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日本人が"焼き鳥はタレか塩か"で白熱するワケ

プレジデントオンライン / 2019年8月9日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/KYOGOYUGO

「塩味の焼き鳥」はいつから普及したのか。ライターの石田哲大氏は「平成に入ってから、高級地鶏を使用して、塩焼きを出す高級店が増えていった。今では客単価5000円前後の中級店でも塩焼きを提供するケースが目立つ。将来的にはタレ焼きよりも塩焼きが一般的になるかもしれない」という――。

■今や焼き鳥は「日本人のソウルフード」

この原稿を依頼されてから、ひとまず友人・知人30人くらいに「焼き鳥って塩派? タレ派?」というLINEを送ってみた。結果は、「どちらかといえば」という回答も含めると、ほぼ引き分け。なんらかの傾向が読み取れるのではないかと期待したのだが、残念ながら性別や年代による偏りも見られなかった。

それならばと、行きつけの飲み屋に行って、同じ質問を常連客に投げかけてみた。塩かタレかと聞いているだけなのに、まあ皆さん語る、語る。「オレは塩しか食べない!」という原理主義のおじさんがいる一方で、「レバーは塩でほかはタレ」とか「高級店では塩、大衆店ではタレ」という日和見派も。

「レアに仕上げた焼き鳥を塩で食べるのが最高!」というお姉さんがいたかと思うと、「いやいや、焦げ目がつくくらいまで香ばしく焼き上げないと」(これは筆者)というような焼き加減の話になったり、「あの店の串は大ぶりだからいい」と誰かが言えば、「そんなのは邪道で、焼き鳥は小ぶりのほうががおいしいんだ」という反論が出たりと侃々諤々……。

結局、あきらかになったのは、日本人はみんな焼き鳥が大好きということだ。考えてみれば、街中には個人店からチェーン店、大衆店から高級店まで焼き鳥店だらけ。スーパーの総菜売り場やデパ地下でもかならず売っているし、最近ではコンビニのレジ横にも並んでいる。もう、焼き鳥は日本人のソウルフードといってもいいんじゃないかと思えてくる。

■江戸時代には登場、明治時代には屋台もあった

前置きが長くなったが、焼き鳥の味つけの話である。冒頭の論争で「昔は焼き鳥といえばタレだったのではないか」と話す年配の方が何人かいらっしゃった。それが事実だとすると、焼き鳥の塩焼きが定着したのは、いつ頃のことなのだろうか。というわけで、簡単に焼き鳥の歴史をひもといてみたい。

現在の焼き鳥の形式、つまり、鶏肉を小さく切り、串打ちして焼き台で焼成する調理法は、遅くとも江戸の元禄時代には存在していたという記録が残っている。そのときの味つけは、塩もあれば、タレもあったようだ。明治時代には、鶏料理店の端材などを使った焼き鳥の屋台が登場している。

■淡泊な味わいのブロイラーには「タレ焼き」が合っていた

さらに時代がくだり、昭和30年代に入るとアメリカから低価格のブロイラーが本格的に輸入されるようになり、大衆的な焼き鳥店が一気に増えた。逆にいうと、それまで鶏肉はどちらかといえば高級品で、屋台や大衆的な飲み屋では、地域にもよるが、「焼きとん」(=もつ焼き。豚の内臓肉を焼いたもの)が提供されることが多かった。

このころに登場した大衆的な焼き鳥店が、いわゆる「赤提灯」と呼ばれる飲み屋であり、そこで食べられていた焼き鳥は、年配の方が言うとおり、おもにタレ焼きだったのではないかと推測される。昭和30年代を舞台にした映画「ALWAYS 三丁目の夕日」で、三浦友和扮する町医者が焼き鳥をお土産にする印象的なシーンがあったが、あの焼き鳥はタレ焼きだったはずだ。なぜ、当時タレ焼きが主流だったのかといえば、そのほうがおいしいからである。

「ブロイラー」とは、1940年代のアメリカで食糧不足を解消するために、短期間で成長するように開発された肉用若鶏の通称だ。たまに誤解されるが、「ブロイラー」という品種の鶏がいるわけではない。「Broil(ブロイル)」は「あぶり焼き」という意味で、丸焼きに用いるのに適している小型の若鶏のことをこのように呼ぶようになったという。

鶏肉に限らず、食肉は一般的に飼育期間が長ければそれだけ肉に旨みがのるので、ブロイラーは肉質こそ柔らかいが、肉の味わい自体は淡泊だ。だから、素材の味をそのまま楽しむ塩焼きよりも、香ばしい風味が加わるタレ焼きのほうが適していたのである。

■平成に入って登場した新ジャンル「高級焼き鳥」

なお、日本では1960年代からブロイラーの生産が本格化している。現在は50日間ほど飼育して、重量2.8kg程度で出荷するのが普通で、当時のアメリカ産ブロイラーに比べれば、格段に味がよくなっているはずだ。余談になるが、ブロイラーに対するイメージが悪いのか、「私はブロイラーを食べないで、『国産若鶏』を買っています」なんて人がたまにいるが、これも誤解であって、「国産若鶏」はほとんどがブロイラーである。

こうして、焼き鳥は「庶民の味」として長年親しまれてきた。いまでは焼き鳥の屋台こそだいぶ少なくなって寂しい限りだが、それでも大衆的な焼き鳥店は、たとえば東京では下町や私鉄沿線を中心に健在で、根強い人気をほこっている。

