状態で授業を聞いた方が、聞くべきポイントがわかっているので頭に入りやすいのではないかと考察されていました。

【三宅】データに基づいていると言われると説得力がありますね。実際、当校でも「もう少し勉強してからTOEICを受けます」という生徒さんは多いですし、世の中的には「もう少し勉強してから英会話スクールに通います」という方もいらっしゃいます。

【西内】そうですよね。たしかにTOEICのような1日仕事になってくると、ダメな自分を自覚するためにわざわざテストを受けることに抵抗を感じるのは何となくわかるのです。だから理想は、TOEICやTOEFLの点数との相関性が高い、30分くらいで受けられるテストでしょうね。4技能をすべてカバーしていて、今の実力でTOEICを受けたらだいたい何点くらいとれるかがわかるようなものです。

それがあれば、学習の最初だけではなく、3カ月に1回くらい受けてみようかなと思う人もいると思いますし、その結果がじわじわ上昇していけばやる気も増すと思います。イーオンさんのような規模になれば自社で開発できるのではないですか。

■英語を勉強すれば、認知症になりにくい?

【三宅】さっそく検討します。英語の勉強をすることのメリットがわかるデータなどはありますか?

【西内】例えば、母国語ではない言語を学ぶと母国語の方も上達したり、数学のスキルが向上したり創造性が高くなったりするのではないかとデータから示唆されています。普段は使っていない筋肉のようなものが頭の中にあり、それが外国語を学習することで活性化するのかな、と自分は理解しています。

あとは他人への共感力が高くなるとか、認知症になりにくいというデータもあったはずです。

【三宅】いろいろあるのですね。認知症のデータについて素朴な疑問なのですが、そもそも英語を学習している高齢者の方が前向きな生き方をしているから認知症率が低いという見方もできませんか?

【西内】いや、そこについては元々の認知機能や収入、職業といった条件を揃えたうえでグループを分けて、それでもなお英語を勉強したほうがいいという研究であったと思います。

【三宅】なるほど。

【西内】そういえば、小さい頃から子どもに英語を教えると認知機能が下がるという説をたまに耳にしますよね。実は最近、反対意見が出ています。流布されている説はアメリカで研究されたのですが、結局、アメリカで子どものころに英語を勉強してる外国人の多くは大半がヒスパニックの移民の子どもたちなのですよ。要は家庭環境や経済状態の要因が大きいのであって、別に英語を勉強したせいではないという考え方です。

【三宅】やはりデータというものは気をつけてみないといけないということですね。

【西内】本当にそうですね。ということで、いまは心おきなく自分の子どもに英語を勉強してもらってます(笑)。

■英語はグローバルな世界への扉を開ける鍵

【三宅】最後に読者へのメッセージをお願いします。

三宅 義和『対談(3)!英語は世界を広げる』(プレジデント社)

【西内】僕の英語はごく一般的なスタートラインのところから、エビデンスの力を借りながら自己流で行ってきたというのはあるのですが、正直、学習方法はいろいろあって当然だと思います。ただ、僕がハーバードに留学してつくづく実感したことは、慣れ親しんだ環境を少し飛び出してみるだけでいかに世界が広がるかということです。

原体験でいうと、大学進学のために神戸から東京に来たときに神戸では聞いたことがない職業があることを知って驚きました。「広告代理店のプランナー」とか、「資産運用会社のファンドマネージャー」とか。そういう話を先輩などから聞くだけで刺激になっていたのですが、これがハーバードになると「世界銀行」とか「WHO」(世界保健機関)とか、いままでニュースでしか目にしないキーワードが普通に飛び交うわけです。

日本しか知らないと、世界で起きていることはなんとなく勝手に起きているかのように錯覚しやすいのですが、実際には誰かが細かいプロセスを踏みながら行っていると。そこに気づけたことが大きな学びでした。

【三宅】世界はグローバルにつながっていますからね。

【西内】まさにそうなのです。これはファッションであろうとITであろうと同じで、世界は常に動いているので、ファッショントレンドや技術的なトレンドが日本に上陸するまで待つ必要はないのです。

ミラノやパリ、もしくはシリコンバレーで開催されるようなグローバルなイベントに顔を出したり、SNSをするにしてもグローバルなコミュニティーに所属したりすることで、世界が一気に広がるし、大きなビジネスチャンスにつながったりもしますよね。英語というのはそうしたグローバルな世界の扉を開ける鍵なのだと思います。

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西内 啓(にしうち・ひろむ)
統計家、データビークルCPO
東京大学大学院医学系研究科医療コミュニケーション学分野助教、大学病院医療情報ネットワーク研究センター副センター長、ダナファーバー/ハーバードがん研究センター客員研究員を歴任。2014年11月に株式会社データビークルを創業し、代表取締役CPO(製品責任者)を務める。自身のノウハウを活かした拡張アナリティクスツール「dataDiver」などの開発・販売と、官民のデータ活用プロジェクト支援に従事。著書に累計50万部を突破した『統計学が最強の学問である』シリーズのほか、『統計学が日本を救う』(中央公論新社)など。日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)アドバイザー。
三宅 義和(みやけ・よしかず)
イーオン代表取締役社長
1951年、岡山県生まれ。大阪大学法学部卒業。85年イーオン入社。人事、社員研修、企業研修などに携わる。その後、教育企画部長、総務部長、イーオン・イースト・ジャパン社長を経て、2014年イーオン社長就任。一般社団法人全国外国語教育振興協会元理事、NPO法人小学校英語指導者認定協議会理事。趣味は、読書、英語音読、ピアノ、合氣道。

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(イーオン代表取締役社長 三宅 義和、統計家、データビークルCPO 西内 啓 構成=郷 和貴 撮影=原 貴彦)

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