1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

医師が自分の前立腺がんを"放置"するワケ

プレジデントオンライン / 2019年8月9日 11時15分

食の欧米化やがんマーカー検査の普及などで、日本でも見つかるケースが増えた前立腺がん。だが、ほかの部位のがんと比べて進行が遅く、早期に手術をすると逆に健康を損なう場合も。特に高齢者の場合はリスクをよく考える必要がある。(※写真はイメージです)。 - 写真=iStock.com/kazoka30

医師で医療ジャーナリストの富家孝氏(72歳)は、今年6月、「ステージT2、大きさ1センチの前立腺がん」という診断を受けた。だが、当面は手術をせずに、放置することを決めたという。その理由とは――。

■できる部位によって性質も進行度も違う

「やはり、がんですね。ステージはT2で、大きさは1センチほどです」

今年の6月15日、ダイナミックMRI(磁気共鳴画像装置)による検査で、私はこう告げられました。いわゆる確定診断によるがん宣告です。がん宣告された部位は前立腺。前立腺がんは、このところ急増しているがんで、胃がん、大腸がん、肺がんに次いで、現在、第4位となっています。

普通、前立腺がんの確定診断をするには、直腸あるいは会陰部から針を刺入して細胞を採集して調べる「生検」を行いますが、最近は、MRIが進歩したダイナミックMRIで、体を傷つけずに診断することが可能になりました。それで、私はこちらを選んだのです。生検より、リスクが少ないからです。

ステージT2というのは、がんの進行度の分類法である「TNM分類」のT(原病巣)が、2であるということです。T1だと初期がん、T2はそれが進んだ状態、T3になるとがんは浸潤していて、T4になるとリンパ節や骨などに転移しています。つまり、私のがんは前立腺内にとどまっている状態で、1センチ大というわけでした。

■なぜ動揺せずにすんだのか

がん宣告を受けると、みなさん、動揺します。気を落とします。しかし、私の場合は、それはまったくなく、「やはり」といった感じでした。というのは、すでにそうだと思っていて、私なりにどうすべきか決めていたからです。

それは、ひと言でいえば「放置」です。

「先生、それはほうっておくということですが、本当にそれでいいのですか?」と聞かれました「がんを抱えて生きるわけですが、気持ちのうえで耐えられますか?」と言われた方もいました。しかし、私の答えはイエスです。このように聞いてくる方たちは、前立腺がんについてほとんど知らず、がんという言葉だけに反応しているからです。

がんは、そのできる部位、つまり、肺、胃、大腸などによって性質も進行度も違います。ですから、がんだからといって、ひとくくりにしてはいないのです。また、いまでは治療法も手術法も進歩して、昔のような「死に至る病(やまい)」のような見方はなくなりました。多くのがんは治癒が可能ですし、また、進行度や年齢によって、必ずしも手術をする必要はないのです。

■医者は手術を勧めてくるが……

前立腺がんの主な治療法は、手術(外科治療)、放射線治療、ホルモン療法の三つです。もちろん、経過観察しつつ、複数の治療法を選択する場合もあります。

しかし、初期を除いて、たいていの場合、医者は手術を勧めてきます。手術では、前立腺と精のうを摘出し、その後、膀胱(ぼうこう)と尿道をつなぐ前立腺全摘除術を行います。転移をしていれば、周囲のリンパ節を取り除くこともあります。

2002年、天皇在位時に、明仁上皇は前立腺全摘除術を受けられています。歌手の西郷輝彦さん、俳優の梅宮辰夫さんなども受けています。手術は、昔は開腹手術でしたが、最近は、腹腔鏡手術、ロボット支援下手術(ダヴィンチ)が主流です。ダヴィンチが導入されてから、これを使う医者が増えています。

ただし、手術には大きなリスクがあります。それは、尿失禁と性機能障害という合併症が起こることが多いということです。性機能障害というのはずばり勃起不全で、前立腺の周囲には勃起に関わる神経が走っていて、前立腺を摘出する際に、その神経を切断せざるを得ない場合があるからです。

ちなみに、放射線治療は、高エネルギーのX線や電子線を照射してがんを小さくする治療法。ホルモン療法は、男性ホルモンの分泌や働きを抑える薬によってがんの増殖を抑える治療法です。

もちろん私は、この三つとも選びませんでした。初めから選択肢とは考えず、前記したように、まずはなにもしないでおこうと思ったのです。それは、これまで、血液検査によるPSA(前立腺特異抗原)の数値が高いにもかかわらず、なにもしてこなかったからです。

