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どんなに炎上してもホリエモンが信頼される訳

プレジデントオンライン / 2019年8月14日 6時15分

2019年5月15日、記者会見する宇宙ベンチャー、インターステラテクノロジズ(IST)の稲川貴大社長(右)と、元ライブドア社長の堀江貴文氏 - 写真=時事通信フォト

「尖っているほうがかっこいい」「破滅的なものが偉い」というのは本当だろうか。脳科学者の茂木健一郎氏は「堀江貴文さんなど尖っているイメージの人でも、実際は仕事相手や仕事自体には礼を尽くしている。そろそろ『円熟』に目を向けたほうがいい」という――。

※本稿は、茂木健一郎『ど忘れをチャンスに変える思い出す力』(河出書房新社)の一部を再編集したものです。

■年を重ねるほど「キレにくくなる」理由

若い人の脳と年を重ねた人の脳とでは、どういうところが違うと思いますか。

若いときは、神経回路の中で何かが突出しているものです。たとえば、若い人は感情が突出しやすいところがあります。

脳の司令塔である前頭葉が発達の途中にあり、感情を抑制する回路が比較的弱いから、不快なことがあったら、ついその場でキレてしまったり、人間関係を壊してしまったりします。

年を重ねていくと、「そういうことをやると、いいことにならない」と経験し反省するから、感情を抑制したり、うまく発散したり、ぶつからないよう迂回したりできるようになります。経験と反省により、脳の抑制回路が育ち、バランスがよくなっていく。つまり「円熟する」のです。

円熟とは、「あいつ、円くなっちゃって、つまらないよな」と悪い意味で言われることがありますが、実は、突出した感情を失ってしまうことではなくて、むしろ強い感情はそのまま持っていて、それに加えて前頭葉の抑制回路が育った、両方向にバランスよく育った脳ということができます。

■「円くなる=つまらない人になる」のではない

私は以前、松本人志さんを揶揄するような発言をして、ツイッターを炎上させてしまいました。振り返ると、若いときから私は少し言いすぎてしまうことがあったようです。

言いっぱなしで、相手に本当には届けようとしていないところもあります。大事に思うことを、その場でぶちまけるだけで、説明やカバーが足りていなかったのです。言いっぱなしにしていた後は、必ずと言っていいほど、いいことにはなりません。

昔を振り返って、「言うだけ言ってちゃんと説明しないことは、いいことにつながらない」と今ごろ反省しているわけですが、たくさんの間違いを重ねて、「穏やかであることが大事だ」と、ようやく考えられるようになりました。

円熟とは、多くを見渡し、制御がきくようになる。つまり、強い感情に釣り合うほどに抑制回路が成熟するから、円く見えるだけなのです。

それが人格的強さや徳が高まるということ。

必ずしも穏やかな人が、若者と同じような感受性をなくしたとは限りません。円くなるとは、決して人間がつまらなくなることではないのですから、安心して円熟のほうへ向かっていくべきなのです。

■落合陽一さんは「会ってみると好感度が高い」

クリエイティブなのは、尖った人で、円い人は、成功などしない。道徳的な人はつまらない。そう思う人のために補足しておきましょう。

成功している人は、イメージは確かに尖っていても、実際はそうでないことが多いものです。たとえば、研究者であり、アーティストであり、実業家でもある落合陽一さんは、とても尖った存在感を出していますが、実際に会ってみると、好感度の高い人です。宇宙開発事業をしている堀江貴文さんや、アーティストで実業家の猪子寿之さんも、フレンドリーです。

彼らは常識外れで、とんでもないことを言ったり、やったりする人に見えるけれども、実際の仕事の相手や、仕事自体に対しては、大変礼を尽くします。周りも見えているし、自分の欲望に対しても忠実という生き方をしているのだと思います。本当に素でも尖っているという人は、だんだん仲間も仕事も減ってしまうのではないでしょうか。

■「尖っているほうがかっこいい」は時代遅れだ

そういう人は、おそらく世間の人々の目には入ってきません。目立っている落合さん、堀江さん、猪子さんはイメージだけは尖っているけれども、実際には協調性があるのに、実績があるから目立ってしまうだけです。本当に素でも尖って、他人をばかにしているような人は、愛されないし、仕事ももらえていないはずです。

もうそろそろ「尖っているほうがかっこいい」という見方から離れ、「円熟」の効用を真剣に考えなくてはならない時期に来ています。尖っていて、華やかで、ぱっとその場で目を引くようなものが偉いというより、地味に見えるかもしれないけれど、本当に味わい深いもの、一生持っていけるような深い知恵とは何なのかと見直していくことで、多くの人が救われるのではないかと思います。

