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「五輪裏方軍団」が60人から8000人に増員のワケ

プレジデントオンライン / 2019年8月7日 6時15分

東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会広報局 企画制作部長の小林住彦氏

東京五輪の準備、会場整備、運営を担う「組織委員会」。2014年時点の職員数は60人程度だったが、開幕する頃には8000人程度にまで増えるという。組織委の小林住彦氏は「無事に終わるのは当たり前。その後の日本社会に何を残せるかが重要なテーマ」という。ノンフィクションライターの野地秩嘉氏が聞いた――。

■終わったら解散するのが「組織委員会」

東京2020オリンピック・パラリンピック(以下、東京大会)まで1年。オリンピックスタジアムをはじめとする会場の整備も進んでいる。

東京大会の準備、会場整備、そして運営を担う組織が、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下、組織委員会)だ。英文の名称はThe Tokyo Organising Committee of the Olympic and Paralympic Games。

わたしたちからすると、組織委員会、IOC(国際オリンピック委員会)、JOC(日本オリンピック委員会)という3つの組織の違いはよくわからない。ましてや、IPC(国際パラリンピック委員会)、JPC(日本パラリンピック委員会)のことは知らない人も多い。しかし、それぞれ違う役割の組織だ。

IOC、IPCはオリンピック、パラリンピックという大会を主催する。そして、大会に参加する選手団は、各国のオリンピック委員会、パラリンピック委員会が組織する。日本のオリンピック委員会がJOC、パラリンピック委員会がJPCである。

IOC、JOCおよびIPC、JPCが恒久的な団体であるのに対して、組織委員会は時限的な団体である点がもっとも大きな違いである。加えて、組織委員会はオリンピックを開催する都市にしか存在しない。つまり、オリンピックの開催が決まってから発足し、終わったら解散してしまうのが組織委員会だ。

■60人規模の組織が開幕時には8000人になる

では、組織委員会は現在、どれくらいの規模なのか。そして、働いている人はどういった人たちなのか。最後に、具体的には何をやっているのか。

すべてに答えてくれたのは組織委員会広報局の企画制作部長の小林住彦である。マーケティングの専任代理店、電通から出向している。

「2014年1月24日に組織委員会ができ、私が来たのが6月。そのときは60人くらいの組織でした。それが2019年4月1日時点で2764人。開幕する頃にはさらに増えて8000人態勢になる予定です。

働いている人は東京都、国、地方自治体、スポンサーなどの民間企業・スポーツ団体からの出向者が大半。でも、今でも職員の募集はしていますよ。サイトを見ていただければわかります。

えっ? チケットが欲しいから職員になりたい? ダメですね、野地さん、組織委員会の職員になったからといってチケットは手に入りませんし、そもそも職員は、大会期間中にゆっくり観戦している時間はありませんから。

話は戻りますが、組織委員会の仕事内容はほんとに多種多様です」(小林)

■大規模テーマパークの運営に近い仕事ではないか

組織委員会は11局、7つの室に分かれている(2019年4月現在)。大会運営、会場整備、警備、輸送といった最前線の仕事から総務、企画財務、広報といったスタッフ部門まで多岐にわたっている。

この種の仕事に、いちばん似ているのは何かと考えてみた。おそらく近似しているのはディズニーランドのような大規模テーマパークの運営ではないか。施設を造り、無事にイベントを実行し、客を集め、輸送ルートを計画し、警備に万全を尽くす。オリンピック・パラリンピックは、期間限定ではあるが、そういう種類の仕事である。

東京大会に参加する選手の数の上限はオリンピックが1万1090人で、パラリンピックが4400人。競技と種目の数はオリンピックが33競技339種目で、パラリンピックは22競技537種目。

選手だけではなく、コーチ、監督といったスタッフ、家族友人知人、一般観光客まで加えると、大会が始まる7月末から9月の初めまでに1000万人以上が東京に訪れると推定される。

組織委員会の仕事は1000万人のおもてなしをすることでもある。会場の準備をすべて整え、競技を円滑に実施する。観客がスムーズに入場、退場できるようにする。加えて輸送計画、テロなどを防ぐ警備……。そして、大会を記録する公式映画の制作も担う。