私のPSA値は10年ほど前から、10.0ng/mlを超えていました。これは、普通なら「大変だ」という数値なのですが、私はそうは思わなかったからです。PSAには基準値があり、50~64歳で3.0ng/ml以下、65~69歳で3.5ng/ml以下、70歳以上で4.0ng/ml以下とされます。したがって、この基準値を超えると、前立腺肥大症や前立腺炎、前立腺がんが疑われるので要検査となるのです。そうして、がんが確認されると、ほとんどの場合、手術となるのです。

■手術が健康を損なうケースも

しかし、前立腺がんは、ほかの部位のがんと比べておとなしく、進行が遅いがんです。そのため、発見されたぐらいで手術をすると逆に健康を損ないます。特に、高齢者の場合は、リスクが高いのです。

そのため、私は高齢の患者さんから「どうしたらいいか」と相談を受けたときは、ほとんど手術を勧めてきませんでした。しかも、アメリカでは、「PSA検査はほとんど無意味」とされています。だから、自分の数値が高くとも、ほうっておいたのです。

医者としての経験からいうと、昔は、前立腺がんなど、ほとんどありませんでした。それが、最近、急増している理由は、医療側からいうと、一つは高齢化です。前立腺がんは歳をとるにつれて発症率が高まるので、高齢化により患者が増えたというわけです。そしてもう一つは、食事の欧米化です。

しかし、本当の理由は、PSA検査が普及して発見数が圧倒的に増えたからです。昔は前立腺がんになっても発見されずに終わり、死んでから解剖したらがんがあったというケースが多かったのです。

つまり、手術は多くの場合ムダであり、たとえ放置したとしても天寿はまっとうできるのです。特に高齢者の場合、手術はする必要がありません。ところが、日本の医者はほとんど手術を勧めます。手術によって、泌尿器科が活気づくからです。また、ダヴィンチは高額な医療機器のため、その減価償却を早めるためもあります。

■免疫療法を試してみることに

アメリカでは、「アクティブ・サーベイランス」という考え方が一般化しています。これは、たとえがんが見つかってもすぐ手術しないで検査を続ける。そうして、いざ手術が必要になったと判断したときにだけ、手術を行うというものです。前立腺がんは、その典型的ながんです。

とはいえ、10年間もPSA値が10.0ng/mlを超えているのは、さすがに不安です。そこで、ダイナミックMRIによる確定診断を受けたというわけです。それで、がんが確定となったわけですが、ステージがT2なら、まだほうっておいてもいいと考えたのです。

ただし、一つこの機会に思ったことがあります。それは、がんの免疫療法を試してみるということでした。

免疫療法というのは、“第4のがん治療”といわれ、患者自身が元来持っている免疫力でがんを叩くため、抗がん剤などの化学療法や放射線治療などと違い、副作用はほとんど観察されていません。そのため、これを希望する患者さんは多いのですが、保険適用外なので、日本では一般化していません。

■がんと診断されてもあわてない

免疫療法というと、丸山ワクチンを思い浮かべる方も多いと思います。1970年代、丸山ワクチンは大ブームになりました。丸山ワクチンは、これを打つことによって身体の免疫細胞が活性化をし、それによってがん細胞の活動を抑制するというものでした。いまでは、この丸山ワクチンのほか、多くの免疫治療薬が開発、使用されています。欧米でも、免疫療法はがん治療の一つとして確立され、画期的な成果も報告されています。

そこで、私は、懇意にしている免疫療法の専門医から、治療を受けることにしました。これで、がんが小さくなるか、あるいは消えてしまえばめっけものです。ただし、どうであろうと、現状の状態では、恐れる必要はまったくないというのが、私の正直な意見です。

そこで、ここであえて記しておきたいのは、前立腺がんと診断されてもあわてないということです。まずは、ステージを確認し、T1、T2程度でしたら、すぐに治療を受けず、ご自身の年齢、体力を考えて、医者とどうしたらいいか相談することです。すぐに、手術と言い出す医者にいい医者はいないと思ってください。そうして、経過を見て、残念ながら進行してしまったときは、治療に入ればいいのです。

なにごとも、医者任せは、よくありません。

----------

富家 孝(ふけ・たかし)
医師、ジャーナリスト
東京慈恵会医科大卒。開業医、病院経営、早稲田大講師、日本女子体育大助教授などを経て、医療コンサルタントに。新日本プロレス・リングドクター。著書に『不要なクスリ 無用な手術』など多数。

----------

(医師、ジャーナリスト 富家 孝)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください