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メルカリで癒やされる女、ヤフオクに燃える男

プレジデントオンライン / 2019年8月9日 9時15分

読者の中にもメルカリ利用者は多いのではないでしょうか。そんなメルカリで最も取引が多いブランドは? 最も高額だった商品は? 普通だったら捨てられるようなあっと驚く意外な商品とは?

■国民ダウンロード数7100万件超え

突然ですが、皆さんは、フリマ(フリーマーケット)アプリの「メルカリ」(メルカリ)を使ったことがありますか? まだ使ったことがなくても、「なにが出品されているんだろう」と、一度はのぞいたことがあるのではないでしょうか?

2018年7月、メルカリ(アプリ)の国内ダウンロード数は、7100万件を突破しました。単純に1人が一つの端末のみで使っているとすれば、日本国民(約1億2623万人)の2人に1人以上が利用しているほどの人気ぶり。

最大の特徴は、スマートフォンやタブレットのアプリを介して、消費者同士(Consumer to Consumer/C2C)が「売りたい」「買いたい」と直接つながり、モノを売買できることです。

90年代後半にスタートした、「Yahoo!オークション」(ヤフージャパン)、通称「ヤフオク!」に比べ、目立って女性のファンが多いとされるのですが……、一体なぜなのでしょう?

■3年間で売上高は8倍に

メルカリがサービスを開始したのは、13年7月。その直後から、私の周りの20~40代女性が「牛窪さん、メルカリって便利ですよ」と声をあげ始めました。

一方で、男性から複数寄せられたのが、「メルカリって、どれぐらい儲かっているんでしょうか?」とのご質問。

当時メルカリは、まだいわゆる決算発表を行っていませんでした。数字を公開し始めたのは、創業3年目(15年夏/14年7月~15年6月)の時点。この頃、売上高は40億円を少し超える程度(約42億円)だったのを覚えています。

ところが3年後の2018年8月に発表された連結決算(同年度6月期)では、国内売上高が334億円に達していました。わずか3年で、売上高が8倍近くに増えたのです。

メルカリのようなビジネスモデルは、「シェアリングエコノミー」とも呼ばれます。ひと言で言えば、モノやサービス、場所などを、多くの人と共有・交換して利用する、社会的な仕組みのこと。

近年はほかにも、旅行者への「部屋の貸し借り(民泊)」を仲介する「Airbnb」(Airbnb Japan)や、自動車の配車サービス「Uber」(UberJapan)などが話題を呼んでいますよね。

■取引が最も多いブランドは?

他のほとんどのシェアリングエコノミー関連がそうであるように、メルカリの収益の主軸も、マッチングシステム提供に関わる「手数料収入」です。

ということは、メルカリ側に立てば、販売と購入の成約件数が多いほど、あるいは売買する商品の単価が高いほど(売値・買値の10%が手数料加算されるケースも多いため)、手数料収入が増え、収益も上がることになります。

だとすれば、一般には「こんなモノ、誰が買うんだろう?」と多くの人が価値を疑うモノよりは、誰でも欲しくなる定番商品のほうが、取引が成立する確率は高いはず。また、認知度が高い高級ブランドや、幅広い年代層に愛される定番ブランド・商品を売買してもらえるほうが、メルカリにとっては商売上、「おいしい」と言えるでしょう。

現実にも、創業から5年間(2018年7月現在)で最も多く取引されたブランドは、愛用者が老若男女に広く及ぶ「ユニクロ」とのこと。また最も高く売れたモノは、1粒315万円のダイヤモンド(5カラット)だそうです。

■なぜ、メルカリでドングリが売れるのか

ただし、それ以上に注目すべきことがあります。それはメルカリを通じて、アッと驚くようなモノ・コトが多数、取引されてきたことです。たとえば、創業以来5年間で最も「いいね!」が押されたのは、意外にも「ドングリ」。

1542件もの共感を呼んだ背景には、あるストーリーがありました。それは、5歳の男の子の「仮面ライダーカードを買いたい」との思い。お母さんがメルカリを使っているのを見て、男の子は自分が公園で集めたドングリなどを「ママ、これを売ってお金にしてよ」と手渡したのだそうです。

お母さんが、わが子がライダーカードを欲しがる心情を書いて、メルカリに300円で出品すると、「ほっこりする」などとSNSを中心に拡散され、「いいね!」が集中。最終的には、お子さん好きな第三者によって落札されたと言います。

■捨ててしまうようなモノに価値がつく

ほかにも、使い切ったトイレットペーパーやサランラップの芯(いずれも10~20本セット)が、500円程度で取引されることがあります。前者は子どもの宿題の工作材料に、後者はおもにダイエット中の男女が足裏やふくらはぎをマッサージするアイテムとして、それぞれ需要があるようです。

いわば、普通なら捨ててしまうようなモノに、メルカリが「新たな価値」を生み出した、とも言えますよね。

メルカリを使う理由ランキング

実はここがマーケティング上、一つのポイントでもあります。メルカリの取締役社長兼COO・小泉文明さんも、取材時に「われわれのマーケットプレイスのキーワードは、『“捨てる”をなくす』です」と教えてくれました。

つまり出品者本人にとっては、今はさほど価値がない、でもそれまでに育んできた何らかの愛着や「ただ捨ててしまうのは惜しい」といった思い入れがある。だからこそ、「もしこれをフリマアプリに出品したら、誰かが価値を感じて買ってくれるかもしれない」と、ドキドキワクワク、胸躍らせながら出品するのでしょう。

■承認欲求が満たされる満足感

ただ、この部分だけなら、ヤフオクや他のフリマアプリも同じかもしれません。ところが小泉社長は、別のことを口にしました。それが「メルカリの楽しさの半分は、誰かに認めてほしい、あるいは認めてくれるといった『承認欲求』にあるのではないか」との視点。先のドングリのケースも、まさにそうですよね。

メルカリユーザーに聞いた「メルカリを使う理由ランキング」(2018年、図表1)を見ても、1位こそ「賢くお小遣い稼ぎができる」(34.2%)ですが、僅差の2位(33.2%)は、「捨てようと思っていたものが売れて得した気分になる」、そして5位が「あらゆるモノに価値がつく」(22.0%)。その根底には、「こんなモノが売れるんだ!」といった驚き、あるいは自身の承認欲求が満たされたことへの満足感が見え隠れしていると思います。

先日私が取材した、30代女性(メルカリユーザー)も「メルカリは、少しデザインが古くなった服や靴も『レトロでかわいい!』と褒めてくれるユーザーさんが多くてうれしい」と、やはり承認欲求が満たされた喜びを口にしました。

■ヤフオクで“競り合い”を楽しむ男性たち

一方、利用者数で、メルカリとほぼ同数(1800万人前後)の人気を誇る「ヤフオク!(以下、ヤフオク)」は、正確にはフリマアプリというより「オークション(競売)サイト」。

16年6月以降は、メルカリと同じく「即決(早い者勝ち)」を選べる機能が追加されたほか、19年秋からは、新たにスタートするフリマアプリ「PayPay(ペイペイ)フリマ」において、やはりヤフオクで出品されている商品の購入(一部)が可能になる予定です。

田中道昭、牛窪恵(著)『なぜ女はメルカリに、男はヤフオクに惹かれるのか? アマゾンに勝つ!日本企業のすごいマーケティング』(光文社新書)

とはいえヤフオクの基本は、あくまでも「競売」。古くからのヤフオクユーザーの男性を取材すると、往々にして次のような声が返ってきます。

「ヤフオクの醍醐味は、競り合い。なかなか手に入らない『(マニアックな)お宝系』のモノほど、制限時間ギリギリに高値をつけてライバルに勝つ快感が大きい。それを即決で買っちゃったら、楽しみが半減しますよ」

これに対して、先のメルカリは「癒やし系」。実際にもヤフオクより女性ユーザーのほうが多い、とのデータが複数あるほか(17年:ニールセンデジタルほか)、若い女性にナマの声を聞いても、多いのは次のような声。

「ヤフオクは、(競争する)相手との駆け引きがイヤ。人間不信になりそう」
「でもメルカリは、『あなたのほうが先に質問していらしたので、私は諦めます』『どうぞどうぞ』みたいな譲り合いに、ホッと癒やされる」……。

■男女の感じ方の違いはどこからくるか

メルカリとヤフオクのサービスに、なぜ男女でこうした「感じ方の違い」が表れるのでしょう?

大きな理由の一つは、いわゆる「対話・共感」好きな「女脳」と、狩り由来の「競争」本能をもつ「男脳」にあるとも言われます。だからこそ、マーケティングでは「STP分析」、すなわち「セグメンテーション(S)」「ターゲティング(T)」「ポジショニング(P)」で、対象となるターゲット等を十分見極めることが重要だとされるのです。

詳しくは、8月21日発売の拙著(『なぜ女はメルカリに、男はヤフオクに惹かれるのか?』(光文社/共著))に書かせていただきました。よろしければぜひご一読ください!

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牛窪 恵(うしくぼ・めぐみ)
マーケティングライター
1968年東京生まれ。マーケティング会社インフィニティ代表取締役。現在、立教大学大学院(MBA)博士課程前期。同志社大学・ビッグデータ解析研究会メンバー。財務省・財政制度等審議会専門委員、内閣府・経済財政諮問会議 政策コメンテーター。著書に『男が知らない「おひとりさま」マーケット』『独身王子に聞け!』(ともに日本経済新聞出版社)、『草食系男子「お嬢マン」が日本を変える』(講談社)、『恋愛しない若者たち』(ディスカヴァー21)などがある。

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(マーケティングライター 牛窪 恵)

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