■「大会後の日本社会」に何を残せるのか

「大会が無事に終わるのは当たり前」と小林氏。

寄り合い所帯であり、さらに外国人スタッフ、障がい者もいる。ダイバーシティ(多様性)の組織である。そして、大会までには1年しかない。ケンカや縄張り争いをしている時間はない。

「私たちは2020年の大会を無事に運営して成功させるのがミッションなのですが、それにとどまらないと思っています。大会が無事に終わるのは当たり前。IOC、IPCは、各大会を経ていますから、運営するノウハウを持っています。それを実行するのは本当に大変ですが、彼らと一緒に大会を盛り上げていきたいと思います。

大切なのは、その後の日本の社会に何か残していかなきゃいけないこと。レガシーが重要なテーマです」(小林氏)

オリンピックのレガシーとは残された競技施設のことだけではない。大会の後、スポーツイベントや社会で使われるようになったシステムもまたレガシーだ。

たとえば、レガシーのひとつとされる聖火は近代オリンピックでは1928年のアムステルダム大会から始まった。聖火リレーは1936年のベルリン大会から。競技を表すスポーツピクトグラムが本格的に運用されたのは1964年の東京大会からだ。ピクトグラムは日本だけでなく、今や世界に根づいている。そして、大会のマスコットが始まったのは1972年のミュンヘン大会から。いずれもレガシーである。2020年東京大会のレガシーは、いったいどういうものになるのだろうか。

■「自他共栄、精力善用」こそがテーマ

「現場で大切にしている言葉ですけれど、NHK大河ドラマとして放送中の『いだてん』にも登場している嘉納治五郎さんの言葉です。この人はアジア人初のIOC委員なのですが、『自他共栄、精力善用』と言っています。

自他共栄とは、自分と相手が共に栄えるような社会をつくること。相手と競い合うのではなく、相手と共に栄える。これはまさに僕らの目指すところで、ダイバーシティにも通じる言葉ですね。さまざまな人間が集まって、自分たちだけがうまく仕事ができればいいのではなく、みんなで力を合わせて大会を成功させる。それが自他共栄だと思っています。

そして精力善用は、個人の持つ力をよい方向に効果的に使うことが人類全体の平和につながるという意味。まさにオリンピック・パラリンピックのテーマです」

■古代ヨーロッパ文明とアジアの文化が混ざり合う

「オリンピックで重要なことは勝つことではなく参加することである」

オリンピックに関する言葉と言えば、必ず近代オリンピックの始祖、クーベルタンのこれが出てくる。しかし、これは彼の言った格言ではない。

オリンピック草創期にアメリカ、ペンシルバニアの大司教エチュルバート・タルボットが述べた次の言葉を転用したものとされる。

「オリンピックの理想は人間をつくることであり、オリンピックに参加することは人と付き合うこと、すなわち世界平和の意味を含んでいる」

小林氏は「クーベルタンはもうふたつ、重要な言葉を残しています」と教えてくれた。

「『人生で大切なことは勝利ではなく、ストラグル(苦闘すること)である』。

勝つことではなく、努力することであるということで、クーベルタンは青少年の教育を意識したのでしょうね。

そして、クーベルタンはこうも言っています。『古代ヨーロッパのもっとも高貴な文明であるヘレニズムがアジアの洗練された文化芸術と交じり合うことこそ大事である』。

彼は1937年に亡くなりますが、その最後の言葉だそうです。これは暗にアジアでやるべき、東京でやるべきだということではないでしょうか。事実、彼の死後、1940年に東京大会が一度は決まったのですが第2次世界大戦のため、時の日本政府は開催を返上しました。

それにしても、クーベルタン、嘉納治五郎ともに、違うものが交じり合うことによって新しい価値が生まれてくるんだと言いたかったんですね。

私自身は今度の大会のテーマはダイバーシティとユニティ(統一性)だと思っています。組織委員会で働くときにこのふたつを肝に銘じておこうと思っています」(敬称略)

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野地 秩嘉(のじ・つねよし)
ノンフィクション作家
1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。著書は『高倉健インタヴューズ』『日本一のまかないレシピ』『キャンティ物語』『サービスの達人たち』『一流たちの修業時代』『ヨーロッパ美食旅行』『ヤンキー社長』など多数。『TOKYOオリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。

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(ノンフィクション作家 野地 秩嘉)

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