■「人間の徳」は高めていくことができる

ポジティブ心理学の創設者マーティン・セリグマンと、クリストファー・ピーターソンが提唱した「キャラクター・ストレングス・アンド・バーチューズ」という人間の徳の指標があります。

長い間、心理学では人間のポジティブな心理状態よりも、ネガティブな心理状態を対象にしてきました。生活に重大な影響を及ぼすからこそ、ネガティブな心理状態の研究が必要だったのです。

セリグマンらは、人格的強さや人間の徳という人間のよい面についても同様に基準を作り、研究する必要があると考えて、「キャラクター・ストレングス・アンド・バーチューズ」を提唱しました。

この基準は「DSM」と呼ばれる精神障害の診断と統計マニュアルに対照し、頭文字を取って「CSV」と呼ばれています。CSVによれば、人間には24種類の人格的強さ(勇敢であること、愛情があること、リーダーシップがとれること、創造性があること、思慮深いこと、審美眼があることなど)があるとされ、それらが6つの徳(勇気、人間性、知恵、正義、節度、超越性)に分類されています。

さまざまな経験を積み、積極的に「思い出す力」を高めることによって、このCSVも高めていくことができます。

■「破滅的なものが偉い」は嘘

クリエイティブな仕事をする人たちの中には、「破滅的なものが偉い」という思想が根強くありますが、それは昔のことです。文明的にも文化的にも発達の途中で、とにかく駆動力が必要だった時代には、尖ったものが必要だったでしょうが、物があふれて、何もかも飽和状態の今は逆に、円熟の思想こそ求められています。

当たり前なことですが、破滅したら、少なくとも幸せにはなれません。「破滅的な人格の人が描く小説が面白い。破滅的でないと芸術家にはなれない」というのは、噓なのです。

私は『論語』の中にある孔子の言葉がとても好きです。

「子曰く、吾十有五にして学に志す、三十にして立つ、四十にして惑わず、五十にして天命を知る、六十にして耳順(したが)う、七十にして心の欲する所に従えども、矩(のり)を踰(こ)えず」

特に興味を持つのは、最後のところです。「70歳では、思うままに生きても人の道から外れることはなくなった」という意味です。

70歳になってやりたい放題しても倫理に反しないようになったとは、すごいことです。「一体どのように年齢を重ねていくと、そんなふうになれるのか」と、私は人生の中で繰り返し考えてきました。

これは、経験・反省・学習の繰り返しによって脳の回路のバランスが、ちょうどワインが熟成するみたいに円熟するようになることだと私は理解しています。円熟は、欲求がなくなることではなくて、すべてがバランスよく育ったために、脳の中に特に突出した回路がなくなることです。

■しっかり「鏡」を見る人は徳が高まる

威張ったり、他人の意見を聞かないようになったりしてしまう人は、他人に自分を認めさせるために、自分から「私は偉いのだ」と激しくアピールして、かえって他人からうとまれてしまうところがあります。

茂木健一郎『ど忘れをチャンスに変える 思い出す力』(河出書房新社)

意欲を持ち、過去の成功体験にこだわらず、自分がどういう状況にいるのか、どういうふるまいをしているのか、周りはそれをどう思っているのかを鏡に映すように把握して、「こういう行動をするとこういう結果になるのだ」と、しっかりフィードバックすると、脳は、悪い結果につながった行動を今後は抑え気味にして、いい結果につながった行動は強めようという形で学習し、徳を高めていきます。

しっかり鏡を見ることができれば、「マイナス」は刈り込み、「プラス」を強めて円熟していくのですが、徳が高まっていかない人は、鏡をうまく見ることができていないのです。今の現実世界に対する意識と、過去の経験に対する意識とを広げていくことが、徳を高めることなのです。

■「円くなること」こそが個性を作ること

それぞれの人が自分で経験して、反省して、学びを続けて、円くなるのですが、円くなるとはまた、誰かと同じになってしまうことではありません。

何もかも受け入れて、にこにこして、穏やか。——そんなのは個性をなくすことだ、突出したものもなく、誰も彼も似たようなものになる、と思うかもしれませんが、本当は、円くなることこそが個性を作ることなのです。自分の中の記憶という宝物だけは、他の人が完全に同じものを持つことができません。

それを頻繁に思い出して、自分のやり方で長年耕すならば、あなたは誰とも違う、真の意味で個性的な人間になるのです。

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茂木 健一郎(もぎ・けんいちろう)
脳科学者
1962年生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学院理学系研究科修了。『脳と仮想』(新潮社)で第4回小林秀雄賞受賞。『幸せとは、気づくことである』(プレジデント社)など著書多数。

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(脳科学者 茂木 健一郎)

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