北のミサイルを「飛翔体」と呼ぶ安倍政権の弱腰

プレジデントオンライン / 2019年8月7日 9時15分

「大口径操縦放射砲(多連装ロケット砲)」の試験発射に立ち会う北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長=2019年7月31日、撮影場所不明、朝鮮中央テレビから(北朝鮮) - 写真=AFP/時事通信フォト

■北朝鮮が米韓合同演習中にミサイルを発射

8月6日の早朝、北朝鮮が日本海に向けてミサイルを2回、発射した。ミサイルの発射は7月25日以降、これで4度目になる。

北朝鮮はアメリカ軍と韓国軍が8月5日から朝鮮半島有事を想定した合同軍事演習を開始したことに対し、6日朝には国営メディアを通じて次のような声明を出した。

「警告にもかかわらず、我々を狙った軍事演習を繰り広げている。米朝首脳会談で演習の中止を約束したことを眼中にも置いていない」
「我々を敵だとする立場に変わりがないようだ。明らかにしたように我々も新たな道を模索せざるをえなくなる」

問答無用の非難と牽制だ。北朝鮮はアメリカと韓国、そして国際社会をみくびっているとしか思えない。

■2週間で4回の発射は異常な行為だ

4度目の発射の前には、8月2日の午前2時59分ごろと午前3時23分ごろに、ミサイルを日本海に向けて発射していた。さらに7月25日と31日にもそれぞれ2発を発射している。

ミサイルの発射は2週間余りで4回になる。異常な行為である。いずれのミサイルも短距離弾道ミサイルとみられ、国連の安全保障理事会の決議に違反する。

韓国は北朝鮮が米韓の合同軍事演習に強く反発していることから、1回目の7月25日以降、ミサイル発射による挑発行為を予測していた。予測していたというなら、なぜその予測を強くアピールして北朝鮮の不正行為を北朝鮮と国際社会に訴えないのだろうか。

韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、政権を維持するために韓国人元徴用工訴訟などで反日感情を煽り、日本を攻撃してきた。その結果、日韓関係は極めて悪化した。いま文氏は日本から受けた対韓輸出管理の厳格化に対応することに頭が一杯なのだろう。

■「ありふれた短距離ミサイルだ」とトランプ氏

アメリカのトランプ大統領の反応はどうか。トランプ氏は8月2日、北朝鮮のミサイル発射について記者団からの取材を受けてこう答えている。

「問題ない。ありふれた短距離ミサイルだ。我々は短距離ミサイルについて何も合意していない。短距離ミサイルは協議していない。協議しているのは核だ」
「金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長とは短距離ミサイルの発射中止の約束は交わしていない」
「だから北朝鮮との交渉は続ける」

トランプ氏は北朝鮮との対話路線を維持し、金正恩氏に非核化協議に応じるよう呼びかけていく方針だ。トランプ氏はなぜ方針を変えようとはしないのか。

そのわけは単純だ。核爆弾を搭載してアメリカ本土に届く長距離弾道ミサイルでない限り、問題はないというのがトランプ氏の見解だからである。

他方で、アメリカ本土が核攻撃を受けるような危険があれば、トランプ氏の支持者が黙っていないだろう。来年11月の大統領選への影響をトランプ氏は気にしている。

■安倍政権はトランプ氏に「右へ倣え」だ

肝心の日本政府はどうだろうか。岩屋毅防衛相は防衛省内で記者団にこう語った。

「北朝鮮は6日の早朝に未詳の発射体を2回発射した。意図は分析中だが、米韓軍事演習に反発しているものと思われる。北朝鮮がミサイルの能力を向上させようとしていることは、わが国のみならず、地域全体にとっての深刻な課題で警戒監視に万全を期すとともに、総合ミサイル防衛体制を着実に整備していく」
「短距離・中距離のミサイルであっても、わが国にとっては重大な脅威だ。防衛省としてしっかりと対応していきたい」

日本の軍事的安全をつかさどる防衛相としては当然の発言だ。だが、これまでの安倍政権の対応は「日本の領域や排他的経済水域への弾道ミサイルの飛来は確認されていない」との見解を示し、「日本の安全保障に直ちに影響を与えるような事態は確認されていない」と強調するだけだった。

安倍政権はトランプ氏に対し、「右へ倣え」なのである。なんとも情けない対応ではないか。

■被爆国の訴えに国際社会は耳を傾けるはずだ

日本は世界で唯一の被爆国だ。トランプ大統領のアメリカはもう頼りにはならない。日本が直接、北朝鮮に核・ミサイルの開発を中止するよう呼びかけるべきである。

被爆国の日本の訴えに国際社会は耳を傾けるはずだ。毎年8月6日と9日には広島と長崎で慰霊祭が開かれ、日本は平和への祈りを新たにする。世界各国はそんな日本を注目している。

広島に原爆が投下されてから74年になる8月6日、広島市の平和記念式典で松井一実市長が「核兵器禁止条約への署名、批准を求める被爆者の思いを受け止めてほしい」と訴えた。世界92カ国の代表らや関係者5万人が参列するなか、31万9186人の原爆死没者名簿が原爆慰霊碑に納められた。

5歳のときに被爆した79歳の村山季美枝さん(東京都文京区在住)の短歌(「おかっぱの頭から流るる血しぶきに妹抱きて母は阿修羅に」)が、松井市長によって読み上げられ、原爆の悲惨さが伝えられた。

