「1社しか知らない人」が見逃す自分の可能性
プレジデントオンライン / 2019年8月7日 15時15分
■「終身雇用」というフィクションを語るな
【篠田】「事実上の終身雇用って、もうないとわかっていますよね、みんな。その事実を無視したまま、終身雇用ですっていうフィクションを語る方が良くない。フィクションを前提に置くのではなく、働く人と会社が正面からその事実に向き合って、『じゃあどうやってキャリアを作っていくの?』と話し合えるのがいいと思っています。
人材流動化というと、みなさんリスクのことをおっしゃる。でもそれを乗り越えないと先がない。私が当時いた日本長期信用銀行(現・新生銀行)も、経営破綻を迎えて多くの優秀な方が去りました。去った彼らは日本を支える別の企業で今も大活躍されていらっしゃいます。そのまま会社が無理やり人材を抱えていたら、社会にとって非常にマイナスだったと思います」
■マッキンゼーから退職勧告を受けて……
【篠田】「私は(マッキンゼーにいた頃)成果の伸びが足りないといわれて、最後は『もうお引き取りください』みたいな感じで退職しました(笑)。当然落ち込みます。でもそのままダメな人として居続けることは自分のチャンスを失うことにもなる。今思うと、すぐに転職したことがその後のキャリアにどれだけプラスだったか。
それにマッキンゼーにいた頃と転職先では自分に対する評価が180度違いました。そこで、なるほど! と思いました。自分は変わっていないのに、会社のバリューによってこんなにも評価が変わるんだと」
【原田】「大手企業から一定期間、ベンチャー企業に社員を行かせる「レンタル移籍」もまさにそうです。移籍者の多くは一社しか経験したことがない。それだとひとつの評価軸の中でしか判断できないので、別の企業カルチャーに触れて、その軸が増えることがいい経験になる」
■大企業社員はもっとヘッドハンターと会おう
【畑中】「企業は社会の人的資源を預かっているだけ。価値観の多様化やグローバル化の中で、世界中の人材が競争相手や協力者になり得る時代。社会の変化に伴い、社会から求められる価値も変化し、個人の活躍の仕方や必要な組織の能力も変わっていきます。個人と企業にとって、どのような関係が心地よいのか。今後、ますます多様で柔軟な関係が必要になってくると考えます。企業も事業の再構築を繰り返していますので、事業の再構築とともに、どうしても社内で活躍の場がない場合もあります。その場合は、社外で活躍されることが本人、企業、最終的には社会にとって良いことだと考えます。もし自社で人材を活かせていないとしたら、それは社会にとってもマイナスでしかないですから」
【入山】「素晴らしいですね、まさに金言! 畑中さんの見解では、その人の人生が良くなるなら、(会社を去っても)それでいいという見解ですか?」
【畑中】「他の企業で活躍されることは本人にとっても送り出す会社にとっても大きな価値になると考えます。また、自分を見直すきっかけや、社会から求められる人材を知るために、ヘッドハンターと付き合うことも良いことと社員にはお勧めしています。一方で、外の機会に負けないように自社の魅力を上げるように努力をしています」
■10人部隊で変革者1人、オタク2人がいいバランス
会場からの質問で、「この先の雇用のあり方をどのように見ているのか?」と、今回のイベントのテーマでもある“人材流動化のその先”について、登壇者の見解が求められた。篠田氏は、自身が監訳した書籍『アライアンス』を手に説明する。
【篠田】「企業と個人がアライアンスの関係になると考えています。それに全員が全員流動するわけではなく、3つのタイプに分かれると思います。その会社のカルチャーを体現して定年までお勤めになる「基盤型」、一定期間ルーチンをこなす「ローテーション型」、そして会社に変革を起こす「変革型」。定年まで勤める前提のキャリア設計を盲目的に否定するつもりはありません。定年で勤める人はなぜ定年までいるのか? いてほしいのか? 意義をきちんと踏まえて働くことが求められると思います」
篠田氏は、雇用するされるの関係ではなく、双方が互いに価値を与え合うという、信頼関係で成り立つアライアンスが増えると話す。
【畑中】「私も全員が変革者である必要があるとは思っていません。新任のマネジャーに、もし10人の部隊を作るんだったら、例えば変革をするような尖った人は1人でいい、きちっと仕事をこなす人が7人いて、オタクみたいな人が2人いると組織はうまく回るのではないか、多様性についてもしっかり考えてほしいと伝えていますので、同じ考え方ではないかと思います」
■会社から人が去ることはリスクではない
【入山】「これからますます流動化することは間違いない。“複業者”が増え、企業の外とか中がなくなってくる。そうすると企業の境界がぼやけてきて、法人ではなく、ミッションやビジョンに共感する人が集まったコミュニティになってくると考えています。共感しているうちは参画するし、共感しなくなったらいる必要はないみたいな関係になるんじゃないかなと思います」
【原田】「割合として“複業者”が増えるとしても、全員そうなるわけではないと思っています。一つの会社に所属している人もいれば“複業者”もいる、そういう多様な時代になると思っています。われわれが「外に行って(大企業に)戻る」というレンタル移籍という仕組みになぜ取り組んでいるかというと、大企業の変革のカギだと考えているから。というのも、大企業の経営資源にアクセスする時に、外から変革者が入っても元から中にいる人は簡単に変われない。そういう意味でも、中にいる人を変えるという仕組みにも意義があると思っています。
それに、大企業の人はちゃんとした研修を受けていて、ちゃんとしたビジネスを見てきている。僕は新卒でベンチャーに入ったので、よりそれを感じます。そういう下地を作る大企業の文化はすごいと思うし、人を育てる仕組みは継承していくべきだと思います」
【篠田】「会社から人が去っていくことをリスクとは思わないでほしい。むしろ、自社にいい人が来るチャンス。会社に余白をつくる動きだと捉えてみると、景色が変わると思う」
【畑中】「企業の中核を担われている方々だと、どうしても課題ばかりに目がいってしまうと思います。でも、みなさんには是非、明るい未来を語ってほしいと思っています」
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元経営職
1968年生まれ。1991年慶應義塾大学経済学部卒業後、日本長期信用銀行(現新生銀行)入行。米ジョンズ・ホプキンス大学で国際関係論の修士学位号、ペンシルベニア大学ウォートン校で経営学修士(MBA)を取得。マッキンゼー・アンド・カンパニー、ノバルティスファーマなどを経て2008年東京糸井重里事務所(現ほぼ日)に入社、2009年より取締役CFO。同職を2018年11月に退任。
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アステラス製薬 会長
1957年静岡県生まれ。一橋大学経済学部卒業後、80年藤沢薬品に入社。2003年経営企画部長。2005年合併によりアステラス製薬執行役員経営企画部長。2006年アステラスUS社長兼CEO、2008年上席執行役員、2009年経営戦略・財務担当。2011年6月代表取締役社⻑CEO。2018年より現職。
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早稲田大学大学院経営管理研究科教授
1972年、東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒、同大学院修士課程修了。三菱総合研究所へ入所。2008年、米ピッツバーグ大学経営大学院でPh.D.取得。その後、米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。19年より現職。専門は経営戦略論および国際経営論。著書に『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』など。入山先生出演中「浜松町Innovation Culture Cafe」●文化放送(FM91.6/AM1134/radiko.jp)●毎週火曜日 19:00~21:00生放送。毎回多彩なジャンルの専門家などを招き、社会課題や未来予想図をテーマにイノベーションのヒントを探っていく。
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ローンディール 社長
1977年千葉県生まれ。立教大学文学部卒業。2001年創業期のラクーン(現・東証一部上場)に入社。営業部長や新規事業責任者を歴任。2014年カカクコムに転職し事業開発担当。人材流動化の選択肢が「転職」しかないことに課題を感じる。「企業の新しい人材育成の仕組み」として企業間レンタル移籍プラットフォームを構想し、2015年にローンディールを設立。
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(元経営職 篠田 真貴子、アステラス製薬 会長 畑中 好彦、早稲田大学大学院経営管理研究科教授 入山 章栄、ローンディール 社長 原田 未来 文・構成=小林 こず恵)
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