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40代会社員は「退職金1000万円未満」を覚悟せよ

プレジデントオンライン / 2019年8月13日 6時15分

Getty Images=写真

老後の家計を支える会社の退職金や企業年金。運用の重荷から、廃止や削減をする企業が増えている。これからどうなるのか。「プレジデント」(2019年8月30日号)の特集「役所も医者も、誰も教えてくれない『認知症の全対策』」より、記事の一部をお届けします――。

■企業の退職金制度は、危機的状況にある

「じつは以前に会社の役員会議で退職金制度の廃止の是非について議論が行われたことがあります。一時は廃止にしてその分を毎月の給与に上乗せする前払い方式が優勢になりました。結果的に退職金を減額して存続することになったのですが、いまでも社内では廃止論がくすぶっています」

こう語るのはある東証一部上場企業の人事部長だ。国が公的年金の補完として期待する企業の定年退職金もいま、危機的状況に陥っている。

「退職金」は退職一時金と定年後に年金として受け取れる退職年金(企業年金)で構成される。

厚生労働省の就業構造基本調査によると、会社員(大学・大学院卒)で勤続35年以上の場合、平均退職金額は1997年では3023万円だったのに対し、2017年の調査では1997万円と1000万円以上減少している。だが、あるだけまだましだ。同調査では、退職金制度を廃止したという企業も08年の16.1%から18年は22.2%に増加。退職年金を廃止し、退職一時金のみにする企業も増加している。

だがじつはこの退職一時金、もらえないリスクもある。NPO法人金融・年金問題教育普及ネットワークの植村昌機事務局長は「退職一時金はあくまでも自社内での積み立てなので、定年時にはいくら払いますと社員に約束していても、業績が悪化すれば払えなくなる可能性もある」と指摘する。退職一時金の先行きには不安が残る。

もう一方の企業年金についてはどうだろうか。企業年金(確定給付年金)は企業が外部の金融機関に積み立てを行うので、会社が倒産しても受給権は保護され、利率も企業が保証する。こちらは大企業に優位な制度とされている。一方で中小企業では廃止する企業が増加中だ。本来は公的年金を補完するものとして、国が推し進めてきたが、いったいなぜこんな事態が起きているのか。植村事務局長はこう指摘する。

「国は中小企業の多くが加入していた企業年金にあたる『適格年金制度』や『厚生年金基金制度』を00年以降廃止し、新たに制度化した安定的な企業年金制度に移行するよう誘導しました。ところが適格年金廃止に伴い、何らかの制度に移行したのは6割にすぎず、4割が移行していません。その結果、企業年金制度を廃止して退職一時金のみの企業が増えたのです」

政府の誘導策の失敗といえそうだが、じつは大企業でも積立金額の減少を余儀なくされる地殻変動が起きている。その要因は2つだ。1つが低金利と運用難による企業年金の積み立て不足。前述したように企業年金は会社が外部に委託して運用し、積み立て不足が発生すれば不足分を会社が補てんしなければならない。あるいは約束した企業年金を減らすしかない。実際に企業は補てんと並行して企業年金の給付額を減額してきた。

給付額の減少を生み出すもう1つが00年の「退職給付会計」の導入だ。決算書に新たに退職給付債務や積み立て不足などを記載することが義務づけられ、積み立て不足が大きいと業績にも悪影響を与え、株価の低迷や社債格付け降格のリスクをもたらす。そのため、経営サイドとしてはできるだけこの確定給付年金をやめる、もしくは減額したいというのが本音だ。

■401kは2%で運用できないと損をする

企業年金減少の解消策として脚光を浴びているのが「確定拠出年金(401k)」。会社が拠出した掛け金を社員が自分で運用する年金だが、最大のメリットは、運用損失が発生しても不足を穴埋めする必要がなく、財務リスクがない。02年の制度運用開始以来、導入企業が年々増え続け、18年3月末には3万312社に達している。近年では確定拠出に全面移行する企業が徐々に増え、製造業ではパナソニックに続いて19年の10月にはソニーが全面移行を予定。博報堂も19年4月から移行した。いずれの企業も導入目的に「財務上のリスクの軽減」を掲げている。

導入企業が増える一方で、社員にリスクがのしかかる。401kは運用次第で老後の資産を増やせると喧伝されているが、実態は異なる。401k加入者の19年3月末までの平均運用利回りは1.86%(格付け投資情報センター)。悪くないように見えるが、じつは企業が設定している想定利回りの平均は2%なのだ。

「想定利回りは、会社が拠出した金額を2%で運用すれば退職金目標額に達するという前提です。したがって2%で運用できなければ定年退職時の目標額に達しない。しかし実際は、景気の好不況に関係なく0~1%の利回りの人が4割程度います」(植村事務局長)

いまの運用実態が続けば退職金はますます減っていくことになる。

退職金が減ること以上に企業が問題視しているのは、退職金の存在意義だ。前出の一部上場企業の人事部長は「退職金は役職によって異なりますが、20年前から減少し、いまは平均2000万円弱です。いまの40代半ばの定年時は1000万円を切っている可能性がある。しかし、最も大きな問題は退職金が終身雇用を前提にしていること。いまは中途採用も積極的に増やしているし、会社に長くいるから退職金も多いというのは平等とは言えない」と指摘する。

■競争激化で退職金見直しを図る

複数企業の人事責任者を兼務するティーブリッジェズカンパニー高橋実社長もこう指摘する。

「本業の競争激化で退職金見直しを図る企業がさらに増えています。とはいえ、長年勤務している社員の既得権益を阻害するので、退職金撤廃ではなく、401kなどで代替し、緩やかに企業負担を減らす方向に進むでしょう」

実際、毎月の退職金への充当額は月給の6%程度に当たる。高橋社長は設立が浅く変化に富む企業に対しては「退職金制度の導入ではなく、優秀な社員に退職金充当分をプラスして給与体系を上げるとともに、非金銭的報酬によるモチベーション維持策に重点的に投資すること」をアドバイスしているという。今後、退職金ではなく、在職中の給与を増やす企業はさらに増えそうだ。

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溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。

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(人事ジャーナリスト 溝上 憲文)

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