これら「大衆焼き鳥」に対して「高級焼き鳥」とでも呼ぶべきジャンルが誕生したのは、平成に入ってからだろう。それまでも比較的高単価の老舗焼き鳥店は存在していたが、この頃に生まれた高級焼き鳥店は、客単価が1万円以上。高級地鶏を使用し、その銘柄を前面に打ち出すという共通した特徴が見られる。

■「美食化」に貢献した「地鶏」の普及

地鶏は、飼育の手間やコストの関係から流通量が一時期減っていたが、食の安全や高い品質を求める消費者のニーズを受け、この時期からふたたび注目されるようになった。1999年にはJAS法によって「地鶏」の規定が制定されている。詳細は省くが、ポイントは以下の4点だ。①在来種の血を50%以上引いている。②80日以上飼育する(現在は75日以上)。③28日目以降は平飼い。④28日目以降は1平方メートルあたりに10羽以下で飼育する。

要するに鶏の品種が指定されるうえに、飼育日数と飼育方法にも条件がつくから希少性もコストも高い。こうして生産された地鶏は、もともと個性が強い味わいであることに加え、飼育期間が長くて適度に運動もしているので、弾力がしっかりあって、旨みの強い高品質な鶏肉になるわけだ。

当時オープンした高級焼き鳥店の代名詞的存在が1987年に東京・阿佐谷で創業し、2001年に銀座に移転した「バードランド」だ。「奥久慈しゃも」の味わいにほれたオーナーの和田利弘氏が創業した。同店をはじめとした地鶏を使った高級焼き鳥店は、鶏の仕入れから下処理、串打ち、焼成、調味……と、すべての工程を徹底的に突き詰め、焼き鳥を「庶民の味」から「美食」の域まで昇華させたといえる。

■「塩焼きで食べるのが通」という考えが広まる

まわり道になってしまったが、こうした高級店では、とくに正肉についてはタレ焼きよりも塩焼きで提供するケースが多い。地鶏自体の旨みが強いので、それをわかりやすく表現するためだろう。むろんタレ焼きをまったく出さないわけではないが、タレであっても大衆店のような大味なものでなく、鶏肉の味わいを生かすために繊細に調味している場合が多い。

高級焼き鳥がブームになると、消費者が持つ「焼き鳥=赤提灯」というイメージに変化が生じた。焼き台からもくもくと立ち上る煙にいぶされながら、ビールや安酒と一緒に頰張っていた焼き鳥を、高級店では高価な日本酒やワインとともに、コース仕立てで味わうのだから、「まったく別の食べもの」といっても大げさではないだろう。

高級店で焼き鳥を味わった消費者は、これまで食べる機会がなかった地鶏、そしてその塩焼きのおいしさに目覚めたはずだ。「おいしい焼き鳥は塩で食べるべき」、あるいは「通は塩で食べるもの」とインプットされた人も少なからずいると思われる。それをふまえて冒頭のリサーチを思い返すと、「食通」、あるいは「食通を気取りたい人」のほうが、塩焼きを好む傾向がうかがえた。少しいじわるな指摘だが、まんざら的外れでもないように感じる。

■中級店で多く使われる「銘柄鶏」

1990年代に数多くの店が生まれた高級焼き鳥店は、その弟子筋の店がオープンするなどして、今も増え続けている。加えて、客単価5000円前後の「中級店」の市場が膨らんでいる。そうした店で使用されているのが、「銘柄鶏」だ。最近では、比較的低価格の焼き鳥チェーンでも銘柄鶏を使用しているケースが少なくない。

銘柄鶏は、価格でいえば、ブロイラーと地鶏の間。地鶏に比べると規格もだいぶ緩く、品種についてはブロイラーと同等でも構わないうえ、「通常と異なる飼育方法」であればいい。したがって、「○○鶏」というもっともらしいネーミングであっても、「大山どり」のように誰もが品質を認めるものから、ブロイラーと大差がないものまであるので、まどわされないようにしたい。

■将来的に焼き鳥は塩が主流になるかもしれない

こうした店でも高級店と同様に、タレ焼きよりも塩焼きを押しているケースが目立つ。したがって、日本の焼き鳥はタレから塩へと徐々にシフトしているといえ、将来的には焼き鳥は塩焼きで食べるほうがポピュラーになるかもしれない。

ただ、いくら鶏肉がおいしくなったからといって、絶対に塩焼きで食べないといけないという理由があるわけでもない。タレにはタレの魅力があるのだから、先入観にとらわれず、自分の好きなように食べるのがいちばんということである。

そのうえで蛇足であることを覚悟して、最後に筆者の焼き鳥の味つけについての見解を(というほどのものでもないが)。それは、「飲みものに合わせる」という考え方である。なんといっても、焼き鳥は酒のつまみだからだ。1杯目のビールに合わせるならば、香ばしい風味のタレ焼きである。部位はももやねぎま、かわ、つくね、レバーあたり。飲み(食べ)すすめていって、レモンサワーや日本酒なんかにアルコールを切り替えたら、それに合わせて焼き鳥もさっぱり食べられる塩焼きにスイッチする。いかがだろうか?

※参考文献『やきとり 11店の技術と串バリエーション』(柴田書店)

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石田 哲大(いしだ・てつお)
ライター
1981年東京都生まれ。料理専門の出版社に約10年間勤務。カフェとスイーツ、外食、料理の各専門誌や書籍、ムックの編集を担当。インスタグラム。

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(ライター 石田 哲大)

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