日本には核廃絶を訴える責任がある。北朝鮮に対してもその責任がある。

■北朝鮮を「国際社会の枠組み」に取り込むべきだ

問題は安倍晋三首相が北朝鮮の金正恩氏に相手にもされていないところにある。安倍首相はトランプ氏にすり寄るのを止め、アメリカに毅然とした態度で臨むべきである。そうすれば金正恩氏も安倍首相の存在を認め、日朝首脳会談の実現にこぎ着けるだろう。

最近、安倍政権が使っている「飛翔体」という言葉自体、おかしいと思う。飛翔体とは飛行物体を指し、旅客機からミサイルまで空中を飛ぶすべてが当てはまる。北朝鮮が発射したのは兵器だ。北朝鮮も軍用と明らかにしている。安倍政権は「ミサイル」と呼ぶべきなのである。

アメリカも韓国も日本も、毅然とした態度を取るべきだ。腫れもの扱いすればするほど、金正恩氏に足もとを覗かれ、北朝鮮はますますエスカレートする。

腫れもの扱いするのではなく、金正恩政権を切開してとことん膿を出し、安保理決議という抗生剤を投与して細菌感染した政権内部を消毒する根治治療が求められる。とにかく北朝鮮を国際社会の枠組みに取り込んでいくことが必要なのである。

■国際社会の合意に違反し、緊張を高める北朝鮮

毎日新聞が8月4日付の社説で「静観続ける日米の異様さ」(見出し)と、ストレートに安倍政権とトランプ氏を批判している。その毎日社説を読んでみよう。

「最長飛行距離は約600キロで、日本本土が射程に入る。危険な挑発行為であり、看過できない」
「国連安全保障理事会の決議は北朝鮮に弾道ミサイル技術を使ったいかなる発射も禁止している」
「発射を受けた国連安保理会合で英仏独など多くの国が『安保理決議違反だ』と非難したのは当然だろう」

毎日社説はこうした指摘の後に主張する。

「驚くのは、トランプ米大統領の平然とした対応だ。『短距離で、多くの国が保有している』と容認しただけでなく、北朝鮮と『短距離に関する合意は一度も交わしていない。問題ない』とまで言い切った」
「だが、短距離かどうかが問題の本質ではない。北朝鮮が国際社会の合意に公然と違反し、緊張を高めていることだ。だからこそ、米国も『あらゆる射程の弾道ミサイルの廃棄』を北朝鮮に迫ってきたのだろう」

トランプ氏の平然とした対応にはこの沙鴎一歩も、驚かされる。「多くの国が保有している」などという発言は、認めることはできない。アメリカのリーダー失格である。

毎日社説が訴えるように北朝鮮が「国際社会の合意に違反」し、「緊張を高める」ところにこそ、大きな問題なのである。

■安倍首相は金正恩氏に足元を見られている

次に毎日社説は批判の矛先を安倍政権に向ける。

「その米国をたしなめていいはずの日本に動きがないのも不可解だ。安倍晋三首相は『日本の安全保障に影響を与える事態ではない』と平静を装っているようにみえる」
「北朝鮮がミサイルを立て続けに発射し、『国難』と呼んで厳戒態勢を敷いた2~3年前に比べると、その落差は異様ですらある」
「首相が呼び掛ける前提条件なしの日朝首脳会談の実現に障害になるのを避けたいのだろうか。そうであっても短距離ミサイルが日本への大きな脅威である現実は変わらない」

こうした毎日社説の指摘や主張も、賛成できる。日朝首脳会談の障害になるのを避けるために、安倍首相が非難を控えているとすれば、それこそ愚の骨頂であり、北朝鮮の金正恩氏に足元を見られるだけだ。ますます相手にされなくなる。安倍首相には毅然とした態度をとってもらいたい。

■「北朝鮮が図に乗る」と批判する産経新聞

8月1日付の産経新聞の社説(主張)もトランプ氏を批判し、安倍首相にも注文を付けている。

産経社説は冒頭部分で「危険な軍事的挑発を繰り返すことは到底認められない」と指摘したうえで、「国連安保理決議違反であり、国際社会は対北制裁をより強固にしていくべきである」と主張する。さらに産経社説は書く。

「極めて残念なのは、トランプ米大統領が、軍事挑発の責任者である金正恩朝鮮労働党委員長に甘い顔をしていることだ。おかげで北朝鮮が図に乗っている面が否めない」

「極めて残念」「甘い顔」「北朝鮮が図に乗る」など手厳しい言葉を並べて訴えるところが産経社説らしい。少々皮肉を言えば、トランプ氏の「アメリカ第一主義」を真似て「日本第一主義」を強調してきたところのある産経社説が、正面からトランプ氏を批判するからおもしろい。

産経社説は最後にこう書いている。

「安倍晋三首相は7月31日、『わが国の安全保障に影響を与えるような事態ではないと確認している』と語ったが、緊張感に著しく欠ける。新型ミサイルの脅威を国民に伝える必要がある」
「日米両政府は北朝鮮の新たな脅威を直視し、挑発を許さない姿勢で臨まなければならない」

沙鴎一歩も、緊張感を欠く安倍首相の発言は問題だと思う。日本の安全を守るのが首相の一番の務めである。それを怠っているようでは首相失格だ。産経社説にいわれるまでもなく、挑発を許さないことが重要だ。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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